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28年度茶業研究所月報

このページは、本年度の茶業研究所の主な活動を月ごとにまとめています。

3月

輸出向け茶生産における病害虫防除体系の確立・普及

 近年、京都府では、海外に宇治茶を輸出する気運が高まっています。しかし、食品の農薬残留基準値は国により異なるため、輸出相手国の基準に適合する農薬施用方法を元にした防除体系を確立する必要があります。
 茶業研究所が、EU向けの防除体系を取り入れた栽培方法の現地実証を行った結果、病害虫の発生を茶の生育に影響がない程度に抑えることができました。
 しかし、防除履歴が異なる茶を製茶工場で加工した場合、防除体系以外の農薬が検出された例があるため、EU向けの茶は専用の製茶工場で加工する必要があることが分かりました。
 試験結果をもとに、当所の研究報告会や、研修会を行って周知を図るとともに、現地の取組を支援していきます。
※ 防除体系…作物の栽培に沿って、矛盾なく防除方法とその時期を系統的にまとめたもの

 

輸出向け防除体系について講演
(宇治田原町)

 

190人目の茶業技術研修生が巣立ちました!

 3月23日に平成28年度の茶業技術研修生修了式を開催しました。研修生制度は、茶業の後継者を受け入れ、1年間茶業経営に必要な知識と技能について学ぶもので、就農後に直面する課題の解決方法を習得するために、プロジェクト研究にも取り組みます。
 修了式に先立ち、2名の研修生は、プロジェクトで取り組んだ自園の土壌調査結果と、抹茶の色についての研究成果を発表し、「土壌を科学的に捉えることができるようになった」「今後茶業に取り組む自信がついた」と感想を語っていました。
 大正14年の茶業研究所創設以来、189人目と190人目の研修生が巣立つこととなり、今後は、茶業後継者として宇治茶を支えてくれることを期待しています。

                                                                

              謝辞を述べる研修生                   来賓と職員が研修生を祝福

 

2月

茶業研究所研究報告会を開催

 茶業研究所では、2月10日、平成28年度研究報告会を宇治茶会館(宇治市)で開催したところ、茶業関係者や生産農家など250名の参加がありました。
 当所職員が宇治茶の輸出を目指した病害虫防除方法と京都府育成品種「展茗(てんみょう)」の品質が向上する栽培・製造技術について講演し、いずれも参加者の関心を集めていました。参加者からは、もっと時間を延長して様々な報告をして欲しいとの意見があり、参加者の良質茶生産にかける熱意が感じられました。

 

                      

                            会場の様子と報告者

 

宇治茶の魅力を販売につなげよう(宇治茶アカデミー)

 茶業研究所と(公社)京都府茶業会議所では、宇治茶の生産、流通・販売等に携わる若い担い手を対象に、経営力と宇治茶の伝統・価値の発信力を高めるとともに、参加者同士の交流・連携を深め、宇治茶のイノベーションにつなげることを目的に、宇治茶アカデミーを実施しています。
 最終回では、売れる商品づくりをテーマに、全国で物産展などを手がけるカリスマバイヤーの内田勝規氏が講演しました。受講生は「商品づくりの具体例が豊富で内容を理解しやすかった。自分ならどうするか考えさせられた」などと語っていました。
 修了式では、26名の修了者が「消費者に宇治茶の魅力を伝えたい」「海外に販売したい」などと今後の取り組みについて決意を述べ、宇治茶アカデミー総括アドバイザーから激励を受けました。

 

    

                           

                            売れる商品づくりについて講演

 

緑茶審査技術研修会

 府内の茶業指導者を対象に第32回緑茶審査技術研修会がJA全農京都主催で開催され、当所職員が講師として茶審査方法について解説しました。例年の取り組みに加え、本年は品評会で上位入賞したてん茶(抹茶の原料)と煎茶を出席者に示したところ、良質茶の特徴がよく分かり参考になったと好評でした。
 宇治茶の品質向上と産地の発展のため、茶業指導者の審査能力が向上し、的確な現地指導が行われるよう引続き支援します。

 

 

                        

                           班に分かれて審査方法を研修

 

1月

宇治茶を世界に広めよう(宇治茶アカデミー)

 京都府と(公社)京都府茶業会議所では、宇治茶の生産、流通、販売等に携わる若い担い手を対象に、経営力、宇治茶の伝統・価値の発信力向上、参加者同士の交流・連携を深め、宇治茶のイノベーションにつなげることを目的に、宇治茶アカデミーを実施しています。
 本年度第3回目は日本茶の輸出をテーマに、日本茶輸出促進協議会のブレケル・オスカル氏と(公社)静岡県茶業会議所の中小路和義氏に講演いただきました。日本と同様、海外でも人により嗜好が異なるので、色々なお茶を紹介した方が良いといった話を受講生は熱心に聞いていました。
 受講生は「外国の方にまず宇治茶の淹れ方や文化を知ってもらうことが必要だと思う」などと語っていました。

 

                                    

                       海外で宇治茶を普及する方法について
                           講師と受講生が意見交換

 

研修生が自分の茶園土壌を把握

 茶業研究所では、大正14年の茶業研究所創設以来、茶農家と茶問屋の後継者を茶業技術研修生として受け入れ、将来の宇治茶の担い手を育成しています。研修生は、1年間かけて茶業経営に必要な知識と技能について学び、また、就農後に直面する課題の解決方法を習得するために、プロジェクト研究に取り組んでいます。
1月のカリキュラムでは、研修生は自分の茶園の土壌調査を行いました。茶園の土を掘り、普段見ることがない地中深くの様子を調べて、研修生は「茶園により土壌が全然違うので、茶園ごとに施肥方法を変えないといけないことが分かった」と語っていました。
 これから研修生は、プロジェクト研究を取りまとめ、3月に1年間の成果を発表します。

 

                       

                          土壌調査の様子(和束町)

                         

12月

てん茶の品質向上のための最適な仕上げ乾燥条件の解明

 てん茶(抹茶の原料)の荒茶は、蒸した茶葉をてん茶機で乾燥した後、さらに仕上げ乾燥して製造されており、てん茶機での乾燥不具合を仕上げ乾燥で調整することで、てん茶の色沢や香味の不良を改善できると考えられます。
 乾燥程度が異なる茶葉(含水率6.4%、2.1%)について仕上げ乾燥の好適な条件(温度と乾燥時間)を調べたところ、いずれも乾燥温度が慣行より低温の区で製茶品質が優れる傾向がみられました。
 今後、摘採方法や品種など様々な茶葉について最適な仕上げ乾燥条件を調べ、生産者が現場で活用できるよう指標化を図ります。

                 

 

                            

                   

                                                               図:てん茶の荒茶製造工程

 

宇治茶アカデミー開講

 京都府では、公益社団法人京都府茶業会議所と宇治茶の生産、流通、販売等に携わる若い担い手を対象に、経営力、宇治茶の伝統や価値の発信力向上や、参加者同士の交流・連携を深め宇治茶のイノベーションにつなげることを目的に、宇治茶アカデミーを実施しています。今年で3年目の取り組みであり、今年度は過去最多となる50名の受講生を迎え開講しました。
 第1回は日本酒学講師、酒匠の資格を持つ日本酒の専門家の古田豊弘氏が日本酒の味の表現方法や酒を使った地域活性の仕組みづくりについて、また、プレミアム宇治茶の認証を進めている農産課からお茶の味表現チャート等について講演を受けました。
 講演後はグループワークでお茶の味表現チャートの必要性等について活発な議論が交わされ、「お茶の味表現チャートも、少しでも消費者にとってわかりやすい表現ができるのであれば取り組んでいくべきではないか」という意見がでていました。

       

                        

                         お茶の味表現チャートについて
                        グループワークで積極的に意見交換

 

11月

宇治茶の需要拡大に向けた新商品開発の取り組み

 当所では、宇治茶の需要拡大に向けた研究の一環として、新商品開発に取組んでいます。
 てん茶(抹茶の原料)には、うま味や甘味の主成分であるテアニン(アミノ酸の一種)が豊富に含まれており、リラックス効果などの効能が生かせる利活用法を検討しています。
 今回、てん茶の抽出液を粉末化する場合の最適な抽出温度などの製造法を明らかにしました。今後は、他の活用法を含めた技術的データを蓄積し、商品化を目指します。

 

                                                 

                      試作したてん茶抽出液の濃縮乾燥粉末                 濃縮乾燥粉末を溶かして評価(官能検査) 

 

 

宇治茶の香りについて府民に講演

 京都府では、宇治茶の世界文化遺産登録に向けた取り組みとして、京都文教大学とともに府民が宇治茶の魅力と価値を学ぶ「宇治茶文化講座2016」を開催しています。今年度は6 回の連続講座で、茶業研究所は第2 回「宇治茶の香りの不思議」を担当しました。
 約70 名の参加者は、宇治茶の特徴的な香りの説明を聞き、実際のお茶の香りを体験しました。参加者は「煎茶とてん茶(抹茶の原料)で香りが全然違う」と感動し、活発に意見を交わしました。

 

                             

                             宇治茶の特徴的な香りを体験

 

10月

ひまし油かすの施肥技術確立に向けて

 茶園で肥料として使用される菜種油かすは、家畜の飼料としても用いられ、肥料としての供給量が飼料需要に影響されるため、近年、価格変動が大きくなっており、生産者の経営に影響を及ぼしています。
 そのため、当所では、菜種油かすに代わる肥料として、価格が安定しているひまし油かすの施肥時期を検討しています。これまでの結果では、ひまし油かすの施肥は慣行時期と比べて遅らせた方が製茶品質が優れていました。
 今後、お茶の品質と関連が深い土壌中窒素についても調べ、ひまし油かすの効果的な施用技術の確立を目指します。

                                                 

                                                                  土壌中窒素の測定

 

9月

茶樹の樹勢診断技術の開発に向けて

 府内の茶産地では、てん茶(抹茶の原料)の生産が拡大するのに伴い、過度な被覆による樹勢低下が顕在化しています。
 そこで、当所は樹勢を低下させないてん茶被覆方法を確立するため、樹勢診断技術の開発に産学公共同で取り組んでおり、事業進捗状況の検討会を9月29~30日に京都市内で開催しました。
 検討会では、茶農家が安定しててん茶を生産できるよう、茶樹の光合成能力に関係するデンプン濃度で樹勢診断する技術等の実用化に向けて熱心な議論を行いました。

 

                                                    

                                                                           研究成果の検討

 

8月

石灰窒素による効率的施肥の取り組み

 茶では、収量と品質を維持しつつ、環境保全のために窒素肥料を削減することが求められています。
 一般的な窒素肥料は土壌中で硝酸化成菌の働きによって、アンモニア態窒素から硝酸態窒素に変化し、茶園から流亡しやすくなります。一方、石灰窒素は、アンモニア態窒素が硝酸態窒素に変化するのを抑える性質があるため、肥効が長持ちします。
 そこで当所では、石灰窒素を秋肥に用いて、窒素肥料の削減試験を行っています。
 これまでの試験結果では、標準区(なたね油粕)より窒素施用量を13%削減しても、石灰窒素施用区は収量が多く、また、茶の遊離アミノ酸含有率が高く、品質が優れました。
 品質が高まる要因を把握するため、来春一番茶までの土壌中窒素の推移を新たに調査し、石灰窒素の効率的な施用技術の確立を目指します。

                       

                                            標準区                                                 石灰窒素区

 

 

第69回関西茶品評会の円滑な大会運営を支援

 8月3日~5日の3日間、宇治茶会館(宇治市)で第69回関西茶品評会審査会が開催されました。審査会は生産者の努力の結晶である出品茶を評価する場です。そのため、当所では事前に会場設営や綿密な審査日程の作成などを行い、準備に万全を期しました。
 審査会当日は、関係機関と連携し、審査用見本茶の準備や得点記録に正確を期するなど、円滑な審査会運営に努めました。
 また、今年の出品茶の傾向を分析して、生産者が来年の品評会で生かせるよう情報提供をします。

 

           

                てん茶の外観審査                審査用見本茶のかすあげ作業

 

 

7月

てん茶用品種「展茗(てんみょう)」の品質向上への取り組み

 当所では京都府育成品種「展茗」の普及拡大に向け、製茶品質向上に係る試験を行っています。
 てん茶の製造は、茶葉を蒸す工程と乾燥工程に分かれますが、これまでの試験で、展茗については蒸す工程の調整が品質に及ぼす影響は比較的小さいことがわかっています。そこで今年度は乾燥工程について試験しました。その結果、慣行よりてん茶機内の温度を3~5%下げることで品質が向上しました。急激な乾燥を避けることにより、てん茶の色が明るく、香味も良くなったと考えられます。
 今後、色あい、成分等の分析や、品質向上につながる要因解明を行い、展茗の製茶品質が向上する製茶方法を確立します。

 ※「展茗」:京都府が平成18年度に品種登録したてん茶用品種。
 覆い香味に優れ、樹勢が強く株張りが良い、新芽が直立性で機械摘みしやすい。京都府内栽培面積6.3ha(平成27年度京都府茶業統計)

 

                                  

                                      官能検査の様子                           色沢分析用サンプル作成の様子

 

6月

近赤外分光法による摘採時期判定技術の開発

 茶は、新芽を早めに摘採すると収量は少なくなるもののが品質が優れ、逆に遅めに摘採すると品質は低下しますが収量が増加する特性があり、品質と収量のバランスがとれた最適な摘採時期を判断するには長年の経験が必要です。
 そこで、経験の少ない生産者が簡易に最適な摘採時期を判断できるように近赤外線による判定技術を開発中です。本年度は一番茶期に樹冠面の新芽からの反射光を近赤外分光計で経時的に測定し、新芽の品質(硬さ)に関係する粗繊維などの成分との関係を調査しています。
 今後、最適な摘採時期の判断に有効な波長域を特定して、安価な測定機器の開発を目指します。

 

                    

                       近赤外線分光計による測定(4~5月)                          新芽の成分分析(6月)

 

5月

てん茶用品種「展茗(てんみょう)」の色沢改善に取り組んでいます

 当センターでは、覆い香味が優れる京都府育成品種「展茗」の普及を進めるため、品質を一層向上する試験を行っています。
 抹茶の原料であるてん茶は色沢(色あい)が重要ですが、「展茗」は色沢が暗くなりやすい傾向があるため、改善策を検討しました。その結果、慣行より早期に被覆を開始し、後期被覆期間(強遮光)を長くしたところ、色沢が明るく鮮やかに改善しました。
 今後は、官能検査などを行うとともに、「展茗」の色沢改善技術をとりまとめ、普及センターと協力して現地への早期普及を図ります。

 

          

                                         一番茶新芽の葉とてん茶の様子(左:試験区、右:慣行区)
                                             試験区では、てん茶の色沢が明るく鮮やかとなった。

 

 

※「展茗」:京都府が平成18年度に品種登録したてん茶用品種。
 覆い香味に優れ、樹勢が強く株張りが良い、新芽が直立性で機械摘みしやすい。京都府内栽培面積6.3ha(平成27年京都府茶業統計)

 

 

一番茶新芽の生育・摘採調査

 当センターでは、被覆の開始時期や摘採期の判断など、生産現場での栽培管理指標作成のために、所内定点茶園において3月30日の萌芽日以後、新芽の長さと開葉数を5日ごとに調査しました。
 本年は、平年より萌芽日が早かったことに加え、萌芽後の気温が高く推移したため生育が早まり、自然仕立て園の摘採日は平年より5日早い5月2日となりました。
 調査結果は、随時、生産者・茶業関係者へ情報提供を行いました。

 

    

       一番茶新芽の生育を5日ごとに調査              摘採期の収量調査(5月2日)

 

4月

 平成28年度茶業技術研修生入所式

 4月8日に茶業技術研修生の入所式を開催しました。本年度は京田辺市から山﨑康正(やまざき やすまさ)さん、和束町から辻陽介(つじ ようすけ)さんが入所し、来賓からお祝いと激励の言葉をもらい、研修生を代表して山﨑さんが宇治茶の発展に努めると力強い宣誓を行いました。
 研修生は1年間の研修期間に、実習や講義を通して茶業経営者の担い手としての技能を習得します。また、就農後に直面する様々な課題の解決方法を習得するためのプロジェクト研究にも取り組みます。

 

                       

                           入所式で宣誓を行う山﨑研修生

 

平成28 年度宇治茶アカデミー 製茶研修

 若手後継者を対象に、経営力と宇治茶の伝統と価値の発信力を高めてもらう「宇治茶アカデミー」の一環として、4 月18 日に南部会場(当所)、4 月25日に北部会場(綾部市)において製茶研修を開催しました(出席者:若手後継
者ら計29 人)。
 今年は京都府で関西茶品評会が開催されます。品評会での上位入賞は、製茶技術をアピールでき、茶価向上による経営改善につながるので、品評会を目指して受講生は熱心に研修に取り組みました。
 当所では後継者の経営力と宇治茶のブランド力向上のため、茶業後継者へ引き続き製茶技術向上の助言を行っていきます。

 

                                                         

                                             茶葉の温度と湿り具合を確認する受講生(南部会場)

 

 

 

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農林水産部京都府農林水産技術センター 茶業研究所

宇治市白川中ノ薗1

ファックス:0774-22-5877

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