京都で働きたい医師・医学生の方へ 京都で暮らし、京都で築くメディカルキャリア
KMCCキャリアパスのススメⅢ
京都の総合診療 ~ KMCCキャリアパスの展望 ~
2013年2月対談
総合診療に携わる医師5名にお集まりいただき、今注目されている総合診療について語っていただきました。
司会進行福知山市民病院院長 香川 惠造先生 |
対談者洛和会音羽病院総長 松村 理司先生 |
対談者京都医療センター教育研修部長 内科系診療部長 小山 弘先生 |
対談者京都府立医科大学総合医療・ 医学教育学教室 教授 山脇 正永先生 |
対談者医仁会武田総合病院総合診療科部長・ 内科系診療部長 土井 哲也先生 |
なぜ今、総合診療医が求められているのか
香川
総合診療医は、複数の問題を抱える患者さんに対して幅広い視点で診ることができる医師、適切な初期対応と継続した医療を全人的に提供できる医師、加えて「地域を診る医師」と定義付けられています。現在、高齢化の進行や病院医療の充実、また家庭医の側面といった観点から総合診療医が求められていますが、それにつきまして我が国の総合診療をリードしてこられた松村先生からお話しいただきたいと思います。
松村
新医師臨床研修制度の影響で大学医局の医師派遣機能が劣化し、そうした人材に頼っていた病院は人手不足に陥りました。それをなんとか乗り切るために求められるようになったのが総合診療医(病院総合医)です。
それともう一つは開業医のあり方です。今までは、長い間病院の専門医でやってこられた後に独立される先生が多い。これでは開業医の診療の幅を押さえ切れません。超高齢社会という時代背景からしても、もっとしっかりとした総合医の訓練を受けた医師が質、量ともに必要です。そうした認識が厚生労働省をはじめ学会、大学をも動かし、一定のコンセンサスができあがりつつあると思います。
香川
医師不足、そして高齢化。特に地方の病院には、松村先生がおっしゃったエッセンスがすべてありますね。そうした中で守備範囲の広い総合診療医、ジェネラリストが求められているんですね。
さて、山脇先生は大学で総合診療医を育成されていますが、先生は現在の総合診療の育成をどのようにお考えですか。
山脇
若い研修医たちの頭の中に総合診療医の志向はあると思います。ただそれが将来どのようなキャリアになるのか、はっきりしていないというのが大きな問題だと思います。また“専門医VS総合医”はなく、両方とも必要という認識の上でどちらに軸足を置くかを見極めることも重要です。将来の総合診療医のキャリアの形を若い皆さんと形作ってゆきたいと思っています。
香川
京都には京都大学、京都府立医科大学の両大学があり、優秀な総合診療医も多数おられます。こうした恵まれた環境の中で総合診療医、あるいは 総合内科のコースで学ぶことについて、どういったメリットが挙げられるでしょうか。
山脇
京都府には都市型、あるいは医療過疎型といった医療圏があります。これらさまざまな医療圏で学べることが京都の大きな魅力だと思います。特に北部は高齢化率も高く人口に比べて医師数の割合が少ない地域ですから、その地域でどのような医療が実現できるかを身をもって体験することは、これからの総合医にとって貴重な経験になると思います。
香川
松村先生は、まさにその北部の病院と京都市内の病院をご経験されてこられたのですが、それぞれの地で医師を育成してこられていかがですか。
松村
舞鶴で20年務めた病院の病床が236、現在私が勤めております病院の病床は608(一般病床448、亜急性・慢性病床160)と、ちょうど3倍ぐらいの違いがあります。双方の特徴を知るからこそ、それぞれの長短がわかりますね。どちらも若い時代に経験しておいたほうがいいと思います。
さらなるチャンスを提供する2病院
香川
さて、このKMCCキャリアパスの特徴は、府内の病院(総合診療の領域)で優秀な指導医から直接指導が受けられるということです。また研修中の奨学金制度や、研修終了後に京大、府立医大の大学院へ進学する場合は学費が免除されるというメリットもあります。
平成25年度からは研修施設に、国立病院機構京都医療センター、医仁会武田総合病院、京都府立医科大学附属北部医療センターが加わり、さらなるチャンスを提供します。小山先生、土井先生にそれぞれの病院の特徴をお話いただきたいと思います。
小山
京都医療センターでは総合内科的な研修はもちろん、必要であればレベルの高い専門科に相談できる環境があります。また研修医のみならず、ある程度の経験を積んだ先生が総合内科的な能力を獲得したいという希望にも柔軟に対応しています。
実際、私も呼吸器内科から総合内科へとシフトし、その進路変更の際に、さまざまなことを新たに勉強し、身につけることができました。その他にも京都府医師会の研修会をはじめ、国立病院機構の研修会などの学習機会が京都医療センターには豊富にあります。
土井
武田総合病院の一番の特徴は、要請のあったすべての患者さんを受け入れることです。そのためには各科の連携が必須で総合診療科だけでなく各科のドクターがERを担当する体制をとっています。例えば腹痛で来られた患者さんを神経内科の先生が診ることがあります。神経内科の先生は消化器科の先生に相談をしますから、おのずと協力体制ができる。そうしたことで各科の垣根が低くなり、結びつきが強まりました。
当院では、各科のドクターがある程度総合診療的な医療を担いながら協力し、底上げをしていくことで一般的な総合診療がどこに向かうべきかを模索しているところです。
個性豊かな研修会や勉強会
香川
ところで京都府医師会の「臨床研修のあり方に関する検討委員会」などで行われる研修会や講習会において、小山先生は積極的にアイデアを出されユニークな教育をされていらっしゃいますね。京都医療センターではどのような勉強会をされているのですか。
小山
初期臨床研修医については、研修中に出くわした問題を振り返り、学んだことを金曜日のランチタイムを使って研修医が他の研修医たちに教える機会を設けています。自主的な勉強に加え、人に教えることで自身の記憶に定着させることができるのです。もう一つはERの当直を終えた朝にどんな症例を経験したか総合内科やその他の内科、外科、救命科などの医師たちの前でプレゼンテーションしてもらっています。
香川
私どもの病院でも朝の回診と昼食の時に研修医の一人が講師となって他の医師に教える機会があります。晩はカンファレンスをするなどを熱心にやっていますね。他の先生方もご意見をお願いします。
山脇
大学の各診療科では医療の最先端のカンファレンスをしています。一方でクリニカル・リーズニング教育を主目的とした救急、総合医療の教育カンファレンスも充実してきました。また、外部講師を招く若手医師のための講演では、医学的内容だけでなく、プレゼンテーションの方法、海外の医療事情、女性医師のキャリア形成など様々な内容で月に2~3回のペースで行っています。
松村
この10年間を見て思うことは、昔よりも世代間の知識の交流がうまくいっていることですね。医長級の医師と研修医が1対1の関係に固定されるのではなく、幅広いコミュニケーションが行われています。だから今の若い世代は昔よりカンファレンスが上手だなと感じますね。
小山
カンファレンスで意識していることは、いかにきちんとした議論にしていくことかということです。初期診療、特にERにおいては、たとえ上級医であっても振り返ってみると反省すべき点が多く見られます。ドクターの批判にならないよう、かといって遠慮して何も言えないということを避けながら悪いものは悪いと言える、そんな雰囲気を心がけています。
香川
大変重要なことですね。
若き医師たちへのメッセージ
香川
最後に、これから総合診療を目指す若い先生方に向けて総合診療の楽しさや醍醐味、あるいはアドバイスなどをお聞かせください。
松村
私は肺の外科医から呼吸器内科医、総合内科医というように相当ジグザグに歩んできました。そうしたなかで最も影響を受けたのは、ジェネラリストとして抜群の指導医(カナダ人)に出会い、多くのことを教えていただいたことですね。救急もなさっていた先生でしたが、特に診断推論や臨床推論の幅の広さ、深みのあるお考えに大変魅かれました。
香川
このKMCCのカリキュラムの特徴の一つは、それぞれの病院にロールモデルとなるような指導者がいることだと思います。松村先生のように大変素晴らしいロールモデルに出会い、感銘を受けて勉強することこそ、まさにこのKMCCキャリアパスの大きな骨格かもしれませんね。他の先生方はいかがでしょうか。
山脇
私のロールモデルは、出身大学の神経内科の教授でした。学問的にも立派であるとともに患者さん中心の医療を実践され、非常に厳しく私たちを指導してくださいました。未来の総合医療の形は我々が作ってゆくものだと思っています。だからこそ総合診療を志す人はロールモデルを超えて、新しい総合診療医を切り開いていってほしいです。
京都には、本日ご参加されている素晴らしい指導医の先生方と、優れた病院があります。さらに国内でも有数の両大学も利用していただきたいと思います。総合医を志す皆さんはぜひ京都で“自分の武器”を身に着けていただきたいと思います。
小山
若い先生方には知的好奇心をもって自分の領域を貪欲に学んでほしいですね。そうしたなかで少しでも総合診療に興味をもったら、ぜひトレーニングを受けてほしいと思います。総合診療医はすべての玉にバットを振らなければならない大変な立場でもありますが、自分の力を超えることに遭遇した時は、専門科・専門医に渡していいんです。決してスーパーなドクターである必要はありません。それを踏まえた上で、知的好奇心をもっていろんなことに挑戦していってほしいですね。
土井
医療の進歩および高齢化時代の到来により、最近の患者さんはさまざまな病気をかかえて病態が複雑に絡み合っています。病気ではなく患者さんを治したい、助けたいと思ったら、どの分野の医師であれ総合診療を行わないといけない時代であると思います。これは私の心カテのお師匠さんの教えでもあるのですが、メインオペレーターは周りに信頼される医師でなければいけません。そのためには患者さんを総合的に捉え、スタッフの力量や周囲の状況を迅速かつ的確に見極め如何に治療するかの判断力が必要です。他科との連携を良好に保ち謙虚な姿勢で周囲をまとめていく総合力が、総合診療医のみならず専門医においても必要とされていると思います。
香川
“木を見て森を見ず”ではなく、ジェネラルマインドをもったスペシャリストが必要なんですね。先生方のお話を聞いていますと、良いロールモデルをもつこと、それから向学心や知的好奇心、その思いが相まって良い医師になっていくのではないかなと思いました。
京都ではKMCCが中心となって両大学はもちろん医師会も講習会などを開催し、医師の育成を精力的に行っています。また各研修病院でも個性豊かな勉強会を定期的に行っています。そういう意味では、京都には一丸となった育成システムがあるということを強調して本日の座談会を終わりたいと思います。ありがとうございました。
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平成24年4月よりスタートした総合内科・総合診療科キャリアパス。 平成24年度は市立福知山市民病院で2名が研修を開始し、 平成25年度はさらに2名が洛和会音羽病院での研修を予定しています。
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