石綿(アスベスト)について
1 はじめに
平成17年6月末に大阪市の大手機械メーカー「クボタ」が、同社の旧神崎工場の従業員らが石綿が原因とみられる疾病で死亡したと発表しました。従業員だけでなく、周辺の住民にも石綿が原因とみられる中皮腫の発症がみられ、中には死亡した人もいました。さらに、他の企業からも同様の事例が報告され、全国で石綿に対する不安が広がっています。
2 石綿とは
石綿は天然に産出される繊維状けい酸塩鉱物で、国際労働機関(ILO)の定義では、「岩石を形成する鉱物の蛇紋石及び角閃石グループに属する繊維状の無機けい酸塩」です。このうち日本では主に蛇紋石系のクリソタイル(白石綿)、角閃石系のクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)が使用されましたが、日本ではほとんど産出せず、大部分がカナダやロシア等からの輸入です。石綿は耐熱性、断熱・防音性、耐腐食性、絶縁性などに優れており、引っ張りにも強く、しなやかで糸や布に加工することもできます。しかし、石綿には以前から発がん性が認められています。
3 石綿による健康被害
石綿は髪の毛の5000分の1と非常に細い繊維で、肺に吸入されるとうまく排泄できず、滞留します。石綿による病気には石綿肺、肺がん、中皮腫などがあります。石綿肺は職業暴露など比較的大量に石綿を吸い込んだ場合に起こります。肺がんでは喫煙との相乗作用が報告されています。中皮腫は、喫煙との相乗作用はありませんが、石綿暴露との関連性が高いがんです。石綿による発がんのしくみについてははっきりしたことはわかっていませんが、潜伏期が長く、20年~40年といわれています。ほかにも良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚などがあります。
4 石綿の使用状況と今後の問題点
石綿の毒性については、早くから議論されており、まず、労働者保護の観点から、石綿含有量の多い吹付け石綿の作業が昭和50年に原則禁止とされました。しかし、石綿の優れた物性と、同時に安価であったため、多くのほかの用途で使用されてきました。 その後、欧米での健康被害やIL0石綿条約の採択、世界保健機構(WHO)勧告を契機として、毒性が強いクロシドライトとアモサイトは平成7年に製造・輸入・使用が禁止になっています。クリソタイルについても、建材では、住宅屋根用化粧スレート、繊維強化セメント板、窯業系サイディング等、自動車ではクラッチやブレーキの部品等10品目について平成16年、同様に禁止になりました。これまでの使用量の9割以上は建材です。 石綿は昭和45年~平成2年頃にかけて大量に輸入されており、その多くが建材として使用されています。今後、これらの建材を使用した建物が、老朽化により解体される工事が増えていきます。 このため、平成8年の大気汚染防止法改正で、耐火、準耐火建築物(吹付け石綿が多く使用されている。)で、延べ面積500m2以上、吹付け面積50m2以上の建物を解体・改造又は補修するときには、事前に届出することが義務付けられています。しかし、規模の小さな建物は対象にならないため、京都府では規模要件(延べ面積500m2以上で、吹付け面積50m2以上)に関わらず、届出を義務付ける条例を平成17年10月に制定しました。 また、作業に当たっては、石綿の除去を行う区画の隔離、区画を陰圧に保って集塵、排気装置の設置、湿潤化等の措置を講じるよう規定されています。 労働安全衛生法関係では石綿障害予防規則の中で、吹付け石綿だけでなく保温材や断熱材、耐火被覆材を用いた建物の解体についても届出の義務を規定しています。さらに、作業を行う際にとるべき飛散防止措置が定められています。
5 京都府の対策
京都府では、府内の環境大気中の石綿の実態を把握するため、定期的に調査を実施しています。当研究所においては一般環境地域、商業地域、主要道路沿道の大気中石綿濃度を測定しています。いずれの地点も大気汚染防止法で定める石綿製品製造工場との敷地境界基準値(10f/L:1リットル中に10本)を大きく下まわる結果となっており、年々減少の傾向にあります(図2)。なお、石綿の分析方法には、大気中濃度のほか建材中の含有量を調べる方法などがあります(表)。このほか、京都府では相談窓口の開設、健診の実施、府の施設等における飛散防止の徹底のため府有施設280施設(学校、警察関連を除く)で吹付け石綿の調査等を実施しています。この調査では、70施設に吹付け材の使用を認め、12施設で石綿の使用を確認しました。これらの施設については、室内空気環境測定を実施し、健康面への影響がないことを確認していますが、順次封じ込め等の対策を実施することとしています。吹付け材を使用したこのほかの施設については、吹付け材の分析調査により石綿の含有を判定し、状況に応じ必要な対策を実施することとしています。
図1 クリソタイルの位相差顕微鏡写真
図2 京都府の環境中の石綿濃度
(測定値は3回の測定平均値、長岡京市役所の1989年は第2浄水場敷地内で測定、国道1号線沿道と宇治振興局の1989年は2つのデータの高い方の値)
石綿の分析方法
分析対象による分類
| 大気中の石綿濃度の測定 | 大気中の粉じんをフィルター上に捕集し、前処理の後 a.位相差顕微鏡で繊維状物質を計数する。又は、 b.電子顕微鏡で計数、同定する。 |
| 建材中の石綿含有率の測定 | 建材を粉砕して分散染色法とX線回折法で同定する。いずれかで石綿が認められたものについて、改めてX線回折法で定量する。 |
分析方法による分類
| 光学顕微鏡(位相差顕微鏡)法 | 大気中の粉じんをフィルター上に捕集し、前処理の後、位相差顕微鏡と通常の生物顕微鏡での見え方の違いを利用して石綿繊維を計数する方法。大気中の石綿濃度の測定に使用される。 |
| 電子顕微鏡法 | 走査型と透過型があり、より小さな繊維まで計数することができる。透過型では形態からクリソタイルが判別できる。半導体X線検出器をつけると石綿の種類が判別できる。 |
| X線マイクロアナライザー法 | 試料に電子線を照射したとき発生する特性X線により、石綿の種類を同定、定量できる。 |
| X線回折法 | 試料にX線を照射したときに反射してくるX線が互いに干渉して特定の角度の時にピークが認められる(回折ピーク)。このパターンの違いによって物質を同定する。ピーク強度によって定量もできるが、大気中の石綿のように微量の試料は分析できない。 |
| 分散染色法 | 位相差顕微鏡に特殊な装置をつけ、物質の屈折率が光の波長の違いによって変化する性質(この現象を分散という)を利用して、対象となる繊維状物質を染色したように色分けして判別する方法 |
当研究所では、光学顕微鏡法によって大気中の石綿濃度を測定しています。

