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衛生動物・衛生害虫の検査から

(京都府保健環境研究所だより83号掲載)

「ねずみ、ゴキブリ、ハエ、蚊、ダニなどが、相手です。」と申し上げると、それだけで眉をひそめられる方もおられるでしょう。私たちが日頃検査の対象としている「衛生動物」は、一般的には有害動物(あるいは、害虫)と呼ばれている生き物たちが中心です。
人に何らかの害を与える生物を「ペスト」と総称し、これらの防除を「ペストコントロール」といいます。もともとは、恐ろしいペスト菌を媒介するノミ類や保菌動物であるネズミ類を駆除することで、ペストの脅威から人々を守った仕事が、これらの言葉の起源となっています。ですから、衛生動物(衛生害虫)というのは、本来、感染症などを媒介する動物(昆虫)のことを指します。
 昔の衛生動物検査は、第二次世界大戦前後の防疫対策活動や1950年代の「ハエと蚊のいない生活実践運動」に象徴される生活環境の改善のためのものでした。しかし、現代社会では、健康で快適な生活環境がごく当たり前であるがゆえに、その生活イメージを損ねる生き物たち「不快動物(不快害虫)」の検査が多くを占めるようになってきました。
 環境衛生課では、保健所などを通じて府民の皆さんから寄せられる衛生動物に関する苦情について、対象動物の同定(名前を調べ、確認すること)や駆除方法の相談などを行っています。過去の相談事例で、同定を行った検査数の年次推移を図1に示しました。


衛生動物の同定検査件数の推移のグラフ

 また、苦情の理由を、人に対し、a:何らかの生理的被害を与えるもの、b:精神的な被害を与えるもの、c:社会的あるいは経済的な被害を与えるものの三つに大別し、更にaの苦情理由を、(1)寄生虫(魚介類など食品の寄生虫を含む)、(2)食品に混入していたムシなど食品に関する苦情、(3)感染症媒介やアレルギーなど健康に関する被害を心配するもの、(4)ムシ刺されなど直接的な被害をこうむっているものの四つに分けて、年代別に示してみました(図2)。
年代別の衛生動物検査の内訳グラフ
 70年代は検査件数が非常に少なかったことが特徴です。身の回りの“ムシ”は、あまり苦情の対象とならなかったのでしょうか? それでも、「不快」の訴えが過半数を占め、日本の高度経済成長とともに、快適な生活環境を阻害するムシたちに対する関心が増えてきた時期であったといえるでしょう。
 90年代に入ると、衛生動物の検査数は70年代の3倍以上に増加しました。当研究所の衛生動物等の検査件数は、1970年代終わり頃から急増を始め、90年代半ばまで上昇傾向を示しました。現在は、年間約100件前後で推移していて、同定を伴う検査はそのうち6~7割です。
 90年代では、刺咬被害が理由の検査が増えてきました。70年代にこれらの検査対象となったのはアリガタバチ類とトコジラミ(ナンキンムシ)が中心でしたが、90年代では室内塵性ダニ類の検査が過半数を占めるようになりました。私たちが87年にこの検査を開始したことと、家の中のダニが人に被害を与えるという情報が周知されるようになったことが増加の原因と考えられます。また、90年代後半から、苦情の原因として検査依頼を受けた衛生動物のうち、人に直接的な被害を与えない種の割合が増えてきました。
衛生動物の検査を通して、70年代と大きく変わってきたと感じるのは、衛生動物により起こる健康や生活上の被害・不安などを訴えること(健康被害)が非常に増えてきた点です。これらは、例えば見つけたクモがセアカゴケグモか否かの鑑別依頼や、室内塵性ダニ類検査も刺咬の訴えではなく、アトピー性皮膚炎症状、あるいはぜんそく発作との関連への懸念、また、ふだんあまり見かけない野外性の昆虫類の人畜への被害の有無の確認などが多くを占めるようになってきました。これらの訴えは、以前なら「不快」の項に分類されていたものかもしれません。しかし、依頼される方は、むしろ、ご自身やご家族の健康や快適な生活環境を侵害するかどうかの不安・懸念を示されることが多くなりました。また、2000年代に入り、食品内異物あるいは製品被害が増加していますが、これらも人々の安心・安全・快適な生活への願いを反映しているのではないでしょうか。
 交通手段の発達により、世界はますます身近で便利になっています。一方、日本には今まで無かった、あるいはもう起こるはずがないだろうと考えられていた感染症が、地球温暖化などの影響も合わせて、国内に広がる可能性も高まっています。これらの感染症の中には、昆虫や野生動物が媒介する病気もあり、病原体が日本に存在しないだけで保菌動物となる能力を持つ動物が日本に存在する場合もあります。衛生動物の検査も、昔のように媒介動物が中心となっていくのかもしれません。社会の情勢に合わせて、人々の関心が変わっていくように、衛生動物の世界も少しずつ変わっていくのでしょう。

セアカゴケグモの写真
2005年10月加茂町で見つかったセアカゴケグモの写真

 最後に、昨年10月に京都府内では初めて発見されたセアカゴケグモの写真をご紹介しておきましょう。特定外来生物に指定されていますが、大阪府内で発見されてちょうど十年、自力でというよりは、人為的な偶発行動で、その生息場所を全国に広げつつあり、今や関西では、いつどこで見つかってもおかしくない状況です。本来おとなしい生き物で、自ら人に危害を与えることはありませんが、草引きや溝掃除などの際、素手で偶然クモに触れたりして咬まれることがないとはいえません。咬まれると、激しい痛みや腫れ、めまい、嘔吐などの局所症状のほか、希に血圧の上昇、呼吸困難などの全身症状が現れることもあります。まず、医療機関に相談してください。本種についての詳しい情報は当研究所のホームページをご覧ください。
(http://www.pref.kyoto.jp/hokanken/)

(環境衛生課)

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健康福祉部健康福祉総務課 保健環境研究所 企画連携課

京都市伏見区村上町395

ファックス:075-612-3357

hokanken-kikaku@pref.kyoto.lg.jp

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