人獣共通感染症について

 (京都府保健環境研究所だより84号掲載)

1 はじめに

 人獣共通感染症とは「人と脊椎動物の間で、相互に移行し得る感染症」のことです。人に感染症を引き起こす病原体のうち約50%は人獣共通感染症であり、新興感染症(近年、新たに流行が見られるようになった感染症)では70%以上が特に人にとって重要な人獣共通感染症です。SARS(重症急性呼吸器症候群)は本誌75号(PDF:401KB)、高病原性鳥インフルエンザは77号(PDF:395KB)及び81号、狂犬病は79号(PDF:441KB)に掲載していますので、今回はそれ以外のマスコミで話題となった人獣共通感染症を中心に取り上げたいと思います。

2 ウイルス性出血熱

 マールブルグ病、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱を合わせてウイルス性出血熱といいます。このうちラッサ熱を除く3つが最近アフリカで発生しました。
 マールブルグ病は、1998年末~2000年末コンゴ民主共和国で149名の患者、うち123名の死者、2004年10月~2005年7月アンゴラで患者374名、うち死者329名という大規模事例が発生しました。図1はアンゴラにおける患者数の推移です。
 1967年西ドイツ(当時)のマールブルグ、フランクフルトやユーゴスラビアのベオグラードにおける発生では輸入されたサルの関与が確認されましたが、それ以降に発生した事例では今回の件も含め、感染源は確認されていません。
 エボラ出血熱は、2005年4月~5月コンゴ共和国で患者12名、うち死者9名が出ました。エボラ出血熱についても、1976年以来10数件発生している中、近辺でサルの死体が発見されていることなどからサルの関与が強く疑われていました。
 その後、エボラ出血熱ウイルスをコウモリに接種しても発症しなかったことや、感染地域で調査したコウモリから遺伝子や抗体が検出されたことからコウモリが自然宿主ではないかと考えられるようになりました。サルは自然宿主ではなく他のウイルス保有動物から感染する被害者でもあります。
 クリミア・コンゴ出血熱は、2006年1月南アフリカで1名が死亡しました。
 ラッサ熱の自然宿主はマストミス(ヤワゲネズミ)でその尿や唾液も感染源になります。クリミア・コンゴ出血熱はダニからも感染します。
 ウイルス性出血熱の症状は、いずれも発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢等ですが、その名のとおり消化管や尿路系等の出血を起こすと死に至ります。
 ウイルス性出血熱に共通した感染様式は、患者の血液や体液への接触感染です。このため、患者が適切に隔離されず、家族が看病すると感染が広がってしまいます。

図1
アンゴラにおけるマールブルグ病患者週別発生状況のグラフ

3 オウム病

 オウム病は、クラミジアという病原体により発熱、咳、頭痛、筋肉痛等が現れる感染症です。2005年は34例が報告されていますが、その年の末に神戸市の鳥類展示施設の従業員で集団発生があったことはまだ記憶に新しいかと思います。糞や唾液に排泄され、舞い上がったクラミジアを吸入することや、保菌鳥に口移しで餌を与えることにより感染し、1~2週間で発症します。推定感染源は、インコやオウムが主となっています。予防のためには、口移し等の濃厚な接触は避け、鳥の世話をした後は手洗いとうがいを徹底しましょう。

4 サル痘

 サル痘ウイルスは、天然痘ウイルスと同じグループに含まれますが天然痘ほど致死率は高くなく、1~10%ほどです。1996年から1997年にかけてコンゴ民主共和国で大流行するなどこれまではアフリカに限られていましたが、2003年アフリカから輸入されたサバンナオニネズミ(ガンビアンラット)と同時に飼育されていたプレーリードッグに感染し、このプレーリードッグを購入した人の間で流行しました。この時期に輸入された齧歯類では他にアフリカヤマネ、キリスからウイルスが検出されました。アフリカヤマネ17匹が日本に輸出されたことが判明しましたが、厚生労働省が調査した時点で15匹はすでに死亡し、2匹についてウイルス検査をしたところ陰性でした。
 ウイルスに感染すると7~21日の潜伏期間を経て、発疹(図3)、発熱、発汗、頭痛、悪寒、咽頭痛、リンパ節腫脹が現れ、重症例では臨床的に天然痘と区別できません。天然痘ワクチンである種痘はサル痘にも有効ですが、日本では、天然痘撲滅(1980年宣言)の目処が立ったため、1976年以降行われていません。

ハクビシンの写真
ハクビシン(仙台市八木山動物園)

プレーリードッグの写真
プレーリードッグ(仙台市八木山動物園)

図3 サル痘による発疹の写真
図3 サル痘による発疹

5 サルモネラ

 サルモネラというとたいていの人は食中毒と考えると思います。しかし、2004年にはイグアナ、2005年にはミドリガメが感染源と推定或いは確認された事例がいずれも千葉県で発生しました。2004年の例は乳児が哺乳力低下、発熱、粘血下痢便等を示しました。検便の結果、米国やカナダでイグアナの保菌が報告されている種類と同一のサルモネラが検出され、患者宅でもイグアナを飼っていたことからこのイグアナが感染源と推定されました。
 2005年の1例目は発熱、下肢硬直、眼球右方偏視、口唇チアノーゼを示し、2例目は発熱、嘔吐、水様下痢を示しました。2例目の患者とその家庭のミドリガメの水槽内の水から検出した菌が同一であったため、ミドリガメを感染源と確定しました。輸入爬虫類の調査では高率でサルモネラが検出されています。子供や高齢者での発生が多いので、こういった人たちや免疫機能の低下した人がいる家庭では爬虫類の飼育は避けた方が良いでしょう。水槽の水の交換は食品を扱う流し台を避け、爬虫類が食品のある場所に近づかないようにすることも大切です。また、動物を触った後は必ず石鹸で十分手指を洗ってください。

6 人獣共通感染症増加の背景

 このような人獣共通感染症が流行する要因とは何なのでしょうか。人類にとってこれまで未開であった土地に開発の手が加えられ、野生動物のもつ未知の病原体と遭遇する機会が多くなっています。加えて、ヒトやモノが数時間の内に世界中を駆けめぐる状況下で、病原体もこれと同時に運ばれ、ばらまかれることになります。
 更に、畜産の世界では多頭羽飼育が進み、病原体はこの集団内で一気に増殖することになります。
 また、我々が今までペットにしたことのない動物が身近な存在になっていることも挙げられます。

7 国の対策

2003年以来数回にわたる感染症法の改正で人獣共通感染症対策が強化されました。
 獣医師が届け出るべき感染症も追加され、現在では表1のようになっています。

 2005年9月1日から輸入動物の届出制度も実施され、哺乳類、鳥類の生体及び齧歯類については死体も対象とし、動物種ごとに定められた感染症を発症していないこと等の衛生証明書が必要となりました。
 表2に示した動物については輸入が禁止されています。

表1 獣医師が届け出る動物・感染症

動物 感染症
サル エボラ出血熱
マールブルグ病
細菌性赤痢
プレーリードッグ ペスト
タヌキ 重症急性呼吸器症候群(SARSコロナウイルスによるものに限る。)
イタチアナグマ
ハクビシン
鳥類 ウエストナイル熱
エキノコックス症

表2 輸入禁止動物

動物 地域
プレーリードッグ すべての地域
タヌキ
イタチアナグマ
ハクビシン
ヤワゲネズミ
コウモリ
サル すべての地域(厚生労働大臣、農林水産大臣が指定した試験研究機関又は動物園が試験、研究、展示に使用するために指定された地域から輸入する場合を除く。)

8 府の対策

 平成15年度から厚生労働省の補助事業である「動物由来感染症予防体制整備事業」(厚生労働省では動物由来感染症という言葉を使っています。)として「人と動物の共通感染症予防対策連絡調整会議」を開催し、府関係機関、獣医師会等での情報交換や、指定獣医療機関及び府動物愛護管理センター(現在は計15定点)から月1回感染症を報告するサーベイランスを実施することにより、動物段階での感染症の早期発見や流行予測に努めています。これまでの結果では問題となるような感染症は報告されておりません。
 また、当研究所の検査体制を充実させ保健所、獣医師会及び国立感染症研究所との連携を強化し緊急事態に対応できるようにしています。
 図はいずれも感染症発生動向調査週報(IDWR)及び病原微生物検出情報(IASR)より
(細菌・ウイルス課)

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