嗅覚測定法について

 (京都府保健環境研究所だより85号掲載)

1 はじめに

 悪臭防止法は、事業場等の事業活動に伴って発生する悪臭について必要な規制を行い、悪臭防止対策を推進することにより、生活環境を保全し、国民の健康の保護に役立てることを目的として、昭和46年6月に制定されました。当初は特定悪臭物質の濃度規制方式がとられていましたが、物質濃度規制だけでは限界があるため、平成7年4月の法改正により人間の嗅覚を用いてにおいの程度を数値化する臭気指数規制方式が導入されました。
 今回は、臭気指数規制方式の公定法である「三点比較式臭袋法」について紹介します。

2 悪臭防止法の二つの規制方式

 (1)特定悪臭物質規制

アンモニア等22物質が特定悪臭物質として定義されており、機器分析によりこれら各物質の濃度を測定し、規制値と比較する方法です。
 (2)臭気指数規制
 人間の嗅覚を利用する方法です。人間の嗅覚でその臭気を感知できなくなるまで気体を希釈した場合におけるその希釈倍数(臭気濃度といいます)の対数に10を乗じた値(臭気指数)を規制値と比較する方法です。
  臭気指数規制方式の基礎となるものが嗅覚測定法です。

3 嗅覚測定法

 人間の嗅覚を利用して臭気をどのように数値化できるかについては、一般的に次の三つの方法が使われています。
 (1)臭気強度
 臭気の強さに着目した尺度であり、最も基本的かつ重要な尺度といえます。悪臭防止法における基準値の設定のための評価尺度として使われた6段階臭気強度表示法を以下に示します。

強烈なにおい
強いにおい
楽に感知できるにおい
何のにおいであるかが判る弱いにおい(認知閾値)
やっと感知できるにおい(検知閾値)
無臭

 (2)快・不快度
 評価尺度としては、5,7,9段階の快・不快表示などがありますが、日本において広く使われている9段階快・不快度表示法を以下に示します。

+4 極端に快
+3 非常に快
+2
+1 やや快
 0 快でも不快でもない
-1 やや不快
-2 不快
-3 非常に不快
-4 極端に不快

 (3)臭気濃度
 臭気の広がりの程度を表す尺度です。臭気濃度は、単に臭気の濃度という意味ではなく、一つの単位であり、「その臭気を無臭の清浄な空気で希釈したときの無臭に至るまでの希釈倍数」として定義されているものです。
 外国で使用されている注射器法、セントメータ法、オルファクトメータ法などの臭気嗅覚測定法は、この臭気濃度を求める方法です。ここで紹介する三点比較式臭袋法も同様です。

4 嗅覚測定法の利点

 特定悪臭物質濃度を測定する方法に比べて、嗅覚測定法にはいくつかの優れた点があります。 
 (1)未規制物質に対応が可能
 においを発生させる物質は、40万種類以上といわれています。22種類の特定悪臭物質の規制だけでは不十分です。
 (2)複合臭に対応が可能
 二つのにおいが混ざり合ったときのいわゆる相加・相乗効果にも対応が可能です。
 (3)住民の被害感に一致しやすい。
 嗅覚を利用するため、人間の感覚に合っています。
 (4)設備費が安価である。
 高価な分析機器を使う必要がありません。
 (5)国際的には主流の方法である。
 特定悪臭物質規制をとっている国は、日本を含めて数カ国しかありません。

5 ウェ-バ-・フェヒナ-(Weber-Fechner)則

 嗅覚測定法の基礎となる法則です。においに対する人間の感覚は、刺激(臭いの場合、臭気濃度)の対数に比例するというものです。言い換えると等比級数的な刺激の変化に対して、人間は等差級数的に変化を感ずるということです。
 式で書けば
   感覚量=K log(刺激量)+a
           (Kとaは刺激固有の定数)
 これは、振動や騒音などの感覚公害にも当てはまります。

6 嗅覚パネルの選定

 人間の嗅覚を利用すると言いましたが、実際の嗅覚測定法では、においを嗅いで判定してもらう人が必要です。これを嗅覚パネル(略してパネルともいう)といい、正常な嗅覚(嗅力)を持っていないといけません。正常な嗅覚を持っているかどうかを判断するためにパネルの選定試験を行います。パネルの選定試験には、表1に示す5種類の物質(基準臭液といいます)を使います。これらの物質は、流動パラフィンに添加され基準濃度になるように調製されています。
 具体的には、5本の細長い試験紙(におい紙)のうち2本に基準臭液を付け、どれがにおうかを判定してもらいます(これを、5-2法といいます)。5種類の基準臭液すべてに正解した人をパネルとして採用します。
 また、嗅覚パネルの選定や嗅覚測定法の実施及び結果のとりまとめと評価を行う人を嗅覚測定実施者(オペレーター)といいます。このオペレーターに対しての国家資格があり、「臭気判定士」試験が年1回行われています。

表1 基準臭液の種類とにおいの質

物質名 化学組成 においの質 基準濃度
β-フェニルエチルアルコール C3H10O ・花のにおい
・バラの花びらのようなにおい
10の-4.0乗
メチルシクロペンテノロン C6H8O2 ・甘いこげ臭
・菓子プリン(こげ茶色の部分)のようなにおい
10の-4.5乗
イソ吉草酸 C5H10O2 ・汗くさいにおい
・むれた靴下のにおい
10の-5.0乗
γ-ウンデカラクトン C11H20O2 ・熟した果実臭
・桃の缶詰のようなにおい
10の-4.5乗
スカトール C9H9N ・かび臭いにおい
・糞の中にも含まれているにおい
10の-5.0乗

7 三点比較式臭袋法

 排出口からの排出ガスに対する方法と敷地境界などにおける環境大気に対する方法は、手順並びに評価の仕方が異なるので、ここでは排出ガスに対する三点比較式臭袋法を説明します。
 パネルの人数は6名以上とします。三点比較式臭袋法における嗅覚パネルは、3袋1組で渡される臭袋を嗅ぎ、においの有無を判断し、においを入れた1袋(付臭臭袋)を選び出すのが役目です。

(1)活性炭層を通した無臭空気を臭袋にほとんどいっぱいになるまで注入します。このとき 臭袋には3Lの無臭空気が入ります。パネル一人につき3袋用意します。パネルが6名 だと全部で18袋が必要です。
(2)無臭空気を満たした臭袋の一つに、所定の希釈倍数になるように注射器により、試料採 取用バッグから一定量採取した原臭を臭袋に注入します。例えば希釈倍数を100倍と すれば、30mlを注入することになります。
(3)このようにして作った付臭臭袋1個と無臭臭袋2個の計3個を1組としてパネルに渡し ます。パネルは、臭袋のにおいを嗅ぎ、3個の臭袋のうちにおいがあると思われる臭袋 の番号を解答用紙に記入します。
(4)パネルの解答が正解であれば、順次約3倍ずつ希釈倍数を上げて、前と同様の試験を行 い、パネル個人の解答が不正解になった希釈倍数でそのパネルの試験は終わります。
これをパネル全員が不正解になるまで繰り返します。

8 試験結果の処理

 例えば、試験結果が表2のようになったとします。6人のパネルのうち、最も閾値の高い結果と最も低い結果をカットし残りの4人の値を平均します。計算の仕方を、表の下に示しています。ここで、閾値とは、パネルが不正解になったときの希釈倍数と直前の正解のときの希釈倍数の幾何平均の対数をとったものです。平均閾値が3.49ということは、10の3.49乗=3100倍(臭気濃度)に希釈すればにおいがしなくなるレベルということです。この臭気濃度から臭気指数を計算すると35となり、この値を規制値と比較することにより法の順守状況や対策の有無を判断します。

表2 三点比較式臭袋方集計用紙(排出口用

実施回数 1 2 3 4 5 6 個人
閾値
(最大値
最小値
カット)
注入量(ml) 30 10 3 1 0.3 0.1
希釈倍数 100 300 1,000 3,000 10,000 30,000
対数値 2 2.48 3 3.48 4 4.48
被験者A × × × 3.24
(最小値カット)
被験者B × × 3.74
(採用)
被験者C × × × 3.24
(採用)
被験者D × × × 3.24
(採用)
被験者E × 4.24
(最大値カット)
被験者F × × 3.74
(採用)

(3.74+3.24+3.24+3.74)/4=3.49(平均閾値)、103.49=3,100(臭気濃度)、10log103.49=35(臭気指数)

9 おわりに

 「三点比較式臭袋法」は、日本で独自に開発された嗅覚測定法です。欧州で採用されているオルファクトメータ法のように高価な機械も必要でないため、環境省では国際的普及を図るべくシンポジウムの開催やマニュアルの英語版の公開などに取り組んでいます。
 日本でも徐々に「三点比較式臭袋法」を採用する自治体が増えつつあります。京都府内の市町村でも臭気指数規制方式の導入を検討されてはいかがでしょうか。
(参考文献)
「嗅覚測定法マニュアル」環境省環境管理局大気生活環境室監修
出版:社団法人におい・かおり環境協会
(大気課)

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