
No.66 平成12年7月

| (研究所構内 いきものマップ) 研究所は伏見にあり、国道1号と24号にはさまれた都市の一角です。それでも、たくさんのいきものたちが構内にすみついています。 |
● 身近な自然を取り戻すために ミニビオトープの試み
● 保健環境研究所紹介(細菌・ウイルス課)
● サルモネラ
● 青少年地球環境科学教室と研究所施設見学のお知らせ
● 貝毒テトラミン
身近な自然を取り戻すために ミニビオトープの試み
<ビオトープとは>
もともとドイツ語で、「生き物のすみか」という程度の意味です。しかし、最近ではこれを発展させて、「生き物と人が共生できる場所を創造した空間」という意味に用いられています。
河原や公園、学校の校庭などを利用して、自然の姿を復元することをめざした、大規模な「憩いの空間」がつくられています。「ビオトープ」という言葉も市民権を得つつあるようです。
<ミニ・ビオトープの試み>
私たちは、大がかりな土木工事を行わなくても、自宅の庭先やベランダなどの、ほんの小さな空間を利用して、虫たちのすみかを提供してみようとミニ・ビオトープを計画してみました。
チョウの幼虫は、偏食家です。決まった食草でなければ、決して食べません。そこで、プランタにチョウの食草となる植物を植え込み、親チョウが産卵するのを待ちました(写真1)。
トンボは、種類によっては、空の上からキラキラ光る水面を発見すると、産卵に来る性質があります。トンボが発見してくれることを期待して、深めのプランタに水を張って庭先に置きました(写真2)。しばらくすると、この水ためには、プランクトンやユスリカ、カゲロウなどの水生昆虫類が増え、いずれヤゴの餌になります。
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写真1 チョウの食草を植え込んだ バタフライ・ガーデン キャベツ: モンシロチョウ カタバミ: ヤマトシジミ キンカン: アゲハ、クロアゲハ ニンジン、パセリ: キアゲハ スミレ: ツマグロヒョウモン などのチョウが産卵に来ます |
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| 写真2 ベランダに置いたトンボ池(夏と冬) | ||
昨年4月から研究所の庭やベランダ、屋上などいろいろな場所にミニ・ビオトープを設置しました(研究所いきものマップ参照)。
同時に、私たちの庭にやってきてくれる虫たちと比べてみるため、研究所周辺のチョウやトンボの生息調査も行いました。調査は、研究所より自然度が高いと考えられる、数百m西の東高瀬川河畔を中心に行いました。たとえば、ナミアゲハ成虫の東高瀬川河畔の発生は、ミニ・ビオトープにやってきたナミアゲハの変化と同じでした。
私たちの小さな庭に、思いの外、たくさんの虫たちがやってきてくれました(表)。
表 東高瀬川河畔と研究所構内のチョウやトンボたち
| 科 | 種 | 東高瀬川河畔 | 研究所構内 | ||
| 昨年春 | 昨年夏 〜秋 |
今年春 | |||
| アゲハチョウ | ナミアゲハ | ● | ● | ● | ● |
| クロアゲハ | ● | ● | |||
| キアゲハ | ● | ● | ● | ||
| アオスジアゲハ | ● | ● | ● | ● | |
| カラスアゲハ | ● | ||||
| ナガサキアゲハ | ● | ||||
| シロチョウ | モンシロチョウ | ● | ● | ● | ● |
| スジグロチョウ | ● | ||||
| ツマキチョウ | ● | ● | |||
| モンキチョウ | ● | ● | ● | ● | |
| キチョウ | ● | ● | ● | ||
| シジミチョウ | ヤマトシジミ | ● | ● | ● | ● |
| ルリシジミ | ● | ||||
| ツバメシジミ | ● | ||||
| ベニシジミ | ● | ● | ● | ||
| タテハチョウ | ツマグロヒョウモン | ● | ● | ● | ● |
| アカタテハ | ● | ● | ● | ||
| ヒメアカタテハ | ● | ● | |||
| キタテハ | ● | ||||
| セセリチョウ | チャバネセセリ | ● | ● | ● | |
| イチモンジセセリ | ● | ● | |||
| ジャノメチョウ | ヒメウラナミジャノメ | ● | |||
| イトトンボ | アオモンイトトンボ | ● | ● | ||
| カワトンボ | ハグロトンボ | ● | |||
| サナエトンボ | オグマサナエ | ● | |||
| トンボ | シオカラトンボ | ● | ● | ● | ● |
| ウスバキトンボ | ● | ● | |||
| ナツアカネ | ● | ● | |||
| ノシメトンボ | ● | ||||
| アキアカネ | ● | ● | |||
| オナガアカネ | ● | ||||
| ヤンマ | ギンヤンマ | ● | ● | ● | |
●:生息を確認
| :研究所で産卵、ヤゴなどを確認 |
また、今年春からの観察では、研究所構内で、チョウの種類が去年と比べて増えました。今年初めて、クロアゲハが姿を見せました。去年秋に初めて見つけたキアゲハ、キチョウやアカタテハも春から飛びました。チョウたちが来てくれたら…と考えて、たった一年!庭にちょっと工夫を加えただけなのに、チョウたちが応えてくれたようで、うれしく思っています。また、この春に、トンボ池の水の中を調査してみたら、シオカラトンボやアカトンボのヤゴたちがゾロゾロ出てきました。まだまだ、虫の種類は、少ないのですが、時間をかけて、この庭の存在を虫たちに気づいてもらいたいと思っています。
<エコ・アップガーデン計画>
今年から、コンテナガーデンやトンボ池の素材に、廃棄物の再利用を考えはじめています。身近な生き物について考えると同時に、さまざまな環境問題についても思いをめぐらせてもらえたら…との願いを込めています。
トンボ池の底に敷く砂利や大きめの石に、京都府下水道公社洛西浄化センターのエコ・京レンガを使わせてもらっています。このレンガは、下水道汚泥から作られた再生品です。
コンテナガーデンの土には、学校給食の調理くずから作った堆肥を混ぜ込んでいます。これは、木津町リサイクル研修ステーションから提供を受けています。
同時に、京都府内の7つの小・中学校に協力をいただいて、校庭にミニ・ビオトープを設置し、観察をお願いしています。(学校ビオトープホームページへのリンク)
ほんの20年前、50年前なら、ごくあたりまえにいたチョウやトンボ、カブトムシなどの様々な種類の虫たち…。これらの虫たちは、人と自然が、上手に折り合いをつけて暮らしてきた場所に生息するものです。 町中のあちこちにこんな庭が広がれば、それがひとつの線となって、虫たちを近くの山や川から自分の庭先まで、街の中まで、呼び戻すことができる、と思っています。(環境衛生課)
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保健環境研究所紹介 (細菌・ウイルス課)
今年は5月中旬から下旬にかけて真夏日かと思えば雷雨になったり、また、関東地方では雹(ひょう)が降るなどの天候不順が続きました。この号が出る頃には、梅雨も終りに近づき、食中毒が多発する時候となっているのではないでしょうか。
今回は、ある食中毒事例を参考にして、京都府保健環境研究所の細菌・ウイルス課の業務の一端をご紹介し、食中毒の発生を極力抑えるために、府民の皆様と共に考えてみたいと思います。
【事例1】 本年5月末の夕方、下痢、発熱を主訴とする小学校低学年の患者さんが医師を訪れました。医師による速やかな問診並びに診察の結果、急性胃腸炎と診断され輸液と抗生物質の投与等の治療が行われました。症状から見て食中毒が疑われましたので、さっそく受診医療機関から臨床検査所へ患者の便(検体)が送られ、便中の細菌についての検査が行われました。細菌検査では、寒天培地に検体を塗抹し一定時間培養した後、出現した細菌の集落(コロニー)を観察します。疑わしいコロニーがあれば更に詳しい性状を調べ原因菌であるかどうかを判定します。2日後、医療機関は「サルモネラが検出された」との報告を受け、医師は直ちに保健所へ「食中毒患者が発生した」との連絡を致しました。その報告に従って、保健所長は担当職員を患者の元に派遣し、患者並びに家族からの詳細な聞き取り調査が行われました。その結果、学校給食が原因であると判明し、保健所担当職員による給食調理台、包丁その他厨房の多くの個所での拭き取り検体から原因菌が検出され、汚染個所の確定により発生源と感染経路を明らかにすることができました。学校給食によるサルモネラ食中毒で、患者は生徒、先生を含め約70名の多数に及びました。
保健所では食中毒が発生すると職員が現場に急行し、患者や家族を中心に詳細な聞き取り調査を行い、追跡検査により感染経路を確定し、しかるべき行政措置によりそれ以上の患者発生を抑えなければなりません。当研究所では、このような食中毒が発生した際、医療施設からの依頼により最初に臨床検査所が行った細菌について、更なる詳しい検査を行います。そして患者や家族からの多数の検体や保健所の拭き取り検体から菌の検出並びに同定を行い、保健所業務を支援しています。これにより食中毒発生に対して、人権にも配慮した行政措置が速やかに行われ、発生の広がりを防いでいます。
【事例2】 去る平成11年12月上旬、京都府内で酢ガキ、焼きガキ、天ぷら等、カキのフルコースを喫食した他府県の老人ホームの有志10数名の内、早い人で4時間後に、遅い人でも20時間後に下痢、腹痛、発熱などを訴え、それぞれ近くの医療機関で治療を受けたことが分りました。保健所は食事を提供した民宿についての聞き取り調査や、民宿より収集した食材からの食中毒菌の検出を試みる一方、当研究所では患者の症状と共通食品などからまず小型球形ウイルス(SRSV)に汚染されたカキによる食中毒を疑いました。そこで民宿の従業員の便、食膳にあがった養殖カキ、並びに当日喫食した他の食品と民宿の厨房の拭き取り検体などについてSRSV遺伝子検査を実施しました。拭き取り検査では、まな板、冷蔵庫の取手部分、炊飯器の蓋、水道カラン、ひしゃくの手、盛付台、包丁の握り部分、ガスのつまみ、厨房の床、排水場所など相当数の検体でしたが、当研究所職員の休日返上による検査の結果、養殖カキと従業員の便、及び居住地(他府県)の衛生研究所で検査した患者便からもSRSVが検出されたことから、生カキによる食中毒と判明しました。一般に食中毒事例発生に際し、原因食材が判明するとその生産地までさかのぼって汚染源を明らかにします。このようなカキによるSRSV食中毒はこの冬、京都府内で3件起っています。

SRSVの電子顕微鏡写真
矢印で示す小さな円形がSRSVで、その凝集している状況を示しています。
養殖カキによる食中毒では、民宿の従業員は保菌者にとどまっていましたが、老人ホームの高齢の方が発病しています。これには理由があります。同じ物を喫食していたにもかかわらず高齢者にのみ発生したのは、高齢による免疫力の低下にほかなりません。勿論、喫食した食品中の病原体の数も異なっていたと思いますが、体調が思わしくない人や高齢者、小児などでは少量の病原体でも発症する場合があるので、常に体調に注意しておくことが肝要でしょう。
事例1では、発生源は単一と推定し易いのですが、広範囲で発生した場合は、保健所職員の詳細な聞き取り調査が極めて重要で、これらの情報をもとに、採取する検体の範囲や感染経路の推定が行われます。さらに広域での発生では、菌の同定のみならず当研究所で行う遺伝子解析による菌の型別決定が重要になってきます。
保健環境研究所では、保健所との密なる連携を取りつつ高い技術力をもって原因となる食中毒菌の決定を行っています。このように、食中毒発生後の詳細な検査のため、昨年1年間で延29日にわたる休日出勤が行われています。担当課職員(6名)は少数精鋭で、大変苦労していますが、京都府民の健康を守る一念で業務に専念しているのです。
ここで改めて当研究所細菌・ウイルス課の業務概要を示しますと、1)食中毒、その他の感染症等について、発生時対策及び予防のための細菌、ウイルス、リケッチア等に関する試験検査及び調査研究、2)食品、医薬品、工場排水、環境の細菌汚染について、その実態を把握し安全の確保を図るための試験検査及び調査研究、3)現在、府内でどのような感染症が流行しており、また今後どのような流行を起こすのかを知るため、感染症発生動向調査事業(病原体検索)及び感染症流行予測調査を実施しています。大きくは以上の3つになりますが、その内1)、2)に関しては、保健所が直接府民と対応し、当研究所は既述のように事例発生に応じて保健所との情報交換の中で適切、かつ迅速に対応し、発生原因の究明に努め事件の拡大と再発を抑え、府民の安全な生活を保障し、安心して暮らしていただく環境づくりに努めています。
さて、私たちのまわりには各種の微生物が存在しています。7月に入り酷暑の日が続きますと、体力が低下します。そこにわずかな数の病原体が身体に入っても、病原体は増殖し、その病原性を発揮することがあります。健康には十分気をつけて、この夏を元気に過ごしましょう。 (所長 前田知穂)
サルモネラ食中毒
<はじめに>
みなさんはサルモネラをご存じですか?
サルモネラは食中毒を起こす細菌で、近年では「イカ菓子」による食中毒事件で全国的に知られるようになりました。
日本では食中毒事件のうち腸炎ビブリオ(Vibrio
parahaemolyticus)によるものが最も多くを占めていましたが、1995年にはこれを抜きサルモネラによる事件の発生件数が1位になりました。サルモネラ食中毒の発生時期は腸炎ビブリオと同じく気温が高い7~9月に多発します。まさにこれからが最も注意しなければならない季節なのです。
京都府での事件
昨年、京都府の中北部地域で、6月に保育園で数十名の食中毒患者が発生したのに続き、9月までに次々と6件の食中毒事件が発生しました。このうち5例はサルモネラの仲間のサルモネラ エンテリティディス(Salmonella Enteritidis)という菌が原因であったため、これらの事件についての因果関係を調査しました。遺伝子レベルで菌の解析のできるパルスフィールドゲル電気泳動装置で調べたところ(写真1)、京都府で発生した事件と兵庫県、滋賀県、京都市で別々に発生していた事件には同種の遺伝子をもつサルモネラが関係していることが疑われました。

写真1 サルモネラの遺伝子解析の像

写真2 サルモネラのコロニー 電子顕微鏡写真
<サルモネラ>
サルモネラの集落(コロニー)と電子顕微鏡写真です(写真2)。
サルモネラは生化学性状及び血清型に基づいて2500種類以上に分類されます。そのうちヒトに病原性があると言われているのは1360種類程度です。最近よく話題になるのはやはりサルモネラ エンテリティディスです。1995年にわが国で発生した110件のサルモネラ事件のうち84件がこの菌によるものでした。この菌による事件は鶏卵が原因となる場合が多く、大きな事件に発展する可能性があります。この菌は多くの家畜、ペット、野生動物等の腸管内に保菌されています。ですから、たとえば家畜が解体される時に菌が食肉に付着することは当然考えられますし、またCDC(米国疾病管理センター)は卵を産む過程で、1万個に1個はサルモネラに汚染された鶏卵があることを警告しています。また卵殻表面上にサルモネラが付着している場合も多く、殻の割れた卵などは廃棄するようにCDCは指示しています。液卵など商業用の商品では大量の卵を混ぜ合わせるため、一つの卵にサルモネラが混入していると、この液卵を用いた食品が広範囲に汚染されることになるのです。このように食品として大量に消費されるという特徴から、サルモネラによる食中毒は広域的な事件に発展することがあります。また衛生環境が悪いとハエ、ネズミ等により調理後に他の食品へ汚染が拡大する恐れもあります。体内に侵入したサルモネラは6〜48時間、腸管内で増殖します。その後、発熱、腹痛、下痢、血便等の急性胃腸炎の症状を呈し、2〜5日程度この状態が続きます。38℃以上の高熱になる場合が多いのも特徴です。また、長期にわたり病状が回復しなかったり、いったん治っても症状が再発したりすることもあります。治療は一般に補液と食事療法を行いますが、免疫力のない小児や高齢者では、赤痢や、チフスにかかった場合と同様な症状になることもあり、特に注意が必要です。
<予防方法>
最後に予防ですが、熱による殺菌、調理後の速やかな喫食、適切な冷蔵保存、調理場の衛生管理等々です。気温が高いこの季節、食中毒に十分な注意をはらい、健康な生活を送っていただきたいものです。
(細菌・ウイルス課)