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2.筋萎縮症とは
 
 クロアワビ稚貝の「水温上昇期における大量死」の研究を始めるに当たって、先ず困ったことは、1毎年発生する大量死が同じもの(現象)なのか、2原因は何か、3病気なのか、ということでした。

 1毎年発生する大量死が同じ現象であるということは容易に理解できました。大量死は毎年飼育水温が13℃を超える4月下旬〜5月上旬から始まり、稚貝は同じ症状を示して衰弱・死亡します。そして、水温が25℃をこえる7月下旬〜8月上旬には治まるからです.

 2原因についてはいくつか考えられますが、餌が原因ではないかとの疑いが持たれました。しかし、水温が25℃以上に上昇すれば自然に治まることを考えると、何か変な感じを受けます。府栽培漁業センターの努力によって餌や飼育方法に問題はないという結果が得られ、また山口県外海水産試験場の研究でも、餌が大量死の直接の原因ではないとの結果がでています。

 3次に伝染する病気が疑われますが、病変部を顕微鏡で観察しても細菌、カビや寄生虫は見つかりませんでした。あとは通常の顕微鏡観察では観察できないウイルスのような「病原体」の疑いが残りました。

 そこで、大量死の原因を究明するため、人為感染試験を行うこととしました。要するに、伝染する病気なのかどうかをはっきりさせようとしたのです。ここでまた困ったことがでてきました。国内でこれまでに知られているアワビの病気はごくわずかで、参考になりそうな事例が全くありません。どうやって人為感染試験を実施すればよいのか手探りの状態でした。また、人為感染試験に用いる健康な稚貝をどう入手するのかは、重要な問題でした。実は、栽培漁業センターで特別な隔離飼育室を設けてもらい、そこで隔離生産した少数の稚貝は死亡しないことが予め判っており、この稚貝を使用することができました。

 
(1)作戦−1 相手を知る
 人為感染試験は、衰弱、死亡した稚貝の足と内臓の部分(軟体部という)を磨り潰して、殺菌した海水(滅菌海水という)で薄め、0.22μm(ミクロン:1ミクロンは千分の1ミリメーター)以下という非常に細かな粒子だけを通す特殊なフィルター(メンブレンフィルターという)によりろ過し、得られたろ液(磨砕ろ液という)を滅菌海水で100倍ほどに薄め、その中に健康な稚貝を20分間漬けるという方法(浸漬攻撃法という)を採りました。また、衰弱、死亡している最中の稚貝群の飼育排水を、健康な稚貝を収容した飼育水槽に24時間流すという方法も実施しました。

 人為感染試験は見事に成功し、浸漬攻撃法により稚貝を死亡させることができ、衰弱、死亡稚貝の病理組織検査で自然発症貝と全く同一の病変を容易に見つけることができました。さらに、衰弱、死亡している最中の稚貝群の飼育排水によっても感染が成立し、大量死は水を介して伝染する疾病(病気)であることが初めて明らかになりました。つまり、病気の貝は病原体を水中に排出していることを物語っています。また、磨砕ろ液による浸漬攻撃で感染が成立したことから、0.22μm(ミクロン)のメンブレンフィルターを通過できる微細な病原体(濾過性病原体という)による病気であることも判り、相手がウイルスである可能性がでてきました。但し、浸漬攻撃をしてから衰弱貝がでるまでに25日ほどかかり、30日後にやっと死亡が始まりました。また、この時の人為感染試験の試験期間は71日間で、因みに71日後の生残率は26%でした。その後実施してきた各種人為感染試験では衰弱、死亡するまでに約50日ほどかかり、1回の試験に大体80日間が必要でした。

 余談にはなりますが、この病気に関する感染試験を1つ実施する度に80日もの期間を要し、おまけに試験の結果はすべて病理組織検査に依らなければなりません。病理組織検査には病理組織切片を作製しなければならないのですが、この作業工程には通常約2週間〜1ヶ月ほどかかります。長期間の試験期間プラス作業期間のため、1年間でたくさんの項目の感染試験を実施しにくく、2〜3の感染試験を行うのがやっとの状況が続きました。

 ようやく、クロアワビ稚貝の水温上昇期の大量死が病気によるものであり、濾過性病原体(原因体はウイルスと考えられたので、以下はウイルスと記載)による感染症であることを突き止めることができました。ところで病気には通常病名を付けます。この病気にはどういう病名が良いのか困りました。とりあえず足の筋肉部が萎縮するのだから、筋萎縮症という仮称を日本魚病学会に提唱しました。当初あくまでも暫定的な仮称としたのですが、いまではすっかりこの病名が定着して一般的に使われるようになっています。
 
(2)作戦−2 弱点攻略法
 さて、相手はウイルスであることがはっきりしましたので、そのウイルスをやっつけるためにはどうすればよいのかを次に模索し始めました。要するに相手の弱点を探せばよいのです。ここでも、病貝の磨砕濾液を用いた人為感染試験の方法を採用しました。磨砕濾液に各種消毒剤や紫外線あるいは熱を作用させて、作用後の濾液によって健康な稚貝を攻撃するのです。

 弱点はありました。水道水やプールの水の殺菌に使われる塩素剤に弱く、熱にも紫外線にも弱いことが判りました。また、エタノール(エチルアルコール)でも消毒できました。これらの結果は、栽培漁業センターのアワビ生産施設や器具類の消毒あるいは作業する人の手指の消毒に応用できました。特に紫外線に弱いことは、後述する感染の防除に非常に役立つことになります。


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