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深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭に見る人と植生の関わりの歴史

京都精華大学人文学部 小椋 純一


1 はじめに

京都盆地の北部に位置する深泥池での花粉分析については、先に高原氏が触れているが、その試料中に含まれる微粒炭と見られる黒色の物質ついてはまだ検討されていない。その黒色の物質が微粒炭であれば、過去にその付近の植生に火が入った歴史を知ることができ、それによって花粉分析でわかる植生の変遷の背景などがある程度説明できる可能性もある。また、過去に火が入った原因を十分明らかにすることは容易ではないとはいえ、火を介した人間と植生とのかかわりの歴史なども考えることができるものと思われる。
筆者は、泥炭中などに含まれる微粒炭を、過去の植生や、それに対する人為的影響を知る上で重要な手がかりになる可能性があると考え、その基礎となる研究を進めてきた(小椋,1999;2000;2001)。それはまだ決して十分といえる段階ではないが、微粒炭分析の試みとして、かつて深泥池の花粉分析を行った中堀謙二氏から提供を受けた花粉分析用試料(花粉分析用プレパラート、花粉分析用に処理された試料など)に含まれる微粒炭の起源とその量的変化などについて検討した(小椋,2002a)。ここでは、その概要を示す。



2 方法

まず、中堀氏が作成した花粉分析用試料に含まれる黒色物質の大部分が微粒炭であることは、花粉分析用に処理された試料の一部を厚紙上に固定し落射光により顕微鏡で観察(倍率400×)することにより確認した。次に花粉分析用プレパラートを、透過光および落射光で顕微鏡観察(倍率40×)することにより、各プレパラートに微粒炭がどの程度含まれているかを概観し、微粒炭が多く含まれる層を中心に微粒炭の起源を詳しく検討する部分を約20点選んだ。そして、それぞれの層で花粉分析用に処理されていながらプレパラートにされずに残されている試料を金属顕微鏡(垂直落射顕微鏡)で観察できるように濃度調節をして厚紙上に固定した。それを金属顕微鏡により400倍の倍率で観察し、
長さが100μm以上のものについてデジタルカメラで2倍の光学ズームを使用して各層につき順次50枚撮影した。撮影の際には、重なっているものは除きながら、意図的に写真が撮られないものがないように順次撮影した。その後、それぞれの試料ごとにプリントした写真を微粒炭の表面形態のパターン(タイプ)で分類し、どのようなパターンが出現するかを見た。そして、それぞれの試料ごとにプリントした写真の中から、典型的なパターンの比較的きれいに撮影できたものを全体数にほぼ比例した形で12選んで1枚のシートとし、試料ごとの微粒炭の形態を概観できるようにした。また、それとは別に、トゲ状突起や気孔などが見える特徴的な微粒炭については、微粒炭の大きさにかかわらず撮影した。
一方、層ごとに微粒炭がどの程度含まれているかについては、透過光により撮影したプレパラート画像を、パソコンの画像処理ソフトSCION IMAGE(http://www.scioncorp.com/よりダウンロードできるフリーソフト)を用いて微粒炭の面積を測定した。その結果は、パソコンの表計算ソフト(エクセル)を用いてグラフ化した。また、一部の試料については、微粒炭の長さと幅についても測定し、微粒炭の長短軸比を検討した。



3 主な結果

微粒炭についての基礎的研究はまだ十分ではないとはいえ、中堀氏が作成した花粉分析用試料に含まれる黒色物質のほとんど、あるいはすべてが微粒炭であることは、それが花粉分析のための薬品処理後に残ったものであること、また、それを落射光により顕微鏡観察すると、その表面形態がこれまでに現生の植物を燃やしてできた微粒炭のそれとよく似たものが多いことからも考えられるところである。
ここでは、各層ごとの具体的な例を少し示しながら、その微粒炭の起源について検討したい。また、試料ごとに含まれる微粒炭の量的変化について調べ、微粒炭の量的変化と花粉分析結果との関連などについても検討したい。







 1)深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭の起源
 中堀氏が作成した各花粉分析用プレパラートを顕微鏡で観察することにより、それぞれに微粒炭がどの程度含まれているかを概観し、微粒炭が多く含まれる層を中心に微粒炭の起源を詳しく検討する層を21点選んだ。具体的な層の深さは、300、321、351、381、411、435、441、450、471、501、540、630、660、669、690、720、765、795、810、855、910の各層である(数字の単位はcm)。なお、その深さは中堀氏の試料に記された数字であり、元の採取試料は、それらの数字よりもそれぞれ3cm深いところまでを含んだものである。
花粉分析用のプレパラートは、金属顕微鏡では観察しにくいため、それぞれの層で花粉分析用に処理されながらプレパラートにされずに残された試料を金属顕微鏡で観察できるように濃度調節をして厚紙上に固定した。それを上記の方法で記したようなやり方で観察・撮影し、各層ごとのプリント写真を微粒炭の表面形態のパターン(タイプ)で大まかに分類した。そして、
 典型的なパターンの比較的きれいに撮影できたものを全体数にほぼ比例した形で12選んで1枚のシートとし、各層ごとの微粒炭の形態を概観できるようにした。ここでは、そのうち深さ669cmの層における微粒炭の写真を示す(写真−1から12)。
 深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭を層ごとに形態分類すると、大まかに10ほどのタイプに分類をすることができた。たとえば、少し盛り上がった直線的な筋を基調とするタイプ(Type1)、規則的な波形のラインの見えるタイプ(Type2)、表面が不定形でやや溶解したように見えるタイプ(Type3)、あるいは球状で表面に独特の形状の見えるタイプ(Type5)などである。そのうち Type1、Type2、Type3は全層にわたって見ることができた。中でも Type1はどの層においても最も多く見られ、大部分の層で全体の50パーセント前後を占めていた。また、一部の層については Type1〜 3とは別のタイプのものがやや多く見られるところもあった。



◎写真-1 669-Type1
写真-1
◎写真-2 669-Type1
写真-2
◎写真-3 669-Type1
写真-3
◎写真-4 669-Type1
写真-4
◎写真-5 669-Type1
写真-5
◎写真-6 669-Type1
写真-6
◎写真-7 669-Type1
写真-7
◎写真-7 669-Type1
写真-8
◎写真-9 669-Type2
写真-9
◎写真-10 669-Type2
写真-10
◎写真-11 669-Type3
写真-11
◎写真-12 669-Type3
写真-12
深さ669cmの試料に見られる微粒炭(倍率は800倍)




なお、写真−1から12にないタイプの大部分は写真−13から18にその例を示した。Type5は球状のものであるため、写真ではその上部のみが写っていて長さが短く見えている。
一方、トゲ状突起や気孔などの特徴的な形態が見える微粒炭はあまり多くは見つからないが、それでもそれぞれの層における試料の中からある程度見つけることができた。ここでは、トゲ状突起の見える微粒炭(写真−19〜21)、気孔の見える微粒炭(写真−22〜24)、その他特徴的形態の見える微粒炭(写真−25〜27)の例を示す。

(a)現生植物の微粒炭との比較

微粒炭についての基礎的研究はまだ十分でないとはいえ、深泥池の花粉分析試料からよく出てくる微粒炭の中には、これまでに筆者が観察した現生植物の微粒炭とよく似た形態のものがある。たとえば、Type1はヨシやススキなどのイネ科草本などの微粒炭に時々見られるタイプのものである(写真−28)。また、Type2としたものの中には、ススキの微粒炭に含まれるタイプと似たものが多い(写真−29)。あるいは、Type3はイタドリやヨモギの微粒炭に含まれるタイプと似ており、また樹皮の微粒炭とも似ているところがある(写真−30)。




◎写真-13 深泥池の微粒炭(Type4)
写真-13
◎写真-14 深泥池の微粒炭(Type5)
写真-14
◎写真-15 深泥池の微粒炭(Type6)
写真-15
◎写真-16 深泥池の微粒炭(Type7)
写真-16
◎写真-17 深泥池の微粒炭(Type8)
写真-17
◎写真-18 深泥池の微粒炭(Type10)
写真-18
◎写真-19 トゲ状突起の見える微粒炭(その1)
写真-19
◎写真-20 トゲ状突起の見える微粒炭(その2)
写真-20
◎写真-21 トゲ状突起の見える微粒炭(その3)
写真-21
◎写真-22 気孔の見える微粒炭(その1)
写真-22
◎写真-23 気孔の見える微粒炭(その2)
写真-23
◎写真-24 気孔の見える微粒炭(その3)
写真-24
(倍率は800倍)


 一方、Type5などのようにこれまでまだ観察したことのないタイプのものもあるが、Type1〜3などある程度比較することのできる微粒炭で見る限り、深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭は草本起源のものが多いように思われる。そのことは、出現数は多くはないものの、トゲ状突起などの特徴的形態をもつ微粒炭(写真−19〜20)のほとんどが草本の微粒炭と見られることからも考えられることである。たとえば、深泥池の試料に含まれるトゲ状突起のある微粒炭は、ヨシやススキなどのそれによく似ている(写真−31〜32)。あるいは、深泥池の試料に含まれる気孔を含む微粒炭は、その気孔の形や配列がヨシのそれ(写真−33)に似ているものが少なくない。また、写真−25のタイプの微粒炭も、ヨシに見られる微粒炭の一タイプである(写真−34)。あるいは、写真−26はガマの微粒炭に見られるものとよく似ている(写真−35)。あるいは、写真−27の微粒炭は、ヨモギのそれによく似ている(写真−36)。
 以上のことなどから、深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭の起源植物としては、ヨシ、ススキ、ガマ、ヨモギなどを具体的に可能性のあるものとしてあげることができる。

(b)微粒炭の長短軸比
 微粒炭の長軸と短軸の比を統計的に見ることによって、微粒炭の起源をある程度考えることができる(Umbanhowar and McGrath,1998;小椋,1999;2000)。ここでは、深さ441cmと669cmの層の微粒炭について長短軸比の平均値を求めてみたが、その値は深さ441cmの層で3.4、669cmの層で3.8であった。木本植物の中にも、スギ樹皮の微粒炭のようにその値が大きいものもあるが、そうした特別な樹木起源と思われる表面形態をもつ微粒炭も見られないことから、これらの数字も深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭の大部分が草本起源のものである可能性が大きいことを示している。



◎写真-25 特徴的形態の微粒炭(その1)
写真-25
◎写真-26 特徴的形態の微粒炭(その2)
写真-26
◎写真-27 特徴的形態の微粒炭(その3)
写真-27
◎写真-28 現生植物の微粒炭(ヨシ<茎>)
写真-28
◎写真-29 現生植物の微粒炭(ススキ<葉>)
写真-29
◎写真-30 現生植物の微粒炭(イタドリ)
写真-30
◎写真-31 現生植物の微粒炭(ヨシ<茎>)
写真-31
◎写真-32 現生植物の微粒炭(ヨシ<茎>)
写真-32
◎写真-33 現生植物の微粒炭(ヨシ<茎>)
写真-33
◎写真-34 現生植物の微粒炭(ヨシ<茎>)
写真-34
◎写真-35 現生植物の微粒炭(ガマ)
写真-35
◎写真-36 現生植物の微粒炭(ヨモギ)
写真-36
(倍率は800倍)



(c)微粒炭のタイプ別出現比率の推移
 ここで詳しく観察した各層(深さ300〜910cm)における微粒炭のタイプ別出現比率の推移をグラフにすると、図−1のようになる。先にも少し述べたように、 Type 1、Type 2、Type 3 は全層にわたって見ることができ、Type 1 はすべての層においても最も多く見られる。それは大部分の層で全体の50パーセント前後を占め、多いところでは約3分の2、また少ないところでも全体の約3分の1を占める。
グラフを全体的に見ると、微粒炭のタイプ別出現比率はある程度の変動はあるものの、全層にわたって概して変動はさほど大きくはないようにも見える。ただ、深さ381cm、深さ501cm、深さ795cmの層など、いくつかの層については他とかなり異なった面も見られる。そのうち、深さ795cmの部分では、球状のものが多いType 5 がかなり多いことや珍しいType 7 やType 8 が出現することで、他の層とはかなり大きく異なっている。その層は、約1万年余り前と考えられるもので、花粉分析でも、その付近できわめて大きな植生の変化が認められるところである。Type 5 や Type 7、Type 8 は特徴的な形態をしているが、その起源植物についてはまだ明らかではない。
なお、層の年代がおおよそわかるところとしては、アカホヤ火山灰が出てくる360cm〜363cmの地点があり、そこは暦年代で約7000年余り前と考えられる。また、マツ属やトウヒ属など針葉樹の多い植生からコナラ亜属の多い植生へと急激に変化する点は、日本各地での花粉分析結果から、暦年代で約12000年ほど前と考えられる。

2)微粒炭の量的変化
 層ごとに微粒炭がおおよそどの程度含まれているかについては、深さ30cmから975cmにおける花粉分析用プレパラートの中から、一部を除きほぼ30cm間隔で利用可能なものを透過光により顕微鏡撮影し、その画像をパソコンの画像処理ソフトSCION IMAGEを用いて微粒炭の面積を測定した。そのデータを表計算ソフトのエクセルを用いてグラフ化したものが図−2である。なお、花粉分析用プレパラートは、作成後20年以上を経過して変色してきているところがあるため、かなり低い倍率で広範囲を撮影するとパソコンの画像処理ソフトでうまく処理できなかった。そのため、ここでは微粒炭の濃度がそれぞれのプレパラートでの平均的なところを選び、40倍の倍率で撮影してその画像を処理した。
図−2では、大まかな傾向しか捉えることはできないが、それでも660〜750cm付近、また480〜540cm付近にはかなり多くの微粒炭が連続的に出現する層があることが分かる。そのうち、660〜750cm付近の層では微粒炭が特に多く、最も多いところでは、それが少ない層の数十倍もある。
一方、微粒炭の量が比較的少ない層としては、深さ30cmから450cm、また深さ780cmから915cmの層がある。そのうち、30〜90cm、150〜240cm、840〜855cmのあたりでは特に微粒炭の量が少ない。また、570cm〜630cmの層も、微粒炭が多く出てくる層の間にあって比較的少ないところである。




◎図−1 微粒炭のタイプ別出現比率の推移
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 なお、ここで用いた花粉分析試料には、定量的な分析ができるようにフウ属(Liquidamber)の花粉も入れられているが、今では花粉を見ることができなくなっている。また、そのプレパラートを作成した中堀氏によると、微粒炭の多い層では花粉の観察をしやすくするために密度を薄めてプレパラートを作成しているという。そのため、微粒炭の多い層では、実際はここで示された数字以上に多くの微粒炭があるということになる。

(a)微粒炭の量的変化と花粉分析結果との関連
 ここでは微粒炭の量的変化を大まかにしか見ていないが、それでもその変化と花粉分析結果の関連が明確に見られる部分がいくつかある。たとえば、660〜750cm付近と480〜540cm付近では微粒炭が特に多く出現するが、花粉分析ではその付近でハンノキ属(Alnus)やトネリコ属(Fraxinus)が大幅に減少する一方で、カヤツリグサ科(Cyperaceae)が急増する。また、イネ科(Gramineae)も660〜750cm付近でかなり増え、また480〜540cm付近でも増加傾向が見られる。一方、480〜540cm付近では、トチノキ属(Aesculs)、胞子(Spore)、マツ属(Pinus)が急増する(図−3)。これらは、微粒炭の量的変化となんらかの関係がある可能性が考えられる。たとえば、ハンノキ属などの急減やカヤツリグサ科の急増などは、上記の微粒炭の起源植物についての検討も踏まえると、深泥池の水辺付近の植生が火や何らかの人為的影響などを受けて変化した可能性があることを示しているように思われる。また、胞子やマツ属などの増加は、火などの人為的影響を大きく受けた植生は水辺の植生だけではない可能性も示しているように思われる。
 また、微粒炭増大期におけるトチノキ属の増加は、人間による食糧確保と関係があった可能性も考えられる。ちょうどその頃からヒノキ科タイプ(Cupressaceae type;このタイプにはヒノキ科の他にイヌガヤ属やカヤ属が含まれる)やエノキ属タイプ(Celtis type)の樹木の花粉が急増するが、もしそれらの具体的な樹種がカヤやムクノキであれば、トチノキ属の場合と同様な事も考えられる。ちなみに、深泥池から数キロほどしか離れていない縄文時代の遺跡である京都大学北部構内の遺跡でもトチノキが多く出土しているが、そこではその他にカヤやムクノキも比較的多く出土している(島地 et al.,1987)。なお、微粒炭増大期は縄文早期頃と思われるが、その時期の遺跡で深泥池から比較的近いものとしては上賀茂遺跡(縄文早期・中期)や修学院離宮遺跡(縄文早期)などがある(千葉 et al.,1991)。
その他にも、5葉のマツ属(Pinus)の他にトウヒ属(Picea)やツガ属(Tsuga)などの針葉樹の多い植生から、それらがほとんどなくなりコナラ亜属(Lepidobalanus)の多い植生へと急激に変化する800cmの深さのあたりは、それまで少なかった微粒炭が増加し始める時期であり、それらの樹木の急激な増減も火となんらかの関係がある可能性も考えられる。
一方、微粒炭の量が全般に少ない450cmよりも浅いところでは、450cmよりも少し深いところからのトチノキ属(Aesculus)や胞子(Spore)の急減やハンノキ属(Alnus)の増加などの大きな変化が見られるところはあるが、全般に微粒炭の量が少ないといこともあり、微粒炭の量的変化と花粉分析結果との間には明瞭な関連は見つけにくい。




図−2 各層における微粒炭の量
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図−3 深泥池の花粉分析結果の一部(中堀,1981より〈一部改変〉)
図−3 クリックすると拡大 クリックすると拡大




4.おわりに

微粒炭に関する基礎研究はまだ決して十分といえる段階ではなく、また今回の研究では微粒炭のタイプ分けやその量的変化の把握については厳密に行えない部分があった。しかし、以上のように深泥池の花粉分析試料をもとにして、そこに含まれる微粒炭の起源とその量的変化などについて検討してみた結果、深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒炭の大部分は草本起源のものである可能性が高いこと、深さ660〜750cm付近と480〜540cm付近では微粒炭が特に多く出現すること、またそれと花粉分析による植生の変化との相関があると考えられることなどが明らかになった。
 大量の微粒炭出現の背景としては、試料採取地点(ボーリング地点)から比較的近いところで長期にわたり連続的に植生に火が入っていた可能性が高い。その火の原因を十分明らかにすることは難しいとはいえ、日
本列島の気候的条件を考えれば、その原因は自然発火というよりは人為的なものである可能性が高いように思われる。日本では、花粉分析において、一般にこれまで微粒炭は重視されてこなかったが、微粒炭の量的変化も調べた一部の花粉分析結果では、深泥池とほぼ同様かそれよりも古い時代から微粒炭が急激に増加する例が多く見られる(e.g. Tsukada,1988)。また、筆者の阿蘇外輪山での微粒炭分析の試みでも、約1万年前から多量の微粒炭が出現するようになる(小椋,2002b)。こうした例からも、深泥池付近においても縄文時代早期から、火による人の植生への大きな影響があったとしても全く不思議ではない。
だ、今回の結果では、人間活動がより盛んになったと考えられる比較的新しい時代で微粒炭の量が少なくなるなど、その理由がよくわからないこともある。それらの疑問に対して明確な結論を出すためには、さらに多くの検証が必要であろう。






◎参考文献
千葉豊,矢野健一(1991):京都盆地縄文時代遺跡地名表,
 先史時代の北白川,80−82,京都大学文学部博物館.
小椋純一(1999):微粒炭の形態と母材植生との関係(1),
 京都精華大学紀要第17号,53-69.
小椋純一(2000):微粒炭の形態と母材植生との関係(2),
 京都精華大学紀要第19号,45-64.
小椋純一(2001):微粒炭の形態と母材植生との関係(3),
 京都精華大学紀要第20号,31-50.

小椋純一(2002a):深泥池の花粉分析試料に含まれる微粒
 炭に関する研究,京都精華大学紀要第22号,267-288.
小椋純一(2002b):微粒炭分析から見た阿蘇外輪山の草原
 の起源,第49回日本生態学会大会講演要旨集,297.
島地謙,林昭三,伊東隆夫(1987):木材,北白河追分遺跡
 の発掘調査,京都大学構内遺跡調査年報 昭和59年度,
 32−38,京都大学埋蔵文化財調査センター.
Tsukada M. (1988):Vegetation History, 459-517, Kluwer
 AcademicPublishers.
Umbanhowar, C.E., Jr and McGrath, M.J. (1998):
 Experimental production and analysis of microscopic
 charcoal from wood, leaves and grasses, The Holocene,
 8, 341-346.


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