京都職人仕事百科 第33回
表具用打刷毛製作 談・藤井 源次郎(89歳)
世界でたった一人の職人

ふつうの刷毛より毛足が長うて毛量も多い、どっしりと重たいでしょ。これが「打刷毛」。書画の表具をするときの道具で、国宝・重要文化財などの修理にも使われます。
書画を表具する際には、本紙に裏打ちをします。 そのとき裏打紙を糊で貼り合わせるだけやのうて、裏打ちした上からトントントントンとていねいに叩く、そのための刷毛です。トントンと打つことで、本紙と裏打紙の繊維が交錯して一枚の紙になり、紙の強度も増す。このように「打つ」ための刷毛として「打刷毛」と呼ばれております。
打刷毛の毛は植物です。「津久毛」といわれるシュロの仲間で、インドネシア産。初めは太さも質もまちまちで、チリやホコリもすごいです。これを十分に揉みほぐして洗い、ホコリを出し切って、指先の感覚を頼りに毛の選別を徹底的に行う。刷毛一本分で半日くらいかかる根気のいる作業ですが、ここが大事。これによって打刷毛の命である柔軟性と適度の堅さ、耐久性が決まります。
海外の美術館が評価した

文化財修理・修復の多くは京都で行われてますから、その道具を作る職人も、京都には多ございます。
とはいえ現在、国宝・重要文化財修理に用いられる打刷毛を製作しているのは私、藤井源次郎だけでございます。
打刷毛は国内はもちろん、東洋美術を多く所蔵するアメリカのボストン美術館やメトロポリタン美術館、大英博物館、オランダの美術館などでも必須の道具とされております。京都では見慣れた職人道具やったものが、今では欧米の美術館で評価をいただいています。世界各国から信頼をいただくのですから、最高の品質の道具づくりに努めていかねばと思います。
- なぜこの仕事に?
私は長男だが、父は「何屋になってもかまわん」と。ただ戦争で8年中断し、復員してみると祖父母も父も亡く、母が家業を守っていた。 - 師匠は?
戦後は、仕事場に残された祖父と父の道具と「お父さんはこうしていた」という母の記憶が頼りだった。 - この道70年余りの思いは?
頭で忘れていることでも手が覚えている。手仕事いうのは、たいしたもんやと思いますし、それだけにいい加減なことはできません。

- ふじい・げんじろう
- 大正9年京都市生まれ。江戸後期創業の藤井源松華堂4代目。市立第一商業学校卒業後、祖父と父のもとで修業。8年の出征をへて昭和23年シベリアより復員し家業を継承。平成10年国選定保存技術保持者(表具用打刷毛製作)認定。技術は子息が継承している。
