人権口コミ講座(46)
いのちの尊厳
財団法人世界人権問題研究センター理事長 京都大学名誉教授
上田 正昭
こころの教育がさかんに叫ばれていますが、ものが豊かになることが悪いわけではありません。「衣食足りて礼節を知る」(『管子』)と古くから言われてきましたが、「衣食足りて」礼節を知らなくなってきたことが問題です。
2004年のノーベル平和賞の受賞者であるケニアのワンガリ・マータイさんは、「日本には資源を効果的に利用していく文化があると思います」と前置きして、「もったいない」という日本語は「すばらしい価値観」を物語ると感動されました。
「もったいない」というやまとことばは、『宇治拾遺物語』や『源平盛衰記』あるいは『太平記』などにもみることができます。「もったいない」というすばらしい日本語と並んで大切な言葉は、「おかげさま」です。「おかげ」の信仰は古い時代からありました。
人間は一人で生きているわけではありません。親子・夫婦・友人・知人、多くの人々との交わりの中で生活を営んでいます。そしてはかり知ることのできない自然の恵みを受けて生きています。だから働ける者がその能力を発揮しなかったり、まだ使えるものを捨てたりすることを「もったいない」と表現してきたのでしょう。そしてまたほかの人々や自然への感謝を「おかげさま」と言いならわしてきたと言えましょう。
1994年12月の国連第49回総会は、「人権教育のための国連10年」を設定して、「あらゆる発達段階の人々、あらゆる社会階層の人々が、ほかの人々の尊厳について学ぶ」必要性を強調しました。生きとし生けるものには、すべていのちがあります。そのいのちの尊厳を自覚し、人間の幸せと自然との共生を目指す行動とそのみのりが人権文化です。「もったいない」、「おかげさまです」と、自然と共に人間のいのちを輝かすことが人権のみちにつながります。
