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京都職人仕事百科 第59回

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紙漉師(かみすきし)
談・田中 正晃(78歳)

楮(こうぞ)を育て、紙を漉(す)く



大江の楮畑

 昔から「寒漉(かんす)き」いうてね、一月二月は紙漉き繁忙期。一年で一番質のいい紙が漉けるんです。「寒の水は腐らない」といわれる通り、紙漉きは水が命ですから。

 京都で手漉き和紙いうたらここ大江山のふもとでも、紙漉きは江戸時代からの地場産業。とくに由良川(ゆらがわ)流域で栽培される楮(こうぞ)は、紙の原料として良質と定評があったのです。

 紙漉きが盛んだったのは明治後半から昭和初期までで、当時は農家でも大半が製紙を兼業。でも全国の和紙産地共通ですが、機械化や生活の変化につれ、手間ひまかけて一枚ずつ手漉きするような時代じゃなくなってしもうた。うちが丹後和紙を漉く最後の一軒となったのは、もう三十年も前のことです。

 最近は手漉き和紙のよさが見直されるようになりました。とはいえ、いまや楮の国内生産は激減。そこで思い切って、地元に楮畑を復活させました。楮の栽培から刈り取り、蒸し、黒皮剥(くろかわは)ぎ…和紙づくりを一貫して行っています。

和紙は日本の風景

 丹後和紙の特質は、大江で育つきめ細かな楮を使うことで柔らかく優しい風合いの紙となり、書道ではかな文字向きです。同じ手漉きでも、温暖な地方で育った楮を使った和紙は繊維が長い分硬くなる。このように楮が育つ環境によって紙は味わいを異(こと)にし、その土地の水と楮で作った和紙には、その土地ならではの味わい深さがにじみでています。だからこそ楮は何としても地元産を使いたいのです。

 紙漉きの楮を準備する作業は、一年中終わることのない、気が遠くなるような作業です。しかし和紙だけは、機械漉きでは手漉きの良さは伝わりません。機械と手が、ここまでハッキリと違うものは和紙の他にないのではと思うくらいです。それが私らには心強い。先代の技術を受け継いで、とにかく良いものを残していこうと、その一心で続けております。

まさに家内工業


たなか・まさあき

たなか・まさあき
昭和8年福知山市大江町生まれ。江戸末期から続く紙屋4代目に生まれ、17歳で家業を継承。現在、丹後和紙を守る唯一の製紙工業所。5代目敏弘氏とともに家族4人で楮の栽培から手漉き、製品づくりまでを一貫して行う。

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