ホーム > きょうと府民だより > 2013年8月号 > 京都職人仕事百科

ここから本文です。

京都職人仕事百科 第76回


お抱え絵師
談・村林 由貴(26歳)

未来に伝える襖絵を描く

 大学・大学院では、アクリル絵の具やペンキを使った巨大な作品を描いていて、日本画も水墨画も未経験でした。

 お抱え絵師の公募条件は厳しくて、お寺に3年間住み込んで、お寺の仕事や禅修行をしながら、方丈の襖絵64面を描き上げる。しかも、若くて無名に限る。後から知りましたが、私が日本画の技術を持っていないことにも、新たな可能性を感じてもらえたそうです。

 お寺で暮らし始めて間もなく2年半。仏教にもお寺にも縁がなかった私には、まるで異空間。禅の修行のつらさに涙を流し、禅を描くという大役に悩み迷い、それでも禅の老師、お寺の方々、襖絵プロジェクトの先生方に励まされ支えられ、ずいぶん変化してきたと感じています。全てが未経験であった私を選び、信じてこの大役を任せてくださっているお寺の方やプロジェクトの皆さんに、心から感謝しています。

平成のお抱え絵師として

アトリエで「冬」を制作中の村林さん

 この襖絵プロジェクトは、「江戸時代の禅寺が絵師を育てたように、現代にも新たな人材の育成を、過去の文化遺産に頼ってばかりでは未来がなくなる」という退蔵院の発案から生まれたものです。禅寺で芸術の創造と人づくりを、という公募があり、それに応募したのです。過去の文化遺産と同様に300~400年先まで残るようにと和紙、墨、筆、表具、建具にも最高の素材と職人技が集められています。

 最初は戸惑いも多かったのですが、塔頭(たっちゅう)書院の襖絵25面を描き上げた今は、禅のことも水墨の描き方も、発見する楽しみに変わっています。とにかく描けるということがうれしい。道具を作ってくださる職人さんをはじめ、お寺の方々やいろんな人とのつながりがあって今の自分があるのですから、その全てを作品にしてお寺に捧げたいと思います。

【写真】アトリエで「冬」を制作中の村林さん。手前に見える襖絵は「春」(写真:吉田亮人)

  • なぜこの道に?
    少女マンガに始まり、中学からアクリル絵の具で描きだして、大学・大学院では1日中描いてばかりの日々。卒業後も描き続けたくて絵師に応募しました。
  • お寺での一日は?
    朝は6時までに起床。9時までお庭掃除をしてお寺で朝食。それから就寝までが制作時間。昼食と夕食は自炊。深夜までずうっと絵のことを考えスケッチしたりしています。
  • 学んだことは?
    広い境内には自然が生きています。毎朝の掃除で自然の日々の変化に接するのは私にとって初めての経験。驚きと発見ばかりです。
  • 俗世と離れた生活ですか?
    初めは世の動きに遅れないよう無理をして情報を得ていたのですが、このごろはそんなこと不要かなと。それよりも今、目の前にあるものを大切にしたいです。

村林 由貴

むらばやし・ゆき
昭和61年兵庫県生まれ。京都造形芸術大学大学院修了。平成23年妙心寺退蔵院の襖絵プロジェクトで「現代のお抱え絵師」に選ばれ、塔頭に住み込み2年余り。禅修行や作務もこなしながら水墨による襖絵制作に没頭中。

次のページへ