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人権口コミ座講 116

働き方改革と労働時間の法政策

公益財団法人 世界人権問題研究センター研究第六部嘱託研究員 京都女子大学法学部 准教授 植村 新

 2015年12月、大手広告代理店で入社1年目の女性社員(当時24歳)が長時間労働により過労自殺した事件は、社会に大きな衝撃を与えました。同社では、1991年8月にも入社2年目の男性社員(当時24歳)が長時間労働の末に自殺しています。1991年の事件について、最高裁は2000年の判決で、企業には「業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷などが過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務」があり、同社はこの義務(安全配慮義務)に違反したと判断していました。2015年の事件が衝撃的だったのは、一つには、最高裁判決から15年以上たっても、日本有数の大企業が、長時間労働による過労自殺を防止する体制を十分に整備できていなかったからでしょう。そして、長時間労働問題はこの企業に特有のものではなく、わが国全体にまん延している問題と見るべきです。
 2017年3月28日に策定された「働き方改革実行計画」には、三六協定の締結と割増賃金の支払いによっても超過できない労働時間の絶対的な上限規制が盛り込まれました。現行法では、労働時間に絶対的な上限が原則存在しない(三六協定青天井)ことを考えると、実行計画案は画期的と言えるでしょう。もっとも、この上限時間(月45時間・年360時間)には例外が設けられています。すなわち、一定の場合には、労使協定の締結により時間外労働時間を年720時間まで延長でき、この範囲内で2〜6カ月平均80時間以内または単月100時間未満の時間外労働が可能とされているのです。厚生労働省の通達「脳・心臓疾患の認定基準」(2001年12月)では、脳・心臓疾患の発症前1カ月間に100時間、2〜6カ月平均で月80時間を超える時間外労働は脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価されています(過労死ライン)。結局、実行計画の上限規制は過労死ラインに匹敵する長時間労働を容認していることになり、この点で実行計画は実質的な規制になっていないとの批判もなされています。
 長時間労働は、労働者の生命・健康や労働者の家族の福祉を傷つけ、社会の持続可能性に深刻なダメージを与えます。長時間労働を肯定的に評価する企業文化が、「男性は会社・女性は家庭」という役割分担を強化している点も見逃せません。長時間労働を抑制して人間らしい働き方を実現できるのか、われわれ一人ひとりの意識が問われていると言えるでしょう。

◎平成30年3月発行の「人権口コミ講座19」の内容を加筆・修正し、再掲載しています。

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