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植物園よもやま話(2021年)

いきもの広場@植物園(令和3年10月3日)

緊急事態宣言が10月1日金曜日に解除されて初めての週末、植物園は台風一過の晴天にも恵まれ、久しぶりに家族連れはじめ多くの来園者を迎えることができました。

 

10月2日土曜日は四園館連携「きょうと☆いのちかがやく博物館」の秋のイベント「いきもの広場」の開催日でした。直前まで開催が危ぶまれましたが、当日、京都市動物園、京都水族館、京都市青少年科学センターが会場の植物園に一堂に集い、また嵯峨美術大学と京都府立大学新自然史科学創生センターもお手伝いいただいて、事前に申込んでいた小学生の親子11組25名を迎えて無事開催することができました。以下に内容を紹介します。

 

〔プログラム〕

1「在来種を探せ! 植物生態園検定」(植物園)

20分間の制限時間のあいだに6ヶ所のポイントをめぐり、見つけた在来種のシールをマップに貼り、あわせて問題に答えて全問正解をめざすクイズラリー。

生態園

日本の在来の野生植物を植栽展示している植物園の秘境、植物生態園にグループごとにわけ入り、秋の七草のうちのフジバカマ、オミナエシ、ハギ(ミヤギノハギ)ススキの4種、いきもの関連のスズムシバナ、タヌキマメを探し出しクイズに答えました。

正解率に応じ、初級または中級の認定証が植物園から授与され、副賞の缶バッチ作り体験の権利を獲得できました。参加者からは「秋の七草は知っていたが今まで実物を見たことはなかった」と好評でした。

ミニブック生態園ページ

ミニブック(当日配布:解説やクイズなどがいっぱい!嵯峨美術大学池田さんデザイン)では紙面をさき「秋の七草」に代表される日本の野生の在来種が減っていること、人の手で健全に保たれるべき里山環境の減少、園芸目的の盗掘、鹿の食害によって、絶滅の危機に瀕していることを解説しました。植物園が絶滅危惧種を含む在来種、生物多様性の観点から重要な古典園芸植物を守るという重要な役割を果たしていることについて紹介しました。日本の植物を守る

 

2 動物たちに大人気⁈(動物園&京都府立大学)

鳥について豆本

京都市動物園の「生き物・学び・研究センター」長の田中さん、京都府立大学「新自然史学創生センター」の福井さんコラボによるガイドで、針葉樹林やつばき園を散策しながら、動物のエサになる樹種、また園内でみられる鳥について解説してもらいました。鳥の案内

 

さらに植物園と動物園は普段から協力関係にあり、植物園は剪定枝を動物園に、動物園はゾウの糞を機械で処理して肥料に加工したものを植物園に持ち込んでリサイクルしていることをこの機会に知ってもらおうと、今回、特別につばき園のアラカシの大木2本に対して動物の等身大パネルを設置しました。木のぼり上手なクマ、長い鼻を使って上手に木の枝や葉を食べるゾウ、どんぐりが大好きなリスの他に、防鹿柵の向こうから様子をうかがうシカのパネルも。何でも食べてしまうシカによって今、山野の植生は壊滅的な被害を受けており、植物園関係者はもとより植物の専門家の大変な心配事である現状についてもお話がありました。

動物の餌

 

漢字で「馬酔木」と書くアセビの前では、植物園職員から有毒成分のため動物のエサにはできない樹種について解説がありました。

動物の餌

最後に、植物園が温室で育てている実物のアリアカシアの鉢の前で、キリンが長い舌で上手に棘をよけてアカシアの葉を食べることについても学びました。

アリアカシア

3 アサギマダラと昆虫の食草(青少年科学センター)

フジバカマ

青少年科学センターは、園内で開花中の原種のフジバカマの前で、矢延さんからアサギマダラのお話がありました。薄青い浅葱色にまだら模様が入った羽のこと、旅をする蝶アサギマダラについてまだまだよくわからない点が多いこと、羽の白い部分には鱗粉がなく、旅の途中で捕まりペンでマーキングされた個体について情報を共有するネットサイトの存在、雄にとり大事なフェロモンの元になるアルカロイド成分がフジバカマの仲間にあるため、主に雄が渡りの途中で立ち寄ること、雄と雌の見分け方など、標本も使って詳しく説明してもらいました。あいにくその時その場所ではアサギマダラの姿はみられませんでしたが、植物生態園などには多数のアサギマダラが立ち寄りカメラマンの人気を集めている様子がみられました。

アサギマダラ

最後に、特別に各自フジバカマの花を採集し、ミニブックに貼り付けて簡単な植物標本作りを体験しました。

 

4 缶バッチ作り

クイズラリーの正答率に応じて、2個または3個ずつオリジナル缶バッチ作りを体験しました。嵯峨美術大学からの応援の学生や先生方の指導により、子ども達が切り抜いたアサギマダラやクマ、どんぐりや秋の七草のシートをマシンにセットしてレバーを押し下げ、一つひとつ丁寧に缶バッチに仕上げました。帽子や胸に3個ずつ缶バッチをつけた満足そうな参加者の姿がみられました。

缶バッジ

5 チンアナゴ検定(水族館)

水族館から特別に設置されたモニターで三々五々「激ムズ!チンアナゴ検定」に挑戦する姿がみられました。用紙に記入したうえで答え合わせをして、最後に「チンアナゴマイスター」のスタンプを押してミッションコンプリート!

チンアナゴ

6 生物多様性のために私たちにできること(京都市環境管理課)

ミニブックでは1ページをさき、生物多様性のために私たちが身近なところから始められる取組みを紹介しました。ベランダや庭先に在来種を植え、昆虫や鳥の訪れを促して都市の中に連続する多様性のネットワークを創りだすことも、大きな力になります。

生物多様性のために出来ること

 

〔おわりに〕

以上、今回のプログラムの概要を紹介しました。当初の四園館に加え、京都市環境管理課、府立大学や嵯峨美術大学も応援に駆けつけていただき、連携の厚みが増してきました。お互いに信頼関係もでき刺激にもなり、いよいよ連携の効果が実感できる段階に入ったように思います。今後の発展が楽しみです。

さて今回のプログラムについて各園館さんには準備段階から大変お世話になりました。

常緑ヤマボウシ‘月光’が満開です(令和3年6月17日)

ここ最近、町中などでもよく目にするようになってきた常緑性ヤマボウシですが、これらは日本に自生するヤマボウシと同じ属で中国からヒマラヤ、ネパール辺りが原産の野生種が由来となっています。

げっこう

植物園北山門の外で、樹冠いっぱいに花を付け、ひときわ目立っているこちらは、常緑ヤマボウシCornus hongkongensis の栽培品種で‘月光’と名付けられています。多花性で極めて花つきが良く非常に見応えがあります。

げっこう2

こちらの植栽帯には同じくC.capitataの栽培品種‘陽光’と、C.capitataC.hongkongensisの交配由来である‘新月’の3品種を栽培展示しています。

あんぐすたーた

中国由来の常緑性ヤマボウシの原種には、先のC. hongkongensis C. capitata(ヒマラヤヤマボウシ)のほかに、もう一種C. angustata がありますが、こちらは園内大芝生地東に植栽しています。

あんぐすたーた2

C. angustataC. capitata subsp. angustata として、ヒマラヤヤマボウシの変種として扱う考え方もあるようです。

植物園のこのエリアには、3種の常緑性ヤマボウシのほか、斑入り品種や咲き分け品種など様々な仲間も栽培展示していますので、ぜひ観察してみてください。

ショウジョウトラノオ’デービッド・オーヤン’(令和3年6月3日)

これまで京都府立植物園は写真の植物を八重咲きショウジョウトラノオとして表記してきました。今回ラベル表記を変更しましたので、それについて書いてみます。

ショウジョウトラノオWarszewiczia coccineaはワイルドポインセチアやプライド・オブ・トリニダード・トバゴ、チャコニアなどと呼ばれ、赤い萼が美しいアカネ科の熱帯花木で、中米から南米北部にかけて分布しています。今回ご紹介するのはその八重咲き品種でダブル・チャコニアとも呼ばれ、萼が密につく豪華な花序となります。熱帯植物を栽培する人々にとっては憧れの品種ではないでしょうか。

この植物の美しさは図鑑等でよく知っていましたが、栽培はとても難しいと聞かされていたので、そう易々とは手が出ませんでした。熱川バナナワニ園ではすでに開花しているとの情報を得て、無理を承知で分譲を願い出たのです。念願叶って2016年4月20日に1本の挿し木苗をいただきました。
5月に培養土で植え替えて、肥培したところ、2018年7月に初開花し、翌年にはジャングルに定植しました。実際に栽培したところ、同じアカネ科のクバノラ と同様に、鉢植えではよく出来るのですが、地植えにするとあまり良い生育をしないようです。

 

ヒメショウジョウトラノオ

導入時、熱川バナナワニ園では八重咲きショウジョウトラノオWarszewiczia coccinea ‘Double flowered Form’の名前で植栽展示しており、当園も同じ名前で展示を行ってきました。現在、熱川バナナワニ園ではWarszewiczia coccinea ‘David Auyong’と表示しており、当園も今回ラベルを書き替えた次第です。

本品種は1957年にトリニダードトバゴの渓谷でデービッド・オーヤン氏らによって発見され、3株が挿し木によって増殖されました。そのうち1株が1961年にイギリスのキュー植物園に送られショウジョウトラノオの八重咲き品種であることが確認されました。そして発見者の功績をたたえ‘デービッド・オーヤン’と名付けられたのです。残念ながらその後自生株は道路拡張のため刈り取られてしまいました。

一重咲きのショウジョウトラノオは1962年にトリニダード・トバゴの国花に制定されましたが、当時はまだこのトリニダードトバゴ固有のショウジョウトラノオ‘デービッド・オーヤン’は国内では知られていなかったのです。そのため現在でもショウジョウトラノオはトリニダード・トバゴの25セント硬貨のデザインに使われています。

近年トリニダード・トバゴ国内で近隣諸国にもある一重咲きでは無く固有品種である‘デービッド・オーヤン’を国花にするべきだという議論があり、2018年に法律が改正され’デービッド・オーヤン‘が国花として正式に認定されました。英名の通りプライド・オブ・トリニダード・トバゴ、国の誇りを感じさせるエピソードですね。

お問い合わせ

文化生活部文化生活総務課 植物園

京都市左京区下鴨半木町

ファックス:075-701-0142