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コンテンツを学ぶ「勝手読書会」 第4回:映画館で見る映画

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(令和3年10月25日初稿、令和4年1月11日更新、京都府ものづくり振興課)

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ものづくり振興課職員が、勝手なシロウト目線で、インターネットや書物で学んだことを紹介し合う「読書会」。第4回目は、伊藤弘了著『仕事と人生に効く 教養としての映画』(PHP)で学んだことを中心に振り返りたいと思います。

映画館と「ニーズドリブンVS創造的破壊」論争

足利)国内映画興行収入は、2020年こそコロナの影響で大きく落ち込んだけど、2019年は統計を取り始めた2000年以降で最高の2,612億円を記録しているように、今、「映画がとても見られている時代」なんですな。

丸田)しかも、「興行」収入、つまり、映画館での上映の数字というのが注目ポイントですよね。

足利)そうそう。レンタルやインターネットなど多様な視聴方法が増えているにもかかわらず、映画館に足を運んで見るという欲求が依然として人間にはあるということだよね。コロナを経験した今後、どうなるか分からないけれど、2019年は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車変』が歴代最高の興行収入を記録した。僕も未だにマンガ、アニメを見ているし、そのコンテンツとしての魅力が大きいこと、他の映画製作がコロナで止まってしまってスクリーンが空いたからとか、コロナで困難な中だからこそ、あるいは、コロナで困難だからこそなど、特殊な事情もあったのかもしれないけれど。

丸田)映画館でみんなで映画を鑑賞するという仕組みが演劇や芝居から受け継がれたものだというのは、東映さん、松竹さんから教えてもらいましたね。

足利)そのおかげで2時間なら2時間、途中で観客に離席されることを恐れず、2時間の作品の構成を自由にできるというのが制作上、有利に働くよね。『カメラを止めるな!』(2018年、上田慎一郎監督)などは、やや退屈な前半の数十分が、後半の展開のための伏線としてとても重要だと言われます。武者小路実篤の小説『友情』も、僕には前半がとても退屈で何度も読むのを途中で止め掛けたけれど、その分、後半の劇的な展開に圧倒されました。作品の中に退屈な時間が設定さえているからこそ、没我の境地を味わえるんだろうね。インターネット配信、特にサブスクなんかだと、途中で退出されないように、常にストーリー展開のスピード化を図らなければならなくなってしまう。中国の漫画アプリ「快看漫画」は、それで大成功しているそうで、そういったことも大事だと思う。しかし、ニーズドリブンよりも、クリエイターによる創造的破壊というか、2時間という時間を制作者側が自由に使えることで、より創造的なものが生まれるんじゃないかな。

丸田)なるほど。

日本社会への影響、世界の映画界への影響

足利)技術面は、「バーチャルプロダクション」など、今、我々、ハリウッドに必死で追いすがろうとしているわけですが、創造性の面では、日本が世界に大きな影響を与えてきたことが有名だね。黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(1958年)は、ジョージルーカス監督の「スター・ウォーズ」に影響を与えたと言われますし、『用心棒』(1961年)はクリント・イーストウッド主演の『荒野の用心棒』(1964年)としてリメイクされています。結婚式のシーンで始まる『悪い奴ほどよく眠る』(1960年)も、コッポラ監督に影響を与え、『ゴッド・ファーザー』(1972年)も結婚式のシーンから始まっています。『天国と地獄』(1963年)では、白黒映画にあって、一部色を付けるシーンがあり、犯人を追い詰めるインパクトが強く響いてくるのですが、スピルバーグ監督も『シンドラーのリスト』(1993年)で同様の手法を用いています。

丸田)『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のポン監督も、「『天国と地獄』にインスパイアされています」と語っていましたね。

足利)ストーリーの展開スピードが徐々に増して惹き付けられ、ラストシーン、映画の終わり方が僕には衝撃的だったけれど、身代金受け渡しシーンの模倣犯が現れたり、国会での刑法一部改正のきっかけになったり、日本社会にも大きな影響を与えたようです。僕の好きな70年代以降の刑事ドラマの数々にも影響を与えたんじゃないかと思うね。『七人の侍』なんかは、アクション映画としても、大いに影響を与えたんだろうね。余談だけど、武士の中でも「貴人(時代によって変化)に仕える武士」が「侍」であって、「浪人」(戸籍に登録された地を離れて他国を流浪している者、失業中の武士などのこと)、「野武士」(山賊化した武士)、「足軽」(戦時の臨時雇い兵)は含まれないんだとか、映画はそもそも勉強にもなる。

丸田)なるほど。

足利)「悪」を徹底して「悪」に描く黒澤流はハリウッドで特に評価が高いよね。ちなみに世界三大映画祭でも日本の作品も数多く評価されてきたね。カンヌ国際映画祭(5月開催、1946年~)の最高賞「パルム・ドール」を『楢山節考』『万引き家族』などが、ベネチア国際映画祭(8月~9月開催、1932年~)の最高賞「金獅子賞」を『羅生門』、『HANA-BI』などが、ベルリン国際映画祭(2月開催、1951年~)の最高賞「金熊賞」を『千と千尋の神隠し』などが受賞してきました。

丸田)はい。

足利)あるいは、原則ハリウッド地域での上映作品に限定されるものの、歴史が古く影響力の大きな米国アカデミー賞(2月~3月開催、1929年~、アカデミー会員約6,000名の投票、映画部門のみ)の主要6部門(作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞)では渡辺謙さん(『ラスト サムライ』、助演男優賞)、菊地凛子さん(『バベル』、助演女優賞)らが受賞してきました。

丸田)その前哨戦とも言われるのが、同じく原則ハリウッド地域での上映作品を対象にした米国ゴールデングローブ賞(1月開催、1944年~、約100名の外国人記者投票、映画部門・テレビ部門)ですね。

創造性×事業性のハリウッド

丸田)ハリウッドは、特許訴訟を連発するエジソンから逃れて辿り着いた新天地だと聞いたことがあります。

足利)エジソンが発明した「キネトスコープ(覗き穴による一人用)」が日本で初公開されたのが、1896年12月1日の神戸(メリケンシアターに碑)。一方で、翌1987年、フランスのリミュエール兄弟が発明した「シネマトグラフ(スクリーン投影方式)」が日本で初試写されたのが京都で(元立誠小学校跡に碑)、初有料公開されたのが大阪(現在のTOHOシネマズなんば。東宝創始者小林一三による碑)。世界ではフランスのカフェでリミュエール兄弟が、有料公開した1895年12月28日が「映画誕生の日」とされており、日本では神戸初上陸の12月1日が「映画の日」とされているね。

丸田)「立誠シネマ」の精神を引き継いで作られた「出町座」は2017年12月28日にオープンされましたね。

足利)そう。初期は、ショックや驚きのような直接的な刺激を強調するようなものが多かったのが、20世紀前半にかけて確立された「古典的ハリウッド映画」では、「見せる」ことから「物語を語る」ことへとシフトしていったそう。まず、「コンティニュイティ編集」といって、物語に没入させる様々な技法が生み出されました。画面の外に視線を向けている人物を写し、次のショットでその視線の対象を写す「アイライン・マッチ」、会話している2者を撮影する際に、観客に映像の構図を混乱させないよう定まった方向から撮影する「180度システム」、アクションの途中でカットし、次のショットで前のショットのアクションの続きを見せる「アクションつなぎ」などです。そして、プロデューサー主導で、製作の各プロセスは分業化され、スターの人気や知名度に依拠して、画一的・量産システムが生まれました。

丸田)なるほど。

足利)こうした初期のハリウッドを支えたのはユダヤ系の経営者たちで、「製作」「興行(映画館)」に加え、それらを橋渡しする、つまり、どの映画館でどの作品を公開するかの手配を行う「配給」という3つのセクションに分かれた現在の仕組みの原型が出来上がりました。パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザーズなどは、それらを一手に引き受ける「垂直統合」により成功を収めたけれど、独占禁止法違反の判決により、それが崩壊してしまったそう。

丸田)そうなのですね。

足利)「西部(フロンティア)」開拓完了に伴い、西部劇人気が陰り始めたけれど、次に見定めたフロンティアが「宇宙」。ピクサー(現ディズニー)「トイ・ストーリー」シリーズの主人公と相棒役が、カウボーイとスペースレンジャーであるのには、そういった背景が潜んでいるらしいよ。ちなみに、世界的なアニメーション・スタジオとして知られているピクサーは、もともとルーカスフィルムのCG部門で、それを買収し赤字を支え続けたのはスティーブ・ジョブスです。

丸田)創造性と事業性の融合により飛躍したのですね。

感情を揺さぶる映画

足利)一方、溝口健二監督は、特にヨーロッパで評価が高いと言われていますし、小津安二郎監督の『東京物語』(1953年)は、イギリス映画雑誌『サイト・アンド・サウンド』で10年に1回行われる「史上最も偉大な映画」ランキング(監督部門)で、直近2012年で堂々1位です。溝口監督の特徴である「長回し」は、同時代のハリウッド映画等と決定的に異なるもので、1950年代末に次々と登場したフランスの新人映画監督ら(スタジオから飛び出し果敢にロケを行うなど「ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)」と言われます)に同監督は絶大な支持があったそうです。

丸田)そうなのですね。

足利)小津監督の『東京物語』は、現代にも、今の僕自身にも身に染みるというか、時代も、きっと国も超えて、まさしく普遍的な人間の真実を描き出すものです。派手さなど全くないのに、ものすごい喚起力をもたらし、「創造性とは何ぞや」ということを思い知る作品です。それ故、180度システムなどの古典的ハリウッドの作法を壊したり、パン(カメラを左右に振る)、ティルト(上下に振る)もなく固定カメラにこだわったり、独自の手法も用いました。

丸田)様々な技法が生まれてきたのですね。

足利)巧みな技法の中で、冒頭の「映画館」での鑑賞に絡めたものもありますね。自身が作品にちらっと出演する「カメオ出演」でも有名なヒッチコック監督作品の中で、『裏窓』(1954年)では、窓越しに覗いてきた相手に気づかれ乗り込まれてくるというシーンは、「窓越し」(主人公)=「スクリーン越し」(観客)という安全圏に危険が及ぶ衝撃を、錯覚的にうまく伝えるものだそうです。また、ブライアン・シンガー監督『ボヘミアン・ラプソティ』(2018年)では、ライブ会場のシーンだけでなく、町のパブでモニター越しに見ている人々のシーンを挿入することで、映画館のスクリーンで見入っている観客を映画の中に引き込むのに一役買っているそうです。

丸田)人々の気持ちを揺さぶる、感情の起伏を経験し、内省する様々な仕掛けが、映画にはあるのですね。

<参考文献(ウェブサイト)・引用文献(ウェブサイト)>

 

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