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知の京都- 清水公治さん(京都大学大学院医学研究科 特任教授)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

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日本発の医療機器の迅速な実用化を― 国家戦略特区制度を活用して

(掲載日:平成30年7月10日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利、西脇)

 
京都大学大学院医学研究科特任教授で、医学部附属病院 先端医療機器開発・臨床研究センター 医療機器開発支援室長の清水公治さんにお話をおうかがいしました。

日本発の医療機器の迅速な実用化を

足利) この先端医療機器開発・臨床研究センターというのは、どういった目的を担ってらっしゃるのですか?

清水) このセンターは、革新的な医療機器・医療技術の産業化を産学官が共同で取り組む拠点として、経済産業省の「先端イノベーション拠点整備事業」を基盤に設立されたものです。病院敷地内に産と学の密接なコミュニケーションが可能になる研究開発環境を提供することで、革新的な医療機器の迅速な実用化を推進し、併せて医療機器開発を担う人材を育成することを目的としています。

足利) 医療機器の迅速な実用化ですか。

清水) 医療機器は、医薬品と異なり、高リスクのものから低リスクのものまで、また、大型のものから小型のものまで、実に多種多様です。これらの医療機器はそれぞれで承認や認証などの進め方も異なります。こうした多様性から、医薬品に比べると、承認や認証を得るために実施する臨床研究などの支援体制は必ずしも十分ではありません。

足利) たしかに、内視鏡や、陽子線や重粒子線の放射線がん治療器など一部を除けば米国や欧州の後塵を拝していますね。

清水) 特に治療機器は海外製品が多く、日本発のものは少ないのが現状で、課題となっています。革新的な診断機器においても、その実用化を推進するための体制の強化が必要です。加えて、日本の場合は、承認申請のための臨床試験(治験)と臨床研究はそれぞれ別の枠組みで実施されることから、臨床研究で得られたデータは薬機法の承認申請の資料として使えないという「壁」もあります。さらに、平成29年4月には「臨床研究法」が施行され、臨床研究の規制が強化されました。いずれにせよ、医療機器は医療現場での改良・改善で大きく進化するものであり、それぞれの医療機器・医療技術の特性に適した臨床研究や臨床試験(治験)を効果的、効率的に実施することが重要になります。

PETの威力

足利) なるほど。さて、先生は、「国家戦略特区」で「可搬型PET装置(陽電子放射断層撮影装置)のMRI室での使用」に関する規制緩和を提案され、国に認められました。その話の前に、陽電子とは何ですか?

清水) 陽電子は電子の反粒子と呼ばれるものです。電子と全く等しい質量と電荷量を持っていますが、電荷の符号は反対になります。陽電子と電子は電気的に引き合ってぶつかり、消滅します。その時に放射線の一種であるガンマ線が発生します。生体などの物質には電子が豊富にあるため、陽電子はガンマ線を発生させるために使われます。

足利) そのガンマ線を計測するものなのですね?

清水) そうです。PETを用いたがん検査は、がん細胞が正常細胞に比べて3~8倍の多くのブドウ糖を取り込む、という性質を利用します。そのために、ブドウ糖によく似た検査薬を体内に注射しますが、この検査薬がPET放射性薬剤で陽電子を放出します。この陽電子が直ぐ近くの電子と結合してガンマ線が発生します。PET装置でこのガンマ線を計測して画像化し、がん細胞の集積を見つけます。

足利) なるほど。

清水) 通常、がんは、実際に腫物ができたり、体に変化が起きたりしてから見つかることが多く、がんはある程度進んでからでないと発見しにくい病気です。従来のレントゲン(X線)やCT、MRIなどの検査は、主に、画像に写し出された形からがんを見つけますが、PET検査は細胞の働きでがんを見つけます。このため、形を見る検査にくらべて、ずっと小さな早期のがんを発見することも可能とされています。

足利) そういうことなのですね。

清水) しかし、PETは、がん細胞の働きを画像にしますが、病変や臓器の解剖学的な形を画像にすることは不得意で、CTやMRIに敵いません。より正確な診断を行うためには、これらの「機能画像」と「形態画像」を複合化することが有用です。このため、PET/CTやPET/MRIといった二つの装置を一体化した装置が開発されています。

「国家戦略特区」で規制緩和― より少ないコストでPET/MRI等を

足利) そんな中、国家戦略特区で認められた規制緩和の内容を教えてください。

清水) 現行の医療法施行規則では、PET装置の使用はPET使用室のみに制限されています。これに対して、放射性物質であるPET薬剤の患者さんへの投与はこれまでと同様にPET使用室で行い、「可搬型PET装置」による患者さんの撮影のみを既存のMRI室でも可能にするという内容です。「可搬型PET装置」とは、MRIなどと組み合わせることが可能な新規のPET装置です。

足利) それにより、どういった良いことがあるのですか?

清水) さきほど言いましたが、PETとCTやMRIとの組み合わせが診断では大切ですが、限られたスペースのPET使用室に、PET/MRI装置を追加して設置することは容易ではありません。また、既存のMRI装置を有効に活用することもできません。既存のMRIと組み合わせによるPET検査が可能になれば、より少ない費用で、より多くの患者さんに優れた高度医療を提供できるようになると期待されます。

足利) なるほど。国に認めてもらうまで、いかがでしたか?

西脇) 結構大変でしたねえ。

清水) そうですねえ。最初はなかなか理解してもらえませんでした。

足利) それは、どういうことですか?分かっているのに抵抗して認めないという感じなのですか?

清水) いえ、そうではなく、内容を理解してもらうのに時間がかかったと言った方が正確ですね。理解していただいた後は、厚生労働省、関連学会などのご尽力で比較的スムースに進めることが出来ました。

足利) つまり、社会のため、国際競争力向上のため、本当に必要なことであれば、国も認めてくれる、そんなような理解ですかね。ところで、先生は、以前は何をなさっていたのですか?

清水) そうだと思います。私自身は、島津製作所でMRIなどの医療機器の研究開発に携わっていました。当時から京都大学とは共同研究や国家プロジェクトを行っており、産学連携には長い経験があります。

足利) 最後に今後の展望についてはいかがでしょう。

清水) 特区制度での規制緩和を活用して、島津製作所が可搬型PET装置を開発中です。今年度中には京大病院で臨床研究が開始される見込みです。まずは、特区において有効性や安全性を確認することになります。製品化に合わせて規制緩和を特区から全国に拡げることも視野に入っており、がんの早期発見などで多くの皆様に役に立つものになることを期待しています。

 

完成が楽しみです!!

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