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青年海外緑と文化の大使レポート(ネパール)

藤井 美和子 平成24年度3次隊(職種:村落開発普及員)

 京都府民の皆様、こんにちは。

ここ最近のネパールは、一年の中でも最大のお祭りダサイン、そしてティハールの時期を迎え、お祭りモードに包まれていました。ネパール各地や外国で働いている人々も家族でお祝いする為に実家に帰ってくるので、村々が明るい活気に包まれ、幸せな雰囲気に満ち溢れた季節でもあります。

さて今回のレポートは、活動のその後についてと、活動を通して出会った村落部に住まうあるタマン族の女性のお話です。

1活動内容について

早いもので、帰国まで3か月を切り活動も大詰めに入ってきました。活動が進むと同時に様々な面から物事を見られる余裕が出てきたものの、様々な面から見るからこその難しさも感じつつ、締めくくりの日々を迎えています。

1.事務所(郡レベル)と村(村落レベル)のネットワーク強化支援

前回紹介させて頂いた、郡レベルと村落レベルの間のギャップから起こる問題の解決と無駄な負担の削減及びスムーズに土壌保全問題解決に踏み出せる事を目的とし作成に取り掛かったパンフレットは、「土壌保全事務所の事業内容紹介及び村落住民を対象とした申請方法ガイドライン」として正式に500部の発行に至りました。当初は関係各所に配布して置いて貰うという方法を検討していましたが、そこから実際に必要な人たちの手に届くケースは極めて稀な為(村々の代表者の手に渡っても、そこから先に回されることは残念ながら期待出来ないケースが非常に多い)、初めて土壌保全事務所のサービスを利用する住民グループを対象に「個別に」配布を開始いたしました。正式版配布開始から約4カ月が経過しましたが、実際にこのガイドラインを活用し依頼が挙がってきたケースも見られ、ゆっくりとでも活用されている事が期待できそうです。その為にも引き続き、事務所内およびフィールドでの活用促進を行っていく予定です。

ネットワーク

実際に今後使用して行くのは彼ら。

事務所カウンターパートから住民グループの女性たちに

ガイドラインの活用をして仕事を進める方法を説明して貰う。

 

表紙  添付資料

 

ガイドラインの表紙と、巻末に添付した各種提出書類の書き方例。

これまで書類作成経験のない村の人々にも簡単な様に。

 

2.行政アプローチ実践を通したキャパシティ・ビルディング強化支援

 

対象は引き続き、灌漑水路の完成を目指している住民グループ。灌漑水路に割り当てられた事務所年間予算を取得し工事を開始すると同時に、今まであやふやになっていたグループ内の「会計の透明化」を目指してリーダーを中心に工事にかかった材料など前払い領収書の管理徹底にも取り組み、工事も概ね完了。残りは送水テストという段階まで辿り着きました。

しかし大切なのはその過程と工事終了の後。自分たちの仕事がどのように行われてきたのか(意思決定から住民の参加状況、バジェット(予算・経費)管理などのプロセス、特にグループのお金の動きは明確であったか)をメンバー全員で振り返り、公開報告会(Public Audit)の開催の必要性を感じ、準備中。また今後水路をどう継続して管理していくのかをグループメンバーで話し合う機会を作ることが必要です。(例:水路使用のルール決め、修繕費の集金管理方法など)

 

今回大変難しさを感じたのは、グループメンバー間の水路に対する思いの差から来るすれ違いでした。あるメンバーは水路活用を通して農業による収入向上を現実的に見据えており、水路もいち早く完成させたい。しかしあるメンバーは、収入向上の為というよりも、まずは自分たちの食べる野菜を補う農業をと考えており、水路も焦らず出来るペースで…という考え。工事スピードをはじめ、当然すれ違いが起こります。しかし水路を完成させるという目標は一つ、そのプロセスの中で必要となってくる互いの共通点を見出し、重ね、目標完成に導く、という事を意識しながら共に取り組む事が求められました。

 

事務所の年間予算をかけて技術面(ハード)だけを整えても、コミュニティ内のキャパシティ(ソフト)が整わないと折角整備されたハードは結局意味の無いものになってしまう可能性があります。この様に、なぜ村落開発としての視点が必要なのかを理解する所から始まり、任期も残り2か月となりました。配属先、対象フィールドの人々と共に、最後まで全力で駆け抜けたいと思います。

 清掃 帳簿

左:水路完成部分を清掃

右:工事にかかった費用をグループの帳簿に記入

 

2ある女性の踏み出した一歩

 

私は任国に暮らす中で「ボランティアの日本人とネパール人」では無く、一人の人と人として、いわゆる「個人レベル」の人間関係が全てのキーになるという風に考え始めました。それは時に大変なエネルギーを要する事もありますが、人と「本物の」関わりを築いて行く上で辿る自然なプロセスでもあります。 

そうして出会って来た人々の中で、一人の女性のストーリーがあります。

対象フィールドに住まうスンタリはタマン族*の22歳。あまり話さず、農作業に黙々と取り組む姿が印象的でした。

彼女とよく話すようになったのは、知り合いのNGOが村落在住女性を対象に主催しているトレーニングの参加希望者を探す為に、私がフィールドに滞在していたある日からでした。(このトレーニングは、女性が社会について学ぶ事をはじめとしたエンパワメントや縫製スキル取得を目的とした、トレーニングセンターに住み込み込んで行う6か月間の長期トレーニングです)

スンタリをはじめ、村の女性たちにこの話をした所興味はあるものの、「家畜の世話はどうする」「ご飯はその間誰が作る」「子供は誰が見る」「そもそも旦那

姑の理解を得られるはずがない」と、6か月間家を空ける事は現実的ではありません。その中でスンタリは、皆が帰った後も残り資料の写真を見つめていました。「楽しそう…でも村の人が誰もいない場所で半年間も住めるわけが無い」彼女は迷っていました。 

スンタリは今まで「学校」に通ったことがありません。3人の兄は学校に通っていましたし、2人の弟も学校に通っています。しかしスンタリの両親に悪気があって彼女を学校に送らなかったのではありません。もともと一部のタマン族の間には、「女児に教育は不要」という考え方が強くあったと聞きます。「女性は結婚をして子供を産み、農作業や家事にいそしむ。教育を受けても生かす場所が無いから。」しかしスンタリは、数年前、村の有志が主催したという識字教室に1年半通った事があります。「完璧では無いけど、文字は分かる。本当はもっと続けたかったけど、参加者不足で打ち切りになった。」

彼女の背景を詳しく知れば知るほど迷っている気持ちを取り払いたい、彼女が一歩を踏み出す背中を押したいと感じ、彼女の家に通ったり、電話で気持ちの変化を話したりする日々が半月ほど続きました。そしてようやく彼女は、「一人は不安。でも私はトレーニングに参加して、色々な事を学んでみたい。」と参加を自ら決めました。初めての日、センターに行く前の彼女のとても緊張した面持ちが思い出されます。

半年間のトレーニング中は別の村から来た、カーストや今まで歩んできた背景も全く異なる他の女性たちとの共同生活です。休日である土曜日のみは外部からの訪問が許される為、時折彼女がどうしているのか知りたくて会いに行っていました。

ある日、彼女との会話中に「他の女性たちと話す中で初めて知ったことが沢山ある。中でも女性が当たり前に学校に通える社会があるなんて今まで知らなかった。」という印象的なものがあります。ネパール全土の村々から参加した15名の女性たちのうち、学校に通ったことが無いのはスンタリと、もう一人の計2名とのことでした。縫製や様々なトレーニング内容に必要な文字の読み書きが十分でない彼女たちに、友人たちは睡眠時間を惜しんで手伝ってくれたといいます。また、彼女が縫製クラスで作ったという作品を自慢げに見せてくれた時も嬉しい瞬間でした。

そして半年後の修了式。半年という彼女たちにとって決して短くは無い時間の中で、彼女は何を学び、何を感じたのだろう。そしてこれからの生活をどう歩んで行くのだろう。大勢の参列者の前で堂々と話す彼女の姿を見つめながらそんな事を考えていました。

大切なのはこのトレーニングで身に付けた事を、実際の生活に戻った後にどう生かして行くのかです。村に戻った彼女に会いに行くと、明るい笑顔でハキハキと話しながら私たちを迎え入れてくれました。「人からお金を取って服を縫うにはまだ不十分」と感じた彼女は、縫製の技術をさらに伸ばすため、以前に私達が提案していた、別のNGOが彼女の村で主催する上級レベルの縫製クラスへの申請を考えていると話してくれました。

ある機会を提供する事、きっかけを与える事は周りの人にも出来る。しかし、

その機会を生かし、前へ進んで行くのは本人に拠るものだ、と今回改めて強く確信しました。自分の手でチャンスを掴みとり歩み始めた彼女の今後が楽しみです。

ネパール全人口の約6.6%を占める。主にネパール北部及び東部の標高2000M以上に居住。

 料理修了式

左:家の台所で料理を作りながら「一人で誰も知らない所に半年も行くなんて怖い」と話していたスンタリ。 

右:修了式の日。彼女たちは自ら作った詩や劇、スピーチを実に堂々と発表していた。

 

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