| 1 水産分野における育種研究の現状 育種とは有用生物の遺伝的性質を人間が希望するように改良することであり、品種改良とも呼ばれています。野生種から栽培種への改良は、人間の農耕文化が始まって以来絶えず行われてきました。現在も農業や畜産分野では盛んに品種改良が行われています。しかし、水産養殖の分野では、用いる種苗は現在でも遺伝的に見ると野生種と変わらないものが大多数で、遺伝的改良が行われているものは極僅かです。それではなぜ水産動物では品種改良が遅れているのでしょうか。それは陸上動物では飼育や繁殖が比較的容易ですが、水産動物では飼育には水が不可欠であること等から飼育や繁殖が困難なものが多く、全生活史を管理するいわゆる完全養殖が行える種類が少ないことが理由として考えられます。 そうした中でも淡水魚は飼育が比較的容易であることから、コイ、金魚、マス類等の品種改良は盛んに行われてきました。しかし海産魚では、有名な近畿大学の選抜育種によるマダイの品種改良以外に実用化されているものはまだほとんど見られていません。 トリガイと同じ二枚貝類ではどうでしょうか。食卓をにぎわしているカキ類やホタテガイはほとんどが養殖物ですが、養殖に用いる種苗は、海中に設置した採苗器に自然に付着させた天然貝ですので野生種そのものです。なお、マガキでは、染色体操作により作出された三倍体が実用化され、量的には少ないですが広島県で養殖されています。海洋センターではトリガイで三倍体の利用を検討しましたが(季報33号参照)、カキのように成長が良好になる等の三倍体の有用性は認められませんでした。 染色体操作により作出された生物は生態系に悪影響を与えないように管理しなくてはいけません。特に海面での養殖場所は厳しく制限されています。さらに遺伝子組み換えによる品種改良の研究も魚類において最近行われるようになってきましたが、遺伝子組み換え生物については生態系への影響だけでなく食品としての安全性についても問題視されており、水産での実用化はまだまだ先のことでしょう。 近年、魚介類の飼育や繁殖技術が発展し、継代飼育が可能になってきた種類も多くなってきました。したがって、水産養殖の分野では最新のバイオテクノロジーを用いた育種研究も必要ですが、今後はそれ以上に今回紹介するような古典的な育種手法である選抜育種や交雑育種の研究が必要であると考えています。 |
|
| 次のページへ 前のページへ 目次へ |
Copyright (C) Kyoto Prefecture. All Rights Reserved.