京都府における獣害とその対策2とくにツキノワグマとカモシカを中心に

1 京都府における野生鳥獣による被害の現状

京都府における野生鳥獣による農作物被害金額は、鳥獣合わせて2008年の約7億4,400万円をピークとして、年々減少し2023年には2億5,700万円となっている。鳥獣の内訳では、2023年の被害は面積で獣害175 ha、鳥害8 ha、金額で獣害約2億2,700万、鳥害約3,000万となっており、獣害は面積で94.6%、金額で88.3%と圧倒的に鳥害(カラスによる被害が圧倒的に多い)より大きく、この傾向は毎年同じである(京都府農産課、2023)。以下被害が大きい獣害について記述する。

獣害では2023年度は、面積にしてシカ108 ha、イノシシ57 ha、サル6 haで、金額ではシカ1億1,400万円、イノシシ8,500万円、サル1,100万円でシカによるものが最大でイノシシが次いでいる。その他、地域によっては特定外来生物のアライグマやヌートリアの被害もある。近年、イノシシによる被害が減少しているが、これはブタ熱の影響でイノシシが減少したことによるものと考えられているが、今後増加する可能性がある。ただし、これらの被害は農作物への被害であり、林業被害は含まれていない。林業ではシカによる被害が圧倒的に多く、ツキノワグマ(以降クマとする)による被害(クマ剥被害)が若干含まれる。また、イノシシやサルの被害は農作物中心で林業被害はない。サル等による家庭菜園被害は通常農業被害には含まれておらず、テレビのアンテナ被害など生活被害はかなり激しい地域があるがこれも含まれていない。クマによる人身被害や生活被害等も含まれていないので、上述の農業被害は現実の被害全体を表してはいない。

京都府レッドデータブック(以降RDBとする)の2015年と京都府レッドリスト(以降RLとする)の2021年を比較してとくに顕著な違いは、まず、クマをRDB2002、2015とも絶滅寸前種として扱っていたのを、RL2021では要注目種としてランクダウンしたことである(渡辺ほか、2002、高柳・村上、2015)。さらに、カモシカは、RDB2002において準絶滅危惧種とし(渡辺ほか、2002)、2015年には絶滅寸前種にランクアップしたが(高柳・村上)、RL2021では、さらに絶滅のおそれが高まった状態になっている。カモシカについては、現在、文化庁による第6回特別調査が進行中であり、文化庁の保護区の伊吹・比良山地の京都を含む西部地域の個体群では、暫定であるが、保護区内にはカモシカがほとんど見つかっておらず、保護区外の大浦半島で若干のカモシカが生息しているだけである。今後、何らかの保全対策が必要な段階であるため、以下とくに注目すべき種として、クマとカモシカに関して記述する。なお、クマ等の扱いについては村上(2015)も参考にされたい。

2 全国的なクマ類の分布と生息状況

日本におけるクマ類は北海道のヒグマ(Ursus arctos)と本州、四国のツキノワグマ(Ursus thibetanus)の2種が生息しているが、以降ツキノワグマについて記述する。環境省の調査では、クマは本州及び四国の33都府県に分布し、2004年度から2018年度にかけて全国的には1.4倍に分布拡大している。一方、九州地方では2012年に絶滅と判断され、四国地方の個体群は分布域が縮小している。2000年に入ると人里への大量出没が始まり、許可捕獲数の増加、死傷者数の増加が認められる(日本哺乳類学、2024)(図1)。

グラフ
図1 ツキノワグマの捕獲数と死傷者数(日本哺乳類学会、2024)

特に2023年度は出没件数が23,669件、人身被害が197件と過去最大となり、許可捕獲頭数も7,852件と過去最大となった。なお、許可捕獲頭数は出没の規模をある程度反映したものであり、捕獲許可頭数と死傷者数とは相関がある(図2)が、2000-2011年までと2012-2023年までとは異なる傾向にある。そして、大量出没の原因はクマの分布拡大と個体数増加にあるとしている(日本哺乳類学会、2024)。

グラフ, 散布図
図2 ツキノワグマによる死傷者数と許可捕獲数の 関係(日本哺乳類学会、2024)

これらクマの生息現状を踏まえて、環境省は2024年4月にクマ類を指定管理鳥獣に指定すると共に、鳥獣保護管理法の改正を行い、人家周辺でのクマの捕獲について新たな取り扱いを発表した(後述)。

3 クマによる被害と対策

京都府では地域によってクマ剥による被害が生じており、クマは人への殺傷力が大きいことや、また人家周辺のクマの出没は地域住民への精神的な圧迫や生活にも影響することから、京都府の特定鳥獣保護管理計画では、当初から人身被害や生活被害の防止を第一にあげている。全国と京都の人身被害の件数は京都では平成22年(2010)の大量出没時の6人が最高であるが、全国的には令和5年(2023)の197件が最高である。その内、東北地方の被害が 141 件と突出しているが、近畿地方は少なく京都府では1件のみであった(京都府、2025) (図3)。クマの出没件数は全国的には令和5年(2023)が23,669件と過去最大であったが、その約6割が東北地方(秋田県、岩手県等)に集中している(環境省、2024)。

グラフ, 箱ひげ図
図3 京都府及び全国の人身被害件数の推移(環境省、2025)

一方、京都府のクマの出没状況は令和5年(2023)が865件と少なく、令和6年(2024)に約1,900件と平成22年(2010)に次いで大量となっている。このように出没件数や人身被害件数は地域によって異なっており、地域ごとに要因解析とそれに基づく対策が必要なことが判る。クマの出没要因として環境省では、林業や狩猟の減少により、人への警戒心が薄れ集落周辺まで分布域が拡大したこと、人口減少高齢化により人の活動が低下し、人の生活圏周辺が棲息に適した環境に変化したこと、秋季における食物資源(ブナ科樫果類等)量の低下により行動圏が拡大すること等を挙げている(環境省、2025)。日本哺乳類学会ではクマの分布拡大と個体数の増加が主要因であるとして、個体群の制御が必要でクマの管理強化が必須であるとしている(日本哺乳類学会、2024)。京都府のクマは、定期的なモニタリングの結果、個体数の増加と分布拡大が起きていること、出没数はブナ科樫果類の豊凶に依存し、特に凶作年に出没が増加することが分かっており、その際、とくに集落周辺の出没が人身被害に通じるので、集落周辺の予察捕獲による捕獲強化を実施してきている。

(1)クマ等による人身事故被害阻止対策

全国的には、令和5年にクマやイノシシが人の日常生活圏に出没して、過去最大の人身被害が発生するなどの事態を受けて、クマ等の銃猟に関する制度の見直しが図られた。まず、クマ、イノシシなど、人の日常生活圏に出現した場合に人の生命または身体に危害を及ぼすおそれの大きいものを「危険鳥獣」として政令で定めた。現行の鳥獣保護管理法では、集合地域における銃猟、建物・乗物・飼養動物に向かってする銃猟、夜間の銃猟を禁止(第 38 条)して、現に危険が生じている場合は、警察官職務執行法による命令や刑法の緊急避難などして、応急的に銃猟を実施している。しかし、より予防的・迅速な対応が必要であるとの認識が進んだ結果、市町村長は危険鳥獣が人の日常生活圏に侵入し、人の生命、身体の危害を防止する措置が緊急に必要で、銃猟以外の方法では的確かつ迅速に危険鳥獣の捕獲が困難な場合で、避難等で地域住民に銃弾が到達する恐れがない場合には危険鳥獣の銃猟を捕獲者に委託して実施させることができる(緊急銃猟)(第 38 条の適用除外)とした。緊急銃猟の際に市町村長は住民の安全確保のために通行制限等が可能で、弾丸が建物に当たるなどの損失は自治体が補償する等鳥獣保護管理法の一部改正を行った。(令和7年4月衆議院本会議可決(6ヶ月以内に公布))。これによってクマの管理において、市長村長の権限が強化されたが同時に責任が重くなったので、市町村長は都道府県知事に応援を要請することができるとした。しかし、重要な課題は鳥獣被害対策の担い手の確保・育成で、専門行政職員の養成や教育、ハンターの教育、研修等による質の確保などの必要性が指摘されている(西本、2024)。

まだ法律の一部改正が決まったばかりであり、今後これを実際に運用して課題を解決していくことが望まれる。以下京都府のクマについて記述する。

4 京都府におけるツキノワグマの保護と管理

京都府におけるクマの取り扱いについては、過去には鳥獣保護法の元に特定鳥獣保護管理計画―ツキノワグマ―として、第1期2003-2007年度、第2期2007-2012年度、第3期2012-2017年度に策定した。2016年に従来の鳥獣保護法が改正されて、鳥獣保護管理法と名称変更されると共に、保護と管理の定義が明確化された。特定鳥獣保護管理計画の名称を廃止し、生息数が著しく減少し、又はその生息地の範囲が縮小している鳥獣は第 1 種特定鳥獣保護計画に、シカやイノシシのようにその生息数が著しく増加し、又はその生息地の範囲が拡大している鳥獣は第2種特定鳥獣管理計画にすることが定められた。さらに指定管理鳥獣捕獲等事業の創設などが行われた。京都府のクマはその当時保護すべき鳥獣なので、第1種特定鳥獣保護計画―ツキノワグマ―と名称変更し、従来の施策を継続した。名称変更に伴い、第1期計画2004-2006年度、第2期計画2007-2011年度、第3期計画2012-2016年度、第4期計画2017—2020年度を策定したが、クマの個体数水準が増加し、 RL2021 年に絶滅寸前種から要注目種にランクダウンしたことから、管理すべき鳥獣として第1種特定鳥獣保護計画から、第2種特定鳥獣管理計画―ツキノワグマ―と変更した。現在は第2種特定鳥獣管理計画の第1期2021-2027年度の途中段階である。特定計画は 5 年を単位としているが、上位計画である鳥獣保護管理事業計画期間が第12次の途中であったため、第13次計画期間と整合性をとるため終了時点を同じくするための措置である(京都府、2021、2024)(図4)。

図表
図4 鳥獣保護管理事業計画とツキノワグマに係る特定計画の経過(京都府、2021、2024)

これらの詳細は第2種特定鳥獣管理計画(2021-2027)及び同令和7年度実施計画に記述されている。

5 京都府におけるクマの出没数

クマの出没情報(目撃・痕跡・捕獲)は令和6年度(2024)が丹波個体群815件、丹後個体群1,082件で令和5年度に比較して約220%の増加であり、平成22年度(2010)に次ぐ大量出没であった(図5)。

グラフ
図5 クマの年度別出没数と個体群別出没数の推移(京都府、2024)

月別の出没数を見ると丹後個体群は春に多かったが秋には通常より減少し、丹波個体群は春だけでなく秋も出没が多かった(図6)。

グラフ
図6 最近5カ年(令和2~6年)の月別出没件数(上図:丹後個体群、下図:丹波個体群)(京都府、2024)

クマは越冬し、特にメスは冬眠中に出産するので、脂肪を蓄えるため、秋に採食活動が盛んとなり、10月に出没がピークになるのが通例である。この時期のブナ科種子の生産量が多い豊作年では出没数は減り、凶作だと出没数が増加する。樫果類の豊凶レベルと秋季目撃数は相関があるが、とくに凶作の年に出没数が増加する傾向が認められる(図7)。

グラフ
図7 ブナ科種子の豊凶レベルと秋季目撃件数(9-11月)(京都府、2024)

令和6年度は他の年度に比較して平成22年の大量出没年より凶作となり、豊凶レベルが過去最悪であり、このために出没数が急増したものと考えている。令和6年度には、ブナ科種子の豊凶調査は、ミズナラ丹波7箇所・丹後4箇所、コナラ丹波14箇所・丹後10箇所、ブナ丹波2箇所・丹後1箇所、イヌブナ丹波1箇所の豊凶調査をしている(詳細は令和7年度事業実施計画を参照)。とくに凶作年には、関係する地域住民に対して、場合によってはクマの出没の警戒情報等の発信をすることで人身被害の防止に努めている。

6 京都府におけるクマの個体数

クマの個体数の推定法は、第1期から4期途中までは標識再捕法(捕獲個体中の標識個体の割合を用いて個体数推定する方法)を用いていたが、近年は標識個体が激減したために、第4期の2020年からは階層ベイズ法に変更している。階層ベイズ法は捕獲数だけでなく、出没数、放獣数を用いて増加率を計算し、これを推定生息数にかけて個体数を推定する方法で、データが増加するほど精度は増すので推定年毎に変化する値である。このため、階層ベイズ法で得られた過去の推定値と計画策定時の個体数は異なることに注意をしてほしい。特定計画策定時での個体数推定法と推定値は表1、令和2年(2020)12月時点のベイズ推定による個体数の推定値は図8の通りである。

表1 特定計画策定時点での推定生息数(京都府、2021)
表
グラフ
図8 令和2年度(2020)12月時点のベイズ推定による生息数の推移(京都府、2021)

京都府におけるクマの扱いは、RDB2002では、京都府全体を1個体群として扱い、個体数は全体で200-500頭と推定された。これは環境省のクマの個体数水準2 ―絶滅危惧地域個体群に相当するもので、京都府では絶滅の危険性が一番高い絶滅寸前種に指定した(渡辺ほか、2002)。これに伴いクマを狩猟獣から除外し非狩猟獣とし、有害駆除による捕殺はできるだけ避けて、個体数に応じた捕獲上限を定めると共に、捕獲個体は学習放獣を行うなど保護施策を実施してきた。2004年の特定鳥獣保護管理計画(第1期)策定時には、ミトコンドリア DNA の解析により、由良川を境にして東西2つの系統に分かれていることが明らかとなっており、由良川から西の個体群を丹後個体群、東を丹波個体群として2つに分けて扱うこととした。また、丹波個体群は滋賀県から福井県の嶺南地方に広がる北近畿東部個体群の一部、丹後個体群は兵庫県但馬地方に広がる北近畿西部個体群の一部に属しているとした。特定計画策定時の個体数は第1期、第2期とも丹後個体群が約120頭、丹波個体群が約180頭と少ない。しかし、第3期特定計画策定時には丹後個体群が300頭、丹波個体群が約200頭となった。鳥獣保護管理法の改正により、2015年に、クマは第 1 種特定鳥獣保護計画と名称変更され、その策定時には丹後個体群は 700 頭と急増したが、丹波個体群は約200頭と低い水準だったので、 RDB2015 では、絶滅のおそれの基準は、絶滅寸前種とランクの変更は行わなかった (高柳・村上、2015) 。その後、丹後個体群は2017年に約720頭、2020年に約990頭と順調に個体数増加をしていたが、丹波個体群は2016年に約220頭と低い水準であったのが、2020年には650頭と急増した。この個体数増加は、舞鶴市周辺とくに大浦半島における個体数増加による所が大きい。大浦半島の集団の遺伝的特性は、丹波、丹後個体群とは分化した集団となっているが、丹後個体群の一部が移入することで遺伝的多様性は保たれていると考えられている。丹後個体群は個体数水準4 、安定地域個体群に相当するが、丹波個体群は個体数水準3 、危急地域個体群に相当する。環境省の個体数水準3 は400-800頭と幅広に設定されており、丹波個体群は個体数水準4に近い状態である。大浦半島における個体数増加の原因は、丹後個体群からの移入とイノシシ等の捕獲のために設置した箱罠のコメ糠に餌付いた可能性がある。

RL2021 の改定では、クマの個体数増加に応じて、従来絶滅寸前種として扱っていたのをランク変更して、要注目種とした。これに伴いクマを狩猟鳥獣から除外していたのを解除し狩猟鳥獣に戻した。

7 捕獲上限数の設定

京都府のクマの捕獲上限数は、環境省の個体数水準と捕獲上限割合を参考に、推定個体数、目撃情報、人身被害を考慮の上、年間の捕獲上限数を設定し、その範囲内で、複数年単位で総捕獲数管理を実施している。これは、クマの出没件数は樫果類の結実状況等により年変動が著しいことによるもので、3年を限度に繰り越し数の増減を行なっている。すなわち、3年を1期間とし、1期間内の総捕獲数上限数は各年の捕獲上限数の合計とする。各年の捕獲上限数は、原則として各年の推定生息数に捕獲上限割合をかけた数とする等、細かく規定した(第2種特定鳥獣管理計画、2021)。

2021年には、丹後個体群990頭と個体数水準4まで回復し、丹波個体群では個体数が650頭と個体数水準4に近い状態である。年間の捕獲上限数を算出する際に、府内の丹波個体群と丹後個体群の扱いを別にするのは、混乱を来すことから、府内の両個体群の捕獲上限数は個体数水準4の上限12%とした。なお、丹波個体群の補殺上限数は大浦半島での個体数急増という事態を受けて、集落内での人身事故防止のために、専門家会議(初回から私と高柳氏他)を開催し出没状況等に応じて、環境省の上乗せ基準である人間との軋轢が恒常的に発生している場合、捕獲枠3%上乗せ可能(総個体数の15%以下)を適用し14-15%まで変更した。これらの詳細は第2種特定鳥獣管理計画2021年を参照されたい。また、人家周辺での目撃数が増加したために、人身被害、精神的被害など生活被害を防止するために、人家周辺で被害が予測される場合には、事前に捕獲許可を認める「予察捕獲(ゾーニングによる管理)」を可能とした。この結果丹波・丹後両個体群ともに予察捕獲が急増した(図9)。

グラフ
図9 個体群別の被害防止捕獲数及び錯誤捕獲数の推移(京都府、2024)

当時、全国的には、予察捕獲が少ない状態で京都だけ突出していたが、その後全国的にはクマの出没が急増し、人身被害が増加した2023年度には197件発生し218人の怪我、うち死亡者6人と過去最高となった。特に東北地方の人身被害が急増した影響が大きく、近畿地方ではその傾向はほとんど無く、平成22年(2010)の大量出没時の方が多かった。一方、クマの出没件数は令和6年度(2024)は、全国的に令和5年度より少ない状況であったが、京都府では、令和5年度に比較して倍増した。環境省は、2023年度に統計開始して以降、最多の出没・人身被害を記録したのを受けて、2024年4月にクマ類を指定管理鳥獣に指定するとともに、9月には特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン補足資料を取りまとめた。この中でクマによる被害防止に向けた対策方針として、人の生活圏周辺の緩衝地帯において、環境整備とともに「個体数管理」を実施する必要があるとした。京都府ではこれに先立ち、人の生活圏における被害防止のために予察捕獲を実施しており、この結果として令和5年度における人身被害は1件生じただけで、被害の急増は避けられたと考えられる。しかし、令和6年度の出没情報は丹波個体群が815件、丹後個体群が1082件と令和5年度に比較して約220%増加し、平成22年(2010)の大量出没に匹敵する状態であった。この出没数の急増はブナ科種子が凶作となったことが影響していると考えられるが、人身事故は平成22年度には6件も発生したが、令和6年度では1件に留まった。令和7年度のクマの事業実施計における捕獲上限について、丹波個体群では個体数推定値約600頭、丹後個体群では約740頭と推定され、捕殺上限割合を 12%で実施を予定しているが、捕獲上限数を超えるおそれが出た場合には特例を適用して15 %に設定する予定である。以上のように京都府のクマは、個体数の増加やこれに伴う人家周辺への出没数の増加に対して、人身被害防止を優先し予察捕獲を実施するとともに、捕獲上限数の設定変更及び複数年の捕獲上限数の繰越数の制御により対処することで人身被害の増加は避けられている。

以上のような状況を見てくるとクマの個体数は狩猟や許可捕獲による捕殺の影響が大きく、これを制御することで何とか保護と管理の両立を測っている状態であるが、基本的に重要なのはクマが人里に出てこないように、人里での管理強化と山にクマの生息場所である落葉広葉樹林を増加させること、すなわち獣猟による個体数管理の強化だけでなく生息場所管理による保護施策が必要であると考えられる。

8 カモシカの保護と管理

カモシカについて触れるのは初めてなので、最初に基本的なことを述べておく。まず、種名にシカが含まれているが、本種はウシ科でありシカ科には属していない。分類学的には、ニホンカモシカ(Capricornis crispus)は鯨偶蹄目ウシ科ヤギ亜科の動物で日本固有種である。ニホンカモシカが属するカモシカ属には、スマトラ及びアジアの大陸部に分布する4種(チュウゴクカモシカ、アカカモシカ、スマトラカモシカ、ヒマラヤカモシカ)と台湾のみに生息する タイワンカモシカがいる(文化庁、2022)。カモシカには雌雄とも角があり、生涯成長する。カモシカは中国地方を除いた本州、四国、九州の山地や丘陵部に生息し、分布域は落葉広葉樹林とくにブナ林に一致している。

カモシカの全国的な状況について見ると、カモシカは毛皮、肉、角などが有用なために、狩猟が盛んで全国的に衰退の傾向が見られた(鏑木、1932)。これを受けて1934年に国の天然記念物、1955年に文化財保護法による特別天然記念物に指定されたが、密猟が続いており、登山用品としてカモシカの尻皮が大量に販売されていた。しかし、1959年の大規模な密猟取締により、カモシカはとってはいけない動物という考えが定着し、個体数は増加した。その後1970年代になり長野県や岐阜県でスギやヒノキの植林木に対する加害が増し、カモシカの特別天然記念物の解除と害獣駆除申請が提出されるに至った。これを巡って、被害は当時の拡大造林政策にあり、カモシカ分布域にスギ・ヒノキを強硬に植林した拡大造林政策の結果であるとする保護派の意見と、被害はカモシカの分布拡大と個体数増加にあるので、カモシカは捕獲すべしとする捕獲派に分かれて論争となった。とくに拡大造林の予定地が主にブナ林であったために、ブナ林伐採反対運動と重なり、一気に社会問題化した(村上、1985、1990)。

これを受けて、1979年に環境庁(当時の名称)、文化庁、林野庁の3庁による合意として、1. カモシカの安定的維持増殖を図るため、地域を限って、天然記念物に指定する。2. 保護地域内のカモシカは原則捕獲を認めず、保護地域の明確化、地域内の管理計画の策定、保護と被害防止対策の実践等に努める。3. 保護地域以外の地域では、被害防止に努めるとともに、カモシカの個体数調整を認める。というものである。これ以降、文化庁は全国14箇所の保護地域を候補として、1979年北アルプス地域を初めとして順次設定を行い、現在は12箇所の設定を終了したが、四国山地地域、九州山地地域は未設定の状況である(図10)。

地図 判例
図10 カモシカ保護地域設定状況(文化庁、2022)

また、上記生息地の管理団体として当該地域を管轄する都府県を指定し、文化庁の指導のもとに保存管理計画を策定し、生息環境を含めたカモシカの保護管理に努める。その際、学識経験者等により構成される生息地管理指導委員会を設置し、生息状況、生息場所の管理、現状変更、その他カモシカの保護管理に必要な事項について指導助言を得る。三庁合意に基づくカモシカ保護行政の任務分担は、保護地域内は文化庁が、保護地域外は環境省が主に分担することとなっている。さらに保護区内のカモシカの生息状況等の把握が重要であるとして、5年に1回2年間の特別調査、その間は通常調査を実施してきており、現在第6回目の特別調査が進行中である(図11)。

図表
図11 カモシカ調査事業(特別調査)の実施経過と今後のスケジュール

このための予算を年間1~2億円使用しているが、このように1種の動物に対して長期に渡り、莫大な予算を投入した例はない。私は、カモシカの保護管理施策は先見的で、その後に他種の鳥獣の保護管理のモデルとして有効であり、日本の鳥獣行政にも多大な貢献をしていると考えている。

現在までに行われた特別調査の全国的な結果を見ると、全国のカモシカ保護地域における生息密度はすべての地域で低下傾向にあり、とくに西日本(鈴鹿、紀伊、四国、九州)で顕著に減少している(表2)。なお、四国、九州、紀伊山地、鈴鹿山地のカモシカは環境省のレッドリストで絶滅のおそれのある地域個体群LPに選定されている。

表2 全国のカモシカ保護地域における生息密度(頭数/㎢)の推移
表

文化庁のカモシカの保護地域で、京都府が関係しているのは、伊吹・比良山地である。担当府県は岐阜県、滋賀県、福井県、京都府の4府県にまたがる。私は文化庁の特別天然記念物カモシカ保護管理方策委員会の委員を務めるとともに、過去には京都府、近年は滋賀県の生息地管理指導委員をし、この地域のカモシカの保護管理に最初から関わってきた。この保護地域は1986年に全国の保護地域の中で12番目に設定され、面積67,500 haで、特徴は南北には非常に狭く東西に長く伸びた設定になっており、コアーになる場所が狭く、このため人による撹乱の影響を受けやすい形状となっている(図12)。

地図
図12 伊吹・比良保護地域(太線で囲まれた地域)と2024年のカモシカの分布(福井県ほか、2025)

この地域のカモシカは設定当初から全国的に見て低密度であり、1頭/㎢以下で絶滅のおそれのある地域個体群に相当し、この傾向は変わっていない。第6回の特別調査は2024-2025年にまたがって行われることとなっており、現在最終報告書が作成されつつある(福井県ほか、2025)。

グラフ
図13 伊吹・比良保護地域の特別調査におけるカモシカ(左の棒グラフ)とシカ(右側の棒グラフ)の推移(福井県ほか、2025)

この結果では、保護区内のカモシカの第1回特別調査からの平均密度は、第3回が1.2頭/㎢と最高密度に達した後第5回に約0.4頭/㎢と非常に低密度になっている。保護地域内のカモシカの分布を見ると、東西に長い分布域を持っているので東部地域個体群と西部地域個体群に分けて調査等を行っている。その結果、東部地域のカモシカは継続的に確認されているが、西部地域のカモシカは第3回特別調査以降激減し、現在は第6回特別調査の最終段階であるが、西部地域ではほとんど確認されておらず絶滅状態に近い。また、保護区以外の地域について、東部地区周辺では広く分布しているが、西部地区周辺では少なく、過去からずっとカモシカが確認されている大浦半島以外の地域では見つかっていない。京都府全域で、カモシカはほとんどいないと推測され、絶滅が危惧されることから早急な保全対策が必要と考えられる。

カモシカが減少した要因としてはシカの影響がもっとも大きいとされていて、伊吹・比良山地カモシカ保護区域でもカモシカとシカの関係を見ると、シカの密度は年々増加して第5回調査では4.9頭/㎢とカモシカの約9倍以上になっている(福井県、2025)。

全国的に見てもシカの密度が増加するとカモシカ密度が減少することが知られている(文化庁、2022)。これはシカとカモシカはほぼ同じ食性であるが、カモシカはペア型ナワバリを形成しその地域に定着しているが、シカはリーダー制であり場所に定着せず個体数は多い。両種が同一地域に生息するとシカにより下層植生が食べられ、カモシカはとくに冬季の食糧が不足して存続ができなくなる過程があると考えられている。すなわち餌資源をめぐる種間競争の結果であり、カモシカを保護するにはニホンジカの個体数を減少させることが必要となる。

京都府のカモシカについては、文化庁の特別調査の結果を踏まえて、RDB2002年では準絶滅危惧種(渡辺、2002)、2015年には絶滅寸前種とランクアップした。その理由としてニホンジカの個体数増加による影響で、餌環境の劣化に伴う分布域の縮小や個体数の減少が生じているとした(高柳・村上、2015)。今回は上述したように、さらに生息状況が悪化しており絶滅のおそれがさらに高まっているとした(村上・高柳、2021)。

京都府では、絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例を制定しており、現在指定希少野生生物として34種+1種2地域個体群を指定している(京都府、2024)。哺乳類では、ニホンカワネズミ、ヤマコウモリ、オヒキコウモリ、ニホンモモンガの4種が指定されているが、生息状況から見てカモシカを追加して、何らかの保全策を緊急に実施すべきであると考えている。

本稿を作成するに当たってお世話になった京都府農林振興課の藤井伊氏、自然環境保全課の川田淑詩氏他多数の方々にお礼申し上げます。

文献一覧

・鏑木外岐雄(1932)カモシカの保存に関する卑見 天然記念物調査報告書 文部省

・京都府(2021)第二種特定鳥獣管理計画―ツキノワグマ―

・京都府農産課(2023)京都府における野生鳥獣による農作物被害状況について 

https://www.pref.kyoto.jp/nosan/chojuhigai.html

・京都府 第二種特定鳥獣管理計画―ツキノワグマ―第一期

・京都府(2024)京都府指定希少野生生物の指定 http://www.pref.kyoto.jp

・京都府(2025)第二種特定鳥獣管理計画―ツキノワグマ―令和7年度事業実施計画

・高柳敦、村上興正(2015)ツキノワグマ(ニホンツキノワグマ) 京都府レッドデータブック 京都府自然環境保全課 1野生生物編 p31

・日本哺乳類学会(2024)今後のクマ類の管理に関する意見書 参考資料 https://www.mammalogy.jp/doc/20240319.pdf

・日本哺乳類学会(2024)今後のクマ類の管理に関する意見書 日本哺乳類学会https://www.mammalogy.jp/doc/20240319.pdf

・西本卓司(2024)鳥獣管理の現状と課題―法改正に向けた働き手と担い手の確保・育成の取り組み―立法と調査 468:168-179

・文化庁(2022)カモシカ保護管理マニュアル(改訂版) 文化庁文化財第二課

・福井県教育委員会、滋賀県教育委員会、岐阜県教育委員会、京都府教育委員会(2025)伊吹・比良山地カモシカ保護地域第6回特別調査報告書 印刷中

・村上興正(1985)カモシカの保護と管理 動物と自然 15(11)8-14

・村上興正(1990)カモシカ―天然記念物制度における保護とは 採集と飼育  52:144-147

・村上興正(2015)京都府における獣害とその対策 京都府自然環境保全課 京都府レッドデータブック 自然生態系 389-396

・森下正明・村上興正(1970)ニホンカモシカの生態学的研究 白山の自然 石川県 276-321

・渡辺浩之・大井徹・高柳敦(2002)ニホンツキノワグマ(ツキノワグマ) 京都府レッドデータブック 京都府企画環境課 上巻野生生物編 p35