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京都府知事 西脇隆俊
新型コロナの拡大・長期化により、府民の生活・消費行動や社会構造が変化し、京都産業は個々の企業による工夫だけでなく、業界全体の構造改革やビジネスモデルの再構築が求められています。府では、外部有識者からなる「新型コロナウイルス感染症対策危機克服会議」を設置、WITH・POSTコロナ社会における産業戦略を検討してきました。今回、5名の構成員の話を交えながら、京都産業のこれからを探ります。
株式会社ツナグム 取締役
タナカ ユウヤ氏
商店街と若者によるイベントの企画や京都への移住促進事業である「京都移住計画」など、多様な人や企業をつなげた事業を展開。
一般社団法人 京都試作ネット 代表理事
鈴木 滋朗氏
金属加工企業を経営しながら、京都に世界中の「試作」の仕事を集積すべく、「京都試作ネット」を運営し、各業界の技術革新に貢献。
株式会社西川貞三郎商店 代表取締役
西川 加余子氏
仏国営企業に26年間勤務後、京焼・清水焼の企画製造・卸販売業3代目を継承。現代生活に合う京焼・清水焼を開発し、世界へ発信。
立命館大学 先端総合学術研究科 教授
小川 さやか氏
アフリカ地域研究を専門とする文化人類学者。2011年にサントリー学芸賞を受賞した『都市を生きぬくための狡知』など著書多数。
株式会社minitts 代表取締役
中村 朱美氏
1日100食限定の料理店「佰食屋(ひゃくしょくや)」を開業、行列店に成長させるとともに、飲食店でのワークライフバランスとフードロスゼロを実現。
※()内、各委員の名前は敬称を省略させていただいています
コロナ禍の影響はさまざまな産業分野で経済活動を直撃しました。インバウンドをはじめ、観光客の激減で大打撃を受けたのは観光産業。GoToキャンペーンなどにより一時人出が戻るも、依然厳しい状況が続いています。また、伝統産業分野では展示会や見本市で顧客獲得・販路拡大する機会が減少。工芸品は「商品そのものだけでなく、背景や歴史、物語に共感してからこそ購入されることも多く、伝統産業も然り(西川・伝統)」。いかに”良さ“を伝えるかが課題です。他分野においても、「努力しないとこの危機は乗り越えられません。ちゃんと工夫してできることを少しずつ行って前進する(中村・食)」と語られるように、さまざまな影響を何とか乗り越えようと取り組んでいるところです。府では、6月に新型コロナウイルス感染症対策の危機克服会議を設置。事業継続や雇用維持を念頭に立ち上がった会議でしたが、有識者や経営者などから、コロナを乗り切るためだけでなく、コロナが明けたときに京都産業をどうするかも含めて話すべきだと、POSTコロナでの展開についても話されています。
府内各地の観光地では、3密の回避やマスク着用などの感染対策を徹底
観光地などの商店街への来街者は大幅減少。消費生活の変革への適応が必要。
製造現場における感染症対策と生産性向上の両立や、急変した市場への柔軟で迅速な対応が必要。
消費者の価値観などの変化に対応できず市場が縮小。ものづくりや市場開拓に必要な価値創造力が落ちている。
観光需要が減少し深刻な状況。経営や立地条件により観光客に偏りも。
インバウンド需要中心の店は深刻な状況。原料供給元の農林水産業への影響も。
消費行動や社会構造の変化を受けて共通の認識として口をそろえたのは、価値の見直し。「買い手が必要なものを必要なだけ買うというマインドに変わり、産業や企業は存在価値を見直すことが命題だと思います。一度、自分たちの事業や企業がどうあるべきかを見直し、新たな価値を創造する(鈴木・ものづくり)」ことが必要と語ります。
小売業や飲食店では、この機にオンラインやテイクアウトなどを取り入れることも多いが、「自分たちが持っている魅力や商品、また本来誰が買っていたのかなどをしっかり踏まえて、ブラッシュアップしながらオンライン活用すべき(タナカ・商店街)」という意見も。テイクアウトには苦戦する飲食店も多いというのが、中村氏の調査の印象。「テイクアウトのオーダーが入ったらスタッフが喜ぶような、作りやすい商品にすべきだと思います。そのためメニューの再構成はもちろんですが、一方で自粛中にお客さんに『癒やし』を与えるものにしなければ成功しません。おうちでレストランクオリティーが食べられる、購入したら出来たてのいいにおいがするっていうのはテイクアウトの醍醐味(中村・食)」といい、単なる手法としての取り入れではなく、経営戦略と商品価値を両立しなければなりません。伝統産業分野の西川氏は、自社で3Dバーチャル展示の試みを始め、商品の背景を伝えることを重視しています。「京都の文化的基盤を感じる建物や装飾品の中で展示することで、京焼・清水焼の良さだけでなく京都の良さも伝えています(西川・伝統)」とし、若い世代などの新たな顧客や来日が困難な海外需要にも対応しているそうです。
こうした価値の見直しや考え方の転換で生まれる新たなアイデアは、「今だからではなく、ここからの10年20年を見据えての展開を期待(タナカ・商店街)」とされています。危機克服会議の議論の材料の一つにするためにも、POSTコロナ社会を見据えた新たな事業アイデアを募りました。全体で68の事業に支援を行っており、今後、事業の成果を戦略の検討に活用していきます。
テイクアウトの料理には出来たての味を持ち帰れる工夫を
京都には何百年と続く企業も多く、「本物しか残れない、それが京都のものさし。そして、不易流行といいますか、変わらないものと変わるものを本質的に見極める(鈴木・ものづくり)」風土があり、これは京都の強みの一つです。また、地元愛も強く、「温故知新のような形でやっていくのが京都にはすごくフィットしています(中村・食)」とし、こうした企業は地元から応援される傾向にあるといいます。
そして、京都では業界や地域の垣根を超えて、コロナ禍で生まれる新たなビジネスでは”連携“もキーワードになっています。「普段なら結び付く予定ではなかった業界が結び付くことで、何とか乗り切っていくっていうのが、コロナ禍で起こった一つの方法(小川・観光)」で、それぞれが大切にしているものやことへの共感や尊重があるからこそ、良きコラボレーションを生み、新たな価値が創造されています。
2月補正予算では、観光・伝統・食関連産業に対して、企業グループや組合が連携して行う新たな取り組みに支援を行います。
伝統産業の職人が使っていた機械を最新技術で作り替える
西川貞三郎商店3Dバーチャル展示会
コロナ禍においては働き方の見直しも行われてきました。京都でもテレワークの推進を行い、1月からの緊急事態措置では出勤者の7割削減を求めました。これまでも「子育て環境日本一」に向け、多様な働き方を推進してきたものが一気に進みました。「ものづくり企業でも、製造現場では課題はありますが、間接部門では、テレワークを導入できています。これを生かせば、介護や子育て、病気などで働きたくても働けない社員に、家で働くという選択肢を与えることができるんです(鈴木・ものづくり)」と、今後も整備を進めていくといいます。また、「小売店でも毎日対面販売していたのを、例えば週末だけ対面にするとか、キッチンカーで販売するとか、自由な働き方が考えられます(タナカ・商店街)」と、固定観念をなくした働き方がこれからますます進んでいくと考えられます。
コロナ禍における商店街の様子
急場をしのぐ事業継続と雇用維持にとどまらず、ここからはさらにPOSTコロナ社会に目を向けた施策展開を行ってまいります。商店街の活性化、ものづくりや伝統産業での人材確保・育成、京都観光における「本物」の魅力を磨くこと、京ブランドによる食のサプライチェーンを構築するなど、コロナが明けた時を見据えて、今後さらに議論を深め、戦略を策定してまいります。
府では、社会的変化に対応した新ビジネスモデルのアイデアを広く募り、事業化の可能性や実践を支援する補助金を創設。その採択事業の一部を紹介します。
古川町商店街の各店舗をオンライン化し、単なるWeb販売にとどまらずバーチャル接客機能をプラス。さらに、動画やライブ配信で店の個性を伝えるなど、リアル(実店舗)の親近感とバーチャルの利便性が融合した「ハイブリッド商店街システム」を開発しています。
70年以上続く商店街を中心としたまちづくり拠点として誕生。さまざまな形で地域活性化のための取り組みを行っています。
Web上でライブ動画を配信し、リアルタイムで消費者と双方向でコミュニケーションをしながら買い物を完結することができる「ライブコマース」に取り組んでいます。英語圏や中国圏へのSNS配信も行い、舞鶴から全国、世界へとファンを広げていきます。
「地方にも本物を」のコンセプトでアパレルのセレクトショップ計8店舗を舞鶴市や京都市などに展開。Web通販の実績も豊富です。
工場の工作機械を稼働させる熟練者の作業をAIが自動で行うシステムを開発。熟練ノウハウや知識が必要なプログラミングや機械加工を自動化できるため、技能継承や人材確保の課題解決だけでなく、短納期・品質安定化も実現できるものづくりのDX化を提案しています。
アルミ切削加工から、医療機器やロボットまで幅広いものづくりを担う。機械に任せることは任せ、人間は「頭で汗をかく」がモットー。
新型コロナウイルスが紙の表面で24時間残存することを踏まえ、抗菌剤入り塗料で印刷物の表面を覆うことで、菌やウイルスの増殖割合を100分の1以下に抑える技術を開発。「もの」を感染経路にしないニーズに応え、さまざまな製品への展開が期待されます。
受注からデザイン、印刷、製本加工まで自社一貫生産する印刷会社。最新設備を率先して導入し、顧客の要望に応えています。
展示会や対面販売の機会が減り、受注売上げが大幅に減少する中、府内染織産地が協働し、XR技術などを活用したプロモーションを展開。産地バーチャルツアーや、遠隔での商品説明や商談、3Dのモデルによる商品展示など、新たな形で和装の魅力を発信します。
西陣織工業組合、京友禅協同組合連合会、丹後織物工業組合が協働。若い世代も視野に入れた新たなプロモーションを展開します。
産直農作物のEC化が求められるが、個別配送のコストが課題です。そこで、同じ商品を購入したい複数消費者と、受け取り場所となる近隣飲食店などをマッチングして“シェア買い”するWeb通販サイトを開設。消費者は送料を分担でき、受け取り場所の飲食店には集客の一助に。
九条ねぎの生産、加工、販売を中心とする農業法人。全国の農業者のネットワークを生かし農業の6次産業化に積極的に取り組んでいます。
コロナ禍で、産前教育の中止、育児練習機会や妊婦同士の交流の減少が続く中、インバウンド需要が低減した簡易宿泊施設を借り受け、産後ケア専門宿泊施設を運営。産後の母子の孤立を防ぎ、産後うつや虐待などのリスク低減を目指しています。
保育士・栄養士・助産師などの専門チーム。京都初の産後ケア施設「baby.mam」の運営や、産前産後の相談や配食などを通じて母子のサポートを行います。
[お問い合わせ]
中小企業総合支援課(商店街創生センター)
TEL:075-342-0303 FAX:075-366-4365
[お問い合わせ]
ものづくり振興課
TEL:075-414-4851 FAX:075-414-4842
[お問い合わせ]
染織・工芸課
TEL:075-414-4869 FAX:075-414-4870
[お問い合わせ]
観光室
TEL:075-414-4838 FAX:075-414-4870
[お問い合わせ]
農政課
TEl:075-414-4898 FAX:075-432-6866
新型コロナウイルス感染拡大による影響から府民の皆さんを守るための補正予算を編成しました。その中から京都産業を守るための予算を紹介します。
特に深刻な打撃を受けている「観光・伝統・食関連」産業を緊急支援。
観光・伝統・食関連の企業グループ(2社以上)または組合が行う新たな取り組み
連携企業数に応じて最大500万円を補助(補助率3分の2)
飲食店の営業自粛などにより影響を受けた農産物の品目転換や再生産の取り組みを支援。
3戸以上の農業者で組織する団体
公演時間や入場者数が制限され、公演実施が困難な舞台芸術団体などを支援。
文化庁支援制度の対象にならない府内に拠点のある小規模な舞台芸術団体など
舞台制作活動、会場使用料、感染防止対策費など
50万円(補助率3分の2)
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