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5 ズワイガニ漁業(応用編)

ここでは、ズワイガニがどのように獲られているのか、また、ズワイガニを獲る漁業ではどんな制限が設けられているのかなどについて紹介します。

1 底曳網漁業とは... 

 日本海の冬の味覚を代表するズワイガニ。冬の日本海は強い季節風の影響で時化(しけ)の日が多く、ズワイガニ漁は海の男達の命がけの仕事ともいえます。日本海のズワイガニ漁業は、主に底曳網で行われています。島根県の一部では、「かご縄」により獲られています。京都府では舞鶴、丹後町、網野町漁協に所属する計17隻の底曳網漁船によってズワイガニが水揚げされています。
 まず始めに、京都府(丹後)の底曳網漁業の概要について紹介します。

(1) 漁船 

 京都府の底曳網漁船は15トン未満(14トン)の「小型底曳網」が15隻、20トン未満の「沖合底曳網」が2隻の合計17隻が操業しています。府内の底曳網漁船は他県に比べると小型船が主体といえます。
  他県では100トン近い「沖合底曳網」も操業しています。

小型底曳網漁船(14トン)
ブリッジ(操舵室)の下には海水を冷却する水槽が装備され、ズワイガニは帰港するまでこの水槽の中で活かされます

(2) 漁期 

 底曳網の漁期は9月1日から始まり、翌年の5月31日までの9ヶ月間です。6〜8月の3ヶ月間は休漁となります。この中でズワイガニが水揚げされる時期は、11月6日から翌年の3月20日までの約5ヶ月間です。その他の4〜5月、9〜10月にはカレイ類、ハタハタ、ニギス(沖ギス)、タイ類などを獲っています。

漁期 期間 主な漁獲対象魚介類 漁場となる主な水深
春漁期 3月21日〜5月31日 アカガレイ(マガレイ)・ホタルイカ 220〜230m
ハタハタ・ソウハチ(エテガレイ) 170〜200m
ニギス(沖ギス)・タイ類 150m前後
秋漁期 9月1日から11月5日 ソウハチ・ヒレグロ(黒ガレイ) 170〜200m
ニギス・ヤナギムシガレイ(ササガレイ) 150m前後
アンコウ・タイ類 100〜150m
冬漁期 11月6日〜3月20日 ズワイガニ 230〜350m
アカガレイ・ハタハタ 200m前後
ソウハチ・ヒレグロ 150m前後

(3) 漁場 

 底曳網漁業の漁場は、浅いところで水深約100mから深いところで約350mの範囲に形成されています(ただし、他県の大型底曳網漁船は水深800〜900m程度まで操業することがあります)。
  漁獲する魚種により、漁場の使い分けが行われています。
  例えば、ニギス(沖ギス)、ヤナギムシガレイ(ササガレイ)やタイ類などを獲るときには、主に水深100〜150m付近が漁場となります。
  ハタハタやソウハチ(エテガレイ)などの漁場は、主に水深200m前後、また、ズワイガニやアカガレイ(マガレイ)の漁場は主に水深230〜350m付近に形成されます。
  なお、京都府沖合の底曳網漁場には、隣接する兵庫県と福井県の底曳網漁船の一部が入り合い操業し、府内の漁船と同じ海域で操業しています。


京都府沖合の底曳網漁場

(4) 操業方法

  底曳網漁業とは、2本の長いロープの先に大きな漁網を取付け、ロープと網とで海底を曳きカニや魚を獲ります。1本のロープの長さは漁場の水深により多少異なりますが、およそ1,800m前後となっています。
  漁船には長いロープを巻き取るための「リール」が船尾の両舷に付いています。
  網を曳く時間は、対象とする魚種によって異なります。例えば、ニギスなどは約40分から1時間程度と比較的短く、ズワイガニやカレイ類などは約1時間から1時間30分程度と長くなるのが一般的です。


ロープを巻き取る「リール」(左右の両舷に装備)


底曳網の漁法

ズワイガニ漁には様々な取決めがある

 底曳網による日本海のズワイガニ漁業には、資源保護を目的とした種々の漁業規制が行われています。漁業規制の中には「承認漁業等の取締りに関する省令」という省令(農林水産大臣が出す行政上の命令)が基本となっており、さらに石川県から島根県までの関係漁業者の皆さんによる自主的な規制として「日本海ズワイガニ採捕に関する協定」などがあります(下表)。
 なお、オスガニとは「松葉ガニ」のことをいいます。

省令 協定
漁期 オスガニ 11月6日〜翌年3月20日 左 同
メスガニ 11月6日〜翌年1月20日 11月6日〜翌年1月10日
水ガニ 11月6日〜翌年3月20日 12月21日〜翌年3月20日*
漁獲サイズ オスガニ 甲幅9cm以上 左 同
メスガニ 産卵を行い腹部に卵を抱えた親ガニ(大きさの制限はなし) 腹部に抱えた卵が発眼し茶黒色を呈している親ガニ(大きさの制限はなし)
水ガニ 甲幅9cm以上 左 同**
漁獲量
(1航海当り)
オスガニ 制限なし 左 同
メスガニ 制限なし 24時間以内 14箱***
48時間以内 23箱
48時間以上 54箱
水ガニ 制限なし 24時間以内 25箱
48時間以内 50箱
48時間以上 70箱

*:京都府内では府独自の制限により、1月11日から3月20日までとなっています。
**:京都府内では府独自の制限により、甲幅10cm以上となっています。
***:5寸箱

(1) 漁獲できる時期(漁期) 

 漁獲できる期間が制限されています。漁期は銘柄により異なっており、とくに産卵を行い次の世代をつくるメスガニはオスガニに比べると、かなり短く設定されています。
  また、脱皮を行ってからあまり月日が経っていない水ガニの漁期は、資源管理や市場価値などの観点から、甲羅の硬いオスガニ(松葉ガニ)に比べ解禁日が遅く設定されています。

(2) 漁獲できる大きさ(漁獲サイズ)

 オスガニと水ガニの場合には、漁獲することができる大きさ(甲羅の幅)が決められています。その大きさは甲幅9cm以上です。ちなみに、我が国が大量に輸入しているカナダ北大西洋では、漁獲サイズは9.5cm以上となっています。
  メスガニの場合には、大きさに制限はありませんが、腹部に卵(外仔)を持ち、その卵が発眼して茶黒色や黒紫色となっている親ガニだけが漁獲の対象となります(詳しくは、「3 成熟と産卵」を参照)。
  漁獲できるメスガニを外仔の色から「クロコ」と呼ぶこともあります。一方、親ガニであっても漁獲できないメスガニは、オレンジ色や赤色をした発眼していない外仔をもつことから「アカコ」と呼ばれています。

(3) 漁獲できる量(漁獲可能量)

 漁獲量の制限には大きく2つのものがあります。
  ひとつは「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」という法律によって、その年に漁獲することができる量が制限されています。この制限される量は漁獲可能量(TAC:Total Allowable Catch)といい、例えば「2001年の日本海西部海域(石川県〜島根県)のズワイガニTACは2,670トン」というように国により決定されます(下表)。この量がその年に漁獲できる上限となります。TACは国や都道府県の研究機関がその年の資源の状況を調査し、まず生物学的な漁獲可能量(ABC:Allowable Biological Catch)が決定され、これに社会的、経済的な情勢等が考慮され決定されます。
   もうひとつは、「日本海ズワイガニ採捕に関する協定」により、1航海当りの漁獲量がメスガニと水ガニとでそれぞれ制限されています。 


TACが決められる海域区分

2001年の各海域のズワイガニTAC
A海域 2,670トン
B海域 95トン
D海域 1,492トン
E海域 299トン

3 ズワイガニ漁獲量はどのように変化しているのか 

 我が国でズワイガニが漁獲されているのは、日本海西部をはじめとし、日本海北部、オホーツク海、三陸沖合などです。この中で最も漁獲量が多いのが日本海西部海域です。京都府はこの海域に入ります。

(1) 日本海西部海域 

 漁獲統計資料が整理されている昭和39年以降の漁獲量をみると、昭和40年代の中頃に最も多く水揚げされており、約12,000トンを記録していました。しかし、その後は乱獲などの影響により、昭和40年代後半には3,000トン台、50年代後半には2,000トン台、さらに60年には1,000トン台にまで減少しました。わずか20年の間に、漁獲量は10分の1に減ってしまったのです。
  最近は、各府県の漁業者の皆さんの積極的な資源管理の取組みにより(詳しくは5 ズワイガニの保護(資源管理)」を参照)、3,000トン前後まで回復してきています。

(2) 京都府(丹後)

 同じように、昭和39年以降の漁獲量をみると、京都府では昭和39年に最高値の370トンを記録しました。その後の推移は、日本海西部全体とほぼ同じ傾向を示しています。すなわち、昭和40年代中頃までは200トン台で推移していましたが、50年代に入ると100トン程度まで落込み、さらに50年代中頃から60年代には100トンに満たない不漁の年が続きました。しかし、平成6年頃から回復傾向を示しています。平成11年には195トンを水揚し、昭和47以来の26年ぶりの豊漁となりました。
  京都府の漁獲量は、底曳網漁船の規模が小さく、隻数も少ないことから、日本海西部全体に占める割合はそれ程高くはありません。しかし、京都府沖合の漁場で操業する兵庫、福井県所属の底曳網漁船の漁獲量を加えると、詳細な数量は不明ですが、その量は少なくとも2倍には増えます。

4 ズワイガニが減ってしまった理由 

 ズワイガニ漁業では、資源保護を目的として、漁獲することができる時期、大きさ、量などが厳しく制限されています。
 一方、それにもかかわらず昭和50年から60年代にかけて、ズワイガニの水揚げ量は大きく減少したことを述べました。
 これは一体どういうことなのか?ここではその原因について紹介します。

(1) 乱獲 

 農業で作物を収穫するには、田畑を耕し、種をまき、日々手入れを行うなどの人の労力が必要となります。
  それに対し、漁業で水揚げされる魚介類は、養殖魚を除いては、自然の海の中で成長し、子供をつくって増えていきます。魚介類は農作物のように人が手を加えなくても、海の中にある餌(プランクトンや小魚など)を食べて大きくなり、繁殖します。
  すなわち、魚介類が成長したり、繁殖したりするスピード(=力)と、漁業でその魚介類を獲るスピード(=力)とのバランスが保たれていれば、半永久的にその魚介類を安定して獲り続けることができます。
  ところが、漁業で魚介類を獲るスピード(=力)が、魚介類の成長や繁殖するスピード(=力)を上回れば、海の中のその魚介類はどんどん減ってしまい、やがて水揚げ量も大きく減少してしまいます。この現象がいわゆる「乱獲」です。

  では、ズワイガニの場合はどうなのでしょうか?
  ズワイガニは産まれてから親ガニになるまでに約10年を要するということから、成長スピードはたいへん遅い種類といえます(詳しくは、「2 脱皮と成長」を参照)。
  一方、ズワイガニを漁獲する底曳網漁業は、漁船やエンジンの大型化、さらに航海計器類(レーダー、プロッター、魚群探知機など)の機能、精度向上などの近代化により、漁獲する力はかなり強くなっています。ズワイガニが成長したり、繁殖したりする力と底曳網が漁獲する力とのバランスは、決して良好であるとはいえないと考えられます。
  水揚げ量が大きく減少した一つの理由として、このようないわゆる「乱獲」が挙げられます。

(2) 出荷できないため海に帰されるカニ(混獲ガニ)

1) 混獲ガニとは...

 下の写真は、底曳網の漁獲物が船上に揚げられたときの様子です。たくさんのズワイガニが漁獲されており、その数はなんと約1,500尾。ところが、この写真はズワイガニ漁期がすでに終了した5月に撮ったもので、主に「アカガレイ」という魚を獲るために行われたときのものです。
   これらのズワイガニは、漁期が終了しており水揚げできないために、カレイを選別した後に再び海に帰されます。ここでは、このようなズワイガニを「混獲ガニ」と呼ぶことにします。

アカガレイを獲るための操業の様子


底曳網が引揚げられ(左)、漁獲物が船上に広げられます(右)。ズワイガニの多さが目立ちます。


アカガレイが選別され、その後にズワイガニが海に戻されます。

 この時期にアカガレイを獲る網に入ってくる混獲ガニの数は、少ないときでも一網で約100尾、多いときには約2,000尾にも及びます(網を曳く水深帯により異なります)。
  混獲ガニが見られるのは、ズワイガニ漁期が終了した春期(4〜5月)だけではありません。9〜10月の秋期にも見られますし、もちろんズワイガニの漁期中であっても、例えば甲幅9cm未満のオスガニは水揚げできないため「混獲ガニ」となります。

 2) 混獲ガニの生き残り率

 混獲ガニの最大の問題は、海に帰された後の生き残りです。全てのカニが生き残っていれば大きな問題はありません。しかし、実際にはなかなかそうはいかないのが現状です。
  ズワイガニは、深い海の底から船上に揚げられ、大きな水圧の変化がかかっても、体内に浮袋は持たず、体は硬い甲羅で覆われていることから、このことで死んでしまうことはありません。
  しかし、水温や気温といった温度の大きな変化には順応することができません。ズワイガニが生息する海底は、一年中0〜3℃程度とたいへん冷たい環境です。これが春期では海面付近の水温は15〜18℃、秋期になると20℃以上にもなり、この温度差が混獲ガニにとって大きなダメージとなります。
  また、秋期はズワイガニが脱皮を行う時期に当たります。脱皮直後のカニは甲羅が非常に柔らかく、網に入ると他の魚介類などに押しつぶされて死んでしまいます。
  海洋センターが調べた生き残り率では、10月が極端に低くなっていますが、これは水温や気温が高かったこと、脱皮直後で甲羅が非常に柔らかかったためです。
  なお、表に示した生き残り率は、船上に揚げられ、素早く丁寧に海に戻したときの数値で、全体的に高く推定されています。

混獲ガニの生き残り率

 
オスガニ メスガニ
未成熟ガニ 親ガニ
3月 92〜99% 71〜96% 98〜100%
4月 95% 99% 95%
5月 87% 87% 97%
10月 0 % 3 % 15%
12月 100% 100% 100%

  このように、ズワイガニ漁業では資源保護のために、水揚げすることができる時期(漁期)や大きさなどが決められていますが、実際には多くの混獲ガニが見られており、死んでしまっています。ズワイガニが大きく減ってしまった原因のひとつには、この混獲ガニの問題があったのです。

5 水揚げとセリ

 京都府漁業協同組合連合会が開設する舞鶴、宮津、間人(たいざ)、網野の4市場では、11月6日の解禁日以降は、ズワイガニの水揚げで活気付きます。
 最も高価なオスガニ(松葉ガニ、間人ガニ)は、間人と網野市場ではセリ場の床に氷が撒かれ、その上に大きいものは5尾、小さいものは10尾単位で並べられていきます。宮津と舞鶴市場では、発泡スチロール箱に5〜10尾程度入れられてセリにかけられます。
 メスガニ(コッペ)は、間人と網野市場ではトロ箱に、宮津と舞鶴市場では発泡スチロール箱に入れられています。

 セリ落とさせた一級品の松葉ガニは、地元の旅館や料亭の高級料理として利用されたり、多くは京阪神をはじめ全国各地に高級進物品として利用されたりしています。
 一方、コッペや水ガニは地元の魚屋さんやスーパーの店頭に並び、丹後の冬を告げる食材として、庶民の食卓にものぼります。


セリにかけるために選別されたオスガニ(左)とメスガニ(右)(間人市場)


大型のオスガニは1箱に5尾並べられる(舞鶴市場)


メスガニのセリの様子(間人市場)

 


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