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京都府レッドデータブック2015

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菌類のロゴマーク菌類の概要

京都府の菌類相

菌界(Kingdom Fungi)は真菌界ともいわれる、「動物」や「植物」に匹敵する多細胞生物の大きなグループである。細胞内に核を持つ真核生物であり、多くが固着性の生物群である。原核生物である細菌やウイルスなどとは全く異なる。原生生物に属する変形菌などを含んで広義の菌類が定義されるが、より厳密には以下の菌界に含まれる範囲を指し、日常なじみのある呼び名で呼べばキノコ、カビ、酵母などとして一般に知られる生物群である。

他の生物群同様、菌類の分類体系は分子生物学の進展に伴い大幅な見直しの途上にある。

岩波生物学辞典(第5版)(巌佐ほか2013)に従うと菌類は真核生物ドメインのオピストコンタ上界(動物と同じグループ)に所属し、以下の様な分類体系になる。

菌界
重相菌亜界(二核菌亜界)(Dikarya)
 担子菌門(Basidiomycota)
 子嚢菌門(Ascomycota)
 ツボカビ門(Chytridiomycota)
 ネオカリマスティクス菌門(Neocallimastigomycota)
 コウマクノウキン門(Blastocladiomycota)
 微胞子虫門(Microsporidia)
 グロムス門(Glomeromycota)
 接合菌門 Zygomycota(以下の4亜門は側系統群だが、門を認める意見もある)
  ケカビ亜門(Mucoromycotina)
  ハエカビ亜門(Entomophthoromycotina)
  トリモチカビ亜門(Zoopagomycotina)
  キックセラ亜門(Kickxellomycotina)

※かつて不完全菌門に所属していた菌類は、系統関係をもつ担子菌門、子嚢菌門に再編されている。

これらは肉眼で観察できる大きさを持つキノコ類から、顕微鏡観察を必要とする微視的サイズのものまでを含むが、日本産既知種だけで12,928種(出川2003)を数える。ただし、微小な菌類のほとんどは地理的な分布が未解明である。このために京都府域の分布についてもほとんど情報がない。また、多くのレッドリストは野外観察での同定、確認が可能なもののみを対象としており、微小菌類を対象外、としているものが多い。

実際、評価可能な分布情報は大型菌類、いわゆるキノコに限られていることから、本調査は2002年版に従い、担子菌門、子嚢菌門の目視で観察できる菌類(便宜的に「大型菌類」、「キノコ」と呼ばれることが多い)のみを調査対象とした。変形菌類、植物病原菌類については目視観察も可能だが資料が不十分であり、将来の課題とした。今回の調査では、関西菌類談話会や幼菌の会、京都御苑きのこ観察会、日本冬虫夏草の会などの専門集団による菌類調査記録、各種公表されている文献、大阪市立自然史博物館の収蔵資料を重視して、情報の集積をはかり、1,355種を対象として調査した。こうした民間の研究者集団の充実は京都府の重要な財産である。

菌類相調査全体については吉見(2002)でも「不揃いな調査とならざるを得なかった」として調査が不十分であった事を述べているが、今回の調査でも状況の改善はあまり見られない。これは、京都府においては自然史博物館や生物多様性センターといった公的な生物多様性情報の集約施設がなく、継続的な情報集約ができないこと、前回調査で用いられた参考資料のほとんどが私的情報として埋もれていること、検証の根拠となる標本が私有状態で長く置かれ、再検証が可能な状態にないことに起因する。特に前回の調査の主力となった吉見昭一氏及び上田俊穂氏の死去に伴い、多くの知見が失われたことは痛恨の極みである。両氏の残した標本資料などの一部は、大阪市立自然史博物館により収蔵されたが、現在整理の途上である。両氏ともに京都のみならず菌類学への貢献をしてきた研究者であり、両氏が残した研究資料から労力をかけて府域の菌類情報を再構築することが必要となる。こうした事態を繰り返さず、安定したレッドリストの作成のために京都府域に独自の生物多様性情報の収集機関を整備することが重要である。現在京都に自然史分野でこの機能を代替することのできる大学機関は残念ながら見当たらない。行政と大学、さらに植物園や博物館など社会教育機関の連携の元で自然史博物館など情報収集体制構築を諮っていただきたい。

リスト掲載の検討項目

レッドリストへの登載は主に以下のような観点で行った。

[1]菌類レッドリストは改めて過去の採取記録を精査し、希少種・あるいは減少しつつある環境の菌類を抽出した。同時に、2002年版リストに掲載された種のその後の採取記録を確認しランクを再検討した。

[2]環境省版のレッドデータブックなどを用いて全国的な希少性を検討し、京都府域での生息地の重要性を評価してランク付けを行った。

[3]発生記録に顕著な減少が見られない場合にも、生息場所の減少が明らかな場合には予防的にリスト掲載を行った。

[4]発生が継続していても生息地が特定の場所に限られているなどのケースでは予防的にリスト掲載した。

[5]分類学的に課題があり、実態把握の困難な菌群については見直しを行った。これは標本確認ができないことにも起因する。

京都府の菌類の生息環境の変化

リストを検討して菌類の生息環境としての京都府域について2000年以降の変化をあげてみたい。

1)アカマツ林のさらなる減少

マツノザイセンチュウによる松枯れは一時の大量枯死ほどではないにせよ、マツ林に引き続きダメージを与えている。かつてのような純粋なマツ林を見ることは少なくなった。府下のマツタケ林もかなり厳しい状態にある。これはマツタケの減少のみならず、「痩せた腐植の少ないアカマツ林」に生息する菌群を同様に減少させている可能性が高い。

2)ナラ枯れ及び里山林の放置によるミズナラ林/コナラ林などの荒廃

アカマツ林と並んで過去100年の里山林を構成してきたコナラやクヌギ、ミズナラ、ナラガシワ、アベマキ、またコジイやアラカシなどの植物が、カシノナガキクイムシの運ぶ糸状菌Raffaelea quercivoraによる「ナラ枯れ」の被害を受けて大量に枯れ、大規模な森林荒廃が進行している。こうした変化により、ナラ属の植物と共生する種々の菌根菌が大きく影響を受けると予測される。また、一時的な枯死木の増加、林床の乾燥化などによっても多くの菌類が影響を受けるであろう。菌類にとどまらず、ギャップの拡大や低木層の変化を通じてナラ枯れは大きな生態系撹乱を引き起こしている。

3)シカの増加に伴う森林の荒廃と林床の乾燥化

丹後、南丹、中丹地域を中心にシカの増加による林床植生の消失が大規模に起きている。大型菌類にとっても、林床の乾燥化などにより、大きな変化が懸念されている。直接摂食されることによる影響も大きい。シカの増大は樹皮はぎなどによってモミ・ツガ林などにも大きな影響をあたえることが懸念されている。モミ・ツガ林は人工林の拡大などによって減少しており、またブナ林ほど保護されていない。モミやツガの林は広葉樹やマツとは異なる菌類層を有することから、菌類の保全上の重要性は高い。

4)海岸植生のさらなる減少

砂浜の衰退、護岸工事、海水浴場などへの利用などによって海岸植生はますます失われている。同時に後背のクロマツ林も松枯れの進行によって荒廃が続いている。これらの環境はショウロを始めとする菌類にとっても重要な環境である。

5)農耕環境の変化

農村風景の変化は近年のものではない。しかし50年という単位で見た時には牛や馬などの使役動物、積みわらの堆肥、豊富な植物を有する畦などの土手などが失われたことによって生息場所を失った菌類も少なくない。

環境が変化したわけではないが、長く情報の途絶えていたアカイカタケやコウボウフデなどの再発見もあった。これらの再発見はレッドリスト掲載による認知の向上によるところもあるであろう。菌類には一度発生が確認されてから20~40年の長期にわたって発生を見ない種がある。それが突然に発生し、再発見となる。長期的な観察が重要とも言える。

使用した分類体系及び学名について

この間の研究の進展によって、担子菌門、子嚢菌門内の分類体系も大きく変化した。例えば、ヒダナシタケ目、腹菌目といった上位分類単位は再編され、科や属の単位でも大きく再編されている。旧来のキシメジ科は分割され、ヒトヨタケ科もハラタケ科とナヨタケ科に再編された。このため、2002年版と今回の結果では和名は同じであっても、上位分類群や学名などが大幅に変更されている。市販の図鑑などと学名や科名などが違うというのはこうした事情による。研究途上の分類群では改定が繰り返され、どの意見を採用するかで学名や分類が異なる。どれも間違いではなくどの意見に従ったか、ということである。

これらと同時に旧来欧米で記載された学名に日本の種類を当てはめていた種群において、研究が進むにつれ学名や種概念の再検討が必要になっている。例えばセイヨウショウロ科など多くの地下生菌類で欧米の種類と同一であるとされてきたものが、遺伝子解析によって別種、新種として再検討する必要が明らかになっている。そうした日本産の菌についての分類学的検討が追いついていない現状がある。こうした現象は特に形態的特徴の少ない地下生菌について顕著である。このため、いくつかの地下生菌類については実態把握が困難となり、暫定的にランクダウンの処置をした。いくつかの種類は、学術的な記載がなされていない状態であるが、種として明らかでありかつ稀であることが明らかな場合にはリスト掲載を行った。一方リュウコクヒナベニタケ(仮称)など、今後の研究の進展によって京都府下の菌類の実態がより明らかになれば、現在実態がわからず検討できていない種類についても必要な場合には登載することになるであろう。

本調査においては種の認識については、今関・本郷著、原色日本新菌類図鑑I、II(1987、1989)を基礎としながら、池田(2013)、日本冬虫夏草の会(2014)、今関ほか(2011)など各種の文献を参照し、勝本ほか(2010)の学名に従う事を基本とした。なお、上位分類群は巌佐ほか(2013)を基本として採用した。

執筆者 佐久間大輔

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