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京都府レッドデータブック2015

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京都府の陸産貝類相

京都府産の陸産貝類の自然環境目録は、文献資料で京都府からの記録のある種を、後の分類体系の変更等を考慮しながら選定したものに、環境庁「第4回種の多様性調査」(1988~1992年)の結果のうち、誤同定の可能性が少なく、地理的分布状況から府内に生息する可能性が高いと考えられる種を加え、執筆者らによる最近の調査で得られた情報等を追加して作成した。その結果、2002年版の目録には計26科112種が掲載されることになった。今回の目録では、若狭湾海岸で打ち上げられた新鮮な貝殻が確認されたハマシイノミガイと、桂離宮での調査で生息が確認された国内外来種ウスイロオカチグサが加わり、計114種となった。このうち外来種は、ウスイロオカチグサを含め6種を数える。

京都市は、古くからわが国の貝類学の一大拠点であったこともあり、京都府内をタイプ産地とする種が多く、キョウトギセルやミヤコムシオイなど「キョウト」や「ミヤコ」を名に冠するものを含め、少なくとも16種を数える。しかし、その一方で、目録作成の過程で、京都府における陸産貝類の分布情報の蓄積は非常に乏しい状況にあることも明らかとなった。そのなかにあって、京都府中南部の分布情報を詳細に記録した多那瀬、垂井(1972)は特筆に値する。だが、この文献の発表から長年が経過し、生息状況は大きく変容していると予想される。また、この文献で対象地域に含まれない京都府北部に関しては、若狭湾の冠島(丹後大島)や福井県境の青葉山など、舞鶴市周辺のごく限られた生息地以外の情報はほとんど存在せず、分布情報の空白地帯が広がっている状態である。このような状況から、府内の陸産貝類相の現況把握のための調査が必要であるが、執筆者らによるものを含め、ごく限定的な状況にとどまっている。

京都府の陸産貝類相の特徴としては、京都府内に地理的分布域の辺縁を持つ種の存在がある。京都府を分布域の西南限とするものは、コシタカコベソマイマイ、ツルガマイマイ、ミヤマヒダリマキマイマイ、イブキクロイワマイマイなどの大型種に代表され、前3者は琵琶湖の北側の地峡部を経由して京都府内まで分布域を拡大している種で、府内の分布域も北東部に限定される。一方、イブキクロイワマイマイは木津川流域に分布域を伸ばし、上流域の伊賀地方から川沿いに拡大したものと推測される。また、日本海側に偏った分布域を持つニクイロシブキツボ、クリイロキセルガイモドキは、分布域の南縁が府内を横切っている。一方、京都府を分布域の東北限とするものは、シリオレトノサマギセル、カスガコギセル、クチマガリマイマイ、ヒロクチコギセル、トサビロウドマイマイなどがある。カスガコギセルとクチマガリマイマイはともに瀬戸内海周辺に分布域を持ち、京都府では南部にのみ生息するのに対し、ヒロクチコギセルとトサビロウドマイマイは若狭湾沿岸部にのみ分布し、少なくともヒロクチコギセルに関しては、海浜棲のヘソカドガイと同様、暖流の対馬海流によって分布を拡大したものと思われる。また、近年、若狭湾海岸での打ち上げ個体の存在が確認されたハマシイノミガイも海浜棲で、富山県での未確認情報とともに生きた個体の生息が確認された場合、日本海側での分布の北限となる。

陸産貝類相の多様性や固有性の決定要因として、大規模な石灰岩地の存在が重要であるが、京都府内のまとまった石灰岩地は、南丹市瑞穂町質志にある鍾乳洞周辺のみで、規模もそれほど大きくない。京都市街の北部から西部を取り囲む山地にも、レンズ状石灰岩を産出する場所が存在したが、すでに採掘されたり造林されたりし、陸産貝類にとって好適な環境が残されているのは、京都市左京区の鞍馬山の山中に限られる。鞍馬山から貴船にかけての一帯は良好な広葉樹林が残され、陸産貝類相の豊かな地域である。

種の選定

種の選定にあたっては、淡水産貝類と同様、1)府内の生息地が限られる、2)生息密度が非常に低い、3)最近の減少傾向が顕著、4)全国的に見て特異な分布を示す、5)京都府内をタイプ産地とする、6)情報が不足している、7)在来生態系に影響を与えるおそれがある、という7つの条件に配慮した。京都府のカテゴリー定義に従い、2012年8月に発表された環境省によるレッドデータの見直し結果や、近隣府県で近年刊行されたレッドデータブックの結果(兵庫県(1995、1997)、福井県(1998)、滋賀県(2000、2010)、大阪府(2001))を参考に、府内での記録が少なく、近年現認されていない種を「絶滅寸前種」、生息地が限られ、生息密度が低いか減少している種を「絶滅危惧種」または「準絶滅危惧種」、府内をタイプ産地とするか情報不足の種を「要注目種」とする方針をとった。なお今回は原則として上記した環境省レッドリスト作成の基となった種リストの分類体系に従い、総合的な文献である東(1982)、湊(1988)、環境庁自然保護局(1993)を全般的に参考とした。これらの文献は個々の種の文献としては取り上げていない。

選定種の概要

2015年版レッドデータブックでは、絶滅寸前種4種(2002年版では1種、以下同じ)、絶滅危惧種8種(10種)、準絶滅危惧種16種(9種)、要注目種15種(21種)の、計43種(41種)を選定した。

絶滅寸前種のうち、前回から継続して選定されているのはカスガコギセル1種で、環境省レッドリストでも絶滅危惧I類として扱われている存続基盤が脆弱な種で、府内の生息地では現認できない状況が続いている。新たに選定されたニクイロシブキツボ、ホラアナゴマオカチグサ、ヒロクチコギセルの3種は、前回と比較して絶滅のおそれがより高いと判断され、絶滅危惧種からカテゴリーのランクが上昇した。

絶滅危惧種は、上記3種のランクが絶滅寸前種に上昇した一方、準絶滅危惧種だったトサビロウドマイマイが加わったことで、10種から8種に減少した。ナガオカモノアラガイとクチマガリマイマイは平野部やその周辺に生息するため、人為的な環境改変の影響を特に受けやすい種である。アズキガイは新たに山城地域2か所での生息が確認されたが、そのうち城陽市の生息地は住宅地として利用される府有地で、隣接する社寺からも確認され自然分布の可能性がある。この府有地は売却の対象となっており、本種の保全についてはさらに検討が必要である。残る5種はどれも離散的かつ低密度ながら自然度の高い森林環境(もしくはそれに付随する微環境)に生息し、すでに顕著な減少傾向が認められるものもあり、生息環境の現状維持が危ぶまれると決定的打撃を受けかねない。

準絶滅危惧種は、トサビロウドマイマイが絶滅危惧種になった一方で、要注目種のゴマオカタニシ、シリオレトノサマギセル、オオコウラナメクジ、ヤマコウラナメクジ、カサネシタラガイ、イブキクロイワマイマイ、ケハダビロウドマイマイの7種が加わり、さらにヤマタカマイマイ1種がリスト外から追加されたため、9種から16種に増加した。主として平野部に生息するツルガマイマイを除き、自然度の高い森林環境に依存する種であるが、府内では分布域あるいは生息地が限定される傾向があり、生息密度も高くない。

要注目種は、7種が準絶滅危惧種になり、新たにハマシイノミガイが加わったことで、21種から15種になった。京都府内をタイプ産地とする種としては、広い地理的分布域を持ち府内に普通なナミコギセル、オカチョウジガイ、ナミヒメベッコウを除外した13種のうち絶滅危惧種の3種(キョウトギセル、ココロマイマイ、クチマガリマイマイ)以外の10種を含めた。このうちキョウトキビ、キョウトシタラガイ、ミヤコベッコウは分布情報がほとんどなく、マルニッポンマイマイ、コオオベソマイマイ、ミヤコオトメマイマイとともに近縁の類似種を含めた分類的な再検討が求められる。また、ヤマクルマガイ、ナタネキバサナギガイ、ヒメコギセルは環境庁調査を含む古い生息情報のみであり、現状確認が必要である。なお、在来種への生態的影響が著しい外来種として選定されたものはない。

前回のレッドデータブック作成時には顕在化していなかった陸産貝類に対する新たな危機要因として、府内の森林環境におけるシカの激増が挙げられる。シカによる低木や草本などの下層植生の著しい食害と、それが波及的にもたらす林床土壌の衰退と乾燥化、傾斜地の崩落は、陸産貝類の生息環境を著しく損なうものとしてその影響が懸念される。

執筆者 中井克樹

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