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第12回 新しい地方行政の未来研究会

第12回研究会の結果要旨

出席者

高見 茂委員(京都大学大学院教育学研究科教授)【座長】 
上子秋生委員(立命館大学政策科学部長)
竹廣良司委員(同志社大学経済学部教授)
野田 崇委員(関西学院大学法学部 准教授)
藤井 聡委員(京都大学大学院工学研究科教授)
(欠席)
新川達郎委員(同志社大学大学院総合政策科学研究科教授)
山田礼子委員(同志社大学社会学部教授) 
[京都府]
 本田企画監、倉石戦略企画課長  等 

結果要旨

(1)ゲストスピーカー報告

渡邊能行 京都府立医科大学大学院医学研究科 地域保健医療疫学 教授
テーマ:保健と医療を巡る公的セクターの役割について

  • 保健所にいると地域の病院のこと、医療のことがよく分かる。地域住民からも医師からもいろんな情報が入ってくる。それらを踏まえて地域医療がどうあるべきかをきちんと考えられるのは、やはり専門職の医師だけである。医大と行政をつなぐ保健所の役割は非常に重要で、だからこそ医師がやるべきであり、行政は保健所長のケアと医大の医療センターの組織、機能をどうすべきかを考えるべき。
  • 人口10万人レベルの地域の医療圏では500床の公立病院一つで十分だが、複数の総合病院がある場合、再編の議論が進まない。現場を分かっている人がコントロールすることが必要であるとともに、行政は患者調査などを通じて科学的、学問的に地域医療のあり方を研究することが必要である。
  • 「初診時選定療養費」を過度に安く設定することは、勤務医をこき使って地域医療を崩壊させることにつながる。救急医療機関も不必要に受診する人が多い。兵庫県の県立柏原病院では地元のお母さんたちが「小児科医を守る会」を立ち上げ、不要不急の受診を止めるよう地域住民に啓発するなどして、打ち切りになりかかっていた神戸大からの医師派遣の継続を確保した。地域で医師が働きやすい環境になるよう頑張っている地域には医師が残る。府の役割は、地域住民に地域医療の現状と課題を啓発すること。
  • 74歳までは健康診断による疾病予防で良いが、75歳以上は介護予防を重点化すべきで、行政の施策もそれに沿ったものであるべきである。 
     

主な議論

  • 医療の崩壊の原因に、小泉政権時の構造改革があるという話も聞くが、その点で一番苦しくなったのはどんなことかとの意見に対し、医療費や福祉関係の予算が頭打ちとなったことという意見があった。もっと健康のサービス産業にお金を入れるべきという意見があった。
  • 地域医療の充実具合と、その地域の人口増減の関係はどうかという意見に対し、道路整備やドクターヘリの活用などにより、その地域の患者をその地域で手術する必要はなくなってきている現状において、地域の中核病院にどこまでの専門性を求めるのかは、議論が必要であり、行政は医療関係のデータの収集を活かして、地域医療を住民にどう理解してもらうかに努力すべきであるきという意見があった。日本では保健は保健所・保健センターが担当し、医療は病院・診療所が担当すると分かれてしまっているが、本来一緒に考えるべきことであり、行政はそれができるようなシステムを作るべきであるとの意見があった。
  • 公的病院の経営再建の是非は、専門職が決めるべきことなのか、政治的に決めていくべきことなのかとの意見に対し、専門職はしっかり判断した上で、論理的、科学的な情報提供をし、住民の理解を得る責任があるとともに、それら専門的な意見を踏まえた上で、住民及び住民によって選ばれた首長がどういう思想に基づいて判断するかということではないかという意見があった。
  • 医療に関しては、行政として制度の整備とマンパワーの整備、両面から取り組む必要があると考えている。制度面について聞きたいが、国、都道府県、広域連合など、どこが責任を持って担うべきなのかとの意見に対し、予算を持っているところが責任を持つべきと考える。現状は、国が税を集めているのだから国がやるべき。地方でやりたいが予算がないというのであれば、それを中央政府にも国民にも発信していかなければならないとの意見があった。 

(2)「中間まとめ」に係る議論・検討

 

上子委員 「国、府県と基礎自治体との関係」

  • あるべき姿であるが、日本では住民自治が行われているが本当に望ましいか。政治学では、西洋文化ではみんなが意見を主張して、それが反映されるのが民主主義とされているが、日本やカンボジアでは個人は主張しない、公が個人の意向をくみ取って、それに対して良い、悪いを言うのが住民ではないかという意見もある。
  • 課題としては、事務が最も適切な主体で行われること。基礎自治体優先と言いながら、何でも移譲すればよいと言うものではない。最もよい仕分けを考えるべき。
  • 目指すべき方向性としては、事務の分担は市町村と広域自治体との間で、個々に決めて柔軟にしてもよいのではないか。イギリスのパリッシュは上部団体と話し合い、お金をもらって事務ができる仕組みがある。 
     

藤井委員 「文化」「組織」

  • 京都はアニメも含め、日本の文化の中心であり、文化的首都として位置づけることが必要。
  • 行政体の思想と組織的伝統は重要であり、流れを変えると組織のパフォーマンスは下がる。府のパフォーマンスが下がると府民のパフォーマンスが下がる。マネジメントが大事。 
     

高見座長「初等・中等教育」

  • あるべき姿としては、グローバル化とローカル化が同時進行する中、公立は教育委員会、私立は知事部局で対応。一律のシステムで中学の経営をすることは困難。民間の仕組みの導入が必要。
  • 課題としては、分権が進み地域で考えるとなると、すべておまかせから地域で対応することとなる。教育委員会だけでは困難であり水平連携が必要。水平連携とは、一つの組織の中での知事部局との連携、他の自治体との連携の2つがある。
  • 目指すべき方向性としては、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」において、教育委員会の共同設置が規定され、市町村の枠を越えた設置が可能。首長の委員会のTakeoverはありえる。
  • 大きな市町村では教育環境の向上のためには、福祉、衛生等都市問題の解決が必要だが、教育委員会だけではどうしようもない。首長部局との連携が重要。
  • 英国ではアカデミーという、民間の教育行政機関が財源調達、管理運営もやっている。教育費の調達方法は、税金でやるべき部分と新しい公共による民間資金の寄附であり、公財政+民間資金のミックスが必要である。民間に対して寄附を求めることは、お金を出してもらうだけでなく、教育に関心を持ってもらうという目的が大きい。

主な議論

  • ドイツでは教育への政治介入がすぎて教育が疲弊したとの意見がある。米国の政治的介入についてどう考えるかとの意見に対し、教育には中立性・安定性・継続性が重要。安定性・継続性という観点については、ベーシックな部分は法律で制度設計するなど、予防措置とセットで考えるべきだとの意見があった。 

(3)「中間まとめ」のうち「制度論」先行について

  • 事務局より説明。本研究会においては、制度論だけでなく、住民視点の様々な分野から京都の将来像を考えてきたが、大阪都構想等地方行政制度の議論のスピードがあがっている中、制度論的な部分について先行して整理したい。
  • 委員からは新しいものも大事だが、世界の常識を踏まえた議論をしてほしいとの意見があった。

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