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株式会社Atomis(京都企業紹介)

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京都品質

多孔性配位高分子で気体を自在に操るサービスを

(掲載日:令和2年6月4日、ものづくり振興課 足利、中原)

多孔性配位高分子モデル1多孔性配位高分子モデル2多孔性配位高分子モデル3

先月26日開催のPLUG AND PLAY KYOTO「Kyoto BATCH 1 EXPO(外部リンク)」にて、国内ベンチャーの中で最高評価を得られました株式会社Atomis(外部リンク)(京都市上京区)浅利代表取締役CEOにお話をおうかがいしました。

気体を操る多孔性配位高分子

--まずは御社の技術、事業について教えてください。

浅利)気体を自在に操る技術を有しています。

--どういうことですか?

浅利)固体/液体と異なり、酸素、窒素、二酸化炭素、メタン、水素などの気体は即座に拡散してしまうため、高度に制御するのは極めて困難でした。しかし、例えば、工場などで排出される二酸化炭素を回収、貯留できれば、環境問題を大きく解決できるでしょうし、水素ガスを容易に貯留、運搬できれば、水素エネルギーが大きく普及することに繋がりましょう。

--なるほど。

浅利)当社は、京都大学 高等研究院 北川進特別教授(外部リンク)の研究成果である、気体をナノレベルの「鳥かご」に閉じ込める「多孔性配位高分子技術」をベースに、多孔性配位高分子の設計、量産化、新規アプリケーション開発を事業領域としています。

--多孔性配位高分子とは?

浅利)多孔性配位高分子(PCP: Porous Coordination Polymer)は、有機金属構造体(MOF: Metal-Organic Framework)とも呼ばれます。PCP/MOFはナノサイズの細孔を持ったスポンジのような構造を持っており、非常に大きな表面積を持っています。金属イオンと有機配位子より、その3次元構造を自由に設計可能で、その細孔をデザインすることでガスや低分子化合物を特異的に吸着保持させることが可能です。

PCPとは

--こういったものは、他にもないのですか?

浅利)従来、気体の吸着剤として広く用いられてきたのがゼオライト(沸石)、消臭剤として古くから使われている活性炭は、無数の「孔」が空いた「多孔性」構造を持ち。気体分子、臭いの元となる気体分子を吸着します。こうした物質は「多孔性材料」と呼ばれ、孔のサイズを変えて目的の分子を吸着させる研究などが進められてきましたが、例えばゼオライトは、ケイ素とアルミニウムと酸素を主成分とする固い構造を有しているため、柔軟性もなく複雑な設計はできない為、多様な機能を持たせる事は非常に困難でした。

--そうなのですね。

浅利)しかし、PCPは、金属錯体、すなわち、金属イオンの周囲に有機物(配位子)が結合した構造を持ち、金属イオンや配位子の種類を変え、さまざまな機能を持たせられるのです。

用途事例

--すごいのですね!

浅利)はい。有機物自体は柔らかいものが多く秩序だった細孔を維持するような強固な構造を構築するのは難しいのですが、北川教授は、従来の常識を覆す、硬くて壊れにくい、構造が安定して保持されつつ気体を吸着できる有機物と無機物のハイブリッド材料の実現や、周囲の環境や外的刺激に応じて構造や性質が変化し、選択性の高い吸着や脱着を可能とする材料の実現に成功されました。

--外的刺激に応じて構造や性質が変化というのは?

浅利)圧力や光、温度などの条件によってPCPが柔軟に変形し、非常に小さいガス分子を効率的に吸脱着させることに成功されています。

吸着力の説明

多孔性配位高分子の量産化

--いくつか疑問があります。量産化ということですが、どうやってこの様な三次元材料を製造することができるのですか?

浅利)反応が進み過ぎても三次元構造が綺麗に組み上がらなかったりもするので、従来は反応液の濃度を薄くして、反応速度をコントロールすることで合成していました。

--しかし、御社は違うと。

浅利)よく用いられるのは、ソルボサーマル合成やマイクロ波合成が用いられます。他にも電解合成、フローリアクター合成、スプレードライ合成などが用いられています。いずれも「液相合成」によるものです。しかし、当社は粉と粉をすり合わせる「固相合成」に焦点を絞って製造プロセスを開発しています。

--ほう。

浅利)遠心せん断合成法、二軸混錬合成法、その他、いくつかの合成手法を確立しており、合成したいPCPの種類に応じて手法を変えます。ちなみに、これが実際の多孔性配位高分子です。空気中に置くだけで、空気中の水蒸気を吸収しており、色が変わっていくのがお分かりになりますか?

商材

--おお!なるほど。次の疑問として、気体がなぜ、閉じ込められるのか?大きさが計算されているということ、孔は真空だということはわかるのですが。

浅利)物質どうしが接近すると分子間力が働きます。つまり微小の細孔内にガス分子が入ると、細孔の壁から分子間力が働き、細孔内に閉じ込められるという原理です。

次世代高圧ガスボンベ「Cubitan」

--そうなのですね。では、サービスの開発ということですが、具体的には?

浅利)材料を材料として提供することもしていますし、多くの企業様と様々な用途でのコラボレーションも行っています。ただ単なる材料ベンチャーに留まるのではなく、エネルギー分野、ライフサイエンス分野で自社サービスを展開するところまで辿り着こうとしています。例えば、現在開発中の次世代高圧ガス容器「CubiTan」は全く新しい革新的な高圧ガス容器です。

Cubitan高圧ガスを置き換える

--高圧ガスボンベのイメージと全然違いますね。

浅利)キュービックなタンク、つまり四角いタンクという意味です。これまでの高圧ガス容器は円柱形で重くて嵩張るというものでしたが、我々は多孔性配位高分子のガスをコンパクトに圧縮貯蔵できるという機能を活かし、立方体で軽量かつコンパクトな高圧ガス容器を開発しています。これに、GPSや温度センサー、圧力センサーを付加して、どこの容器が、あとどのくらいでガスが切れるかといったことを、IoTで把握しようと考えています。2020年末にはCubiTanの小規模実証実験を開始する予定です。

誰もいない荒野を!素材ベンチャーで成功してみせる

--それは楽しみです。さて、最後に起業、スタートアップの観点でお話をおうかがいしたいのですが、経緯は?

浅利)会社自体は京都大学高等研究院iCeMSの樋口先生が2015年に設立いたしました。創業当時からのキーマンは、昨年度ご逝去された瀧本哲史先生です。瀧本先生は、「創業初期メンバーは親友を参画させるべき」との持論を持っておられ、樋口先生と大学時代の同級生である私に白羽の矢が立ったわけです。「素材ベンチャーで大成功しているところがないから、是非やってみなよ」ということで後日私が参画する事になりました。当時の社名は「MaSaKa-NeXT」という奇妙な名前でしたので、まずは社名変更から始めました。

--奇妙ですか?!さきほどのCubiTanといい、ネーミングのセンスが抜群だと思いますけど。

浅利)現在の社名Atomisは、ギリシャ語で「気体」の意味ですが、逆から読めば「Simota」「しもた(しまった!)」となります。他社が「しまった!そんな手があったか!」と思うようなことをしたいという意味を込めています。

--なるほど!

浅利)2017年にAtomisとなり、現在はもう一人の同級生、片岡と、VCから社外取締役2名と、経営陣は4名体制です。なお、創業者の樋口先生には技術諮問委員として現在も参画いただいています。

--しかし、ご自身はどうして?

浅利)私は大企業の技術畑で約15年働いておりました。昔は、大学が0を1にする研究をし、大企業が長い年月をかけて1を100または1を1000にしていた。でも、「失われた30年」でしょうか、すっかり変わってしまいました。大企業はある程度確実性がある10のものでないと飛びつかなくなりました。つまり大学の1をベンチャーが10にしなければならない時代になったと感じました。

--そうですね。

浅利)もちろん、株主の利益を最大化するために欧米的な考え方が効率的であることはよく分かります。ただ欧米にはスタートアップを含めた社会全体の大きなエコシステムが醸成されているからこそ成り立っているのであって、ある一部分だけを真似ても結局ガタがきてしまいます。それが現在の日本の大企業に起きているんだと思います。大学発スタートアップとして最低限この1を10にする部分は担うつもりです。ただこれだけに焦点を絞るつもりはありません。典型的なVCはよく「ベンチャーは、ターゲットを一つに絞れ」と言われます。もちろんリソースが少ないベンチャーはそのリソースを1つの案件に投下した方が成功確率を上げれると考えるのは理解できます。しかし、素材ベンチャーの難しいところは、素材を素材として売るだけは成長スピードが遅く、特にB2B案件は自社判断のみではビジネス判断できないという不確定要素が大きいことが挙げられます。つまり最低限のポートフォリオは必須だと思っています。だから我々は、新素材を用いた新しい用途を開拓し、エネルギー分野、ライフサイエンス分野をターゲットにサービスまで自社で行おうとしています。

--なるほど。そうした中で成長されるコツはなんですか?

浅利)誰もやっていないところへ行くということでしょうね。つまり「差別化」です。例えば当社が進める高圧ガス容器の分野は100年間もほとんど技術的ブレイクスルーが起きていない、ということは誰も参入したがらない、ということです。誰かが「この分野いいらしいよ」と言う分野には寧ろ行かない方が良い。その時点でみんなが狙っている、あるいは既に誰かしらが参入しているでしょうから。むしろ「ここはダメだ」というところにビジネスチャンスが落ちているのではと考えています。

--逆に苦労されたことは?

浅利)人材確保と労務管理ですね。ほとんどの人が、人に管理されることに慣れ過ぎています。管理されなくてもパフォーマンスを上げられるようなメンバーが、ベンチャー黎明期には必須だと思っています。ベンチャーは従業員が少ない故に、従業員に大きく左右されますしね。

--最後に今後の展望を。

浅利)成功しているところが少ないと言われる「素材ベンチャー」を是が非でも成功させるのが、私の目標です。

充電

 

GaaS(Gas as a Service)を目指し、CO2や窒素、さらにはメタン、水素など、様々な展開が楽しみですね。

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