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株式会社波多野製作所(京都企業紹介)

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小ロット・短納期・高品質でねじ月産1億本を実現する「知恵の経営」

日東精工株式会社(外部リンク)様からもニュースリリースしていただきました!

日東精工株式会社のページ

 

 

(掲載日:平成28年10月27日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)

 

 

 平成28年度知恵の経営企業、株式会社波多野製作所(綾部市)の波多野隆史代表取締役社長にお話をお伺いしました。

ねじ月産1億本

まず、会社の概要から教えてください。

波多野) 社員20名でねじの製造をしており、ヘッディングマシン、ローリングマシンなど合わせて約150台の設備を有しております。

結構な大きさの工場でいらっしゃいますが、ねじの製造工程はどういったものでしょうか?

波多野) 大きく分けて2つの工程があります。コイル状の材料から冷間圧造により、ねじ山のない形(リベット)に成形するヘッダー工程と、そのリベットを2つの転造工具(ダイス)の間で圧力をかけながら転がすことによって、溝(ねじ山)を成形するローリング工程です。

よくタップタイトねじの製造が難しいと聞くのですが、タップねじと何が違うのですか?

波多野) 一般にタッピンねじと呼ばれるねじは、雌ねじが穴になっているだけで溝がないものですので、低コストですが、ねじを差し込めば削られて粉が発生します。タップタイトねじは、ねじ込む時の抵抗を軽減するため、胴部がおにぎり(三角)形状をしているのです。ねじ込み後もおにぎり(三角)形状の底部に雌ねじ材が収縮されるため、緩み止め効果も高いです。しかし、おにぎり(三角)形状ですので、圧造や転造で使う工具など様々な工夫とノウハウが必要なのです。

写真:ねじ

ダイスはどのくらいの数をお持ちなのですか?

波多野) 受注しているねじの種類が約800種類ありますので、その1.5倍位保有しております。ねじは全て日東精工様に供給しており、精密ねじや特殊ねじではなく、ねじの呼び径(大きさ)でいえば2mmから5mmの一般ねじを取り扱っており、月に1億本製造しております。

他社で敬遠される「小ロット・短納期」こそ引き受ける

すごい!同社への「一般ねじ」供給シェアの高さがうかがえる数字ですね。御社の特長、「選ばれる理由」とは何でしょうか?

波多野) 普通は敬遠される、数千本などの小ロットからでも受けるということです。大量生産は海外へのシフトが進む運命にありますが小ロットは国内に必ず残ると思います。さらにねじのライフサイクルも早くなっていますし、製品の組立が簡素化されればねじのニーズ自体が減るでしょう。だから小ロットにこだわっています。そして、小ロット・短納期でも、同時並行的に多品種の受注を受ければ、大量生産並みの生産性を生み出すことができるため、そうできるように実践しています。

どういうことですか?

波多野) 例えば、A製品とB製品に共通する加工要素があれば、それに対しては、生産ライン(機械)の段取り時間が不要となります。種類が多くなればなるほど、共通要素をもった製品の種類も増えます。共通要素、共通項のある製品を続けて加工する、そういう加工順序の組み合わせを追求することで、あたかも大量生産をしているような生産効率性、歩留まりになるのです。小ロットの受注の一つひとつが、いわばパズルのピースであり、それが揃うことにより、段取替えを極限まで少なくするパズルが完成するといった感じです。

“段取替え極小化パズル”を解くー「多台持ち」と「機械ランク分け制度」

なるほど!マスカスタマイゼーション、個別大量生産の先取りのようでもあり、目からウロコですね。しかし、普通はそういう理屈通りにいかないと思うのですが、御社ではなぜそれができるのですか?

波多野) 20名の社員で機械150台という数字からも明らかなように、社員が「多台持ち作業」に対応してくれています。若い子が入社してきてくれる場合、少し経験があると、かえって我流に頼って伸びないことがあります。一方、まっさらな子は、経験豊富なハイレベルな職人の指導を素直に受け、ぐんぐん伸びます。そうした子に、小ロットの仕事をたくさんしてもらう、つまり段取替えを多く経験してもらうことにより、更に様々な応用を覚え、レベルアップしていきます。すると1台で段取り替えをするよりも、多台持ちの方が効率的で良いということになるのです。こうして各自が多くの台数を使いこなして、小ロットの受注というピースを組み合せ、パズルを完成させていくのです。

 

人材育成って難しいかと思いますが、すごく上手くマネジメントされてますね!

波多野) 工程内でのチームミーティングは長時間行いません。それより工程を超えた相談を「立ち話方式」で頻繁に行う事が多く、そういった情報交換の場で、パズルのピース(小ロット受注)を交換し合うこともあります。

パズルの完成に必要なピースを得られるわけですね。

波多野) はい。他にも必要なピースだけでなく、立ち話の中から、誰もが使いやすい研磨機や工具台、作業を効率化する治具など多数のアイデアアイテムが生まれています。

しかし、150台もの機械の負担は相当なものですよね。

波多野) はい。最新式の機械ばかりではないため、古い機械も上手く活用しています。セルフタッピンねじもそうですが、ねじはどんどん新しいものが出てきます。それに対応するには機械の精度が悪くてはどうしようもありません。機械の精度が悪いのに、歩留まりを上げろと言ってもマインドが低下するだけです。そこで、機械の改革に取り組んできました。

具体的には?

波多野) まず最初に取り組んだのは、資金が潤沢にあるわけではありませんから、遊休機械の中から有能なものを引っ張り出してきました。意外に「古いけどこっちの方がいいやん」というものがあるものです。次には最新の機械も導入しました。しかし最新の機械に作業が集中し、他が遊休化するという課題も出てきました。そして見出したのが「機械のランク分け」です。実際の加工精度をチェッカーで測定した結果や、難易度の高い受注内容に対応できる機械かどうか等で、A、a(スモールエー)、B、Cなどに分け、Cになったら、その機械は停止しメンテナンスを行うことになります。

 

図面にない要求品質を実現

素晴らしい。ということは、品質も、御社の特長、すなわち「選ばれる理由」ですね?!

波多野) 発注図面にない要求品質を実現することにこだわっています。同じ規格のねじであっても、家電製品のカバーに使われるものと、自動車の制御部品に使われるものとでは、用途によって注意すべき事項が異なります。前者の場合は寸法の精度や生産性が重要ですが、後者の場合は一つ間違ったら人の命に係わります。どの部分にどのような強度が必要か安全性も重要になります。「自動車のどのような部品のどこに使われている」のかを、ビジュアルを駆使しながら社員に示して取り組んでいます。

それは社員さんにとっても、嬉しいことですよね。友達や家族に自慢できる!

波多野) そうなんです。自分が乗れない高級車であっても、あの車の、あの部品に使われているねじ、俺が作ってるんだぞ、って言えます!

ねじを作ってる人より、ねじを使う現場を見てきた

しかし、普通、発注元はどういう部品に使うかなんて教えてくれませんよね?

波多野) はい。そのため、受注を受ける際に、詳しく聞いています。きっと少々面倒くさい奴だと思われていると思いますけれど(笑)。

そういうちょっとしたことをするかしないかで大きな差になるのですね。まさに塵も積もれば、ですね。しかし、それだけですか?

波多野) 実は、私自身、この家業に戻ってくる前は、日東精工様で機械の営業マンをしていました。いろんな製品や機械にはねじが多く使われています。そうした中で、ねじを作っている会社の人より、ねじを使う現場のことをよく見てきました。そこで培った経験、知見、ノウハウが活きています。

なるほど。それで、先ほどの機械の改革も。

波多野) しっかりとした機械を導入すれば、仕事もはかどり、モチベーションが上がるというのを、幾度となく見てきましたから。基準もなしに、精神論だけで「さあ、やれ」では、改善はできません。しかし、機械の改革は私の発想だけではありません。日東精工様の下請け企業組合による、3S(整理・整頓・清掃)の徹底事業があり、毎年どこかの企業が集中的に助言をいただき改善を行うのですが、同じ綾部の大先輩の企業経営者様に「えっ、そんなにダメ?!」と思い知らされるくらい、社外の客観的な目線で徹底的に指導を受けたのも大きいです。

「知恵の経営」に取り組んだ理由

それも素晴らしいことですね。さて、今回「知恵の経営」に取り組まれた理由は何ですか?

波多野) まず何より、会社の「歴史」を残すためです。2年前に先代社長の父が他界し、急に事業承継をしたのですが、父に会社の歴史をじっくり聞く機会もないままでした。そのため当社の昔のことなどをご存知の方に、いろいろ聞いて回りました。もう1つは、毎年、年次計画を立てて事業を行うわけですが、なぜそういう年次計画になっているのか、その背景、文脈を社員により深く理解してもらいたいと思っていました。そうしたところ、綾部商工会議所から「知恵の経営」という制度があることを教えてもらい、まさにぴったりだと思って取り組みました。

波多野製作所年表

最後に、今後の展望についてはいかがでしょう?

波多野) 小ロット・短納期、要求水準への高配慮対応といった当社のスタイルを貫き、他が追従できないくらいにまで極めていきたいと思います。そしていつか、「こんな便利な会社ないよね」「日東精工さんの、あの下請企業さん、すごいよね」と言われるように邁進していきます。

 

まさに知恵が詰まった「小さな巨人」。今後の活躍がますます楽しみです!

 

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