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中西印刷株式会社(京都企業紹介)

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オンラインジャーナル国内トップ級― 伝統と革新で「文化学術」を支えます

(掲載日:平成29年1月23日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)

あらゆるオンラインジャーナルに関する要望に応えます

 平成21年度元気印企業・中西印刷株式会社(京都市上京区)の中西秀彦代表取締役様にお話をおうかがいしました。

オンラインジャーナル国内トップ級

まず、事業の概要から教えてください

中西) 創業慶応元年、従業員数約85名で、一般印刷、学術印刷、オンラインジャーナル、学会トータルサービス等を行っています。特にオンラインジャーナルは国内トップ級です。

―オンラインジャーナルとは?

中西) 雑誌の内容すべてをインターネット上で公開し、扱いやすい検索機能などを付加し提供するものです。PDFを使って紙の本を単にオンラインでも閲覧できるようにしただけのものと、画面上で読みやすいように別途XMLで作り直したものなどがあります。印刷の工程がないために紙の雑誌よりも投稿から掲載までが速い上に、ハイパーリンクで自由に必要な文献検索ができるため、急速に普及しています。特に英語圏での取り組みが早く、現在では欧米の有力な学会誌はほとんどインターネット上で公開されるようになっています。日本では、科学技術振興機構の「J-STAGE」や国立情報学研究所の「CiNii」など公的な機関のサイトのほか、大学や研究所(機関)がその所属する研究者の成果をその機関のサイトから発信するケースが多いです。民間の出版社サイトからの購読の場合は有料のことが多いですが、公的機関からの購読は「オープンアクセス」といって無料とすることが広く行われています。

―オープンアクセスですか。

中西) 大学や研究機関からすれば、研究費を拠出して研究させたのにその結果を見ようとすると、商業出版社、場合によっては海外の出版社から、有料で学術雑誌やそのオンライン版を購入しなければならないのはおかしいという考え方で、オープンアクセス運動が起こりました。これにより、読者はお金を必要とせず、自由に論文を閲覧することができるようになりますから、ひいては引用率の上昇等も見込めます。ただし、いかにオンラインで安くなったとはいえ制作費は当然かかりますが、この負担者が読者から、論文発表者自ら、あるいは、研究者の所属機関が行うようになってきています。

―読者にはありがたいですが、制作者側の負担の問題があるのですね。

中西) 論文発表者負担モデルでは、お金のだせる人しか発表できないという問題が生じてしまいます。一方、所属機関負担モデルにおいては、もし、全ての機関がオープンアクセスを実施すれば、お互いに無料で参照し合えるようになり、購読費がいらなくなります。つまり、制作にお金を出すようになる代わりに、購読にはお金がかからなくなり、うまく機能すれば、学術情報流通の全体コストは低くなるとも言われます。

「AIが読みやすい」を実現― 国内トップ水準の「構造化組版」

―なるほど。そうしたオンラインジャーナルの国内トップ級ということですが、どうやって実現されたのでしょう?

中西) 他に先駆けて取り組んできたということですね。紙の印刷が減ることに加担する取り組みでもありますから、印刷業として、なかなか普通は参入し難いものでしょうから、意識の問題も大きいと思います。

―技術的な難しさはどういったところでしょう?

中西) ページという概念を捨てることです。オンラインではページという概念がありませんから、紙への印刷のようにページ単位の組版の美しさを追求するものではありません。むしろ、主に学術文書向けということもあり、リンクがたくさん貼ってあって、引用文献に飛んで元のデータが現れるなどの仕掛けにすごく注力しています。これを、「構造化組版」と呼んでいまして、文書中のデータに意味を持たせて構造化するのに向いているXML(eXtensible Markup Language)で、ウェブ上での情報提供の形を様々に変えたり、印刷物、電子資料など様々に出力できるよう、徹底的に論理構造化された組版を行うのです。そのノウハウは、恐らく当社は国内でもトップを走っていると思います。

―すごいですね。

中西) コンピュータが検索エンジンで探しやすい、読みやすいものにしていく必要があります。つまり、機械で人間が読みやすいように美しく整えてあげるのではなく、AIが仕事をしやすいように人間が整えてあげる、そういう時代を見据えて取り組んでいます。「物質世界」から「情報世界」への橋渡しを担っていると思っています。

―取り組まれたきっかけは?

中西) 今から20年程前、インターネットがあらゆる業界に浸透し始めてきた頃、ヨーロッパ等ではオンラインジャーナルが流行っているというのを耳にしていました。そんな矢先、当社のお得意様であったある学会から、海外のとある大学の出版会で出版するが、印刷は当社でという話が舞い込んできました。そして、オンラインジャーナルも当社が担うこととなり、プロジェクトチームが組まれたのです。私自身も1999年に渡英し学んでまいりました。そして帰国するや否や、持ち帰ってきた、ノウハウが詰まったCD-ROMを社員に渡して、すぐに取り掛からせました。当社は中小企業の印刷屋には比較的珍しく京都大学、立命館大学等を卒業した情報系や英語に強い社員がおりましたので、彼らを中心に社内チームを組んで、「構造化組版」の実現に漕ぎつけたのです。

オンリーワンの「学会トータルサービス」

―中西社長をはじめ歴代社長が京都大学ご出身というのもあるのでしょうけれど、大学とのつながりが深いのですね。学会トータルサービスというのは珍しいですよね。

中西) 学会事務、大会事務の代行です。学会事務の代行は、各種文書の作成、印刷物の在庫管理や発注などの「事務局業務」、会費請求、原簿管理などの「会員管理業務」、出納管理や口座管理などの「会計業務」、その他各種委員会業務、各種賞の選考、メーリングリスト作成など、あらゆる事務を行います。学会事務代行も同様に、会場確保、次第や冊子の作成、当日のお茶の手配などなど、何でも対応します。昔は学生・院生が担っていた場合が多かったのですけれど、時代の変化ですね。

 

―他に同様のサービスをしてらっしゃる企業はあるのですか?

中西) 少なくとも京都では聞きませんね。名簿管理等だけであれば、IT関係の参入もありましょうけれど、当社のようにここまで幅広く対応しているところは聞きません。現在、約40の学会をサポートしています。

木版、活版、平版、オンデマンド印刷― 世界的にも珍しい150年企業

―紙を使わないオンラインジャーナルなど最先端を走ってらっしゃいますが、もともと老舗の印刷屋さんでらっしゃいます。

中西) 江戸時代末期の木版時代からの非常に古い歴史を持っており、木版、活版、平版、デジタル印刷まで経験してきた印刷屋は世界的にみても唯一ではないかと思います。

―すごいですね。

中西) かつては二条城の近辺にありました。京都府庁が二条城にあったからです。明治18年に府庁が現在地に移転したのに合わせて、当社もそのすぐ隣の現在地に引っ越してきたのです。

 

―そうなのですね!それにしましても、印刷技法には様々な歴史があるのですね。

中西) 版を使わないデジタル印刷を除いて、印刷には大きく分けて凸版、凹版、孔版、平版の4つの版式があります。「凸版」は最も古くからある印刷技法で、とび出たところのインキだけが紙に転写される、ハンコと同じ原理ですね。木版や、15世紀にドイツ人グーテンベルグが完成させた活版(活字の組み合わせによる凸版印刷)などです。「凹版」は工業的にはグラビア印刷などがあります。針等で凹ませたところに溜めたインキを転写させる、非常に細かい表現が可能なので、お札や切手などに利用されることも多いですね。「孔版」も古くからある技法で、孔の開いた版を紙の上に置き、その上からインキを押し付けると、孔の部分にはインキがのり、そのほかにはのりません。ガリ版印刷がこの代表ですし、プリントゴッコもこの一種ですね。そして、「平版」はオフセット印刷とも言いまして、写真の技術を応用して光を当てた、印字したい箇所だけにインキがつくよう、アルミ製の版の表面を化学的に変化させることによって印刷するものです。

―なるほど。

中西) 当社では1992年までは活版を行っていました。京都府の公報の印刷が最後の活版の仕事となりました。鋳造で作った鉛製の「活字」を一本一本棚から拾い上げる「文撰」、それをインテルと言って行間や余白を設けるための薄い木の板とともに組み合わせて並べていく「植字」、これを凧糸で巻いて止め印刷用の版にしたのが「活版」です。時代を遡るほど鋳造された活字の精度が低いため、それに伴うわずかなゆがみや大きさの違いがありました。それを職人の手さばきで見事な「活版」を作り上げていたのです。文撰場に並ぶ活字は、書体は明朝、ゴシックくらいしかなくても、漢字はアルファベットと違って種類も多いし、常用漢字以外の地名、人名などにも特殊なものがあるし、文字の大きさも見出し用、脚注用、ルビ用など様々あるため、全て合わせると10万くらいあったかと思います。そんな中で、文撰の達人は、棚の活字を見ずに原稿だけを見て活字を拾い上げるだけでなく、活字を棚に戻す時もそれと同じスピードで、拾った活字を見ずに棚に戻していましたね。一人前になるのに10年かかると言われていました。

  

―すごいですね。

中西) その後の平版では、文書の「ワープロ入力」、ページの形に整えた「版下(原稿)」を作る「組版」、それを最終版のフィルムとしておこす「製版」、そこから実際の物理的な印面(ハンコ)を作る「刷版」という工程へ変わりました。これらも早い段階から電算化しました。現在、組版システムは、国内で多いMacintoshではなく、世界的に圧倒的なシェアを誇り、アプリケーションの選択肢も広いWindowsDTPを採用しています。また、デジタルデータから刷版を加工する装置には、現像液など化学薬品を使わない、環境にやさしいケミカルレスサーマルCTPを用いています。

 

―素晴らしい。

中西) デジタル印刷(オンデマンド印刷ともいいます)では、平版が印刷までに刷版を作成したりする手間がかかり、印刷が実際に行われるまで時間がかかるのに対し、コンピュータのデータを直接印刷機に送り込み、印刷が要求されたときに電子写真方式等の方法によりすぐに印刷が始められるのがメリットです。当社では、最新鋭のXEROX Color 1000iPressを導入しました。これまでのような油塗布を不要とするため、べっとりとした「てかり」がありませんし、クリアトナーを装備し、これまで難しかった表紙の光沢加工も可能とするなど、平版に近しい仕上がりを実現します。

―最近の印刷における傾向はどういったものでしょうか。

中西) 少量多品種生産です。今までの同一大量から180度代わり、「1to1」と言っていますが、高性能のデジタル印刷機で、1枚1枚違うものを、高速で印刷することまでが求められています。

「他ではできない」が辿り着き、世界の文化を支える

―さて、御社のホームページに「世界の文字」の紹介がありますね。

中西) 先々代社長が、当社の活字倉庫に世界中の文字の活字を揃えていました。「印刷業は単なる産業ではない、文化を支えている」という信念があったのです。その結果、「どんな文字でも印刷できる」というのが当社のウリにもなっていました。例えば、大手印刷会社が請け負ったものの、結局音を上げて当社に辿り着いた依頼が「西夏」文字印刷です。

―西夏ですか?

中西) 西夏は、12世紀、中国西方にあった強国で、ここで使われていた文字は漢字に似ていますが漢字よりもはるかに画数の多い、独特な体系を持っていました。しかし、蒙古に滅ぼされた後はほとんど使われなかったので、読める人がいなくなっていました。膨大な資料は、中国西方文化や歴史、仏教の伝播経路などの解明にも大いに役立つと期待されていました。そしてこの文字の解読に成功したのが、のちに京都大学文学部長、図書館長になられた西田龍雄博士です。しかし、この文字を印刷できる印刷会社が皆無だったので、論文はお書きになっていましたが、体系的な本が出せないままでいらしたのです。それを当社で活字を作るところからはじめて印刷しました。

―すごいですね。

中西) ビルマ語辞典も、活版時代ですが全国どこの印刷屋さんもできずに最後に当社に持ち込まれたものです。ビルマ語は独特の丸みのある文字で、もちろんビルマ語だけなら、ビルマに行けば、ビルマ語活字はいくらでもあったわけで印刷できたわけですが、辞書ですからビルマ語だけでなく日本語も出てくるわけです。ビルマ語と日本語を同一紙面に印刷するということを当時の活版職人さんたちは成し遂げました。

―最後に今後の展望について、いかがでしょうか。

中西) これまで当社は、時代に先駆けた取り組みを重ね、数々の転換期を乗り越えてきました。これからも革新と伝統を積みかさね、「印刷を通じた文化学術への貢献」を果たしてまいりたいと思います。

 

今後の展開がますます楽しみですね。

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