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知の京都- 齊藤尚平さん(京都大学大学院理学研究科 化学専攻 准教授)

産学公連携、産業振興の一環として、京の研究者・専門家の皆さんを紹介するページです。

知の京都 京都府の産業支援情報

羽ばたく分子「FLAP」を用いた光で剥がせるライトメルト接着剤

(掲載日:令和2年10月1日、ものづくり振興課 足利)

齊藤先生

 京都大学大学院理学研究科 化学専攻 准教授の齊藤尚平さんにお話をおうかがいしました。

光で剥がせ、熱に強い、ライトメルト接着剤

--先日開催されましたサムコ科学技術振興財団の贈呈式でもお話をお聞きしましたが、改めてどんな研究をなさっているか教えてください。

齊藤)剛直な2つの翼を柔軟な関節でつなぎ合わせた「羽ばたく分子『FLAP』」を独自に創り、その羽ばたき運動を利用して、光で剥がせる接着剤「ライトメルト接着材」の研究をしています。

羽ばたく分子FKLAP

-- UV硬化樹脂など光で硬化させる話は聞きますが、光で剥がせる接着剤、ですか・・・?

齊藤)まず背景としまして、近年、ボルトやナットを用いた従来の固定技術に代わって、軽量な有機接着剤が活躍の場を広げています。接着の仕組みというのは、ご承知のとおり、はじめは流体で固定時に硬化するということであり、硬化の引き金は、熱・光・水分などの化学反応のほか、温度、溶媒など様々あります。そして、瞬間硬化、耐候性、通気性、剥離性、異種材料の接着など様々な機能が求められる、逆に言えば、様々な機能を付与できるわけです。例えば、仮固定用の、熱で剥がせる「ホットメルト接着剤」などがそうですね。自動車、航空機、IT、半導体、ディスプレイなど各方面で、こうした新しい機能接着技術への期待が高まっています。

--なるほど。

齊藤)さきほどのホットメルト接着剤は、さまざまな製造工程で部材を加工する際の仮固定に用いられているのですが、一方で、当然ながら、高温では接着力を失ってしまうため使用シーンに制約があるわけです。しかし、今回のライトメルト接着材料は、100 ℃の高温でも1 MPa以上の接着力を保持しつつ、数秒のUV照射(光量320 mJ cm–2)で剥がれるという性能を有するものなのです。

分子の「羽ばたき」

--おお!すごいですね!どういう仕組みですか?予習したのですが難し過ぎてよくわかりませんでしたので、相当簡単にお願いします(笑)

齊藤)わかりました(笑)。簡単なポイントだけ申しますと、まず、高温でも接着力を保持するのは、積み重なったV字型の分子骨格が強く相互作用して高い凝集力を実現しているからです。「液晶は柔らかいので接着には使えない」という従来の常識を打ち破るものです。

接着力

--液晶。液体の流動性と、結晶の光学異方性を併せ持つ分子ですね。

齊藤)そう。そして、UV照射で剥がれるのは、光二量化と言いまして、光照射によって分子2個が結合することで、V字型なくなります。それが不純物として働き、全体が液化する、つまり、剥がれるというものです。V字の腕の部分には、光反応性を持つアントラセンで形成しています。

剥がれる

--光反応性。特定の波長の光を吸収することで励起状態に変わる性質ですね。

齊藤)そう。しかも、光が照射された部分、つまり、界面で剥離できるので、剥離後がきれいです。

ガラスを接着 剥がれる

--いいですね!

齊藤)現在、FLAPの「羽ばたき」という、光反応駆動型とは違うメカニズムにより、再接着の際に高温にする必要すらないような、新しいタイプのライトメルト材料の開発も進めています。

--その羽ばたきで、周囲の液晶に影響を及ぼすということですかね。

齊藤)そういうことです。

羽ばたき

必要な物質そのものを作るという創造性

--なぜ、「羽ばたき」を着想されたのですか?

齊藤)液晶、有機FET、有機太陽電池、蛍光プロープ、芳香族高分子、染料・顔料など様々な機能分子としてよく用いられているπ結合分子を着目したのです。π結合分子がよく用いられている「鍵」の1つが、その剛直性ではないかと考えました。そして、敢えてその逆、つまりπ結合分子の柔軟性に着目しまして、剛直性と柔軟性のハイブリッドを志向したのです。

--なんかすごい発想だということは分かるのですが、そもそもπ結合分子って何ですか?

齊藤)化学結合には、結合の強い順に、共有結合、イオン結合、金属結合、分子間結合といった様々なものがありますね。共有結合は、ご承知のとおり、原子同士が一番外の殻にある電子(価電子)の一部をお互いに共有して電子対を作り、より安定な状態になる結合のことです。実際は、電子は原子核の周りを回っているというよりは、モヤモヤと存在していて、電子軌道というかモヤモヤした雲の重なりによって共有結合は形成されるのですが、2つの原子を結ぶ方向に延びた電子雲の重なりによる結合をσ(シグマ)結合と言います。σ結合による結合軸とは別方向(直角方向)の電子雲の重なりがπ(パイ)結合で、多重結合を形成します。

--そうなのですね。しかし、すごい発想力でらっしゃいますね。

齊藤)実は理学部では「分子」は学んでも「高分子」の講義がないのですよ。三大材料と言えば、「セラミック」「金属」の無機材料と、「高分子」の有機材料です。通常1万以上、最低でも3,000以上の原子が連なる高分子は、服、紙、プラスチック、世の中の多くの工業製品で扱われており、理学部から化学メーカーに就職すると戸惑うケースもあります。そんな中で、分子も、高分子も、と分野融合で研究をしています。

--そうなんですね。

齊藤)一方で、「化学って、分子を作れる」と、うらやましがられますよ。自分たちで必要な物質を作れるという創造性があります。化学者はみんな、新しい分子を作って化学技術を刷新したい、ちゃぶ代返し、ゲームチェンジングにつながるような、そんな研究をしたいと思っていると思います。

--そんなすごい「化学」の応用分野は、どういった分野と言えましょうか。

齊藤)そうですね。1つはマテリアルですね。さきほど申しました三大材料等です。次に、ライフサイエンス、バイオ、つまり健康・医療等ですね。そして3つ目は、エネルギーです。

超一流の条件

--もう1つお聞きしたかったのが、冒頭の贈呈式の場でも「私が見ても、おっと思う優秀な学生も・・・」というお話をされていましたが、先生から見てどういう方が優秀なのでしょうか?

齊藤)学生はともかく、私が思う「超一流の研究者」に必要な3つの力としては、まず、「行動力」があることです。まずはやってみる、人と交流する、ということが大事です。

--これは私も少しは自信があります(笑)。

齊藤)2つ目が「洞察力」です。徹底的に調べて、深く考えることです。

--ああ、私の大きな課題、テーマです(笑)。

齊藤)1つ1つの実験結果をどう捉えるか、これって、結構人によるんですよね。

--役所でもそうかもしれません。目の前で起こっていること、世の中で起こっていることから、何をどのように課題としてピックアップするかということが、結構キモです。

齊藤)今はインターネットでとことん調べられますし、「教えられていない」という言い分けは通じないのですが、徹底的に調べた上で、自分の脳みそで徹底的に考えるということです。

--なるほど。

齊藤)しかし、ここまでは「一流」です。「超一流」は、3つ目として「発想力」が必要です。何が常識で、何が非常識か知っていること、つまり、どこまでが人類の教科書で、どこからがまだ知られていないことかを分かっていて、その非常識のところに集中して取り組んでらっしゃる方が超一流です。

 

うーん、人類の教科書が分かってらっしゃるという時点で、相当勉強しているということですよね。やっぱり努力かあ(笑)

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商工労働観光部ものづくり振興課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4842

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