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消化管寄生虫鞭毛虫のジアルジア(Giardia lamblia.)による原虫感染症です。世界中 に広く分布しますが、特に熱帯や亜熱帯地域(南アジア、東南アジア、北アフリカ、カリブ 海、南アメリカ)で衛生環境が粗悪な地域に多発しています。
わが国でも戦後に多くの患者が発生しました。衛生状態の改善にともない発生数も低下し ましたが、年間50例以上の患者がみられています。このうち6割以上が海外での感染と推 定されます。発展途上国からの帰国者の下痢症例で検出率が高く、旅行者下痢症の一因でも あります。また、海外旅行での感染例では、細菌性赤痢や下痢原性大腸菌、赤痢アメーバな どとの混合感染例が少なくありません。
京都府においてはこの11年間(2011年~2021年)で14例の報告がありました。全国で は680例であるが減少傾向を示しています。近畿地方2府4県の合計は144例、東京都は 11年間と通じて最多で11年間で173例、大阪は11年間で54例が報告されています(表 1、図1)。
表1
年 | 全国 | 近畿 | 京都府 | 東京都 |
---|---|---|---|---|
2011 | 65 | 14 | 2 | 13 |
2012 | 72 | 19 | 1 | 16 |
2013 | 82 | 20 | 1 | 22 |
2014 | 68 | 15 | 2 | 15 |
2015 | 81 | 17 | 0 | 20 |
2016 | 71 | 18 | 5 | 16 |
2017 | 60 | 9 | 1 | 24 |
2018 | 68 | 10 | 0 | 19 |
2019 | 53 | 10 | 2 | 12 |
2020 | 28 | 8 | 0 | 8 |
2021 | 32 | 4 | 0 | 8 |
合計 | 680 | 144 | 14 | 173 |
糞便中に排出された原虫嚢子により食物や水が汚染され、経口感染を起こします。氷や 生野菜などを介した食品媒介感染のほか、汚染された水道による水系感染や、性的接触に よる感染もあります。嚢子は湿った状態で抵抗力が強く、通常の塩素消毒では死滅せず、 60℃・数分以上の加熱で死滅します。流行地では生水や生野菜などに注意しなければいけ ません。飲料水を介した大規模な集団感染と、ヒトとヒトの接触や食品を介した小規模集 団感染があります。
潜伏期 は1~3週間で、主な臨床症状は下痢、全身衰弱、体重減少、腹痛、悪心や脂肪 便です。下痢はすべての症例でみられ、非血性で水様または泥状便です。排便回数は1日 数回~20回以上と様々です。発熱は多くの場合みられません。
衛生環境の劣悪な地域では、充分に加熱調理された食品以外は摂取を避け、飲料水にも 充分注意してください。アルコールや消毒剤では死滅せず、熱湯消毒が有効です。
治療にはメトロニダゾールを処方します。下痢は1-2週間程度で自然治癒しますが、一 部は慢性感染に移行します。慢性感染では、脂肪便、乳糖不耐症、体重減少の原因となり ます。
全数報告対象(5類感染症)であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け 出なければならない。