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更新日:2022年10月17日

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レプトスピラ症

レプトスピラ症(ワイル病)とは

病原性レプトスピラ感染に起因する人獣共通の急性熱性疾患です。病原性レプトスピラは 保菌動物(ドブネズミなど)の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。ヒトは、保菌動物の 尿で汚染された水や土壌 から経皮的あるいは経口的に感染します。

疫学

日本では、2007-2016年にかけて30都府県から284例の届出がありました。国内感染例は毎年15-42例発生し、発生月別では7月から10月に集中していました。国内の 推定感染地は沖縄県、東京都で多く報告されています。国内では散発的な発生のほか、台 風や洪水後の集団感染や、2014年には沖縄県の米軍訓練での淡水曝露による239人の大 規模な流行報告もありました。

感染原因では、河川での感染(レジャーや労働)が最も多く、ネズミ(し尿含む)との 接触、 農作業に伴う感染がこれに続きます。2021年の沖縄県のレプトスピラ症では、河 川でのレジャー・労働による割合が高く、河川を利用する人への啓発が必要です。推定感 染地が東京都の症例では, ネズミとの接触が7割を越えました。2007-2016年(4月ま で)の期間に京都府での報告はありませんが、その後2016年2件、2017年2件、 2022年1件の報告があり、河川での労働が4例、海でのレジャーが1例ありました。

国外でのレプトスピラ症の流行は全世界的に起こっており、ブラジル、ニカラグアなどの 中南米、フィリピン、タイなどの東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の国々での流行があげられ ます。 これらの流行地域からのレプトスピラ症の輸入感染例が報告されており、海外から の家畜、ペットの輸入を介してレプトスピラが持ち込まれることもあります。

病原体と感染経路

レプトスピラ(Leptospira)は、スピロヘータ目レプトスピラ科に属するグラム陰性細 菌で、好気的な環境で生育し、中性あるいは弱アルカリ性の淡水中、湿った土壌中で数カ 月生存できます。

レプトスピラ菌はネズミ、イヌ、家畜などの哺乳動物の尿から排泄され、土壌や水を数 週間にわたり汚染します。土壌、水、保菌動物と接触した際に、皮膚や粘膜からの細菌侵 入により感染します。大雨や洪水のあとは、汚染水がうっ滞し、またネズミと接近する機 会が増え、感染の危険性が高くなります。ヒトからヒトへの感染の報告もあります。

臨床症状

潜伏期は、通常は5~14日(まれに~3週間)です。

レプトスピラ症には、感冒様症状のみで軽快する軽症型、黄疸、出血、腎障害を伴う重 症型(ワイル病)があります。潜伏期を経て、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、結膜充 血などが生じ、発症後4~6日目に黄疸や出血傾向もみられることもあります。特異的な 症状がなく、初期診断は困難となっています。軽症型の予後は一般的に良好であるが、ワイル病では早期治療がなされない場合、死亡率は20~30%となります。

治療と予防

軽~中等度のレプトスピラ症の場合には、ドキシサイクリンの服用が推奨されます。重 症型の場合は一般にペニシリンによる治療が行われます。他のスピロヘータ感染と同様 に、レプトスピラ症の治療にペニシリンを用いた場合はヤーリッシュ・ヘルクスハイマー 反応(投与後、破壊された菌体成分による発熱、低血圧を主症状とするショック)がみら れることがあり、静注投与後の観察が必要です。

レプトスピラ症の予防として、現在日本では、4血清型の全菌体ワクチンが製造されて いますが、レプトスピラに対する免疫は血清型に特異的であるため、予防効果は不明で す。東南アジアでは、レプトスピラ症の流行は多雨期から収穫期(7~10月頃)に集中し ます。レプトスピラ症の流行地域では水に入らないこと、特に洪水のあとには絶対に入ら ないことが重要です。

参考文献

1. 国立感染症研究所,レプトスピラ症とは IDWR 2003年第1.2号(外部リンク)

2. 東京都感染症情報センター.レプトスピラ症(外部リンク)

3. Renee L. Galloway et, al. CDC. Traveler’s health. Chapter3. Leptospirosis.(外部リンク)

4. レプトスピラ症 2007年1月~2016年4月 IASR 2016;37:103-5.(外部リンク)