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更新日:2025年1月20日

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エムポックス(旧名:サル痘)

エムポックスとは

令和5年5月26日に「サル痘」から「エムポックス」に感染症法上の名 称が変更されました。

エムポックスはオルソポックスウイルス属のモンキーポックスウイルス(別 名:エムポックスウイルス)(MPXV)による感染症で、同じオルソポックス ウイルス属には天然痘(痘そう)ウイルスなども含まれます。国内では感染症 法上の4類感染症に指定されています。自然宿主は現時点では不明です。 MPXVにはクレード1.(1.a, 1.b)と2.(2.a, 2.b)との二つの系統が存在 し、有痛性の発疹や粘膜病変などを特徴とする急性発疹性疾患です。多くは 2−4週間で自然に回復しますが、小児や免疫不全がある場合、重症化する可能 性があり、死亡例も報告されています。

感染動物や感染者との密な接触や寝具の共有等により感染します。母体が感 染した場合、胎児や新生児にも感染する恐れがあります。

発生状況

エムポックスは1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めて 報告されて以降、アフリカ東~中央部(クレード1.)および西部(クレード 2.)の人々の間で感染がみられ、当時の患者は15歳以下の子どもの割合が多 くみられていました。

2022年5月以降、クレード2.bが世界的に流行しました。男性間での性的 接触を行う男性(MSM)同士の性的接触が主な感染経路と報告されていま す。WHOは同年7月に国際的な公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)を宣言しま した。2023年5月に宣言は解除されましたが、2023年3月以降東アジ ア、東南アジアなどからの報告が増加しています。国内では、2022年7月に 1例目の患者が確認され、以降散発的な患者の届出が続いています。京都府で は2024年7月に初めて患者の届出がありました。

さらにそれらとは別に、コンゴ民主共和国では以前よりクレード1.の感染拡 大がみられていましたが、2023年には過去最大の感染者数・死亡者数が報告 されました。そして新たにMPXVクレード1.bが同定されました。クレード 1.bは感染者との密着により感染し、感染者は主に成人で、主に性交渉を介し て他の集団へと拡大しています。2024年7月にコンゴ民主共和国に隣接し た国々への感染拡大を受け、8月WHOは再度PHEICを宣言しました(202 5年1月現在継続中)。同時期にスウェーデンでアフリカ以外では初のクレー ド1.bの感染者が確認され、以降ヨーロッパ・アジア・北アメリカ各国で感染 者が確認されています。

臨床経過

潜伏期間は5~21日(通常6~13日)で、発熱・頭痛・リンパ節腫脹などの 症状が0-5日程度持続し、発熱の1-3日後に発疹が出現します。多くの場合 2-4週間持続し自然軽快するものの、小児例や、あるいは曝露の程度、患者 の健康状態、合併症などにより重症化することがあります。

致命率は0-11%で、2022年以前の報告では致命率はクレード1.でクレー ド2.よりも高いと報告されています。ただ、2022年以降の流行では上記と異 なる臨床経過も報告されていますので、適宜国立感染症研究所などのホームペ ージもご参照ください(※)。

治療薬

治療の基本は、補液などの支持療法と疼痛コントロールです。また、MPXV に対する特異的治療薬としてテコビリマットが2024年12月に国内で承認 されました。テコビリマットはウイルスがヒトの細胞内で複製されるのを防ぐ 作用を持った薬剤です。

感染対策

発熱、皮疹等がありエムポックスが疑われる患者には、標準予防策(マスク着 用・咳エチケット・手指衛生)を基本とし、患者が使用したリネン類や衣類は直 接的な接触を避けます。MPXVの主な感染経路は接触感染や飛沫感染です。し かし水痘、麻疹等の空気感染を起こす感染症が鑑別診断に入ること、MPXVに 関する知見は限定的であること、入院中の免疫不全者における重症化リスク等 を考慮し、現時点では、医療機関内では空気予防策の実施が推奨されます。

天然痘ワクチンによって約 85%発症予防効果があると言われています(Fine PE, 1988)。

詳しい情報

2024年7月にクレード1.bが同定されて以降、現在も新たな知見が随時発 表されています。最新の知見については、国立感染症研究所等の関連文章をご参 照ください。

国立感染症研究所 エムポックス(外部リンク)