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京都府では、人権という普遍的文化を構築することを目標に、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)に基づき、2016年(平成28年)1月に「京都府人権教育・啓発推進計画(第2次)(以下、「第2次推進計画」という。)」を策定した。その後、新型コロナウイルス感染症の拡大により、憶測によるデマや誤った情報の拡散、大学や個人への誹謗中傷、インターネット上での心ない書き込みなど、さまざまな事象が社会問題化したことから、2022年(令和3年)3月に「第2次推進計画」を改定したところである。
本実施方針は、人権に関する法律における地方公共団体の責務を踏まえ、第2次推進計画(改定版)に基づき、2025年度(令和7年度)の人権教育・啓発の取組を推進する上での重点事項を明らかにするため策定するものである。
2024年度(令和6年度)における国内外の制度規範等の動きを概観すると、国外においては、ロシアによるウクライナ侵攻及びイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突が依然として続いている。12月には国連総会の緊急特別会合で、ガザ地区の状況に深刻な懸念を表明した上で、人道目的の即時停戦を求めているほか、すべての人質の解放や人道支援の確保などを求める決議案の採択が行われた。そのような中で国連は、6月に「情報の誠実性のための国連グローバル原則」を発表し、人権と持続可能な未来を擁護する情報環境を求めるとともに、『持続可能な開発目標(SDGs)報告2024:特別版』を発表した。報告では、SDGsのターゲットのうち、現時点で軌道に乗っているのはわずか17%であり、新型コロナウイルス感染症の長引く影響、紛争の激化、地政学的な緊張、気候カオスの拡大により、進歩が大きく妨げられていることが明らかになったとされている。
SDGs達成には、より強力で効率的な国際協力によって、ただちに前進を最大化させることが緊急に必要であることが強調されている。
また、国連は9月に人権やジェンダーにも関わる広範な課題を対象とした「未来のための協定」を採択した。
さらに、2024年(令和6年)12月には、国連総会で20年連続20回目となる北朝鮮人権状況決議が採択され、拉致問題を含む北朝鮮の組織的かつ広範で深刻な人権侵害を非難し、その終結が北朝鮮に強く要求されている。
国内においては、2024年(令和6年)4月に、総務省・経済産業省において、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」が作成・公表された。
また、6月には、人権に関わる教育・啓発活動を行う関係府省庁間において、人権教育・啓発関係府省庁連絡会議が開催され、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」に基づく基本計画の見直しを検討することとされている。
一方、人権をめぐる状況をみると、同和問題(部落差別)や女性、子ども、高齢者、障害のある人、外国人等の様々な人権問題が依然として存在している。更に、インターネット上での人権侵害、長時間労働・過労死など働き方や労働環境に関わる問題、自然災害が頻発する中で、災害弱者への情報保障を含む配慮等の避難所運営のあり方、LGBT等性的少数者が直面する困難などの新たな人権課題も顕在化している。
こうした中で、下表のとおり、人権に関わる多くの法律が成立又は施行されている。こうした法律に基づき、人権が尊重される社会の実現が一層図られるとともに、改めて、一人ひとりの尊厳と人権の大切さを、社会全体で共有していくことが強く求められている。
法律の名称 | 主な内容 | 備考 |
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障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 |
・事業者による障害のある人への合理的配慮の提供を義務化 |
R3.6.4公布 R6.4.1施行 |
困難な問題を抱える女性への支援に関する法律 |
・「女性の福祉」「人権の尊重や擁護」「男女平等」といった視点を明確に規定 ・「民間団体との協働」といった視点も取り入れた新たな支援の枠組みを構築 |
R4.5.25公布 R6.4.1施行 |
児童福祉法等の一部を改正する法律 |
・子育て世帯に対する包括的な支援のための体制強化及び事業の拡充 ・一時保護施設及び児童相談所による児童への処遇や支援、困難を抱える妊産婦等への支援の質の向上 ・社会的養育経験者・障害児入所施設の入所児童等に対する自立支援の強化 ・児童の意見聴取等の仕組の整備 ・こども家庭福祉の実務者の専門性の向上 ・児童をわいせつ行為から守る環境整備 |
R4.6.15公布 R6.4.1施行(一部) |
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律 |
・医療保護入院の入院期間の法定化 ・精神科病院での虐待の通報制度の新設 ・入院者訪問支援事業の新設 |
R4.12.16公布 R6.4.1施行(一部)
|
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律 |
・接近禁止命令等の申立てをすることができる被害者について、「自由、名誉又は財産に対する加害の告知による脅迫を受けた者」を追加 |
R5.5.19公布 R6.4.1施行(一部) |
孤独・孤立対策推進法 |
・国・地方公共団体の責務、国民の理解・協力、関係者の連携・協力等を規定 ・孤独・孤立対策推進本部の設置 |
R5.6.7公布 R6.4.1施行 |
旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律の一部を改正する法律 |
・一時金の支給の請求期限の延長 |
R6.4.5公布・施行 |
生活困窮者自立支援法等の一部を改正する法律 |
・居住支援の強化のための措置、子どもの貧困への対応のための措置、支援関係機関の連携強化等の措置を規定 |
R6.4.24公布 R7.4.1施行(一部) |
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律 | ・大規模プラットフォーム事業者に対して、対応の迅速化及び運用状況の透明化を義務づけ |
R6.5.17公布 (公布の日から起算して1年を超えない範囲内で施行) |
民法等の一部を改正する法律 |
・親の責務等に関する規律を新設 ・親権・監護等に関する規律の見直し ・養育費の履行確保に向けた見直し ・安全・安心な親子交流の実現に向けた見直し |
R6.5.24公布 (公布の日から起算して2年を超えない範囲内で施行) |
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律 |
・子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充 ・育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化 ・介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等 |
R6.5.31公布 R7.4.1施行(一部) |
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律 |
・大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者 が円滑に入居できる市場環境の整備 ・居住支援法人等が入居中サポートを行う 賃貸住宅の供給促進 ・住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化 |
R6.6.5公布 R7.10.1施行(一部) |
子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律 |
・「加速化プラン」において実施する具体的な施策の規定 ・子ども・子育て支援特別会計(いわゆる「こども金庫」)の創設 ・子ども・子育て支援金制度の創設 |
R6.6.12公布 R6.10.1施行(一部) |
障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律の一部を改正する法律 |
・日本語に通じない児童生徒の学習の用に供するための特例規定の新設 ・著作権法の関連規定の整備 |
R6.6.19公布 R6.7.19施行 |
ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律の一部を改正する法律 | ・補償金の請求期限の延長 | R6.6.19公布・施行 |
出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律 | ・育成就労制度の創設等 |
R6.6.21公布 (公布の日から起算して3年を超えない範囲内で施行) |
子どもの貧困対策の推進に関する法律の一部を改正する法律 | ・大綱において定める指標の追加、大綱への関係者の意見反映の規定や民間の団体の活動の支援の規定の新設、調査研究の充実や成果の活用推進の追加等 |
R6.6.26公布 R6.9.25施行 |
学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律 |
・学校設置者等及び民間教育保育等事業者の責務、講ずべき措置、犯罪事実確認の仕組み等について規定 |
R6.6.26公布 (公布の日から起算して2年6か月を超えない範囲内で施行) |
京都府では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大や国際情勢の大きな変化など、歴史的とも言える社会の大きな転換点を迎えた2022年(令和4年)12月に府政運営の指針である「京都府総合計画」を1年前倒しで改定し、20年後に実現したい京都府の将来像の一つとして「人と地域の絆を大切にする共生の京都府」を掲げ、一人ひとりの尊厳と人権が尊重され、性別にかかわらず、子どもも高齢者も障害のある人も、外国人も、全ての人が地域で「守られている」「包み込まれている」と感じ、誰もが持つ能力を発揮し、生涯現役で活躍することのできる共生の社会づくりの実現に向け、いわゆる人権三法(障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法、部落差別解消法)等や「第2次推進計画(改定版)」に基づき、国内外の状況も踏まえながら、関係機関や関係団体等とも連携して、人権問題の解決に向けた施策を推進することとしている。
また、2024年(令和6年)12月に、社会情勢の変化、外国人住民や地域の状況、課題、ニーズ等に対応するため、外国人住民の日本語コミュニケーション能力の向上を目的とし、「地域における日本語教育推進プラン」を改定し、2025年(令和7年)3月には、「第2次京都府子どもの貧困対策推進計画」が令和6年度末をもって終期を迎えるため、2024年(令和6年)6月改正の「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」や、こども基本法に基づく「こども大綱」を踏まえ、「第3次京都府子どもの貧困対策推進計画」を策定した。
同和問題(部落差別)や障害のある人、外国人などの各種人権問題に係る府民啓発の取組としては、新たにLINEやX、YouTube等、SNS上での啓発に取り組んだ他、新聞、ラジオ等の広報媒体や府政広報誌「きょうと府民だより」を通じた取組を進め、さらに、「みんなで考えよう~つながり支え合うために~」をテーマに「京都ヒューマンフェスタ」を開催し、木村響子氏によるトークショー、国や人権擁護機関等、人権問題に取り組むNPOの活動紹介などを実施した。人権フォーラムにおいては、「”自分らしく”を当たり前に」をテーマにトークショー及びパネルディスカッションを実施し、ラジオ中継放送を活用して、府内全域に情報を発信した。このように様々な啓発の取組を実施し、府民が人権問題を「自分のこと」として捉え、主体的な行動につなげる機会としたところである。
さらに、府民一人ひとりの尊厳と人権が共に尊重され、全ての府民が、地域等の社会において「守られている」、「包み込まれている」等といった社会からの温かさを感じることができるようにするとともに、誰もが主体的に社会に参画し、自らの可能性を伸ばすことができる人権尊重の共生社会づくりを推進するため、「京都府人権尊重の共生社会づくり条例」を令和7年2月京都府議会定例会に提案した。
京都府では、「一人ひとりの尊厳と人権が尊重され、だれもが自分らしく生き、参画することのできる社会」の実現に向けて、人権という普遍的文化を構築するため、一人ひとりがお互いの個性や価値観の違いを認め、支え合い、だれもがいきいきと地域で生活できる「共生社会」を実現するための施策を推進している。
一方で、今日、少子高齢化や情報化、国際化が進み、家族の形態も含め社会の多様化が進展する中で、地域の力が低下していることや、様々な格差の問題、孤立社会といわれる無関心時代の到来も指摘されている。また、差別や貧困などの困難に直面している人々に対して、そうした困難への直面が本人の責任であり、また、その解消に向けた施策についても優遇であり不公平であるとするなど、他人を排斥する不寛容な言説が目立つ時代になってきている。
人権教育・啓発を進める上では、府民一人ひとりが人権尊重の理念に関する理解を深めることによって、自分の人権とともに他人の人権を守るという意識を身につけ、社会的に弱い立場におかれた当事者が、自身の権利を学び、権利の実現を要求する力を高めていくという視点と、誰もが差別・排除の対象とされることなく社会参加ができるようにしていくという視点が重要である。令和7年度の人権教育・啓発を行うに当たってはこの点をしっかりと認識し、様々な人権課題について、一人ひとりが自分の問題と認識していけるようにするとともに、異なる文化や価値観を認め合う意識を醸成していけるよう、創意工夫した教育・啓発に取り組む。
また、国や市町村などの関係機関や、NPO等民間団体と連携を図り、人権問題が複雑・多様化し、その要因が複合化している状況はもとより、学校、地域社会といった現場の状況、様々に手法を変えながら差別を助長・拡散させる書込等が見られるインターネットの状況等をしっかりと踏まえ、偏見や差別等による深刻な権利侵害はもとより、生きづらさを抱えた人々に係る様々な人権問題に対応していく。「京都府総合計画」においても触れている、様々な人権問題の解決に向けた取組の着実な推進を図り、府民が人権について学び、交流できる機会の拡充や相談体制の充実、ユニバーサルデザインによるまちづくり等を推進する。
なお、府民調査の結果から、「人権三法」に関わる領域への関心度は、「障害のある人」「外国人」「被差別部落出身者」の順に9割~7割程度と関心が高かったものの、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消法」いずれも、一部でも法律の内容など知っていると答えた割合は2割前後に留まっており、「人権三法」の周知をより一層図るとともに、引き続き、相談体制の充実と、府民が人権について学び、交流できる機会の拡充を推進する他、公務員、教職員等の人権に特に関係する職業従事者の研修に取り組む。
※ヤングケアラー:家族にケアを要する⼈がいる場合に、⼤⼈が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情⾯のサポートなどを⾏っている18歳未満の⼦ども
※センシティブ情報:思想、信条及び信教に関する個人情報、個人の特質を規定する身体に関する個人情報並びに社会的差別の原因となるおそれのある個人情報
※ゲートキーパー:死にたいほど深刻な悩みを抱えている人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人
〔教職員〕
〔社会教育関係職員〕
〔府職員〕
〔市町村職員〕
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