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新年のご挨拶

天橋立文殊水道 


          京都府農林水産技術センター海洋センター 所長 中津川俊雄

  新年明けましておめでとうございます。
年頭にあたり、謹んで新春のご挨拶を申し上げます。
  平成23年を振り返りますと、3.11が何よりも真っ先に浮かんできます。テレビの実況中継で映し出された3月11日の映像、押し寄せる大津波が今でも目に浮かんで、記憶にズシンと残っています。宮城県名取市閖上地区の家屋や田畑、ビニールハウス、道路、そして道路を走る車をどす黒い大波が飲み込んでいく様は、現実の世界とは思えず、大迫力の映画のシーンを見ているような錯覚にとらわれました。はっと我に返り、大津波の恐ろしさに息をのみ、どうか助かって下さいと念じるばかりでした。あの3月11日以降、人の命の尊さ、人と人のつながりの重さ、日常生活の大事さを痛感し、自然の脅威を改めて思い知らされる9ヶ月であったように感じるのは、私一人ではないと思います。大震災に遭遇された方々の惨状は想像を絶するものであったと思い、亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、大切なご家族を亡くされ、被災された方々へ哀悼の意を表するしかありません。
  そして、福島第一原子力発電所での事故発生という、予想外の出来事。世界でも最大級といわれる原発事故、すなわち原子炉建屋の水蒸気爆発、炉心熔融、放射性物質の放出という惨状を目の当たりにすることになりました。福島では、大震災と原発事故、風評被害の三重苦と言われ、放射能の影響のため計画的避難区域や避難準備区域等から避難された方々の悔しさ、辛さ、情けなさ、やるせなさは我々の想像をはるかに超すものだったでしょう。
  大震災では、東北地方の農林水産業や観光産業へ非常に大きい影響がありましたが、復興には長い時間が必要になり、風評被害は被災した方々の努力では拭い去ることのできないものです。支援する側、被災しなかった地域の人々の考え方が大切でしょう。今年以降も積極的な支援活動が必要だと思います。何よりも被災地域の一刻も早い復旧、復興を願うばかりです。      
  また、昨年9月12、13日には、台風12号による記録的な豪雨災害が奈良県、和歌山県、三重県で発生し、多くの犠牲者が出てしまいました。未曾有の大震災や記録的な大水害と、自然の猛威に恐れ戦くばかりの1年だったように感じます。
ところで、今回の大震災を機に、よく言われるのが、絆(きずな)という言葉でした。夫婦の絆、親子の絆、家族の絆、地域の絆、社会の絆、国と国の絆等、色々の場面で絆という言葉が使われ、その言葉の意味を改めて噛みしめる日々であったように思います。では、絆とは元々どのような意味だったのでしょうか。広辞苑をみてみました。「馬・犬・鷹など、動物をつなぎとめる綱;断つにしのびない恩愛、離れがたい情実」とあります。今回の震災を機に使われる言葉の重みからすれば、少しだけ違和感を覚えるかもしれません。また、同じ「きずな」でも『紲』の文字が目につきました。こちらの方が、地域の「きずな」や社会の「きずな」といった場合、何となくしっくりくるように思います。
  本年4月には府漁協系統組織の統合が実現し、新生京都府漁業協同組合が誕生するとお聞きしておりますが、東北に限らず、漁村地域の『紲』の強さ、深さは、今も昔も変わらないのではないかと思います。丹後の漁業系統における『紲』を一層強化させていただきたいと祈念しております。
府における基幹漁業の一つであり、丹後では漁村地域の重要な産業と位置づけられる定置網漁業は、地域の『紲』を感じます。『紲』を大事に若い世代に引き継いでいただき、技術の伝承をしてほしいと願うばかりです。その意味で、定置網漁業における経営の改善・安定、コスト削減、漁獲物の高付加価値化は、海洋センターの重要なテーマだと考えます。やはり魅力ある漁業であればこそ、漁村への若者の定着もあるでしょうから。
  近年、府内の定置網漁業では多獲されるサワラへの依存度が高い経営体が多いと思いますが、サワラの高付加価値化は経営改善・安定において必須の課題です。そこで、海洋センターでは、平成24年度から2年間、サワラの高品質化技術の開発に取り組むこととしております。この研究の成果として、サワラの需要が増大し、単価がアップして、定置網業の経営の改善・安定の一助となるようにしたいと考えております。
また、定置網漁業にとって大きな脅威となる急潮ですが、昨年も5月の台風2号、9月の台風12号、15号により一部海域で被害が発生しました。こうした急潮に関しても、迅速な情報提供に努めて、被害軽減、減災に貢献して、経営の改善に繋がるようにしていきたいと考えております。
  昨年には海洋センターのトリガイ種苗生産施設が増強され、約49万個の種苗を供給できました。久美浜湾が新たにトリガイ育成漁場となりますが、漁業者の方々の要望に十分に応えられるよう、平成24年度には上限約54万個の種苗を生産予定で、ブランド水産物である「丹後とり貝」の生産拡大に貢献していきます。また、二枚貝類の生産において大きな問題となり、食の安心・安全における課題である、貝毒に関しても毒化予測技術の開発に着手することとしております。最近、府内でも需要が増大し、注目を集めております海藻のアカモクですが、生産拡大に向けた技術開発にも取組みます。
  今後も皆様との『紲』を一層強めながら、昨年改訂されました水産アクションプランに掲げられた水産施策実現のため、必要な調査研究を進めて参りたいと存じます。
  最後になりましたが、平成24年の幕開けに当たり、今年一年災害の発生が無く、そして皆様方のご多幸と豊漁を心より祈念いたしまして、新年のご挨拶といたします。

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