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海中につり下げたトリガイの飼育コンテナには、アサリ、ナマコといった顔馴染みの生物から、図鑑を調べないと正体の分からないものまで、様々な混入生物が入ってきます。本種もその一つですが、トリガイにとっては招かれざる客、害敵生物の一つです。
ワタリガニの仲間で、五番目の脚は「遊泳脚」と呼ばれる独特の形をしています。元来岩礁帯に棲むカニなので、コンテナには幼生の段階、或いは稚ガニとなった後に泳ぎ着いて侵入するものと考えられます。
彼らの頑丈なハサミで襲われると、貝殻の薄い小型のトリガイは粉々に砕かれてしまいます。カニ類による食害は、トリガイ飼育の初期段階における大きな減耗要因で、見つけ次第取り除くことが大切なポイントとなります。
よく似た仲間のベニツケガニ同様、甲羅の一部が紅をさしたように見えます。両者を見分けるポイントは両眼の間、額部分の形状。細かくギザギザしたのがベニツケ、額が大きく二つに割れたのが本種となります。
京都府立海洋センター主任 今西裕一
(平成20年3月19日、京都新聞掲載)
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