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ズワイガニは底曳網の重要な漁業資源であることは言うまでもありませんが、丹後では観光資源としてもたいへん重要な存在となっています。
海洋センターでは、漁業・観光資源として重要なズワイガニの資源生態調査を行っています。ここでは、当センターのズワイガニに関する種々の調査の内容を紹介します。
海洋センターのズワイガニ調査の中で最も重要な役割を担っているのが、海洋調査船「平安丸」です。現在、活躍している「平安丸」は、平成9年12月に3代目「平安丸」として竣工しました。全長43.1m、総トン数183トン、航海速力13.6ノット(時速約25km)で、当時としては最新鋭の調査観測機器類を搭載しています。
遠隔操作で水深300mの海底まで潜航することができる「自走式水中ビデオシステム」(通称「ROV」)は、ズワイガニをはじめ、深海に生息する色々な生物の生態をリアルタイムで観察することができます。
「平安丸」を使ってズワイガニを捕獲し、ズワイガニの生態や資源状況などを調べる調査としては、「かご縄調査」と「桁曳網調査」とがあります
海洋調査船「平安丸」(183トン)
水深300mまで潜行できる「自走式水中ビデオシステム(ROV)」
プリン型をした「かご」の中にズワイガニのエサとなる冷凍サバを5~6尾吊下げ、「かご」を海底に沈めます。1回の調査で使う「かご」の数は約50個で、この「かご」を長さ約5,000mのロープに100m間隔で取り付けます。調査は夕方に「かご」を沈め、8時間後の真夜中に「かご」を回収し、「かご」に入ったズワイガニの数や甲羅の大きさなどを測定します。
「4 分布と移動」でも述べましたが、この調査によりズワイガニの分布状況、とくに「群れ」の存在や「群れ」の大きさ、密度などを調べることができます。
毎年8月下旬から10月にかけては、延べ約300個の「かご」を使って、京都府沖合の水深235~320mの広い範囲でのズワイガニの分布や資源状況を調べます。この調査の結果をもとに、ズワイガニの解禁日までには、底曳網漁業者の皆さんにその年のズワイガニの資源状況などについての情報を提供しています。
その他にも、ズワイガニの漁期中に「保護区」の中で「かご縄調査」を行い、「保護区」の中で保護されているズワイガニの状況などを調べています。
なお、「かご縄調査」で捕獲したズワイガニについては、甲羅やハサミなどを測定した後に、全てのカニに標識を付けてその場で放流します。
調査に使う「かご」(底面の直径130cm、高さ43cm)。中には冷凍サバを5~6尾吊下げます。カニは「かご」の側面をよじ登り、上面の赤い口から中に入ります。
真夜中に行われる「かご縄」の引揚げ作業
「かご」ごとに全てのズワイガニの甲羅やハサミを測定します
「平安丸」が使う「桁曳網」は、幅約8.5mの鉄枠(桁)に入口の幅が約8.5m、高さが1.7m、全体の長さが約30mの網を取り付けたもので、「桁曳網」としては「日本一」ともいえる規模です。「桁曳網」の鉄枠の両端には、調査船が「桁曳網」を曳いたときに、海底を滑らかに動くように大きな「ソリ」が付いています。
この「桁曳網」を2本のワイヤーロープで海底まで降ろし、約2ノットのスピード(時速約4km)で30分間曳きます。
船上に揚げられた網には、ズワイガニ、カレイ類、ハタハタ、エビ類やクモヒトデなど様々な生物が入っていきます。「かご縄」で獲れる生物は大部分がズワイガニとエビ類、バイ類ですが、「桁曳網」ではその他にもたくさんの種類の生物が獲れるのが特徴といえます。このことから、「桁曳網」はズワイガニの調査だけではなく、アカガレイ、ヤナギムシガレイ(ササガレイ)、アカムツ(ノドグロ)などの生態調査でも使われています。
また、「桁曳網」では甲羅の大きさが1cmにも満たないかなり小型のズワイガニを獲ることができます。このような小さいズワイガニの量を調べることにより、長期的なズワイガニの資源状況の検討が可能となります。
「桁曳網」を海中へ入れる作業
30分間曳網した後に「桁曳網」を引揚げます
「桁曳網」の漁獲物。この後、魚種ごとに選別し、大きさなどを測定します。
調査船による「かご縄」や「桁曳網」などの調査も重要ですが、併せてズワイガニの漁期中に底曳網で獲られるズワイガニの大きさなどを調べることもたいへん重要なことです。
海洋センターでは、水揚げ市場において底曳網で獲られた「オスガニ」の甲羅を測定しています。また、「水ガニ」についても調査用に漁業者に漁獲をお願いしています。ちなみに、メスガニは第11齢期のいわゆる親ガニが水揚げの対象となっており、その大きさはおよそ7~8cmであることが分かっているため、とくに水揚げ市場で大きさを測定する必要はありません。
「オスガニ」や「水ガニ」の測定により、どの大きさのカニがどれくらい獲られているのかが分かり、このデータをもとに資源状況などを調べることもできます。また、「水ガニ」の測定結果からは、翌年の漁期の漁模様などを予測することも可能となります。
水揚げ市場での「オスガニ」の甲幅測定
海洋センターでは、その他にも底曳網漁業者の皆さんに「操業日誌」を記帳してもらい、それを整理、解析しています。「操業日誌」には、網を曳いた場所(緯度経度と水深で表示)やその網で獲れたズワイガニの数などが、操業ごとに書けるようになっています。また、併せて市場ごとの日別の水揚げ量などを調べています。
これらにより、京都府沖合での底曳網の漁業実態を把握することができますし、ズワイガニの資源状況などを調べる材料となります。
また、ズワイガニの漁期中には、底曳網漁業者の皆さんから標識を付けたカニの再捕報告が、海洋センターにたくさん届きます。これらもズワイガニの移動や生残り率などを推定する際には、たいへん貴重な資料となります。
海洋センターでは、以上述べたような種々の調査を行い、京都のズワイガニについての試験研究を続けています。この「ズワイガニの生態と漁業―冬の日本海の味覚「ズワイガニ」」で紹介した内容も、これらの調査で分かったことを中心に編集しました。
ズワイガニの資源生態については、これまでの調査でかなりのことが分かってきましたが、深い海の底に暮らす生き物だけに、まだ十分には分かっていないことも少なくありません。海洋センターでは、今後も丹後のズワイガニと種々の調査をとおして付き合っていきたいと思います。
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