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京都府レッドデータブック2015

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京都府のシダ植物相(稀少種の状況)

京都府のシダ植物相に見られる大きな特徴は、暖帯性の種類と温帯性の種類とがしばしば混生して出現することである。これは両者の分布の境界部にあたるためであるが、森林の持つ温度緩衝作用も大きな役割を果たしている。京都府には中部地域を中心に広大な森林域が広がっており、種数的には最もシダ植物が豊富な地域である。

シダ植物の大半は生育に高い湿度を要する。その点はコケ植物と同様であるが、植物体が大きい分、それだけ広い面積の高湿度環境(森林など)を必要とする可能性がある。イワヤシダ、ナガホノナツノハナワラビ、ミヤコイヌワラビ、トガリバイヌワラビ、ウスバミヤマノコギリシダをはじめかなりの種類が、おもに森林環境の悪化によって絶滅へと向かいつつある。過去にはミドリカナワラビなどが、この要因で府内から姿を消したと思われる。

スギ林や原生林内の岩壁にはヒメムカゴシダ、ナカミシシラン、イワイタチシダなどの稀産種が残っている。原生林の老木の樹幹には、スギラン、クラガリシダ、ヒメサジラン、カラクサシダ、ホテイシダ、ミヤマノキシノブなどが着生している。これらのほとんどは生長が遅かったり性質が気難しかったりして、移植や人工栽培は困難な種類である。

府南部には社寺林が部分的によく保存されており、暖帯下部の種類が見られることがある。ヌカイタチシダ、クルマシダ、タカサゴキジノオ、タカサゴシダなどである。全国的に稀少であるカミガモシダやシモツケヌリトラノオなどが、その林内の岩などに共に見られることもある。

府内では北部から南部への順に、丹後・但馬帯、舞鶴帯、丹波帯、領家帯の基盤岩が部分的に露出し、一部では花崗岩や溶結凝灰岩、安山岩、玄武岩などの火成岩も見られる。舞鶴市青葉山は安山岩を中心とする比較的低い山であるが、北方系の遺存種が多く見られることで知られている。シダ植物でも、ヒモカズラ、コガネシダ、エゾノヒメクラマゴケなどが知られ、いずれも府内唯一の産地である。ただ、過去に記録されたテバコワラビは21世紀に入っての調査でも見つからず、遷移によって絶滅したと思われる。舞鶴帯南部にある大江山山系の蛇紋岩・橄欖岩地帯には、オウレンシダがやや多く残っている。

丹波帯によく見られるチャートや硅質頁岩は風化しにくく、イワハリガネワラビ、ヌカイタチシダモドキ、アツギノヌカイタチシダマガイ、アオネカズラ、ビロードシダ、カミガモシダ、クルマシダ、オサシダ、シモツケヌリトラノオなどに安定した着生の場を提供している。それらの岩石にはときに石灰岩や緑色岩がブロック状やレンズ状岩体として含まれており、フクロシダ、ツルデンダ、ハコネシダのような着生のものや、ミヤコヤブソテツ、コウライイヌワラビモドキ、ヒカゲワラビ、ヤノネシダなどの半着生-林床性の種類が見られる。これら着生-半着生の種類は園芸的に価値のあるものを多く含んでおり、一部では採集が進んで非常に憂慮すべき段階にある。イワオモダカはもともと府内ではきわめて稀だったが、園芸採集によってすでに府内では絶滅したと見られる。

領家帯の基盤岩には風化しやすいものが多く、特異な着生状況は見られないが、一部で片麻岩に着生するアオネカズラやヒメサジランなどが知られている。領家帯の花崗岩は風化することによって酸性の湿地を作り、一部では水生シダに貴重な生育地を提供している。

中部地区の福知山市・亀岡市周辺や南部地区には湿地や溜め池が点在し、かつては豊富な湿地生・水生シダ植物が見られた。開発や富栄養化によってこれらの大半は姿を消したが、一部ではかろうじて残されている。ヤチスギラン、ミズニラ、サンショウモ、デンジソウ、オオアカウキクサのような絶滅寸前種がその代表である。これらの残存は、里山の地層から浸出する貧栄養の水によって保たれていることが多く、水が枯れないように周辺の森林を含めて保護する必要がある。近年では外来のアカウキクサ類が開水域を占拠し、同じような環境に生育するオオアカウキクサが激減した。

一部のシダ植物は、比較的乾燥する原野を住みかにしている。それらは開発や森林への遷移によって、多くが絶滅の危機にさらされている。ハマハナヤスリ、ヒロハハナヤスリ、コヒロハハナヤスリ、コハナヤスリ、アカハナワラビなどである。とくに南部地域の大阪層群に伴われる粘土地に残されている例が多いが、もっとも開発の危険性が高いのが現状である。

種の選定基準

基本的な考え方

府内のシダ植物の分布や個体数調査は、時代によって疎密がある。もともと研究者が少ない分野であり、研究者がいても研究対象が国外や他府県に向けられている時期の記録は、当然少ない。府内のシダ植物の資料は近年は特に少なく、個体数の変動の把握はまだ十分とは言えない。

2015年版作成のための調査にあたって特に留意したことは、以下のとおりである。

1)冬緑性のハナワラビ類など、調査不十分であったものの調査を急ぐ。

2)広く情報提供を求め、分布状況の確定に努める。

3)特に絶滅が危惧されるものについては、個体数と環境調査を徹底する。

日本海側では初めての確認となるモトマチハナワラビの発見や、南部地域で新分類群となるケイリュウウラボシの確認、ナチシダが各地に産することなど、この十数年でかなりの知見を加えることができた。

カテゴリーランクと選定基準

これは、2002年版レッドデータブックの基準を踏襲したが、個体数の把握を厳密におこなった。以下のとおりである。

1)絶滅種 もともと産地が限定され、およそ半世紀以上にわたって確認されていないものを、このランクとした。しかし現場の環境が破壊されていたり(イヨクジャク)、分布上府内に再出現を期待するのが難しいと見られる場合(オオクボシダ)には、それより短い期間でもこのランクとした。

2)絶滅寸前種 府内には1~2か所の自生地しか残されておらず、個体数約30以下のものをこのランクとした。また、今回の調査では確認できなかったが、近年の報告があるものもこのランクに含めた。従って、絶滅寸前種としたものの中には、既に府内では絶滅しているものが含まれている可能性がある。

3)絶滅危惧種 このランクに含まれるのは
a:産地は1~2か所と少ないが、個体数はやや多いもの
b:開発行為を受けやすい所に生育するもの
c:園芸採集の影響が強いもの
d:生育にデリケートな条件が関係しているもの(湿度など)のいずれか、または複数に関わるものである。ただし、産地が少なくてもそれが近隣の府県に普通にある場合(京都府が南限や北限になるなど)は、原則として要注目種または準絶滅危惧種に入れた。

4)準絶滅危惧種 絶滅危惧種の予備群の性格を持ち、産地や個体数が比較的多いが森林の遷移や伐採によって確実に減少が予想されたり、園芸的に需要が高いものがこのランクに含まれる。また、産地はごく少ないが離島などの安定した条件下にあるものなども、ここに入れた。

5)要注目種 準絶滅危惧種よりも個体数が多いものや、府内には非常に少ないが隣接する府県ではそれほど珍しくないものを選定した。また、ワカナシダのように府内産が確定しているとは言えないものや、ヒメミズワラビのように最近むしろ増加傾向にあると見られるものも含まれている。そのほか、情報が不足しているものもここに入れた。選定基準としては、寄せ集めの傾向が最も強いものである。要注目種は保護ランク上で必ずしも最下位のものの意味ではないことに留意されたい。

選定種とその概要

シダ植物レッドリスト見直しで明らかになった点

[1]絶滅のおそれのある種の総数は、2002年版レッドリストでは絶滅5種、絶滅寸前27種、絶滅危惧30種、準絶滅危惧種13種、要注目種33種の計108種だったが、今回は14種増えた。その内訳は、表1のとおりである。また、カテゴリーが変更されたものは表2の7種である。

種名 カテゴリー 追加された理由
ミズニラモドキ 絶滅寸前種 前回は暫定的にミズニラに含めた
トネハナヤスリ 絶滅寸前種 府内で新規に発見された稀少種
エゾフユノハナワラビ 絶滅寸前種 府内で新規に発見された稀少種
ヌカイタチシダマガイ 絶滅寸前種 府内で新規に発見された稀少種
ミドリワラビ 絶滅寸前種 府内で新規に発見された稀少種
ヒメクラマゴケ 絶滅危惧種 工事や遷移で著しく減少した
ナチシダ 絶滅危惧種 府内で新規に発見され園芸需要も
タチクラマゴケ 要注目種 工事や遷移で著しく減少した
クジャクフモトシダ 要注目種 新規に発見されたが、自生か不明
エゾノヒメクラマゴケ 絶滅寸前種 府内の個体数がわずかである
モトマチハナワラビ 絶滅寸前種 未発表種であるが、明らかに独立種であることがわかった。府内では稀産
イシカグマ 要注目種 植栽の可能性もあるが、自生状である
ナチシケシダ 要注目種 府内で新規に発見された稀少種
ケイリュウウラボシ 要注目種 日本で新規に発見された変種
ホクリクハイホラゴケ 要注目種 府内で新規に確認された独立種
ムクゲシケシダ 絶滅寸前種 典型品が見つかったが、シカ食害で絶滅寸前

表1 新規にレッドリストに加わった種

種名 変更前と変更後 変更された理由
マンネンスギ 要注目→絶滅危惧 遷移進行による著しい減少
マツザカシダ 要注目→準絶滅危惧 自生が確定し、園芸需要も
イヌチャセンシダ 要注目→準絶滅危惧 湿度の低下により産地が減少
ミヤコカナワラビ 要注目→準絶滅危惧 シカの食害で大群落が消失
アツギノヌカイタチシダマガイ 絶滅寸前→絶滅危惧 新たな産地が複数発見された
オオアカウキクサ 絶滅危惧→絶滅寸前 外来アカウキクサの影響で府内では激減した
サクライカグマ 要注目→絶滅寸前 十年以上にわたる調査でも発見されず

表2 カテゴリーが変更された種

2013年3月現在府内産として確認されたシダ植物の種数は、品種や外来、逸出および不稔性雑種を除いて253分類群なので、A)準絶滅危惧種以上のランクでは35.5%が対象種として選定されたことになる(前回は30.0%)。B)絶滅種と準絶滅危惧種以下を除けば、27.2%である(前回は22.7%)。

[2]絶滅のおそれのある種の総数が微増した理由は、

A)調査による(超)稀少種の発見
B)工事や遷移による個体数や群落数の減少
が大きい。シカの食害による影響もかなり大きいが、シダ植物では産地消滅までいたった事例はまだ少ない。

[3]今回の見直しで唯一ランクが下がったアツギノヌカイタチシダマガイは、近年福知山市周辺で複数の産地が確認され、個体数は少ないものの園芸上の需要に乏しいものであることを考慮した結果である。本来たいへんな稀少種で、兵庫県では絶滅危惧Aランクに指定されているが、岩場に自生するためシカの食害を免れていることが多いのも、ランク変更にあたって考慮された。

府内に産する全ての種が絶滅の危機にあるとして登録された科は、サンショウモ科、デンジソウ科、ハナヤスリ科、マツバラン科、ミズニラ科と多数にのぼる。これらの科に属する種は進化史上で「生きた化石」と呼ばれるものが大半であり、科ごと府内から消滅する(あるいは既に消滅した)事態は、学術的や教育的に見て重大なことと言わねばならない。サンショウモ科、デンジソウ科、ミズニラ科は比較的貧栄養の水湿地に見られる水生の植物であり、水の富栄養化や除草剤の使用、用水路のコンクリート化、外来植物の繁茂などの要因で、全国的に危機的な状況に置かれているものである。ハナヤスリ科は原野や湿地に見られ、造成や埋め立て、遷移による高茎草の繁茂や森林化によって、府内産の全種が絶滅に向かっていると推定される。

必要な対策の概要

今回の選定は調査が十分というにはほど遠く、継続的な調査や観察が不可欠である。対策を考えるにあたって、まずその事を強調しておきたい。

イワデンダ科に典型的に見られるように、森林の減少や開発による湿度の低下は、予想外に大きな影響を与えている。京都府にはスギ林が多く、それらは定期的な伐採を免れない。過去から同様であったにもかかわらず、絶滅の傾向が1960年代以降に顕著なのは、林内を流れる河川の河床に土砂が堆積し、川全体が平坦になって「しぶき」が減ってしまったことや、水量そのものが少なくなったことに原因があると考えられる。これらは上流での開発行為による予想外の事態とも言える。現在の環境アセスメントは、このように遠く離れた場所での被害までは必ずしもカバーできない。特に林道工事では、河川に土砂を落とさないよう、十分な配慮が必要である。

森林のなかに林道が開通すると、そこから乾いた風が林内に流れこむ。林道の両脇に現場産の常緑樹を植えるだけでも、かなりの被害を防ぐことができる。たとえばタカサゴシダは原生林環境に生育するもので、府内の産地ではほとんど減少しているが、筆者の指摘で林道脇に植林した京田辺市の現場では、まったく減少は見られない。

園芸採集は、やはり深刻な被害をもたらしている。非常の場合を除いて、産地の詳細を公表しないことが基本である。しかし園芸は同時に、日本のすぐれた伝統文化の一面でもある。需要の高いものや、現場にわずかしか残されていないものについては、人工繁殖を併用する配慮が望ましい。ビロードシダやアオネカズラは、そのような措置を取らないと、遠からず府内から消えるだろう。

シカ食害による個体数の激減は、林床生のシダ植物で深刻である。とくに長年禁猟区となってきた観光地周辺の山林で著しい。京都市右京区の嵐山周辺では、斜面全体に広がっていた稀少種のミヤコカナワラビが全滅した。京都大学の芦生研究林でも、改善のきざしは見えない。いっぽうで、シカの忌避植物であるナチシダなどは分布を拡大している。

シダ植物やイネ科、カヤツリグサ科などでは、それほど貴重なものとは知らずに、開発によって産地全体が全滅することがよくある。これは府民の教育や知識水準の向上に待たなければならないとも言えるが、逆に園芸的な価値には乏しいものが多いので、そのようなものは産地の詳細を積極的に公表することが望ましい。

水生シダ植物は進化史の教育材料として価値が高いものが多い。水生昆虫などと同様に地域の小・中学校などで積極的に取り上げ、環境教育の一環とするのがふさわしい素材である。地域的な取り組みは自然環境保護の基本であり、そのきっかけと成り得るグループと言えるだろう。

執筆者 光田重幸

維管束植物(シダ+種子植物)調査員および調査協力者

調査員(*は代表)

  • 赤松富子(京都植物同好会会員)
  • 近藤和男(京都植物同好会会員)
  • 田中徹(京都植物同好会代表)
  • 津軽俊介(前花明山植物園園長)
  • 細見俊樹(京都植物同好会会員)
  • 光田重幸(同志社大学理工学部)
  • 山本義則(京都植物同好会会員)

調査協力者

  • 京都府農林水産技術センター海洋センター
  • 西澤公男
  • 松岡成久
  • 水谷高典
  • 村田章
  • 村田源
  • 湯川幸子
  • そのほか、情報を提供して下さった皆様

参考 レッドデータブック近畿カテゴリー

カテゴリー 内容
絶滅種 近畿地方では絶滅したと考えられる種
絶滅危惧種A 近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種
絶滅危惧種B 近い将来における絶滅の危険性が高い種
絶滅危惧種C 絶滅の危険性が高くなりつつある種
準絶滅危惧種 生育条件の変化によっては「絶滅危惧種」に移行する要素をもつ種

改訂・近畿地方の保護上重要な植物──レッドデータブック近畿2001

編 著 レッドデータブック近畿研究会(代表 村田 源)
発 行 財団法人平岡環境科学研究所
発行日 2001年8月31日

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