ホーム > 京都府レッドデータブック2015

京都府レッドデータブック2015

文字の大きさ

トップページ野生動物哺乳類 > 哺乳類の概要

哺乳類のロゴマーク哺乳類の概要

京都府の哺乳類相

京都府の哺乳類相は、府内に高山帯や亜高山帯がないために、これらの高標高地に生息するオコジョ、ヒメヒミズなど高山性の哺乳類を欠いていて、山地性の種が主体となり、これに平地の農耕地や河川敷に生息する種が加わったような哺乳類相となっている。

陸生哺乳類の主な生息場所である森林は、およそその8割を民有林が占めており、スギ、ヒノキなどの植林地がその60%以上を占め、ブナ、ミズナラ林やモミ林など原生林は京都大学芦生研究林などごく限られた地域に見られるに過ぎない。したがって、これら天然林の樹洞などを利用すると考えられるクロホオヒゲコウモリ、コテングコウモリなどの分布はかなり京都大学芦生研究林に局限されている。

京都府は水平的には太平洋近くから日本海側まで南北に長いので、昆虫相などはそれを反映していると見られるが、哺乳類で見れば太平洋側要素や日本海側要素と見られる特徴は顕在化していない。このためか、日本全体で京都府にしか見られない種あるいは分布北限や南限になっている種はいない。ただし、沓島など離島があり、ここでオヒキコウモリが発見されており、これら離島の存在は京都府の動物相全体を見れば特徴の一つを構成する可能性が高い。

今回、京都府で確認された哺乳類は外来種を含めて7目20科52種となった。このうち、外来種はアライグマやヌートリア等を含めて3目9科12種で2002年と変化はない。一方、評価対象となる在来種は7目16科40種であり、2002年より2種増加した。これはモモジロコウモリとユビナガコウモリが新たに確認されたことによる。在来種の内、絶滅種2種(2002年は2種、以下同様)、絶滅寸前種9種(10種)、絶滅危惧種6種(4種)、準絶滅危惧種7種(5種)、要注目種3種(4種)、全体で27種(24種)となり、絶滅のおそれのある種は、確認種40種のうち27種で67.5%もの高率となっている。

このうち10種をコウモリ類が占めている。コウモリ類ではその多くの種で標本が1~数個体であり、その繁殖地も天然林や洞穴などかなり限定されている種で、これらの繁殖地が府内では少ない上、減少しつつあることが絶滅のおそれを生じさせている原因である。

その他、今回特徴的なことは、ニホンジカの増加により、下層植生が衰退し、カモシカやジネズミなどが減少したことで、ニホンジカの管理が課題となっている。また、ホンドザルのように人や農業に対する被害を与える種の保護管理が大きな社会問題となりつつあると考えられる。さらには、近年、アライグマ、ヌートリア、クリハラリスのように農業被害や生態系の攪乱を起こす外来種が増加しつつあることも大きな問題となっている。

哺乳類の保全対象種の選定に当たっての基本的考え方

哺乳類と一口に言っても、対象とする種の生活型によってネズミ類、モグラ類、コウモリ類の小型哺乳類から、ツキノワグマなどの大型哺乳類まで非常に多様である。例えば小型哺乳類であるネズミ類、モグラ類は一般に小型で夜行性であり、種をわななどで捕獲しないと分布の確認ができない。

一方、コウモリ類では、営巣場所が洞穴性か樹洞性かなど種によって特異であり、これらの場所がないと繁殖など種の維持ができないので、これらの存在が非常に問題となる。また、種の確認には、カスミ網を用いた捕獲、あるいはバットディテクターなどを用いた音声記録を用いるなど非常に特異的である。

哺乳類ではこれらの生活型グループにより生活様式は非常に多様であり、これらを同一の基準でリスト化することはあまり意味がないと判断された。一方、中型から大型哺乳類では、行動圏が大きく、分布調査はもっぱら聞き込み調査によらざるを得ない。そこで選定に当たってはその生活型グループの専門家を選び、その者が中心となり、そのグループ毎のカテゴリー基準を作成して、京都府の基準である絶滅寸前種、絶滅危惧種、準絶滅危惧種に分類した。

さらにツキノワグマやカモシカ、ホンドザルでは、京都府だけで考えるには行動範囲が大きすぎるので、近隣他府県や日本全体の情報を入れながらカテゴリー分けを行った。取りあえず今回はまだ不十分な資料を基にリストを作成したが、これを基礎として、関心を持つ人が増え今後さらに調査が行われ、将来よりよいものができることを期待したい。

小型哺乳類の保全対象種の選定に当たっての基本的考え方

ここで対象としているのは、食虫目、齧歯目の種である。これらの種は一般に小型で夜行性であり、相互に非常によく類似しているので、わなをかけて捕獲しないと種の同定ができない。わなも地上歩行性の種と地中性の種で異なるので、少し熟練しないと、ある場所の小型哺乳類の種類相は把握できない。サンプリングの面積も種により異なるが、数ha程度でも個体群が維持される場合があるので、この規模で府内全域を調査するのは不可能に近い。このために府内全域で個体数や分布域を把握しIUCNの定量的基準(環境省基準も同様)を適用することは無理であると判断した。そこで今回は過去の情報と、生息場所に着目して対象種が分布すると予測される地域のサンプリングをすることで、種の生息状況を把握する試みを行った結果とに基づいて記述を行った。作業としては、過去の記録及び今回の調査結果から府内でも確認種リストを作成して、このリストから各地での過去の情報及び新たなわなかけの結果などを用いて、分布が広く捕獲個体も多い種は対象から外した。

残ったリストから種毎に生息場所を予測して、予測した生息場所の府内での分布とその状況などを考慮して、生息場所がブナ、ミズナラ林であるなど極度に限定されている種、あるいは、かなりサンプリングしているが捕獲地点が非常に少ない種(おおむね3地点以下)は絶滅寸前種、生息場所が少しは存在し、捕獲地点も少しは存在する種を絶滅危惧種、捕獲地点が生息場所の点在などで限定されているが、まだ上記2種ほどは限定されていない種を準絶滅危惧種と3段階に分けた。

しかし、ヤマネのように天然記念物であるためにわなによる捕獲に許可が必要な種は巣箱の設置結果や聞き込み情報を用いた。また、リス科の動物では聞き込み資料などを用いたが、ホンドモモンガのように存在してもわかりにくい種は分布が過小評価されている可能性がある。

執筆者 村上興正

コウモリ類の保全対象種の選定に当たっての基本的考え方

コウモリは群れ生活をし、昼間は洞窟や樹洞を隠れ家にする。洞窟をもともと利用するコウモリ類は通常数百、数千の、大きな群れを形成する。また、その群をつくる場所もコウモリ類の場合、初夏の出産・育児をする時期と冬眠する時期の求める温度条件が異なる。したがって、大きい鍾乳洞のように、その中に多様な環境があれば、洞内を使い分ける。しかし、小さい洞窟では、洞窟間を移動して必要な環境を求める。すなわち、夏と冬では利用する洞窟が異なることが多い。このような理由から、また、群れ間の遺伝子の交換などを考慮すると、生息環境が安定していると判断できるのは、大きな群れ(夏期の、および冬期の)がいくつも、最低でも5つくらい存在している状況であると思われる。

したがって、このような観点からみると、京都府における洞窟を隠れ家にするコウモリ類の群れの現在の生息実体は極めて少数かつ不安定であり、絶滅の危機にさらされていると考えられるので、いずれも絶滅寸前種に指定した。

なお、オヒキコウモリは岩の割れ目などを好んで利用することが知られているコウモリであり、かつその生息例は世界的に見ても、非常に珍しく、舞鶴湾沓島の群れは日本で4番目に発見された群れである。しかも、個体数は他の群れよりも圧倒的に多いと推測される。したがって、この群れは世界的に見ても、非常に重要なものであり、今後天然記念物などに指定して、厳重に保護策をとる必要があるように思われる。したがって、その生息個体数の側面からだけではなく、絶滅寸前種に指定した。

一方、本来樹洞を昼間の隠れ家にしているコウモリ類は、樹洞が十分存在し、そこで生活するのが正常な姿であり、家屋や洞窟をその代用にしていること自体がすでに異常事態である。京都府でこのようなコウモリ類が利用できる樹洞が十分にあると思われるのは、原生林が比較的広範囲に残されている京都大学芦生研究林のみであり、ほかでは、細々と河畔林などに残されている大木を利用しているにすぎない。

これらの種の中で、昼間の隠れ家を一時的にほかのもの、すなわち家屋や洞窟に変えて利用している場合がある。しかし、これらの利用も一年の一時期だけであり、生息環境としては安定しているものとはいえない。さらに、このようなコウモリ類も多数個体が発見されたことはないので、樹洞を利用する全種を絶滅寸前種に指定した。

執筆者 前田喜四雄

トップページ野生動物哺乳類 > 哺乳類の概要

京都府レッドデータブックに掲載されている野生生物や地形・地質、生態系などに関する情報がありましたら、情報提供フォームからお寄せください。

情報提供フォーム

お問い合わせ先:京都府環境部自然環境保全課
TEL:075-414-4706 FAX:075-414-4705
E-Mail:[email protected]
〒602-8570 京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ページの先頭に戻る