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『九条ネギ』等を守る!期待の新防除技術~超音波を使って、蛾を寄せ付けずに守る方法を開発~

報道発表日:令和4年10月26日

京都府農林水産技術センター
0771-22-0424

生物資源研究センター
0774-93-3525

京都府農林水産技術センターと農研機構、(株)メムス・コアによる共同研究グループでは、ヤガ(夜蛾)類(※1)が嫌う超音波を用いて農作物への飛来を防ぎ、殺虫剤の散布回数を大幅に削減する技術を確立し、米国の学術誌「米国科学アカデミー紀要」に論文が掲載されましたのでお知らせします。

1.研究背景

農薬に過度な依存をせず、害虫からの被害を抑える手法として、光(レ―ザー)や音、振動などを扱う物理的な技術に注目が集まりつつあります。合成した超音波をヤガ類などの防除に役立てようとする試みがされてきましたが、超音波の特性や有効な照射装置等の課題により、実用化には至っていませんでした。

研究グループでは、ヤガ類が天敵のコウモリが発する超音波を感知すると逃げ出すという行動習性を利用し、効果的な音響パラメータを特定するとともに、パルス状の超音波を水平・上下方向に照射可能な超音波発信デバイスを開発して、その効果を調べました。

2.研究内容

○農業生産上、重要な害虫であるハスモンヨトウ(※2)、シロイチモジヨトウ(※3)、ツマジロクサヨトウ(※4)の飛翔行動を高い割合で阻害する超音波の音響パラメータ(※5)(パルス長、パルス数)を特定

○蛾類害虫が忌避するパルス状の超音波を水平・上下方向に照射可能な超音波発信デバイスを開発(図1)

○超音波照射の効果は、無照射と比べ
・イチゴの栽培施設や長ネギの露地ほ場では、シロイチモジヨトウの卵塊数が68%減少
・九条ネギの露地ほ場では、シロイチモジヨトウの幼虫数と被害株数をそれぞれ90%以上減少させ、シロイチモジヨトウに対して施用する殺虫剤の散布回数が89%減少(図2)

図1

(図1)ネギの露地ほ場の四隅に設置した超音波スピーカ

 

図2

(図2)露地ほ場におけるシロイチモジヨトウによる葉ネギの被害株数

3.今後の展望

本研究で開発した蛾類の物理的防除技術を発展・活用することにより、殺虫剤のみに依存しない農業生産体系の構築や、農作物の輸出における残留農薬問題の軽減、有機栽培の促進に寄与することが期待されます。

将来的には、ICT技術などとの連携を視野に入れ、装置の導入だけで蛾類害虫を自動的に防除できる仕組みづくりを目指しています。

4.論文について

タイトル Sustainable pest control inspired by prey–predator ultrasound interactions.
掲載誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要)
掲載日 2022年10月11日
著者 Ryo Nakano, Akio Ito, Susumu Tokumaru

 

用語の解説

※1 ヤガ(夜蛾)類
ヤガ科に分類されるチョウ目(蛾類)の1グループで、日本にはおよそ800種が分布。この中には、農業害虫であるヨトウガ類、タバコガ類、キンウワバ類などが含まれ、漢字に表されるように、夜に活発に動く。

※2 ハスモンヨトウ
アジア地域における重要害虫で、幼虫がダイズ、キャベツ、トマト、イチゴ、キクなどを中心に、広く野菜、豆類、花き、果樹を食害する。成虫は体長がおよそ15~20mmで、毛で覆われた数百の卵をまとめて産みつける。中国大陸から成虫が毎年飛来することにより、広範囲で被害が発生する。また、殺虫剤の種類によっては抵抗性が発達しているため、農薬による防除が難しい場合がある。

※3 シロイチモジヨトウ
西日本を中心に多発傾向があり、ネギ、キャベツなどのアブラナ科野菜、キクなどの花き類、ナスなどの果菜類を幼虫が食害する。成虫は体長がおよそ12~15mmで、毛で覆われた数百の卵をまとめて産みつける。また、殺虫剤の種類によっては抵抗性が発達している。

※4 ツマジロクサヨトウ
南北アメリカ原産の世界的な大害虫で、主にトウモロコシ、ソルガム、サトウキビを幼虫が食害する。2019年に日本に初めて侵入した外来種で、長距離を飛翔するため、西日本を中心に分布域が拡大している。日本では、飼料用トウモロコシおよびソルガムでの被害が目立ち、生育初期に加害されると被害が大きくなる。成虫は体長がおよそ15~17mmで、毛で覆われた数百の卵をまとめて産みつける。

※5 音響パラメータ
ここでは大気中を伝播する音波の特徴を表し、構成される周波数(波の振動数)、音圧(音の大きさ)、時間構造[パルス(音の塊)の持続時間とその反復率(1秒あたりのパルス数)]を指す。

5.お問合せ先

京都府農林水産技術センター
電話:0771-22-0424

生物資源研究センター
電話:0774-93-3525

 

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