トップページ > 防災・防犯・安心・安全 > 地震・津波対策 > 平成16年度地震関係基礎調査交付金三峠・京都西山断層帯に関する調査成果報告書

ここから本文です。

平成16年度地震関係基礎調査交付金三峠・京都西山断層帯に関する調査成果報告書

平成16年度京都府活断層調査報告へ戻る

1.調査概要

調査件名

平成16年度 地震関係基礎調査交付金
三峠・京都西山断層帯の調査

1.2 調査の目的

本調査は、三峠・京都西山断層帯に属する三峠断層、殿田断層について、その性状等を明らかにし、地震に関する調査研究の推進を図ることを目的とする。

1.3 実施期間

平成16年5月17日 ~ 平成17年3月24日

1.4 京都府活断層調査委員会の構成

本調査は文部科学省地震関係基礎調査交付金で実施されている。調査の実施にあたり、技術的検討及び調査結果の評価をおこなうため、京都府活断層調査委員会を設置し、調査を進めた。 京都府活断層調査委員会の構成は、次のとおりである。

  • 委員長 岡田 篤正 京都大学大学院理学研究科教授
  • 副委員長 植村 善博 佛教大学文学部教授
  • 委員 尾池 和夫 京都大学総長
        東郷 正美 法政大学社会学部教授
        梅田 康弘 京都大学防災研究所地震予知研究センター教授
        竹村 恵二 京都大学大学院理学研究科教授
        吉岡 敏和 独立行政法人産業技術総合研究所活断層研究センター
  • 活断層調査研究チーム長
        堤  浩之 京都大学大学院理学研究科助教授
  • 事務局 京都府総務部防災室

1.5 調査担当

京都府(担当部署 総務部防災室)
アジア航測株式会社 西日本コンサルタント部 防災地質課

2.調査内容

2.1 調査対象活断層名

三峠・京都西山断層帯(殿田断層、三峠断層;図2.1参照)(PDFファイル:282KB)(PDF:281KB)

2.2 調査項目

本調査では、以下の項目の調査を実施した。調査位置概要図2.2(PDFファイル:188KB)(PDF:187KB)と調査数量表2.1(下記参照)にそれぞれ示す。

2.2.1 地形地質調査

  1. 文献調査調査地域周辺の既存調査資料や空中写真、既存地形図などを収集し、検討を行った。
  2. 空中写真判読収集した空中写真を用いて、「新編 日本の活断層(1991)(1)」、「近畿の活断層(2000)(2)」に記載されている殿田断層と三峠断層の分布範囲を中心として、変位地形の抽出と段丘区分を行った。
  3. 地表踏査 文献調査や空中写真判読の結果をふまえて、断層変位地形や段丘の分布、地形形状などを確認するために地表踏査をおこない、ストリップマップを作成した。また地形改変前の空中写真から航測図化を行い、人工改変前の地形を把握した。

2.2.2 物理探査(高密度電気探査)

地中に電流を流し、地表に設置した電極で電位差を測定することにより地盤の比抵抗値(電気の流れにくさ)を求め、地中の地質状況を推定した。

2.2.3 ボーリング調査

地中の地質状況を明らかにすることを目的として径86mmのボーリング調査を行った。

2.2.4 ピット調査

表層堆積物の厚さや形状を把握し、沖積堆積物や段丘相当層の堆積年代に関する情報を得ることを目的として実施した。

2.2.5 トレンチ調査

推定される断層通過位置を機械掘削し、壁面を直接観察することから断層の活動形態や、単位変位量、活動周期、最新活動時期などの活動履歴を明らかにすることを目的として実施した。

2.2.6 年代測定

ボーリング調査およびトレンチ調査で採取したサンプルの年代を特定するために、14C年代測定、火山灰年代測定を行った。

3.調査結果

3.1 地形地質調査 

3.1.1 文献調査

  1. 地形地質 「植村(2001)(3)」は、調査地域周辺の段丘面の再編年をおこない、堆積年代の古いものから、最高位段丘面(HT面)、高位段丘面(H面)、中位段丘面(M面)、低位段丘面(L面)としている。
  2. 殿田断層殿田断層は、「新編 日本の活断層(1991)(1)図3.1」(PDFファイル:432KB)(PDF:431KB)、「近畿の活断層(2000)(2)」によると、延長約20kmの活断層で、確実度I、活動度Bを示し、平均変位速度が0.008~0.3m/1000年の活断層と報告している。「植村ほか(2000)(4)」は、日吉町の世木林地区においてトレンチ調査を実施し、過去11,000年間に3回(平均再来周期約3,740年)の活動があることを報告した。また、「吉岡ほか(1999)(5)」は、八栄地区、東組地区でトレンチ調査を実施し、最新の活動は3000年前以前とした。これらの調査から得られた断層の活動履歴には食い違いが生じており、その活動実体には不明確な点が残されている。
  3. 三峠断層 三峠断層は、「新編 日本の活断層(1991)(1)図3.1」(PDFファイル:432KB)(PDF:431KB)では、延長約30kmの活断層(確実度I~III)として記載されている。一方、「近畿の活断層(2000)(2)」では、その内の約8kmの区間が、活断層(確実度I~III)として抽出されている。「吉岡ほか(1999)(5)」は、瑞穂町の質美地区においてトレンチ調査を実施し、最新活動時期が1,700年前以前と推定した。「地震調査研究推進本部(2005)(6)」は、三峠断層は、延長26km、高角度の左横ずれ断層(北東側隆起の成分を伴う)とし、信頼度は低いものの、今後30年間に地震が発生する確率を0.4-0.6%とした。これらの既存の文献からは、三峠断層は高位段丘面を変位させていることが報告されているものの、その活動年代などは依然明らかとなっていない。
  4. 京都西山断層帯「地震調査研究推進本部(2005)(6)」は、三峠・京都西山断層帯の長期評価を発表し、京都西山断層帯について、全体が一つの区間(延長約42km)として活動すると推測した場合、今後30年間に地震が発生する確率をほぼ0-0.8%とした。ただし、これらの長期評価の元となった調査結果には、個々の断層の活動履歴などの情報が少なく、断層帯の実体は未だ不明確な部分が多く残されている。
  5. 調査地域周辺での地震活動調査地域周辺では、1923年以降M5.0以上の地震が6回発生している。特に1968年8月18日に三峠断層付近で発生したM5.6の地震は、通称「和知地震」とも呼ばれており、舞鶴市で震度4を観測した。さらに、三峠断層の東方延長部では、2001年8月25日にM5.4の地震が発生し、京都府中部の広い範囲で、震度4が観測された。微小地震では、三峠断層の中部から東部で周囲より多く分布している(図3.2(PDFファイル:186)(PDF:185KB))。

3.1.2 空中写真判読

収集した空中写真を用いて、断層運動によって形成された可能性のある変位地形を抽出すると共に、現在の谷底堆積物を形成している沖積面や段丘面区分を実施した。その結果、従来から報告されている断層変位地形に新たな知見は得られてなかった。

3.1.3 地表踏査

地表踏査では、断層沿いの地形・地質状況や断層変位地形について調査を行った。その結果、既存の調査結果以外に新たな知見は得られなかった。

3.2 殿田断層

3.2.1 八栄東地区

当地区は日吉町の西部に位置し、空中写真判読によって抽出したリニアメントと直交する形で南北方向に谷が伸びている。谷は断層が通過していると考えられるリニアメントを境に、上流側(南側)がダムアップされている可能性が考えられる。このことからボーリング調査、トレンチ調査を実施し、断層の活動年代を推定した。さらに、リニアメントを境に谷が左方向へ屈曲しているため、高密度電気探査を実施し、堆積物下の基盤の谷の横ずれ変位量を算出した(図3.3(PDFファイル:150KB)(PDF:150KB),図3.4(PDFファイル:53KB)(PDF:53KB))。

  1. 高密度電気探査の結果探査の結果、基盤形状はV字を示すような明瞭な谷地形は確認できず、なだらかな盆状であった。また両測線で基盤の深度に明瞭な変化は認めらない。基盤岩と考えられる高比抵抗部は、両測線でわずかに下に凸状となっている。この結果をふまえて、当地区の谷は約70mの左横ずれを生じていると推定した(図3.5(PDFファイル:115KB)(PDF:114KB)
  2. ボーリング調査の結果調査の結果、各ボーリング地点で、上位から、層厚20-30cm程度の耕作土、未固結の粘性土、未固結の礫質土が確認され、その下位に基盤岩である丹波層群の風化部が確認された。これらの堆積物のうち、風化岩の上面は北に向かって深くなり、未固結粘性土の厚さも北に向かって厚くなることが確認された(図3.6(PDFファイル:35KB)(PDF:34KB))。また、3地点(P-4,8,9)で、断層破砕帯と考えられる粘土化した基盤岩が認められた。この結果から断層の通過位置を推定し、トレンチ調査の掘削位置を確定した。
  3. トレンチ調査 調査地点を機械掘削し、壁面の直接観察結果から、基盤から現在の地表面までの堆積物を9層に区分した。その結果、基盤岩中に粘土化した破砕帯が認められるものの、その上位の堆積物には断層による変位は認められなかった(図3.7(PDFファイル:131KB )(PDF:131KB), 図3.9(PDFファイル:301KB)(PDF:311KB))。 
  4. 年代測定 トレンチ調査において採取した試料を用いて、14C年代と火山灰年代を測定した。14C年代測定の結果から、各層の年代が確認され、最下部の8層で、約50,000年前の堆積物であることが判明した。また5層の粘土中から採取した試料から、火山灰分析を実施した結果、姶良-Tn火山灰(AT;25-28ka ka=1,000年前)と鬼界アカホヤ火山灰(Ah;7.3ka)が共存する形で確認された。この結果は同層の14C年代測定結果(約4,500年前)とも調和的である(表3.1(PDFファイル:41KB )(PDF:41KB), 下記図3.8参照)。

3.2.2 八栄地区

当地区は八栄東地区の西隣の谷に位置し、八栄東地区と同様に周囲のリニアメントが明瞭で、殿田断層の活動によって上流側に位置していた谷がダムアップされた形状を呈している。当地区では、断層の位置の把握と、谷の断面形状から横ずれ変位量を算出することを目的として高密度電気探査を実施した(図3.3(PDFファイル:150KB)(PDF:150KB), 図3.10(PDFファイル:53KB)(PDF:53KB))。

  1. 高密度電気探査探査は想定される断層の両側とそれらに直交方向の計3測線で実施した。その結果、基盤形状はV字を示すような明瞭な谷地形が確認できず、なだらかな盆状であった。NS測線では、基盤と考えられる高比抵坑部中に低比抵坑部が認められ、これは基盤中の断層破砕帯であると推定した(図3.11(PDFファイル:93KB)(PDF:92KB))。

3.2.3 曽根地区

当地区周辺では段丘面上に北上がりの低断層崖が確認されている。段丘面上には南北方向に谷が形成されているが、リニアメントを境に上流側がダムアップされた可能性がある。これらのことから、リニアメント両側で群列ボーリングを実施し、堆積物を比較するとともに、14C年代と火山灰年代測定を実施して堆積物の年代を求めた(図3.12(PDFファイル:345KB)(PDF:344KB))。

  1. ボーリング調査
    A測線での調査の結果、上位から、表層盛土もしくは耕作土、有機質粘性土、粘性土もしくは礫質土が確認され、基盤に第三紀須知層、丹波層群が確認された。上部の有機質粘性土は、推定される断層位置付近で1mほどの層厚変化が認められた(図3.13(PDFファイル:30KB)(PDF:30KB))。

    B測線では、東方で確認される北上がりの低断層崖の延長上に認められる段差地形の両側でボーリング調査を実施した。その結果、両者で堆積物の垂直変位は確認できなかったことから、断層は当地点の段差地形を断層が通過せず、やや南側を通る可能性が考えられる(下図3.14参照)。
  2. 年代測定
    A測線中の有機質粘性土層において、14C年代測定を実施した。測定の結果、年代値にばらつきが生じたものの、すべての試料から約2,600年前以降の年代が得られた。また、周辺の段丘形成年代を推定するために、火山灰分析を実施したが、試料中から火山灰を検出せず、堆積年代の推定には至らなかった(表3.2(PDFファイル:186KB)(PDF:185KB), 表3.3(PDFファイル:150KB)(PDF:150KB))。

3.2.4 中台地区

当地区は断層が通過すると考えられるリニアメントを境に、北側に段丘堆積物、南側に基盤岩からなる小丘がそれぞれ分布している地域である。リニアメントの両側で、沖積堆積物の分布とその下位に分布する段丘堆積物、基盤岩の深度分布を調べるため、ピット調査を実施した(図3.15(PDFファイル:59KB)(PDF:340KB), 図3.16(PDFファイル:59KB)(PDF:59KB))。 

  1. (1) ピット調査
    P-1地点は、空中写真判読から東方で北流する谷が断層の左横ずれにより区切られた部分にあたる可能性が考えられたことから、表層の堆積物の確認のために実施した。調査の結果、堆積物は周辺に分布する段丘堆積物(H面)と同質であることが確認されたが、断層の横ずれについては不明のままである。また、リニアメントと谷が交差する地点で実施した群列調査では、空中写真判読から推定した断層位置の南側(P-3~5)で基盤岩がGL-1~2mほどで確認された。逆に推定断層の北側(P-2、6)では、沖積堆積物の層厚が急激に厚く変化しており、基盤は確認できなかった(下図3.17参照)。


    また、P-3地点の段丘相当層(H面)に、火山灰と思われる堆積層が認められたが、火山灰分析の結果、火山灰の存在は確認できなかった(下表3.4参照)。

3.3 三峠断層

3.3.1 質美地区

当地区では段丘面上(H面)に東西方向の凹地が形成されており、東側の谷部では過去に実施されたトレンチ調査によって、基盤岩中に破砕帯が報告されている。また南側の林道沿いには、段丘相当層と基盤岩が逆断層で接する断層露頭が認められる。これらのことから、高位段丘面上に生じている凹地の両側でピット調査を実施し、段丘面を構成している堆積物の確認と、凹地付近および、その両側の堆積物を比較して断層による変位があるかどうかを確認した(図3.18(PDFファイル:124KB)(PDF:123KB))。

  1. ピット調査
    調査の結果、凹地付近とその両側では、表層部の土壌(斜面堆積物)の下位に、林道沿いに露出している段丘相当層と同質と見られる礫層が確認された。このことから、凹地を形成している平坦面は、林道沿いに露出している礫層と同じ堆積物によって形成された段丘面であることが確認された。また、各地点で礫層が露出する深度は、凹地付近が最も深く、北側と南側で浅くなっている。よって凹地付近を断層が通過する可能性も考えられるが、断層による変位かどうかを確認するには至らず、段丘面上における詳細な断層通過位置を特定することは出来なかった(下図3.19参照)。

4.総合解析

4.1 殿田断層

4.1.1 八栄東地区より西部における最新活動と活動履歴

  1. (トレンチ調査における活動履歴について八栄東地区におけるトレンチ調査により、39,800-46,200年前以降の堆積物が断層運動に伴う変位や変形を受けていないため、39,800-46,200年前以降に断層運動が発生していない可能性が高いと考えられる。また、最新の活動と活動履歴については、それ以前の堆積物が存在していないため、確認できなかった。曽根地区や中台地区における調査結果からは、堆積物中に垂直方向のずれが生じているが、これらが断層による変位であるかどうかを特定するには至らなかった。
  2. 断層がトレンチ外を通過する可能性について 今回の八栄東地区におけるトレンチ調査では、土地利用の制限により断層が通過する可能がある北端部までトレンチを掘削することができなかった。八栄東地区では、トレンチの東西両側に基盤である丹波層群の露頭が確認できることから、断層はこの露頭の間を通過していると考えられる(図4.1(PDFファイル:197KB)(PDF:197KB))。本トレンチから北側に位置する露頭までは約10mであり、この間を断層が通過している可能性は否定できていない。逆にトレンチ南側は、トレンチ西側の試掘孔により、断層が通過する可能性は否定されたため、殿田断層がトレンチの北側を通過する可能性がわずかに残されているが、その可能性は低いと考えられる。

4.1.2 最新の活動と活動履歴

殿田断層における活動履歴は、日吉町世木林地区において「植村ほか(2000)(4)」によって詳細に調査されている。この調査では、B.C.395~A.D.100に発生した最新の活動をはじめとして、過去11,000年間に3回の活動が確認されており、平均再来周期は約3,740年と推定されている。本調査では、上記の世木林地区から西方へ約4km離れた日吉町八栄東地区においてトレンチ調査を実施したが、トレンチ内に露出している39,800-46,200年前の礫層は断層による変位を受けていなかった。断層がトレンチ内を通過していると仮定すると、この結果からは八栄東地区付近では、少なくとも約40,000年前以降には断層活動が起こっていないことになり、近傍に位置する同じ殿田断層において、八栄東地区と世木林地区における殿田断層の活動履歴には大きな違いが生じる。さらに八栄東地区と世木林地区では、断層の走向や活動様式にも違いが見られることから、この2地区は同じ殿田断層の中でも別のセグメントを形成している可能性がある(表4.1)。

「植村ほか(2000)(4)」によると世木林地区における縦ずれおよび横ずれの平均変位速度は、どちらも0.2-0.3m/1000年程度と報告されている。実際にトレンチ調査で得られた1回あたりの縦ずれ変位量は約1m程度となっており、仮にほぼ同量の横ずれ変位量を加味した場合には、1回あたりの変位量は1.4m程度となる。1回あたりの変位量を1-1.4mと仮定した場合、この変位量から「松田(1975)」の経験式を用いて得られる断層長は、12-18kmと計算される。八栄東地区以西の殿田断層と世木林地区付近の殿田断層において活動履歴に違いがある場合には、世木林地区の南方に位置する神吉断層や越畑断層との関連性を考慮する必要がある。

4.1.3 殿田断層の活動度

殿田断層における活動度のうち、平均変位速度については、「植村ほか(2000)(4)」 による世木林地区でのトレンチ調査によって、北上がり逆断層成分が0.17-0.3m/1000年(L1,2面(2-3万年)がそれぞれ5.6-10m,2.5-3m変位)、左横ずれ成分が0.36m/1000年(M1面(7万年)が25m変位)と報告されている。本調査では、丹波町役場西方のHT面とそれを削り込んだ谷が、60-70m程度左横ずれしているのが確認できた。このHT面は、「植村(2001)(3)」では約40万年前に離水したと推定されていることから、この部分での平均変位速度は、0.15-0.18m/1000年となる。

4.2 三峠断層

4.2.1 最新の活動と活動履歴

従来より三峠断層における最新の活動については明瞭なデータが得られていないが、本調査でも最新の活動を推定する調査結果は得られず、最近の活動履歴を決定するには至らなかった。三峠断層に関しては、従来から現在活動している範囲(活断層と判断する区間)を、福知山市から丹波町付近に至る約30kmとする場合(「新編日本の活断層(1991)(1)」)と、活断層を高位段丘への変位の有無で判定し、福知山市から日吉町までで明瞭な断層変位地形が見られる約8kmを活断層としている場合(「近畿の活断層(2000)(2)」)がある。本調査でも、明瞭な断層変位地形が確認できたのは、後者と同じ約8km区間であったが、全区間が全く活動していないという積極的な証拠は得られなかった。

4.2.2 三峠断層の活動度

三峠断層における平均変位速度は、「植村(1988)(7)」や「吉岡ほか(1999)(5)」によって0.3-0.4 m/1000年程度の左横ずれ成分が報告されている。本調査でも、約16万年前に離水したとされる(「植村(2001)(3))、H面を削り込んだ谷において40m程度の左横ずれが確認できたことから、0.25 m/1000年程度の平均変位速度が想定される。

5.まとめ

5.1 三峠断層、殿田断層の性状

5.1.1 三峠断層に関するパラメーター

  1. 長さ 三峠断層全体の長さは約30kmであるが、比較的新しい活動の証拠が残っているのは、断層中央部の約8kmの区間である。
  2. 平均変位速度 瑞穂町質美にある高位段丘面を下刻した谷が約40m変位しており、この谷が高位段丘離水(約16万年前)後に形成されたと仮定すれば、平均変位速度は0.25m/1000年である。
  3. 最新活動時期高位段丘の離水以降活動していることは明らかであるが、具体的な活動示す証拠は確認できなかった。
  4. 活動間隔 最新の活動時期が確認されていないことから、活動間隔を推定するには至らなかった。
  5. 想定される地震の規模と変位量 断層の長さから、松田(1975)の経験式を用いて地震の規模を推定すると、断層全体(約30km)が活動した場合は、マグニチュードが7.3、断層変位量は約2.4mとなる。一方、比較的新しい活動が見られる中央部の約8kmのみが活動すると仮定した場合には、マグニチュードが6.3、断層変位量は約0.6mとなる。

5.1.2 殿田断層に関するパラメーター

  1. 長さ
    殿田断層の総延長は、約20kmである。ただし、日吉町殿田地区付近にて断層の走向および活動履歴が大きく変化しており、この場所を基準とすると、殿田断層の中西部は約14km、東部が約6kmの長さなる。
  2. 平均変位速度
    本調査のトレンチ等からは具体的な断層運動を示すデータが得られなかったため、最近の平均変位速度は求められなかった。しかし、丹波町役場西方に位置する河川の屈曲量が約60mであることが判明したため、この河川が最高位段丘面を下刻しているのであれば、最高位段丘面の離水年代である約40万年(「植村(2001)(3)」)という年代から、平均変位速度は0.15m/1000年と推定される。 一方、日吉町の旧世木林地区で実施されたトレンチ調査によって過去3万年間の平均変位速度(縦ずれ)は、0.13-0.3m/1000年程度と見積もられている(「植村ほか(2000)(4)」)。
  3. 最新活動時期
    八栄東地区でのトレンチ調査により、主断層がトレンチ北側を通過している可能性が残っているものの、最新活動時期は約40,000年前より古い可能性が高い。一方、「植村ほか(2000)(4)」によって報告されている日吉町旧世木林地区での最新活動時期は、約2,000年前となっている。4) 活動間隔 日吉町殿田地区以西では、最新の活動が確認されていないことから、この区間における活動間隔を推定することはできない。殿田断層における活動間隔としては、世木林地区におけるトレンチ調査で明らかにされており、この調査では最近の活動間隔は約3,740年と推定されている。5) 想定される地震の規模と変位量 断層の長さから、松田(1975)の経験式を用いて地震の規模を推定すると、断層全体(約20km)が活動した場合は、マグニチュードが7.0、断層変位量は約1.5mとなる。一方、中西部の約14kmのみが活動すると仮定した場合には、マグニチュードが6.7、断層変位量は約1.1mとなる。

5.2 地震調査研究推進本部による長期評価との比較

5.2.1 三峠断層

地震調査研究推進本部による三峠断層の評価は、福知山市から丹波町北部までの約26kmの区間が同時に活動する場合を仮定としている。既存の調査結果および本調査では、この範囲を含む約30kmの区間のうち、比較的最近の活動が断層中央部における約8km区間であることが明らかになっている(図5.1(PDFファイル:538KB)(PDF:538KB))。

活動する断層の長さを三峠断層の全域ではなく、この約8kmの区間に限定した場合、地震の規模は、マグニチュードが7.2から6.3に、断層によるずれの量も2mから0.6mとなる(下表5.1参照)。

ただし、この区間を除いた三峠断層の東部と西部が最近活動していないという積極的な証拠は得られていないため、地震調査研究推進本部による評価を改めることは難しいと考えられる。

5.2.2 殿田断層(京都西山断層帯)

殿田断層が含まれる京都西山断層帯における長期評価は、殿田断層をはじめ、神吉断層、越畑断層、亀岡断層、樫原断層、西山断層、灰方断層、円明寺断層など、京都府の瑞穂町付近から大阪府の島本町付近まで、計42kmを一つの断層帯として仮定し行っている(図5.1)。

このうち殿田断層に関しては、本調査によって京都府日吉町付近を境に東西で違うセグメントを形成している可能性があることが明らかになった。これを考慮した場合、京都西山断層帯は少なくとも2つのセグメントに分割できるため、京都西山断層帯の活動は、約42kmの区間全体が一度に活動する場合のほかに、殿田断層の中西部は南側と同時に活動しない場合が考えられる。仮に、京都西山断層帯の活動時に殿田断層の中西部が連動しなかった場合、マグニチュードは7.5から7.2となり、断層運動に伴うずれの量も、3-4mから2.2mとなる。また可能性は小さいが、殿田断層の中西部のみが活動した場合は、参考値としてのマグニチュードは6.7、断層運動に伴うずれの量は、1.1mとなる(下表5.2参照)。

引用文献一覧

  1. 活断層研究会編(1991):新編 日本の活断層.東京大学出版会,437.
  2. 岡田・東郷編(2000):近畿の活断層.東京大学出版会,395.
  3. 植村善博(2001):比較変動地形論 第V章.古今書院,112-129.
  4. 植村ほか(2000):三峠断層系,殿田断層世木林地区のトレンチ調査と最近の活動履歴.地学雑誌,109,73-85.
  5. 吉岡ほか(1999):三峠断層系三峠断層及び殿田断層の活動履歴調査.地質調査所,noEQ/99/3,225-233.
  6. 地震調査研究推進本部(2005):三峠・京都西山断層帯の評価.
  7. 松田時彦(1975):活断層から発生する地震の規模と周期について,地震,第2輯,第28巻,269-283.

地震関係基礎調査について へ戻る

お問い合わせ

危機管理部災害対策課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4477

saigaitaisaku@pref.kyoto.lg.jp