ここから本文です。
(掲載日:令和6年9月9日 聞き手・文 産業振興課 石飛)
「ヒトiPS軟骨」
京都大学及び佐賀大学の技術をもとに起業したiPSベンチャー(株)Arktus Therapeutics(アルクタスセラピューティクス)(外部リンク)(2023年7月設立)(京都市)の大岩代表取締役、創業科学者の一人で社外取締役の池谷様(京都大学iPS細胞研究所准教授)にお話を伺いました。
まずは、起業の背景を教えてください。
大岩)iPS細胞技術を通じて身体の組織再生に取り組み、再生医療が普及する世界を作りたいと思い起業しました。新しい治療法で人々の健康寿命を延ばしたり、アスリート寿命を伸ばしたりすることが目的です。
次に、貴社の概要を教えてください。
大岩)日本だけで約1,000万人の患者がいる変形性膝関節症に対して、有効な治療が期待される他家iPS細胞由来(自分の細胞ではない量産可能な細胞由来)の「膝軟骨」を作製するなど、再生医療等製品の開発をしています。弊社の治療法であれば継続した運動も可能で、QOLの向上などにおいてメリットが多いと考えています。
大岩)膝の痛みなど、膝に関する悩みを抱えている方は、先進国では約4人に1人いて、社会課題となっています。
池谷)膝軟骨はクッションの役割をもちますが、既存の手術方法による治療ではジョギングすら推奨されません。
それを貴社の技術であれば解決できるのですね。この技術は変形性膝関節症以外にも活用できるのでしょうか。
大岩)例えば、膝の靭帯や半月板などの再生にも活用することが今後期待できます。当社はiPS細胞由来の間葉系幹細胞を作製する技術(※1)をもっており、これは膝軟骨を作製する過程で必要になりますが、膝疾患以外にも幅広く活用することが期待できます。
膝に関する貴社の技術の大きな可能性を感じます。他のiPSベンチャーの多くは、薬の開発などに役立てる創薬スクリーニング事業が当面の事業だったりするのに対し、貴社は既に患者への治療を見据えており、実用化が早い点が強みでもあると思います。設立から1年で大躍進を遂げているのはなぜでしょうか。
大岩)会社設立までに既に研究室レベルでは実用化に向けた技術が確立されていたことが大きな要因であると思います。会社設立前の研究シーズの段階から、将来、どのような患者様にどのような方法で活用するのかを見据えて、創業科学者のお二人(池谷准教授と佐賀大学の中山教授)が研究開発に取り組んで下さっていました。
ただ、患者様に新しい治療を少しでも早く届けるため、企業として研究開発のプロセスをどのように進めるかが非常に重要だと感じています。
池谷)私は軟骨や骨の基礎研究を約20年間おこなっており、実用化を進めるために設立に関わりました。2014年に私が研究していた間葉系幹細胞を作製する技術と、佐賀大学の中山教授(整形外科医)の立体的に膝軟骨を作製する技術を組み合わせた結果、相性が良いことが判明し、その後、様々な出会いを経て事業化することになりました。
着眼点が凄いです。強みの一つかと思いますが、大量培養の仕組みを教えていただけますでしょうか。
大岩)最終製品に至るまでの途中の段階の細胞を、大量に培養する(増やす)技術を開発しています。他社の一般的な方法では、培養したiPS細胞を特定の細胞に分化させる場合、目的の細胞を抽出するようなスキームを取るため量産化に1つのハードルがあります。私たちはそのハードルを超える技術を開発しています。基礎技術がここまで到達しているのが弊社の特徴と自負しています。
凄いですね。そのほかの強み(※2)はどういった点でしょうか。
大岩)異なる専門性を持った創業科学者のお二人が長年積み上げてきた基礎研究における知見と、弊社で活躍してくれている開発部門や薬事部門のメンバーが持つ臨床化に向けた研究開発のノウハウです。支援いただいた補助金(※3)なども活用して2026年~2027年頃の臨床試験(治験)開始を目指します。
膝軟骨技術で再生医療を普及させたいという貴社の強い思いを感じます。最後に今後の展望をお聞かせください。
大岩)1日でも早く弊社の膝軟骨製品を一般の方に使ってほしいと考えています。実際に多くの方からも期待の声を頂戴しています。しかし、実用化に向けては大きな資金も必要であり、周りの方に支援いただきながら、開発を進めていますので、応援していただければ幸いです。
社会的意義が大きい取り組みですね。膝の病気が改善する方が1人でも増えると良いですね。今後の活躍が楽しみです!詳細に興味がある方は株式会社ArktusTherapeuticsのウェブサイト(外部リンク)まで
(参考情報)
(※1)iPS細胞から神経堤細胞(第4の胚葉と呼ばれる多能性をもつ細胞)を経由して作成した幹細胞の一種「間葉系幹細胞」(軟骨に分化する能力がある)を大量に得る技術。間葉系幹細胞に特殊な化合物を添加することなどで、段階的に軟骨組織に分化させる技術。
(※2)本文に記載している強みのほか、100%細胞由来の膝軟骨を用いて広範囲かつ曲面部に使用可能な点は世界初。
(※3)活用いただいた(公財)京都産業21の補助金:R6年度「産学公の森」推進事業補助金(3コース)
お問い合わせ