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京都府生物多様性地域戦略の概要について

 

生物多様性とその成り立ち

生物多様性とは、生きものや生態系の豊かさを表す言葉であり、1985(昭和60)年にアメリカの生物学者W.G.ローゼンによって造語され、それ以降、世界中で広く用いられるようになりました。

生物多様性には「生態系」「種」「遺伝子」の3つのレベルがあるとされています。

1.生態系の多様性:森林、草原、湿原、里地域、河川、海洋などの環境に応じて様々な生態系が存在すること。

2.種の多様性:それぞれの生態系に適応して、様々な種類の動植物が生息・生育していること。

3.遺伝子の多様性:同じ種の中にも、多様な地域差や個体差があること。長い年月をかけて各地域の環境に適応することで、それぞれの地域独自の遺伝的特性を持つグループ(地域個体群)ができてきます。また、個体間でも大きさや性質などにばらつきがあります。

なぜ生物多様性が重要なのか

生物多様性は、長い歴史の中で、生物の進化という過程によって形成されたかけがえのないものであり、それ自体に大きな価値があります。

私たちの暮らしは衣食住や水の供給、気候の安定など、生物多様性を基盤とする生態系から得られる恵みによって支えられています。私たちは昔から、そのような恵みをもたらしてくれる自然に感謝し、畏敬の念をもって接してきました。一方、人間の営みが生物多様性に与える影響もあります。水田やその周辺の水路・ため池、薪炭林や農用林などの里山林は、人が利用して維持してきたことで、その環境に固有の生物多様性を育んできました。このように、自然と人とはお互いに有形無形の影響を与え合い、分かちがたく関係しながら、長い年月をかけて「共進化」を遂げてきました。

加えて、京都の特徴と言える伝統・文化は生物多様性と深く結びついてきたことも忘れてはなりません。京都は都が置かれて以来1,200年以上にわたり、生物多様性の恩恵を受けながら、様々な文化を生み出し発展させてきましたが、その一方で、建築や祭事のための動植物の利用を通じて里山を利用・維持してきたことなど、人間の文化が長い時間をかけて自然環境に与えてきた影響も大きなものがあります。

私たちはこうした京都の生物多様性がこれからも文化や伝統とともにあるよう、より良いものとして未来に引き継いでいかなければなりません。

京都府におけるこれまでの取組

京都府では、これまで「京都府自然環境の保全に関する条例」(昭和56年)や「京都府環境を守り育てる条例」(平成7年)、「京都府絶滅のおそれのある野生生物の保全に関する条例」(平成19年)を制定し、希少種の保全や外来生物の防除などに対処してきました。

また、絶滅のおそれのある野生生物種の状況などを把握するため、府内の生態系に関する調査を実施し、その結果をもとに「京都府レッドデータブック2002」を平成14年に作成。その後、再度調査を実施し、平成27年にはその改訂版「京都府レッドデータブック2015」を作成しています。一方、外来種についての調査も行い、平成19年には「京都府外来種データブック」を作成しました。

平成28年3月には「人と自然との相互作用により生み出された景観」をコンセプトとする京都丹波高原国定公園が新規指定されました。面積689km2に及ぶ同公園の指定により、京都府の面積の約21%が自然公園に含まれることとなりました。

京都府における現状

絶滅のおそれのある野生生物種の増加

京都府では、府内の生物多様性についての調査を行い、「京都府レッドデータブック」を13年ぶりに改訂しました。その結果、絶滅のおそれのある野生生物種の数は、前版の1,595種から1,935種に増加し、府内で確認されている野生生物種の約15%を占めるまでになりました。増加の原因として、開発や乱獲などの人的要因に加え、シカによる食害や外来生物の急増が挙げられます。

京都の生活・文化を支えてきた自然環境の衰退

日本のこころのふるさと・京都は、万物衆生との共生の宗教観や豊かな自然を背景に、祇園祭や葵祭などの伝統行祭事や美術工芸、能などの芸能、茶道、華道、和食など、特色ある日本文化の発展に中心的な役割を果たしてきましたが、生物多様性の減少による自然環境の衰退が伝統産業や食文化など私たちの衣食住にも影響を及ぼしています。

人と自然との関係の変化

農山村地域では、ニホンジカやイノシシ、ニホンザル、ツキノワグマなど野生鳥獣による被害が問題となっています。人の生命や財産を脅かし、農林業等に被害を与える野生鳥獣害の増加は、営農意欲の減退、耕作放棄地の増加といったさらなる悪循環を招いています。

一方で、人々が自然環境や野生生物に関わる機会が減り、四季の移ろいや身の周りの動植物への関心が薄まっていると言われています。「自然離れ」が進むことで、生物多様性の減少に対する危機感や関心が持たれにくくなっていることは、今後の保全活動の担い手不足、一層の生物多様性の衰退につながり、私たちの生活と文化にも影響が出るおそれがあります。

解決すべき課題

森里川海のつながりの分断と衰退

森里川海のつながりが分断されたことで、それらの環境を行き来して生活する生物や境界を主な生息場所とする生物の生息が脅かされています。生物多様性を広域的に保全するため、個々の生態系を保全することはもちろん、それぞれの生態系のつながりを確保する必要があります。

また、里地域では野生鳥獣による被害が深刻となっており、人の暮らしのみならず、生物多様性にも著しい影響を与えています。特にニホンジカは、樹皮剥ぎや若芽を食害することで樹木に被害を与えるだけでなく、多くの希少種の宝庫となっている森林の下層植生を消失させ、深刻な影響を与えています。こうした生物多様性への影響を抑止するためにも、野生鳥獣の適正な個体数管理と被害防止対策を推進していくことが重要です。そのためには、森林や農地の適切な維持管理による生息地の拡大防止と被害防止、捕獲や狩猟などの取組が必要であり、高齢化や人口減少が進む中、担い手の確保や地域ぐるみの協働活動など人の営みによる里地域を活性化する対策が重要です。

外来生物による脅威の顕在化

アライグマ、ヌートリア、オオクチバス、ブルーギル、ソウシチョウ、アルゼンチンアリなど特定外来生物の侵入、定着、拡大により、在来生物の減少など生態系に大きな影響が出るとともに、人の暮らしの安全への脅威、農林水産業や文化財などへの被害が顕在化してきています。これらの外来生物は、在来種の捕食、競合による駆逐などにより生態系に大きな影響を及ぼすだけでなく、農林水産業に被害を与えるものも少なくありません。

侵入初期の生物に対しては監視と早期根絶、定着している生物に対しては継続的な監視・拡大阻止のための取組が必要です。

科学的知見の散逸・担い手の不足

府内には大学や研究者の数が多く、非常に多くの知見が存在していますが、それらの情報を体系的に集約・蓄積する体制がないため、情報の散逸が危ぶまれます。府内の知見を集積するためのネットワークとその拠点、集積した情報を整理・可視化して地域の実情に合わせた対策へ利活用できるようにすることが必要です。

また、人の「自然離れ」が進んだことで、研究者や保全活動の担い手についても後継者不足が深刻化しています。後継者を育成するため、また府民に生物多様性に関する正しい理解と保全活動を広めるためにも、自然とふれあう機会や場を創出すること、環境学習の充実、情報を集積して発信することが必要です。

戦略の目標と方向性

先人たちが引き継いでくれた豊かな自然と個性豊かな伝統文化は、京都が国内外の多くの人々を魅了する重要な要素となっていますが、近年、京都に暮らし、関わる私たちの自然への関心が薄れていくことで、京都の貴重なインフラでもある豊かな生態系を失いつつあります。生物多様性を守り、持続的に利用していくことは、私たちだけでなく、将来の世代のためにも必要ですが、私たちが日々生きていくためには一定の開発や産業活動はなくてはならないものです。それらと生物多様性の保全を対立するものとして捉えるのではなく、両者のバランスの上で生物多様性を維持していくことが必要です。さらに、特色ある京都の文化の礎であり賜物でもある生物多様性を守ることは、京都の魅力を高め、地域創生の潜在力を向上させることにもつながる重要な取組になります。

こうした認識の上に立ち、本戦略における「目標と方向性」は、次のとおりとします。

(1)長期目標(2050年)

京都が京都らしく、生態系と生活や文化が共存共栄する社会を持続可能なものとして将来に引き継いでいくため、従来の生態系維持・回復対策に加え、多様な主体が積極的に関わる共生型の生物多様性の保全と利活用を進めます。

(2)短期目標(2027年)

長期目標につながる今後10年間に取り組むべき行動として、現下の課題に即応する次の対策を実施します。

1.森里川海のつながりの回復による多様な生態系の保全

2.人の積極的な関与による里地域の再生

3.早期対策による外来生物の脅威の排除

4.生物多様性を未来に受け継ぐための知見の集積、人材育成

なお、地域戦略の計画期間内に、社会情勢の変化や地域における生物多様性保全の取組の進捗状況等により、府内の生物多様性をめぐる動向が変化することも考えられます。このため、戦略の策定後、概ね5年ごとに戦略の進捗状況を検証し、必要に応じて内容の見直しを行います。特に、2020年を目標年とする愛知目標の達成状況を踏まえた国家戦略の方向性を踏まえ、戦略の一部見直しなど必要な対応を行います。

行動計画

1.森里川海のつながりの回復による多様な生態系の保全

人と生物との共存を念頭に、森里川海それぞれにおける生物の生息・生育空間のつながりや配置を確保しつつ、それぞれのエリアにおいては、原生的な生息環境の保全とともに、二次的自然の適切な維持管理を進めます。

【リーディングプロジェクト】生息地等保全地区を核とした環境スチュワードシップ活動の展開

環境スチュワードシップ活動(保全団体が多様な主体と協働で行う保全活動)の拠点となる、条例に基づく生息地等保全地区の指定を増やします。また、府民の積極的な参画が得られるよう、府は活動に対する助言や専門家の紹介、その他の必要な措置を講じます。

2.人の積極的な関与による里地域の再生

里山林や耕作放棄地の再生、自然体験・利活用、野生鳥獣の個体数管理などを通じて、里地域に積極的に関与していくことで、いにしえより受け継がれてきた自然利用の文化を再興し、人と野生鳥獣が適切な住み分けにより共存できる環境の実現を目指します。農山漁村の再生、魅力的な地域づくりは、地域の再生にもつながるものと考えます。

【リーディングプロジェクト】野生鳥獣の広域的な個体数・生息環境の管理

適正管理を必要とする野生鳥獣の個体数管理、近隣府県と連携した広域的な保護管理の取組など、効果的な被害防止対策の推進とあわせ、下草刈りや緩衝地帯の整備、里地里山地域における生息環境の管理を進め、人と野生鳥獣との住み分けにより被害軽減を図ります。

【リーディングプロジェクト】ビジターセンター等を核とする里資源の適正利用

里資源の魅力を発信するため、京都丹波高原国定公園のビジターセンター、道の駅などを拠点として、エコツーリズムや保全活動、環境学習を地域で展開し、それらの活動を通じて里地域の活性化を図ります。

3.早期対策による外来生物の脅威の排除

外来生物の積極的なモニタリングや防除により侵入、定着、拡大を防ぎ、在来の生態系への影響の抑止、暮らしの安全の確保、農林水産業や文化財への被害の軽減を図ります。

【リーディングプロジェクト】特定外来生物バスターズ(仮称)の結成による初期防除の徹底

府、研究機関、専門家等で構成する特定外来生物バスターズ(仮称)により、侵入初期にある特定外来生物(ヒアリ、オオバナミズキンバイなど)の侵入モニタリングと初期段階での徹底防除を実施します。

4.生物多様性を未来に受け継ぐための知見の集積、人材育成

府内の生物多様性に関する情報を正確かつ継続的に把握し、収集された知見を基に保全対策を行うとともに、環境学習への利活用、後世への継承に注力します。また、そのための人材の育成にあたっては、幅広い層の府民が、身近な自然とふれあい、生物多様性を実感できるような環境学習を充実するとともに、社会の生物多様性の保全に対する気運の醸成を図ります。

【リーディングプロジェクト】自然史情報の収集・利活用・継承を担う生物多様性センター(仮称)の設置

京都府内の自然史情報の収集・利活用・継承を担う生物多様性センター(仮称)のあり方を検討します。

推進方策

1.推進体制

戦略の目標達成に向けては、府が中心となって各種施策を推進しますが、取組をより効果的に進めていくために、国、市町村、府民、NPO、企業、大学・研究機関といった様々な主体と連携・協働します。

2.進行管理

行動計画について数値目標を設定します。

達成状況については、定期的に京都府環境審議会自然・鳥獣保護部会及び希少野生生物保全専門委員会に報告し、助言や評価を受け、京都府環境白書や府のウェブサイトにおいて公表します。

お問い合わせ

総合政策環境部自然環境保全課

京都市上京区下立売通新町西入薮ノ内町

ファックス:075-414-4705

shizen-kankyo@pref.kyoto.lg.jp