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京の景観シンポジウム

-「京の景観形成推進プラン」をめぐって-

シンポジウムの開催趣旨

平成18年1月14日(土曜日)、「ハートピア京都」(京都府立総合社会福祉会館)で開催し、府民、各種団体、行政職員等約180名が参加しました。このシンポジウムは、平成17年12月に策定した「京の景観形成推進プラン」の内容を府民の皆さんにお知らせするとともに、今後の良好な景観形成や住民、事業者、行政等の連携や役割分担のあり方について議論を深め、景観形成推進についての理解を深めることを目的に開催したものです。

会場の様子

開会あいさつ 山田啓二(京都府知事)

京都は、文化と伝統の中ですばらしい景観を作り上げてきた。地域において育まれた景観の良さを次の世代へしっかりと残していくことが私たちに課せられた義務ではないか。京都という美しく自然に恵まれた私たちの財産をこれからも守り育てるため皆さんと一緒に議論していきたいと考え、学識経験者の方々にお世話になり、「京の景観形成推進プラン」を策定し、平成17年12月に公表した。このシンポジウムでは、「プラン」の内容をお知らせするとともに、基調講演や意見交換をとおして、京都の景観を現在そして未来へと保っていく、そして皆さんですばらしい京都を作り上げていく、有意義な場にしたい。

山田知事あいさつ

基調講演「好ましい景観形成とその意義」 金田章裕氏(京都大学大学院教授・人文地理)

1 景観法など新しい法律における考え方

(1)景観法の基本的考え方

景観法においては、景観が土地や建物などと同じような重要な資産であり、かつ国民に共通の資産すなわち公共財と位置づけられた。
これは、戦後続いてきた考え方の根本的な転換である。
また、良好な景観が地域の自然条件、歴史や文化と一体となって作り上げられたものであるとしている。
戦後日本は、近代化を追い求めてきた。それは、経済活動を活性化させ、今日の日本を形作ったが、一方で、国土の大きな部分を画一化してしまった。
例えば、建築基準法で全国一律に建築物の基準を定めた。これは、法律が制定された1950年代には大きな意味があったと考える。

ところが、現在、京都の町家のほとんどが建築基準法の基準に合わない。このため、京都で培われた最も京都らしい建物は、古くなって建て替えようとしても、同じ形態では建てられない。
景観法ではこのような場合、景観地区等を設定して、建築基準法の例外とできるといった手段がある。
全国一律でなく、地域の特徴を重視するものである。

(2)文化的景観

景観法制定に伴い、文化財保護法の改正が行われ、保護の対象として「文化的景観」が位置づけられた。これは、ある地域において、そこで生活する人々、自然及び歴史的文化的背景のもとにできあがった良好な景観のうち重要なものを選定維持していこうとするものである。
新たな規定が必要となったのは、文化的景観の保護については従来と違う考え方が適用されるからである。

もともと文化財保護法では、原則として保護対象となったものの現状を変更せずに保護していく考え方に立っている。
文化的景観については、現に人が生活している場が保護対象であり、現状を変えてもいいという考え方に基づく。ただし、変えるときはいい方向に変えていこうとする。
このような考え方が法制度として導入されたことに対し、どのように対応するか考えていかなくてはならない。

金田先生講演の模様

2 各地の実例

(1)京都市内

烏丸通りや御池通りでは、電柱などがなく、すっきりした景観がみられる。しかし、新しいビルの建ち並ぶ様子からは、京都らしさが感じられない。また、細い通りに入ると、新旧の小規模な建物が混在し、電柱や電線が空間をふさぐ、何とも複雑な景観がみられる。
清水寺など著名な観光地の周辺は、観光客などに「京都に来た」と満足してもらえる景観ではあるが、電柱や看板などが目立つところもあり、これらをどうするかが課題である。

(2)景観に積極的な対応をした例(オーストラリア、メルボルン)

メルボルンでは、古い街並みに建てられた公共機関の高層ビルが周辺の景観と不調和という意見が出て、ビルを取り壊し全面的な再開発を行った。

(3)大都市部以外の景観

人々のくらしや地域の産業により育まれ、地域の自然と一体になった景観が各地に存在する(美山の茅葺き民家、伊根の舟屋、北山杉の林、山城の茶畑など)。ただし、今では基礎となる産業が衰退しているところが多く、そのまま放置すれば維持は非常に困難である。これらの景観を貴重なものと考え、残そうとするのであれば、行政的なサポートも含め、経済性、合理性では割り切れない、様々な方策を考えなくてはならない。

3 まとめ

景観法の制定などにより、景観を資産として認め、地域の自然や歴史的社会的状況を反映した、その地域にあるものを大切にするための法的な準備はできた。それをどう使うかは我々の課題である。住んでいる人が自分のところの景観を自分で眺めてみて、どうするか考えないといけない。
京都は京都のもつ有利さを使わないと他に使う物がない。よその町のまねをしても悪い面しか出てこない。
景観については様々な見解があり、調整は簡単ではない。しかし、本日紹介したメルボルンの例のように、景観形成のために思い切った施策を取る時期に至っているのではないか。

4 質疑

質問1

メルボルンのケースでは、問題になった高層ビルが公共の建物だったということだが、民間の建物でも同じことは可能だったか。

回答

公共の建物だから可能だったという側面はあったと思う。ただ、オーストラリアでは景観については公共物という考え方が定着しており、機能的な規制以外に、地域の委員会が景観等について了解しないと建築ができない。

質問2

良好な景観が「人々の生活・経済活動などとの調和により形成される」という景観法の規定は抽象的すぎる。経済活動とは何かをもっと掘り下げ、政策検討の際にも経済活動に携わる人をもっと入れて議論をしなくてはいけない。経済活動との調和をどうするかについては、みんな悩んでいる。どうするべきか具体的な考えはあるか。

回答

従来、好ましい景観を実現できるスキームはなかったが、今回実現をサポートする法制度が作られた。地域の景観をどうするかは、地権者、経済活動を行う人、生活する人みんなの方向性をまとめることが大事である。その際、「利便性、合理性、画一的基準」が私たちの発想に染みついていることを自覚した上で、どうするか考えなくてはいけない。

報告「京の景観形成推進プランについて」 (京都府都市計画課)

プランの内容については、「京の景観形成推進プランのページ」を御覧ください。

意見交換「みんなで発見し育てていく京の景観」

  • 門内輝行氏(コーディネーター)(京都大学大学院教授・建築)
    今回の意見交換は、京の景観を中心に、行政だけでなく、府民参加のもとに、人々の環境や景観をどのように形成していくかという目標への出発点にしたい。
  • 深町加津枝氏(京都府立大学助教授・森林・環境)
    京都には農林漁業等の営みによる文化的景観、地域固有の景観が残されている。過疎・高齢化のため、伝統文化の継承が難しくなり、ひいては里山景観も危機に瀕している。
    1990年代以降、地域再生のため企業、地域住民、学生等のネットワークをつくり、活動拠点を設け、衣食住が伴う里山利用を行うという、3本柱を中心にネットワークが機能するような里山保全の活動をしている。
    地域住民とNPOだけでなく、行政、都市部の人々も交えて里山保全に取り組む必要がある。
  • 幾世淳紀氏(天橋立名松リバース実行委員会委員長)
    一昨年の台風23号で天橋立の松が被害にあったが、その松を喜びに変えようと「天橋立を守る会」を中心に「天橋立名松リバース実行委員会」を作った。倒れた松を、炭にして天橋立に返したり、龍灯を作成したりしている。また、「内のものは自分のもの、外のものはみんなのもの」を合言葉に、天橋立駅前の店の看板等に松を使用するなど、町並みも変えていきたいと取り組んでいる。景観など風景評価の感性は、ふるさとの風景により育まれるもの。今一度、天橋立のまちなみ景観を考えていこうと京都府とともに取り組んでいる。
  • 栗山裕子氏(京都府建築士会副会長・古材バンクの会副会長)
    自然と人為が調和するところによい景観が生まれる。「私たちは何ができるのか」をテーマに取り組んでいる。京都市内では、町家の再生に取り組まれるなどしているが、他の地域、例えば乙訓地域では古い農家住宅が減少し、風景が変わってきている。また、竹林等が資材置き場になったりしている。景観保全には、農業、土木、建築分野の連携が必要。
  • 川端修氏(宇治市副市長)
    宇治市では、「歴史的景観の保全と創造」に取り組んでいる。国民的、世界的資産をどう保全するかが問題。平成16年から景観条例により大規模建築物の届出を義務付けている。景観計画作成に当たっては、地域でワーキンググループを作り、そこに行政が加わり、基準を作成していこうとしている。
  • 門内氏
    景観は壊されてはじめて気づくもの。景観法では地域の良好な景観を決めて条例を策定しなさいといっているが、まず良きものを発見していく必要がある。
    コーディネーター門内氏
  • 深町氏
    丹後地域などで活動しているが、その地域の住民は、自分の住んでいる地域の良さになかなか気づいておられなかったが、学生などの定期的な活動によって、魅力ある地域だと気づいていただけるようになった。
  • 幾世氏
    以前は天橋立の松に興味を持たなかったが、台風被害があったことで、松の生態などいろいろなことに気づかされた。その気づきにより、ネットワークが必要だとも気づいた。行政職員も自分の住む町について、一市民としてまちづくりについて考え、地域活動に取り組んでいただきたい。
  • 栗山氏
    「人が大事」と考え、人材育成に取り組んでいる。
    建築物は解体すると廃棄物になるが、解体の際行政への届出制度を設けられないか。建物の評価や、再利用方法検討などの取り組みにつながる。
  • 川端氏
    いろいろな法律が整備されたが、それをどのように使ってまちづくりをしていくのか考えるのが行政の役割ではないか。
  • 門内氏
    景観は様々なネットワークから成り立っていることが見えてきた。人々は景観に気づきはじめ、社会のルールも変わりはじめている。横のつながり、人のネットワークの構築が必要。
    パネリスト深町氏、幾世氏、栗山氏、川端氏
  • 会場からの質問1
    景観問題はもっと危機感をもっていいのではないか。府と市は連携して取り組んでいかなければならないと考えるが、どう考えているのか。また、駐車場確保のための天橋立地域の埋立てについては、どう考えるか。
  • 幾世氏
    リバース実行委員会にも限界があることは感じている。駐車場問題については、(事業を実施した)行政の問題ではあるが、行政への問題提起は行っていこうと考えている。
  • 門内氏
    京都市の景観行政に関わってきていて、縦割行政も根の深い問題と感じている。これは総合的行政において解決しなければならない。
  • 会場からの質問2
    京都の景観は破壊的であり、その原因は行政にあると思う。宇治市のマンション問題に関する話を本日聞いて「何で今頃やっているのか」と改めて思った。残念である。景観を守る基準の作り方については、まず厳しい基準を設け、必要なところから緩和していく方法はとれないのか。
  • 川端氏
    市民の方々からみれば、遅い対応かもしれないが、その時々の最善を尽くしてきたつもりである。条例等を整備し、基準の範囲内であっても指導できる環境を整えてきた。一歩踏み出すという動きを御理解願いたい。
  • 門内氏
    行政、民間を問わず、景観を評価する目を持った人材の育成が急務である。
  • 会場からの質問3
    京都にはまだ景観資源が残っているが、建替えにより、3階建ての住宅が多数建築され、風景が様変わりしている。こうした問題を放っておいて「何が景観か」と思うが、どう考えるか。
  • 栗山氏
    売る人が悪い、買う人が悪いでなく、建てれば売れるという社会のシステムが問題と思う。やはり景観を評価できる人材の育成が急務である。
  • 門内氏
    景観に対する公共的な支援も必要と考える。
  • コーディネーターまとめ
    「景観とは公共的なもの」という府民の認識がないと、行政も総合的対応が取りづらいし、支援も行えない。
    資源の地産地消とグローバルな考えの両刀使いも必要と考える。
    また、「景観」は社会システムを開いていく手がかりである。
    京都府では、昨年(平成17年)「京の景観形成推進プラン」を策定されたが、これはあくまで出発点にすぎない。本日のシンポジウムで出た議論を踏まえて景観施策を推進していただきたい。

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