「明日の京都」ビジョン懇話会 教育・学習部会(第2回)の概要
平成21年7月10日に開催した「明日の京都」ビジョン懇話会 教育・学習部会(第2回)の結果について、下記のとおり概要を報告します。
日時
平成21年7月10日(金曜)午後3時15分から6時
場所
京都府庁1号館 6階 政策企画部会議室
出席者
「明日の京都」ビジョン懇話会
隂山英男委員、西岡正子委員(部会長)、村井杏侑美委員
(※ 欠席 崔善今委員)
ゲストスピーカー
後野文雄氏(特別支援教育士スーパーバイザー、元舞鶴市立白糸中学校長)
杉本厚夫氏(京都教育大学教授、青少年元気な活動応援プラン委員)
中小路貴司氏(長岡京市放課後子ども教室運営委員会委員)
原田紀久子氏(特定非営利活動法人アントレプレナーシップ開発センター常務理事・事務局長)
京都府
井上政策企画部企画監、山田政策企画部副部長、北村府民生活部人権啓発推進室長、中西文化環境部文教課長、橋本教育庁管理部長、高熊教育庁指導部長、事務局ほか
議事概要
次のとおり、テーマに基づき、ゲストスピーカーを招聘し、議論
・生涯を通じて継続的に学習するという観点から、杉本厚夫氏
・世界をリードする人材づくりの観点から、原田紀久子氏
・学校、家庭、地域の協働教育の実践という観点から、中小路貴司氏
・学校における実践という観点から、後野文雄氏
杉本厚夫氏のスピーチと意見交換
(杉本氏スピーチ要旨)
- 教育を違う観点から捉えるということで、3C教育(教養教育・キャリア教育・シティズンシップ教育)に関心を持った。
- 教養教育は2つの理由で必要。1つは「自律」のために必要。自分で判断して自分でコントロールできるようにするため。2つ目は、自分自身を好きになるため。今の子どもは、自尊意識が欠如しており、自分の存在意義がわからなくなっている。
- 体育等挑戦する課題を明確にし、挑戦していることを評価。そのことにより子どもは自信がつく。セルフリスペクトがないとアナザーリスペクトはない。挑戦する課題を明確にすることが教養教育である。
- 体験的学習が必要。義務教育の中でインターンシップや職場体験、アントレプレナー教育をしていこうという動きがある。アントレプレナー教育は挑戦することを学ぶ。今の子どもは「挑戦」や「社会参画」に対して臆病。「できない」ことは「やらない」と答える。生活、経済、精神の「自立」を学ぶ。
- シティズンシップ教育は2002年にイギリスで始まった。生活の中に学習の場を置き、公の場でどう行動すればよいかを学ぶ。シルバーシートの必要のない社会を目指す。民主主義を何をしても良いと誤解。本当の自由は他人に不快な思いをさせない、迷惑をかけないことであり、他人の生活をじゃましない範囲で自由が認められる。
- 「自分のことは自分でする」という考えがあり、頼み、頼まれる関係がぎくしゃくしている。社会におけるコミュニケーションがなくなっている。自分のことは自分でできる社会をつくっていくとコミュニケーションの少ない社会になってしまい、「公」をつくることが苦手になってくる。
- フェイストゥフェイスで得る情報が重要。どういう体験をさせるかが重要であり、子どもは先生から信頼され、任せてもらうことにより変わる。学校や地域のいろいろな人に学ぶことが必要
(委員等からの意見)
- シティズンシップ教育は必要だが、大人のマナーが悪い姿を見ていると、子どもはしてもしなくてもいいと思ってしまう。学校で学ぶこともできるが、大人全体で、社会全体で取り組んでいくべき問題だと思う。
- 「体験」がキーワードだが、年齢の離れた人と話す体験がない。世代間交流を進めていくことが必要であり、体験により子どもは急激に変わる。また、自尊心がないと職業選択ができない。自尊心が低いと職業につくという意識が高まらない。教養教育、キャリア教育、シティズンシップ教育は3つが連動している。
- 学校5日制の導入、10年前の生活科の導入、総合的学習の時間の導入等、20年前と比して体験的学習の場は増えているのにひきこもり等が増えている。実態に即した体験となっているのか疑問がある。この増えた体験の場をどう活用していくかを考えていかなければならない。
原田紀久子氏のスピーチと意見交換
(原田氏スピーチ要旨)
- アントレプレナー教育では、テーマを決めて、解決すべき問題を調査し、見えてきたことを研究し実現することを求める。学校の外へ出で調査したり、企業の人からアドバイスをもらうという体験をする。
- 中学生になると商店街に自分たちで店舗を出して、売上金をどこに寄付するか自分たちで検討する。こうした取組を通じて、働くこと、貢献すること、自己有用感を感じることができ、学習意欲が出ていく。
- 三鷹市では小・中全校でアントレプレナー教育を実施。教育サポーター、コーディネーター、評議員、PTAに研修を受けてもらい、サポート体制をつくって取り組んでいる。
- 国際大会に出場する子どもたちを見ていて感じることは、日本の子どもたちはアイデアを形にし、まとめ、事業による収支計算を行う等の実際の社会の動きとつながるような教育を受けていない。
- そうした教育ができないのは、学校の先生が忙しく、先生が地域に出ていくことができていないからではないかと考える。民間ではプランをみんなで検討し、作成して進めることが基本であるが、そうした観点が今の教育の場にはないと感じている。民間人を講師にしたり、外にでていく研修が必要
- アントレプレナー教育では大人が辛抱強く子どものやることを待ってやることが大事であり、大人に余裕がなければ余裕のある教育はできない。
(委員等からの意見)
- スウェーデンでは、シティズンシップ教育・アントレプレナー教育が教科横断的になっている。あらゆる教科で問題意識を持てるような教育をしている。「体験」「自立」「自尊心」「働く能力」「生涯学習能力」がキーワードではないかと考える。
- アントレプレナー教育では、それぞれが持ち味を生かしてチームで仕事をすることが成功への秘訣であり、セルフリスペクトにつながる。全員が同じことができなくてはいけないということではない。今の体験学習は、体験の中身が子どもを育てるようになっているかは疑問。例えば、竹とんぼをつくる体験でも竹はすでに切ってあり、くっつけて飛ばすだけという体験もある。プロセスが省略されて結果だけがある。
- 夜型社会をやめるべき。フィンランドでは4時に仕事から帰宅しており、社会としての余裕度が全く違う。京都は夜型社会にはしません、仕事はそれ以上しませんぐらいのことを言うべきと考える。日本人はこれだけ働いてなぜ貧しいのか。部分的な改良ではだめである。また、ゆとり教育で育った今の子どもたちが先生になると、自分たちが習ったことのないことを教えなければならないようになる。社会全体の中で教えていくことを考えていくことが必要である。
- 学生祭典をやっている学生は、ここで初めて企画して実現するというプロセスを体験している。小学生の頃からこういうことができていればと思う。
中小路貴司氏のスピーチと意見交換
(中小路氏スピーチ要旨)
- 長岡京市で放課後子ども教室などを実践しているが、学校と連携した取組を推進するためには、教員の意識を変えることや、学校長が地域状況を把握し、地域との信頼関係を築くことが大切である。
- 更に、取組を定着させるためには、保護者の意識を変え、親も子どもと一緒に育つということが大切である。
- 今、こうした取組をしているのは、子ども時代に野球を教えてくれたお兄さんやお姉さんのようになりたいとの思い。自分の子どものためかもしれないが、隣近所の子どももすくすくと育ってほしいと願っている。
- 中学校の英語教育等、具体的な取組の中で、地域に学生や留学生、社会人など様々な分野の人材が存在することを示すことが重要である。
- より子どもたちに学ぶ楽しさや意欲を向上させるためには、新たな体験や挑戦をさせることが重要と考えており、大学教授による三葉虫の学習など、大学や博物館、資料館等を活用した取組を行っている。
- 卒業生などを活用し、地域に守られて育った子どもが、将来、地域を支え、地域の子どもを育んでいくことが重要である。
(委員等からの意見)
- 地域の教育にかける思いは半端なものではく、コミュニティスクールの取組をやれる地域は是非やって、伸びていけばよいと考える。地域の人が学校づくりに参画するに際しては、全体の概念づくりが重要である。
- 世の中が幸せでないと子どもは幸せになれない。お世話になり、それをお返しすると言うお世話の連鎖が今はなくなっている。
- 子どもたちに学生祭典の踊りを教えに、学校を訪問している。学校によって対応や雰囲気は様々である。
- 学校での取組をどう進めるかは職員の意欲の問題であるが、意欲を出させるのは校長の力量である。自分がどういうビジョンで学校をつくりあげるかを考え、実行していけるスパンがあればと思う。
- 大人が自分の子ども以外の子どもをみる力をつける。大人が育つという発想も重要である。
後野文雄氏のスピーチと意見交換
(後野氏スピーチ要旨)
- 普通の公立中学校でがんばれば変われることを示したかった。
- 「PDCAR」の「R」が重要。学校ではこれまで「R(リサーチ)」がなかった。先生や大人の感覚で教科のプランをつくってきたが、そのプランは子どもの実態、保護者のニーズに合っているのか疑問である。
- リサーチに基づいた授業改善に学校全体で取り組み、それを土台に教科や先生のオリジナリティを出していった。
- 「とらいあんぐる」という名称のシラバスを全教科、全学年で作成し、中学2、3年生は夏休みに全家庭訪問を行い、シラバスを示し、課題を示し家庭での取組を求めた。中学校1年生は6年生の時に小学校に出向き、親に集まってもらい、小中連携で協力依頼をしている。
- 子どもの課題はそれぞれ違う。1対100の関わりではだめ。1対1で何ができるか。1対1の対応でないと個々の課題が見えてこない。
- 弁当を届けるだけでもいいから学校に来てほしい、実態を見てほしいとの思いから、学校へ来た保護者にポイント制を導入。ポイントをためると学校行事の準備風景をドラマ風に編集したDVDを賞品として提供したところ、平成20年度には、1000人の保護者が来校
- 地域の人は部活に協力してもらっている。スイミングスクールやお琴の教室等に協力をお願いし、教えてもらっている。地域の素材を活用する時には子どもの有無にかかわらずお願いをする。子どもは活躍の場を提供するとすごい力を出す。教師や管理者がそういう場を提供することが重要
- 今の学校現場は結果よりも方法論が重視されている。周囲の目が気になるかもしれないが、結果のためには手段を選ばないという覚悟も大切である。
- 学校は多様性を用意しておくことが重要。子どもたちが落ち着く居場所をつくることが必要。多様性をつくらないとはみ出した子どもは変われない。
(委員等からの意見)
- 先生だけでやると大変だが、地域の人や外の人の協力を得ることにより、活動の幅を広げられることを実感
- 居場所づくりが重要。保護者の居場所づくり、リタイヤした人の居場所づくり等、大人の居場所づくりをどうしていくのかの検討も必要と考える。
- 努力したからよかったではなく実のある方法をとるべきである。「異文化体験」も非常に重要なキーワードだと考える。