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今も忍び寄る白い陰影“結核”(我が国の主要な感染症)

(京都府保健環境研究所だより82号掲載)

1 東アジアでの発生状況

 人口の集中化と密接に関連する結核は、ヨーロッパでは確実に死を招く「白いペスト」として恐れられ、19世紀には産業革命により人口が都市へ集中した英国から広がり始め、やがて全世界に白い陰影が爆発的に蔓延しました。日本でも工業化が進んだ明治以降に、人口の過密化と劣悪な労働環境が進み、結核大国への道を急速に歩んでいきました。 かつて、結核は時代劇や細井和喜蔵の著作「女工哀史」等の小説に出てくるように「労咳」と呼ばれ、「不治の病」とされる「国民病」でした。貧しい庶民が貧困生活の末に結核を患い死に至りましたが、一方で、明治の文豪と称される正岡子規や森鴎外など文化人も例外ではありませんでした。才能や美貌に恵まれた若者の死を惜しんで「肺病天才説」、「佳人薄命」として語られ、いわば結核が一種の文化(ロマン)とされる気風さえありました。 やがて第二次世界大戦後、先進諸国では医療技術や生活・衛生水準が向上し、1970年頃の我が国では結核患者数が激減し、結核は「過去の病気」と思われるようになりました。 ところが、今では結核の患者数等は減るどころか、アジア・アフリカ諸国や開発途上国では増える傾向にあります。1993年にWHOの『世界結核非常事態宣言』、1999年に厚生省の『結核緊急事態宣言』が出され、我が国でも結核対策の強化が叫ばれ、現在も懸命に取り組んでいるところです。結核は決して「過去の病気」ではありません。今でも下痢症、肺炎とともに世界最大級の感染症です。

2 結核とは?

結核は結核菌が肺及び肺以外にも様々な臓器に炎症を起こす慢性感染症です。肺結核の主な症状は発熱、咳、血痰、胸痛です。 結核菌は、患者の咳やくしゃみしぶき(飛沫)に含まれています。空気中で急速に水分が失われ、結核菌だけの状態(飛沫核)で長時間漂っています。それを周りの人が吸い込んで感染します.結核菌に感染しても数年以内に発症するのには約10%程度であり、多くの場合は、感染後にできた免疫が肺胞の中にいる結核菌の増殖を抑えます。やがて生活習慣病や高齢化等による免疫力の低下やHIV感染のように免疫不全に陥ると、結核菌に対する抵抗力が衰えて、再び結核菌が盛んに活動するために発症に至ります(「内因性再燃」)。 最近では、既に感染している者でも、免疫力が低下して、新たに別の結核菌に感染して発病することがわかってきました(「外来性再燃」)。


図1 結核死亡率の年次推移と各国比較(財団法人 結核予防会)


図2 結核菌の感染システム

(1)結核の起源

結核菌は、紀元前13000年頃に出現したと推定されています。  人類最古の確実な結核の症例は、ドイツのハイデルベルグで発掘された紀元前7000年頃の人の遺骨に見られます。日本では、鳥取県青谷上寺地遺跡(2世紀後半)で発見された渡来系弥生人の骨に見られる結核の痕跡(脊椎カリエス)が最古の結核の症例です(図3)。これにより、渡来人が結核菌を日本列島に持ち込んだことが分かりました。

(2)結核の原因探求の歴史

  19世紀に細菌学が発達するまで、結核の原因は宗教的・迷信的なものと考えられていました。 1865年にヴィルマン(フランス)は結核患者の痰を用いた動物実験を行った末に結核菌を同定し、「結核は結核菌によって伝染する」理論を発表しましたが、認められませんでした。その後、1882年にコッホ(ドイツ)が結核菌の染色に成功し、その存在が顕微鏡で初めて確認されました。

図3 日本最古の結核症例の写真(鳥取県教育文化財団調査報告書より)
図3 日本最古の結核症例の写真(鳥取県教育文化財団調査報告書)

図4 培養された結核菌の写真
図5 結核菌の電子顕微鏡写真(財団法人結核予防会結核研究所より)
図5 結核菌の電子顕微鏡写真(財団法人 結核予防会結核研究所)
図6 喀痰中の結核菌(チール・ネルゼン染色の1000倍)の写真
図6 喀痰中の結核菌(チール・ネルゼン染色X1000)の写真

4 結核の感染の現状

(1)日本の現状

2003年には、全国で新たに結核と診断されて登録された患者数(結核新登録患者数)は31,638人(京都府(京都市を除く。)295人)、人口10万人対の新登録患者数(結核罹患率)は24.8(同29.9)、依然として減少速度は鈍いものです。京都府と京都市を合わせると残念ながら全国ワースト5位となります。  特徴として、既に結核に感染しているとされる70歳以上の高齢者(結核罹患率42.9)の発症が年々増えています。また、結核菌に対する免疫を持たないとされる20歳代若者(同16.5)にもピークがあり、学生・社会人の集団感染が後を絶たず、注意が必要です。  また結核の死亡者は2,336人(死亡率1.9)ですが、そのうち70歳以上の高齢者が77.0%も占めています。世界的に見ても、日本は依然として「結核中進国」です。  一方、発生の状況をみると住居が定まらない、いわゆるホームレスといわれる層に広がりを見せています。このことは、発見の遅れによる蔓延化、治療中断による複数の薬が効かない結核菌(多剤耐性結核菌)の出現、そして治癒の難航等、新たな問題の発生につながっています。

(2)世界の現状

世界の総人口の約1/3(20億人)が結核に感染し、毎年約800万人が新たに発病、約200万人が死亡しています。その多くはアジア・アフリカ地域をはじめとする開発途上国で発生しています。 また、HIV感染者の約3分の1に結核の発症が認められており、結核の蔓延に拍車をかけています。

5 京都府の結核対策

京都府では、2000年から4年間、「結核対策特別促進事業」に取り組んできました。結核のハイリスクとされる高齢者福祉施設及び飯場生活者を対象に、協力が得られる施設について「ハイリスク者モデル検診事業」を行いました。当研究所は喀痰検査を担当し、4年間に延べ2,098件の喀痰を検査しました。その結果、結核菌が分離されたのはわずかに高齢者福祉施設の1例だけでした。この症例は自覚症状がなく、結核菌は分離用培地にわずか1コロニーが分離されたという状況で、保健所は直ちに医療機関を紹介して、予防内服が始められ、将来起こりうる集団感染を未然に防ぐことができました。 この結果から、京都府内の高齢者福祉施設や飯場で結核が蔓延している状況は否定されましたが、将来的に安心できるわけでもありません。日頃の細やかな健康管理と健康診断が、結核の早期発見・早期治療、ひいては施設内の集団感染を未然に防ぐ重要な鍵となっています。

6 結核菌の検査

検査は痰や胃液を採取して、塗抹検査(排菌の有無、程度等)、培養検査、遺伝子検査、そして薬剤感受性試験を行います。培養検査には約8週間を要しますが、遺伝子検査の導入により迅速な診断ができるようになりました。

7  結核の治療 

現在では、3~4種の抗結核薬を短期間(6~9ヶ月)服薬して、治療します。

8 最近の結核対策の現状

直接服薬確認療法
(Directly Observed Treatment , Short course:DOTS)

DOTSは治療の中断を防ぐために、医療従事者の立会いの下に患者に服薬してもらい、服薬を確認し、支援する方法です。DOTSは次第に普及しており大きな成果を上げています。府南部地域では、2002年3月から病院内DOTSに、4月からは在宅DOTSに取り組んできています。

9 結核の予防

【一般的な予防方法】

(1)年に一度は検診を受け、胸部X線検査を受ける。
(2)十分な栄養、休養、睡眠をとり、日頃から体力をつける。
(3)乳児期の予防接種(BCG):生後6ヶ月までにBCG接種を行う(約15年は効果がある)。

【患者と接触する際の注意事項】 

部屋の換気を良くするために窓や戸を開けて、屋外→室内→屋外へと空気の流れを作ります。健康な人は風上に、患者は風下にいるようにします。

(1)患者の注意事項:排菌時にはマスク着用
(2)周囲の人の注意事項  患者との距離を保ち、自分は風上にいるようにする。必要があればN95マスク*及びガウンを着用する。接触後には、うがい、石鹸を使用しての手洗を行い、アルコール系の消毒剤などで手指を消毒する。

* N95マスク:結核感染防止用マスクとしてCDC(米国疾病管理センター)が推奨  0.1~0.3μの粒子が95%除去されます。

【結核菌の消毒方法】

結核菌に有効で皮膚に使えるものは、アルコール系とヨード系(ポピドンヨード)の薬剤です。現在、この2種類の薬剤が併用されています。衣類や寝具には日光消毒(紫外線)が効果があります。

10 「結核予防法」の一部改正

この度半世紀ぶりに「結核予防法」の改正が行われ、2005年4月1日付けで施行されました。主な改正内容は次のとおりです。

(1)リスクに応じた健康診断の実施
(2)乳幼児のツベルクリン検査の廃止、生後6ヵ月までのBCG直接接種の導入
(3)保健所又は主治医によるDOTSの推進
(4)国、都道府県、医師等、国民の責務規定の整備
(5)国、都道府県の結核予防計画の策定
(6)結核診査協議会の見直し

11 最後に

今や結核は、早期発見、適切な早期治療を行えば、治せる病気です。また、重症化を防いだり、身近な人へ感染させないことも重要です。このためには、日頃からの健康管理が大切で、「いつもの風邪にしては、2週間程も微熱や咳が続く...」など気になることがあれば医療機関で、胸部X線検査を受けるなど、医師に気軽に相談してください。 当研究所は、今後も感染の拡大防止のため遺伝子解析等の技術を高め、保健所等と連携を図りながら、結核対策に取り組みます。    (細菌・ウイルス課)

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