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1 「ズワイガニ」ってどんなカニ?

ズワイガニ豆知識

Q1 「松葉ガニ」と「コッペ」は同じ種類のカニ?

ズワイガニはオスとメスとで一般的に呼名が違います。また、水揚げされる地方によっても呼名が違います。ちなみに、「松葉ガニ」とはズワイガニのオス、「コッペ」とはズワイガニのメスの呼名です。


 ズワイガニのオスとメスの呼名

  • オス: 松葉ガニ(京都・兵庫・鳥取)越前ガニ(福井)加能ガニ(石川)間人ガニ(京都府京丹後市丹後町)舞鶴かに(京都府舞鶴市) 
  • メス: コッペ(京都)セコガニ(京都・福井・兵庫・鳥取)オヤガニ(鳥取)コウバコ(石川)

写真:ズワイガニ

ズワイガニのオス(左)とメス(右)

Q2 なぜ、「松葉ガニ」っていうの?

 細長くすらっとした脚の形や脚の筋肉が松葉のように見えるからという説や、漁師が浜で松葉を焼いて「焼きガニ」を食べたという説などがありますが、正確なことは良く分かっていません

Q3 なぜ、オスガニとメスガニの大きさが違うの?

 「オスガニ」は、大きいものでは甲幅(甲羅の幅)が約15cmにもなります。一方、「メスガニ」の甲幅は7~8cm程度です。「オスガニ」も「メスガニ」もズワイガニの立派な親ガニです。

 なぜ、こんなに大きさが違うのか?

 カニやエビなどの甲殻類は、脱皮を繰り返して大きくなります。メスガニは7~8cm程度になると、成熟して産卵を行います(詳しくは、「3 成熟と産卵」を参照)。産卵を行うようになると、脱皮しなくなります。つまり、それ以上は大きくならないということです。
 それに対して、オスガニは脱皮を繰り返し、どんどん大きくなっていきます(詳しくは、「2 脱皮と成長」を参照)。その結果として、同じ親ガニでもオスとメスとで、甲羅の大きさが全く違うわけです。


オスガニ(下)とメスガニ(上)。どちらも立派な親ガニ。

Q4 「オスガニ」と「水ガ二」とは別なカニ?

「オスガニ」も「水ガニ」も同じズワイガニのオスです。しかし、同じ甲羅の大きさでも「オスガニ」の値段は高価であるのに対し、「水ガニ」は比較的安価で売られています。その理由は、「水ガニ」は「オスガニ」に比べると、ハサミや脚などの身の入りが悪いこと、またいわゆる「カニみそ」の量も少ないためです。

 これは、脱皮と深く関係しています。つまり、「水ガニ」とは脱皮してからあまり月日が経っていないオスガニのことを言います。そのため、甲羅はもとより身体全体が「オスガニ」に比べると軟らかいのが特徴です。脱皮してからほぼ1年以上が過ぎると甲羅も硬くなり、身入りも良くなり「オスガニ」となります(詳しくは、「2 脱皮と成長」を参照)。
 甲羅が硬く、身入りも良いオスガニは、漁業者の皆さんや水揚げ市場の関係者の間では、「かたガニ」とか「たてがニ」と呼ばれています。

注※京都府と石川県では資源保護等の観点から水ガニを禁漁しており、それぞれの沖合では水ガニは漁獲されていません


「オスガニ」の選別作業。甲羅の大きさ、質などにより細かく分けられます。

Q5 「カニみそ」ってズワイガニの脳みそ?

 「カニみそ」と呼ばれているもの(暗褐色)は、「肝膵臓(かんすいぞう)」といい肝臓と膵臓の働きをしている器官で、脳みそではありません。
 また、「オスガニ」の甲羅の中にある白色で、つぶ状になったような部分が見られますが、これは精子を作り、貯蔵する「精巣」と「輸精管」です。  ちなみに、「メスガニ」の甲羅の中にあるオレンジ色の部分は「卵巣」です。


肝膵臓:水色矢印(暗褐色の部分全体) 精巣:黄緑色矢印 輸精管:赤色矢印

Q6 ズワイガニの仲間ってたくさんいるの?

 ズワイガニはカニ類の中の「クモガニ科」に属します。「クモガニ科」の中には大小様々な種類がいます。ズワイガニは「クモガニ科」の中では大型の方ですが、最も大きいのは長い脚を持ち、ハサミを広げると3mにもなる「タカアシガニ」です。逆に、「クモガニ科」の中で小さい種類では、甲羅の大きさが親ガニになっても1cmにも満たない「マメツブガニ」や「ヤワラガニ」などがいます。

 さて、話しをズワイガニに戻しましょう。ズワイガニの仲間は「ズワイガニ属」と呼ばれています。学名は、「Chionoecetes」(キオノエセテス)といいます。「ズワイガニ属」の仲間は、現在のところ5種が報告されています。この5種の「ズワイガニ属」を紹介します。
 なお、この中で我が国で食用となっているのはズワイガニ、オオズワイガニ、ベニズワイの3種です。

  • 標準和名 ズワイガニ
  • 学名 Chionoecetes opilio
  • 英名 snow crab,spider crab,queen crab,zuwai crab
  • 特徴 我が国では、ズワイガニ属の代表種といえるでしょう。我が国の日本海、オホーツク海、北太平洋沿岸域など広い範囲に生息し、重要な漁業資源として漁獲されています。

  • 標準和名 オオズワイガニ
  • 学名 Chionoecetes bairdi
  • 英名 tanner crab
  • 特徴 呼名のとおり、ズワイガニよりも大きくなります。脚がズワイガニに比べ若干太短いのが特徴といえます。一見だけでズワイガニと識別するのは少々難しいかもしれません(Q7を参照)。ベーリング海、アラスカ沿岸域や我が国では北海道に生息しています。日本海には生息しません。オスだけが漁獲の対象となっており、メスの漁獲は禁止されています。アラスカなどから輸入されています。

    zuwai7


    本尾洋(1999)

    • 標準和名 ベニズワイ
    • 学名 Chionoecetes japonicus
    • 英名 red queen crab,beni-zuwai crab
    • 特徴 呼名のとおり、ズワイガニよりも体色が赤みを帯びています。また、甲羅の後縁部の傾斜が、ズワイガニやオオズワイガニよりも急なのが特徴です。日本海の水深500~2,000mの海底に生息しています。山陰や北陸地方では、「かご縄」という漁法で獲られています。オスだけが漁獲の対象となっており、メスの漁獲は禁止されています。京都府では水揚げされていません。

    • 標準和名 トゲズワイガニ
    • 学名 Chionoecetes angulatus
    • 英名 triangle tanner crab
    • 特徴 米国オレゴン州からアラスカ州に至る北太平洋、ベーリング海の水深90~3,000mに生息しています。しかし、その量は少なく、漁業の対象にはなっていません。甲羅の中央部の溝は広くて浅く、後縁部には1本の鋭いトゲがあります。生態はほとんど分かっていません。

  • 標準和名 ミゾズワイガニ
  • 学名 Chionoecetes tanneri
  • 英名 grooved tanner crab
  • 特徴 米国カリフォルニア州からベーリング海の水深53~1,900mに生息しています。甲羅の中央部の溝は狭くて深く、後縁部には2本のトゲがあります。トゲズワイガニと同様に漁業の対象にはなっておらず、生態も良く分かっていません。

    ちょっと雑談

     ズワイガニと並び人気の高いカニに「タラバガニ」があります。
    この「タラバガニ」、「カニ」って呼ばれていますが、その姿を良く見ると脚が全部で8本しかありません。「タラバガニ」は「カニ」ではなく、実は「ヤドカリ」の仲間に入ります。この他に「ヤドカリ」の仲間では、「ハナサキガニ」「イバラガニ」「アブラガニ」などがあります。

    (文献)
    本尾 洋.1999.日本海の幸(エビとカニ).地球環境シリーズ2.98pp.
    L.S.Jadamec, W.E.Donaldson, and P.Cullenberg.1999.Biological field techniques for Chionoecetes crabs.University of Alaska Sea Grant College Program.AK-SG-99-02.80pp.

    Q7 ズワイガニとオオズワイガニの簡単な見分け方は?

     ズワイガニとオオズワイガニとは、一目見ただけで区別するのは難しいかもしれません。しかし、ある部分を良く見れば、実は容易に識別することが出来ます。
     それは、両眼の間の口に近い部分(epistomal plates)のかたちで、ズワイガニは水平、オオズワイガニはM型になっています。また、両眼の間の二股になったトゲ(rostrum)が、ズワイガニは水平に伸びており、オオズワイガニはやや上方に反っています。大きくはこの2点で識別ができるはずです。


    両眼の間の口に近い部分:ズワイガニ(左)は水平、オオズワイガニ(右)はM型


    両眼の間の二股になったトゲ:ズワイガニ(左)は水平、オオズワイガニ(右)は上方に反る


    ズワイガニ(上)とオオズワイガニ(下)の甲羅

    Q8 ズワイガニってどこに棲んでいるの?

     北極海のアラスカ沿岸域、グリーンランドの西海岸、北大西洋のカナダ沿岸域、太平洋の北米沿岸域、ベーリング海、オホーツク海、日本海、茨城県以北の太平洋沿岸域など広い範囲に生息しています。
     日本海では大陸棚の縁辺部に当る水深約200~400mの海域と、日本海のほぼ中央部に位置する大和堆に生息しています。


    ズワイガニの分布域 (L.S.Jadamec et al.(1999)などを参考に作図)
    (文献)
    L.S.Jadamec, W.E.Donaldson, and P.Cullenberg.1999.Biological field techniques for Chionoecetes crabs.University of Alaska Sea Grant College Program.AK-SG-99-02.80pp.

    Q9 ズワイガニが棲んでいる海底はどんなところ?

     太陽の光が全く届かない真っ暗な世界です。水温は年中0~3℃程度で、家庭用の冷蔵庫の中よりも冷たいところです。また、海底は軟らかい泥で覆われています。
     このような海底でも、様々な生物が生息しています。中でも「クモヒトデ」というヒトデの仲間がたくさん見られます。
     この他にも主なものとして、魚類ではアカガレイ(マガレイ)、ハタハタ、ノロゲンゲ(ノメ、グラ)、エビ類ではホッコクアカエビ(甘エビ)、クロザコエビ(泥エビ、白エビ)、モロトゲアカエビ(スジエビ)、貝類ではエッチュウバイ(白バイ)なども棲んでいます。


    ズワイガニが棲む海底の様子。クモヒトデがたくさん生息しています。 (1989年8月18日「しんかい2000」で観察)

    Q10 深い海の底から船の上に揚げられて、水圧の変化は大丈夫なの?

     一般的に体内に「浮袋」を持つ魚は、急激な水圧の変化に耐えられず、目玉が飛び出したり、口から胃が飛び出したりして死んでしまいますが、「浮袋」を持たない魚では、このようなことは起きません。
     ズワイガニは「浮袋」は持たず、身体は硬い甲羅で守られているので、深い海底から船上に揚げられても死ぬことはありません。しかし、Q9でも述べたとおり、ズワイガニは非常に冷たい海底に棲んでいるので、水温や気温の高いところでは死んでしまいます。
     深い海底に生息するズワイガニも、海水温を10℃以下に保てば、水族館のように浅くて小さな水槽でも飼育することは可能です。


    宮津エネルギー研究所「魚っ知館」の水槽で展示されているズワイガニ。水温は約3℃に保たれています。

    Q11 ズワイガニって何を食べているの?

     ズワイガニは主に魚類(ただし、生きた魚は捕まえられないので、死んで海底に落ちた魚)、クモヒトデ、エビ類、イカ類、ゴカイ類などを食べていることが知られています。

    Q12 ズワイガニは何年で親ガニになるの?

     魚の年齢は、「鱗」や頭の中に入っている「耳石」に刻まれている「年輪」の数から知ることが出来ます。ところが、カニやエビなどの仲間(甲殻類)は、「鱗」や「耳石」はなく、脱皮を繰り返して大きくなることから、年齢を知ることが出来ません。

     一般的には、カニやエビでは、年齢の代わりに脱皮の回数(これを脱皮齢期といいます)を使うことが多いです。1年に1回の脱皮であれば、脱皮齢期と年齢とが一致しますが、多くの場合は小さいときには1年に数回の脱皮を行うことから、脱皮齢期と年齢とは一致しません。ズワイガニも同様です。

     ズワイガニのメスでは、10回の脱皮を繰り返して「第11齢期」になると親ガニとなり、産卵を行うようになります(詳しくは、「3 成熟と産卵」を参照)。オスの場合は少々複雑で、早いものではメスと同じように「第11齢期」で、遅いものはさらに脱皮を繰り返し「第13齢期」で親ガニとなります(詳しくは、「2 脱皮と成長」を参照)。
     なお、ここではオスの親ガニとは、全てのメスガニとの交尾が可能となることをいいます(詳しくは、「3 成熟と産卵」を参照)。
     先に述べたように、年齢は明確には分かりませんが、親ガニになるまでにはおよそ7~8年かかると考えられています。

    Q13 ズワイガニの甲羅に小さな黒い粒がたくさん付いているけど、これは何?

     黒い粒は「カニビル」という「ヒル」の仲間の卵です。
     「ヒル」といえば「吸血鬼」のイメージがありますが、この「カニビル」はカニに何の害も与えません。この辺りの海底は軟らかい泥で覆われているために、「カニビル」が卵を産み付けることができる硬い場所がありません。そこで、その格好の場所となったのがズワイガニの甲羅というわけです。しかも、カニはあちこちに移動するために、「カニビル」にとっては自分達の生活域を広げることが出来ます。
     「カニビル」は卵を生むためにカニの甲羅に付きますが、それ以外のときには海底の泥の中に生息し、カレイなどの魚類の体液を吸って生きています。
     ところで、この「カニビル」の卵が、実はズワイガニの身入りなどをチェックするひとつの重要な鍵となっています。つまり、甲羅に「カニビル」の卵がたくさん付いているほど、ズワイガニの脱皮後の時間が経っており、ズワイガニの身入りがよく、上質であると判断されるのです。


    甲羅に付いているカニビルとその卵

    Q14 ズワイガニはどんな方法で獲るの?

     日本海では底曳網で獲っています(詳しくは、「5 ズワイガニ漁業」を参照)。島根県の一部では、「かご縄」でも漁獲しています。
     アメリカやカナダでは「かご」で、韓国では「刺し網」などでも漁獲しています。


    ズワイガニを獲る底曳網漁船

    ズワイガニ漁の操業の様子

    約1時間網を曳いて、いよいよ網を揚げてきます。
    網の一番後ろが袋状になっており、ここにズワイガニや他の魚がたくさん入っています。
    漁獲物が船上に揚げられ、これからズワイガニやカレイなどを選別します。

    Q15 ズワイガニはどれくらい獲られているの?

     日本海西部(石川~鳥取県)のズワイガニ漁獲量は、近年3,000トン前後で推移しています。昭和40年代の初めの頃は10,000トン以上の水揚げがありましたが、乱獲などの影響によって、昭和60年代には1,500トン程度にまで減ってしまいました。その後は、漁業者の皆さんの資源管理の取り組みにより、漁獲量は徐々に増えてきています。

     京都府内の漁獲量もほぼ同じような傾向にあります。昭和30年代の後半には約400トンを水揚げしていましたが、その後は減少を続け、昭和55年には50トン台にまで落ち込んでしまいました。京都府では、この頃から全国に先駆けた取り組みとして、ズワイガニを積極的に保護するために、海底に魚礁を沈めて「ズワイガニ保護区」を造りました(詳しくは、6 ズワイガニの保護(資源管理)」を参照)。この取り組みは現在も継続されており、また新たな取り組みも強化され、漁獲量が回復してきています(詳しくは、「5 ズワイガニ漁業」を参照)。

    Q16 京都府産のズワイガニを見分けるにはどうすれば良いの?

     ひとことで「ズワイガニ」といっても、実に様々な所で水揚げされています。石川県から島根県までの日本海西部、富山県以北の日本海北部、北海道のオホーツク海、三陸沖の北太平洋、また、海外ではカナダ、米国、ロシア、韓国などでも水揚げされ、我が国に輸入されているものもあります。外国産だから全て冷凍かと思えばそうではなく、生きたまま輸入されているものもあります。

     では、地元京都府産の「オスガニ」を見分けるにはどうすれば良いのか?
     京都府産の「オスガニ」には、写真のような「緑色のブレスレット」がハサミに付けられています。
     ブレスレットのプレートには、片面に「ズワイガニの姿」と「京都」と刻印され、もう一方には「舞鶴」「たいざガニ」「網野」の3種類のいずれかと「○○丸」という水揚げをした船名が刻印されています。
     「舞鶴」とは府漁協舞鶴支所、「たいざガニ」とは丹後支所、「網野」とは網野支所に所属する底曳網漁船により水揚げされたことを表しています。
     「緑色のブレスレット」を付けた「オスガニ」を一度食してみてください!


    丹後産のオスガニに付けられるタグ 京都産を証明する「緑色のブレスレット」

     

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