ホーム > きょうと府民だより > きょうと府民だより2020年11月号 > 特集1 和食文化の未来のために
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2013年「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
それを機に、日本文化の中心地である京都から世界へ和食文化を継承・発信する人材の育成を目指して、2019年、京都府立大学文学部が和食文化学科を設立しました。設立から2年目を迎え、同学科は文理融合のアプローチと地の利を生かしたフィールドワークで未来の和食の可能性を開く人材を育成しています。
また、同大学京都和食文化研究センターでは、社会のニーズに応じた公開講座を開講し、研究成果を広く発信しています。
京都府知事 西脇隆俊
京都府立大学 文学部 特別専任教授
佐藤 洋一郎 氏
京都大学農学部卒業、同大学院農学研究科修士課程修了、農学博士。食人類学分野の科目のほか、京都の「食の現場」から学ぶフィールドワークも担当。和食文化学会会長。
府立大学に2019年4月に誕生した和食文化学科。この学科の特徴の一つは、フィールドワークを重視した学びです。「料亭や、農家、市場、給食センターなど、さまざまな食の現場に行って、現実に起こっている問題は何かを見聞きして、考え、問題意識を獲得する手段がフィールドワーク。大学での授業では席に座っていれば向こうから知識が降ってきますが、現場では自ら情報を取りに行かなくてはいけません。人とのコミュニケーションの取り方や付き合い方みたいなものも現場で学ぶ。和食文化学科ではそこに力を入れています」と語るのは、同学科の佐藤洋一郎特別専任教授。今年はコロナ禍で実際に現場へと足を運ぶことが難しくなるなか、オンラインを活用しながら学生たちの学びをサポートしているそうです。
「われわれが研究対象とする和食文化という『知』は、研究室にこもって資料を読むだけでは捉えきれません。感染症対策と工夫をしながら、フィールドワークはできるだけ続けていきたいですね」
京料理木乃婦 三代目主人
髙橋 拓児 氏
東京吉兆で修業後、木乃婦で父と祖父に師事。京都大学大学院農学研究科修士課程修了。龍谷大学大学院農学研究科博士課程在籍中。シニアソムリエ資格も有し、既存の枠を超えて京料理を追求している。
和食文化学科が教育を担う一方、和食文化に関わる多様な分野の研究者らの知見を社会へ還元する機能を担うのが、同大学京都和食文化研究センターです。同センターのリカレント講座で講師を務め、和食を学術的に研究しながら和食の革新に挑戦し続けている髙橋拓児氏(京料理木乃婦(きのふ)三代目主人)に、和食文化学科で学ぶ学生たちに期待することは何かを伺いました。
「和食というのは、食材と調理だけで成立するものではなくて、歳時記や伝統芸能、しつらい、文化風習まで含んでいます。もちろんそれは基本として大学で勉強されていると思いますが、過去の文献に当てはめて満足するのではなく、そこで未来予測につながるアプローチをしてほしい。例えば歴史的に経済状況の変化が食文化にどんな影響をもたらしたかを数字で洗い出してみるとか、POSTコロナ時代の状況を予測して料理の提供方法を提案するとか…。佐藤洋一郎先生もよくおっしゃいますが、和食文化には文系の視点だけでなく科学的なアプローチが不可欠なんです。時代ごとの社会の変化を予測して、料理をクリエートしたりコーディネートしたりする力を持った人材が、和食文化学科からたくさん育ってくれたらうれしいですね。フィールドワークにも喜んで協力させてもらいますよ」
学問としての探究が開く和食の未来に期待がふくらみます。
婚礼の膳やその供し方などについて書かれた江戸時代の古書
京町家の台所でのフィールドワーク
(実学和食)
実際のほ場で京野菜などの栽培や収穫の体験実習も
京野菜の優れた食品機能性を類縁品種と比較・
研究。府立大学下鴨農場実験ほ場で栽培
日本料理アカデミー理事長村田吉弘氏による講義
文系・理系の枠を超えて和食を多角的に捉え、人類学・歴史学・文学・経営学・食科学などの視点から探究。料理人や生産者らと連携した演習・実習を通じ、世界に日本文化を発信する人材の育成を目指しています。
1年生 Tさん
将来、食のマネジメントに携わる仕事がしたくて、経営学など多角的に和食を学べるこの学科を志望しました。
2年生 Kさん
文理融合のさまざまな講義から、自分の興味を深めることができます。実習や演習が多いのも魅力です。
1年生 Oさん
今、興味がある分野は和食史学。この先もさまざまな学びから、本当にやりたいことを見つけていきます。
和食文化を担う人材を育成し、和食文化学科をはじめ大学の研究成果を府民へ還元する事業を行う機関。和食文化連続講座やリカレント講座などを通じて開かれた学びの場を提供し、和食文化を広く社会へ発信しています。
府がNPO法人 日本料理アカデミー(村田吉弘理事長)や京都市と連携し、日本の食文化の世界無形遺産登録を国に政策提案したのが2011年。これを受けて農林水産省に検討会が設置され、以降、和食文化の知識と技術の海外への開示や、国内での食育活動などを通じた啓発活動を積極的に展開しました。その結果、2013年に「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、「自然の尊重」という日本人の精神を体現した食に関する「社会的慣習」としての和食が世界から注目を集めています。
府立大学和食文化学科での研究・教育の一端を、広く府民の皆さんに共有するため、研究者や、京都の和食にまつわる各界の第一人者により、これまで公開講座を開講してきました。
今年度は「京都の発酵食」をテーマに、こだわりの発酵食品を製造する府内企業の方を講師にお招きし、各食品にまつわる話や古典文芸に表れる食について考える機会を持ちました。感染症対策として、受講者が従来の講義形式とオンライン受講を選択する形式を採用しています。
※令和2年度の受講募集は終了しました
昨年の受講状況
長い歴史の中、生活習慣や社会構造・意識の変遷と共に、食文化や食産業も変化してきました。京都は古来、そうした食文化の発信地であり、集積地でもあります。この蓄積を新たなビジネスに生かすべく、府立大学では食産業に関わる方々や起業準備中の方々に向けたリカレント講座を企画中です。
令和3年度の本格スタートに先立ち、今年度は無料で要点を学べるオンライン・プレ講座を12回にわたって開講しています。
※令和2年度の受講募集は終了しました
令和2年度の食関連産業人材育成リカレント講座
「京都における食産業の興り・変化とこれから」案内チラシ
コロナ禍で食産業界も大学も大きな影響を受けるなか、POSTコロナ社会の新たな食の在り方について、さまざまな視点から議論を交わすウェビナー(Web上で行うセミナー)シンポジウム「アフターコロナ 食のゆくえを考える」を開催。テーマごとにその分野の専門家を論客に迎え、今後の食産業の新たなビジネスモデルを模索します。同シンポジウムの第3回目が11月に開催されるので、ぜひご参加ください。
モデレーター 朝倉敏夫(立命館大学)
パネリスト:井澤裕司(立命館大学)、姜聖淑(帝塚山大学)、高田剛司(立命館大学)
日時 11月20日(金曜日)14時から15時30分
受付 ウェビナーシンポジウムのホームページにて参加受付中(11月13日17時まで)
定員 150人
参加方法
今回のコロナ禍によって、大学も和食産業も大きな影響を受けましたが、大学の感染拡大防止ガイドラインの策定と遵守により徐々に元の活気を取り戻しつつあります。また、POSTコロナ社会を見据えた産業戦略を構築するため、危機克服会議を立ち上げ、京都の持つ強みを今より進化させた食関連ビジネスモデルの創出に取り組んでいます。こうした時代の変化に柔軟に対応し、先人たちによって磨き上げられてきた貴重な文化を未来へ発展的に継承していくため、これからも府はさまざまな形で支援を継続してまいります。
京都府知事 西脇 隆俊
[お問い合わせ]
大学政策課
TEL:075-414-4526 FAX:075-414-4187
[お問い合わせ]
京都府立大学京都和食文化研究センター
TEL:075-703-5251 FAX:075-703-5149
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