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知恵の経営、元気印、経営革新、チャレンジ・バイの各認定等を受けた府内中小企業を紹介するページです。
(掲載日:平成30年2月20日 聞き手・文:ものづくり振興課 大空)
老舗京菓子司「亀屋良長」の八代目当主 吉村良和様、由依子様ご夫妻にお話しをお伺いしました。
-御社の概要について教えてください。
良和氏)享和3年(1803年)、良質の水を求め、京都・四条醒ヶ井の地を選び創業。以来200年以上、現在もこの地で、代表銘菓「烏羽玉」(うばたま)をはじめ、江戸時代から引き続がれている道具で京菓子を作り続け、私で八代目となります。「烏羽玉」は、沖縄産黒砂糖を使用したこしあんを丸く固めた檜扇(ひおうぎ)の実を思わせるつややかな漆黒のお菓子です。万葉の古歌にも歌われた「ぬばたま」は「黒・夜・夢」にかかる枕言葉ですが、もとは檜扇の実の名称です。「烏羽玉」は、これが転訛して名付けられたものです。
-お菓子作りにとって、水は重要なのでしょうか。
良和氏)はい。水は和菓子の味を決める重要なものの一つです。良質の水を使うと、小豆や餅米などの素材の香りが際立ちます。弊社は創業当時から井戸水を使っていましたが、一時は枯れてしまったため、平成3年、社屋改装の際に堀直し、醒ヶ井(さめがい)と名づけ、お菓子作りにこの水を使っています。
-八代目ということですが、老舗を継ぐことに戸惑いはありましたか。
良和氏)老舗の経営者には、伝統と暖簾を次代に繋いでいく使命と周囲の期待があります。私は若い頃それが強いプレッシャーで、違う道に進むつもりで、大学は京都を離れました。
しかし、いざ就職となると、いろいろと悩みましたが、周囲の勧めもあり、家業に戻りました。当初は後継者として、菓子職人の下積み仕事もあり、苦労もありましたが、経営を前面的に任された頃から、妻の支えもあり、新しい和菓子づくりにチャレンジすることが楽しくなってきました。
亀屋良長の伝統の通年商品
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-歴史ある老舗でありながら伝統にとらわれない斬新なお菓子づくりがメディアでも評判ですが、どんなきっかけがあったのでしょうか。
良和氏)大きなきっかけは、10年前に私が病気を患ったことで出会った、ヨガの先生からの「こだわりを捨てたら」とのアドバイスと、テキスタイルブランド「SOU・SOU」若林社長様との出会いです。
「こだわりを捨てたら」の一言で、私はそれまで、「老舗企業だから」、「京菓子にこんな材料を使ってはいけない」など、自分で勝手にこだわりをもっていることに気がつきました。
そんな頃、以前からそのデザインに魅力を感じていたSOU・SOUの若林社長様と出会い、テキスタイルに合わせた菓子作りが始まりました。中には、京菓子で使わないキノコやキュウリ、九条ネギなどの野菜を使ったものもありました。この経験が役に立ち、百貨店から新作づくり依頼など、何でも受けるようになり、今では「困ったら亀屋良長に頼めばなんとかしてくれる」と信頼をいただいております。
そして、パリの二つ星レストランのシェフパティシエの藤田怜美が、京菓子の修行をしたいと入社し、和洋にとらわれない自由な発想、和洋の両方の技術・素材を融合させた、新ブランド「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」として、これまでなかったお菓子の商品展開を始めました。
「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」ブランドの商品 SOU・SOU×亀屋良長
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人気No.1商品「まろん」 国産栗のみを使用。生クリーム とラム酒を加えた餡玉をラム酒 入り寒天でコーティングしました。 |
「cube-チョコレート小餅」 メレンゲを加えた、マシュマロの ようなフワフワのお餅をホワイト チョコレートとフランボワーズ風味の チョコレートで包み、氷餅をまぶしました。 |
「きのこ」 白あんを胡桃を入れた道明寺粉で包み、蜜漬にした 4種のきのこ(しめじ、なめこ、エリンギ、椎茸)を 乗せ、みたらし餡をかけました。 |
-女性職人に対して抵抗はありませんでしたか
良和氏)昔から、若い女性が職人になることに対して、弊社では、「気を遣う」、「重い物が持てない」、「顔にやけどをしたら責任が取れない」等、強い抵抗がありました。しかし、「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」ブランドが売上げを伸ばすとともに、弊社内での女性職人への抵抗感が薄れてきました。今や弊社の職人は女性も多く、海外から和菓子を学びたいという人も受け入れ、和菓子の体験教室で通訳などをしながら和菓子作りも勉強してもらっています。
菓子職人になりたいと、志を持てば、男女や国籍など関係はありません。弊社の従業員は台湾・中国・アメリカ人もおり、こちらが教えるだけでなく、トロピカルな色遣いや、小豆の煮汁を食材として使うアイデアなどをもらい、商品化につなげています。
-奥様の吉村 由依子 取締役様が店主を務める新ブランドも話題ですね!
由依子氏)主人が病気をしたことが原材料(特に甘味料)を見直すきっかけになりました。また、甘いものを控えておられる糖尿病患者様でも食べられるお菓子を作ってほしいというお客様がおられ、身体に気遣ったお菓子ブランド「吉村和菓子店」を立ち上げました。
吉村和菓子店の商品の特徴の一つは、身体に負担の少ない素材・調理法へのこだわりです。ミネラル・食物繊維が豊富な韃靼(だったん)ソバや有機玄米、GI値が低めで血糖値が上がりにくい天然甘味料のパラチノースや甜菜糖、ココナッツシュガー等を使い、和洋の調理法で身体に優しく仕上げています。パラチノースはハチミツにも含まれる糖質です。商品開発に当たっては京菓子協同組合様にもご協力いただきました。また、韃靼ソバやカボチャの種は、たまたま北海道の国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の方が食材として使ってほしいと持ってこられたサンプルを素焼きでオヤツに食べてみたらとても美味しかったので、お菓子にできたらという思いから商品開発に至りました。
もう一つの特徴は、食感や色彩・形といった見た目など、五感で楽しめることへのこだわりです。カリカリとした歯触りや、さっと溶けてなくなる舌触りなど、食べていて楽しくなる食感や、カラフルでかわいらしい見た目など、こんなお菓子があったらいいなと色々考えながら試作することが私の楽しみです。
今一番売れている「焼き鳳瑞(やきほうずい)」というお菓子は、ココナッツシュガーとパラチノースのメレンゲに玄米・韃靼ソバ・抹茶・カボチャの種などを乗せ、低温のオーブンでじっくりと乾燥焼きした干菓子です。健康志向の女性に大変好評で、現在、この商品の春バーションを企画中です。
「吉村和菓子店」ブランドの商品
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人気No.1商品「焼き鳳瑞」 優しい甘さのココナッツシュガーで 泡立てた卵白に、有機発芽玄米、 韃靼そばの実、木の実、南瓜の種、 黒ごまなどを乗せて焼きました。 |
「美甘玉(みかもだま)」 低GI値のココナッツの花の蜜と ココナッツミルクで作った餡玉に、 ココナッツシュガーの寒天をかけ、 けしの実を乗せました。 |
-商品開発のポイントはどのような点とお考えでしょうか。
良和氏)京菓子は元々、茶道とともに発展したため、お茶を邪魔しないように、強い味・香りを避けた微妙な味わいや、音が立たないように、やわらかい食感のものが作られてきました。しかし、茶道を習う若い方も少なくなり、京菓子を食べる機会が減っています。若い頃から京菓子に親しんでいただくと、末永く食べていただけるので、購買力の高い、働く30~40代の女性をターゲットに商品を開発しています。
若い女性は健康志向が高く、低カロリーや有機無農薬など「罪悪感」なく食べられるものを求められており、「身体に良いもの」の進物用菓子がこれまでなかったことから、今後はこのような商品にも力を入れていきたいですね。
-最後に、今後の展望について教えてください。
良和氏)老舗として、技術を伝承することはもちろん重要ですが、商品が売れなければ事業を継続することも技術を伝承することもできません。かつて京菓子の店舗には商品はなく、見本帳をお客様にご覧いただき、それぞれのご注文に応じた菓子作りが行われていました。その精神を現代に置き換え、お客様から求められることを受け入れ、素材や技法を広げ、伝統に感謝し、それを使ってお客様に寄り添ったお菓子を愛から作っていきたいと思います。
-進化を続ける老舗の新しい取組をこれからも楽しみにしています!
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