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知の京都- 野口範子さん(同志社大学 生命医科学部 教授)

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酸化ストレスと生活習慣病・脳神経疾患のメカニズムを追求

(掲載日:平成29年8月18日、聞き手・文:ものづくり振興課 足利)


同志社大学 生命医科学部 野口範子 教授(医学博士)にお話をおうかがいしました。

酸化ストレスによる神経細胞死のメカニズム

―まず、先生の研究テーマから教えてください。

野口教授) 「酸化ストレス」をキーワードに研究をしています。例えば、酸化ストレスが、血管の壁が分厚くなって血液が流れにくくなる動脈硬化や糖尿病などを引き起こすメカニズム、そして、アルツハイマー病、パーキンソン病の原因となる脳の神経細胞死のメカニズムについて研究しています。

―酸化ストレスですか。基本的なところからお聞きして恐縮ですが、酸化って、酸素と結合するとか、電子を失うとかということですよね。

野口教授) 私たちは体内に酸素を取り込み、細胞内のミトコンドリアという小器官でエネルギーを作っています。この過程で分子間で電子を受け渡すわけですが(電子伝達系)、この電子伝達の途中で電子が酸素分子に移され、不安定な「フリーラジカル•活性酸素」が生じます。フリーラジカル•活性酸素は、脂質、タンパク質、DNAなどを攻撃して、これらの分子から電子を引き抜いて酸化してしまいます。こうしたフリーラジカル•活性酸素が過剰にできて攻撃性が増すと、生体、細胞にとって有害な作用、つまり、酸化ストレスが生じるのです。

―酸化がいろいろな場面で起こるものであれば、酸化ストレスも多くの場面で起こるということですか?

野口教授) そういうことです。私たちは酸素を使って、酸化をしながら生きていますから、活性酸素は必ず生まれてきますし、ほとんどと言ってもいいくらい多くの病気に何らかの関わりがあると言えます。また、活性酸素は細胞内で生成されるだけでなく、排気ガス、タバコの煙にも存在しますし、紫外線が体内に吸収された際にも活性酸素は発生します。一方で、生体は、活性酸素の産生を抑制したり、生体分子への攻撃を抑制する抗酸化機構も有しています。抗酸化酵素を細胞内で生合成したり、ビタミン、ポリフェノール、カテキンなどを食物から取り入れたりして、酸化ストレスから身体を守っているわけです。私もお茶や生姜に含まれる抗酸化成分についても研究をしてきました。こうした、活性酸素と抗酸化物のバランス、酸化還元状態のバランスが取れていれば問題はないのですが、これが崩れると酸化ストレスの脅威にさらされることとなります。

コレステロール、ビタミン、アルツハイマー病

―なるほど。神経細胞死を引き起こすメカニズムには、様々なものがあるのですよね?

野口教授) そうですね。様々なメカニズムがあり、私もいろいろな研究をしていますが、一例を挙げますと、コレステロールの酸化生成物が神経細胞死を導くということがあります。脳には血液脳関門という特別な機構により、体循環と脳の間の物質の出入りを制御しているので、細胞膜の成分であるコレステロールを脳内の細胞が生成しています。代謝する時には、そのままでは脳の外に排出できませんので、酵素により24S-OHCという酸化物に変えて脳の外に排出しています。過剰な24S-OHCは脂肪酸と結合し、細胞内に脂肪の塊のような構造体を形成します。それがシグナルとなって細胞死に至るという一連のメカニズムを発見しました。

―そうなのですね!

野口教授) また、この24S-OHCの誘導による神経細胞死をビタミンEが抑制することがわかりました。実はビタミンEには8種類あって化学構造が少しずつ違うのですが、この構造の違いによって神経細胞死に対する抑制効果が異なることもわかってきました。ビタミンEは生体に存在する代表的なラジカル捕捉型抗酸化物ですが、24S-OHCが誘導する神経細胞死に対しては抗酸化活性とは異なるメカニズムで抑制するのです。

―創薬や食品への応用が考えられるわけですね。しかし、時間的にも長い道のりなのでしょうね。

野口教授) そうです。大まかに言いますと、最初に試験管の中で反応を確かめます。それがクリアされれば、培養細胞を使った検証を行います。その次は、動物実験というようにステップを進めます。また、ノックアウトマウスを使って、例えば「この遺伝子をなくせばどうなるか」などという検証も行います。動物実験は結果がでるまで時間がかかります。例えば、がんや動脈硬化もできるまでに時間を要しますが、アルツハイマー病など認知症はさらに時間がかかります。

―アルツハイマー病など認知症を患っているどうかって、どうやって確かめるのですか?

野口教授) 迷路や水槽を作って学習能力を確かめるなど確立された方法があります。私たちは企業にアイデアを提供したり、分析や解析など共同研究をすることによって薬やサプリメントの開発に貢献できるようにしています。実際に薬ができるまでには膨大な時間と費用が必要になってくるのです。

未来を拓く研究の道

―とても根気も必要で、大変なお仕事ですが、いつ頃からこうした道を志されたのですか?

野口教授) 小学生の頃から、人の身体のこと、病気のことに興味がありましたので、大学で生物学、大学院で医学を学びました。学部の2年生の終わり頃から、研究室で実験のお手伝いをしていたら、そのおもしろさにのめり込んでしまい、結局ずっと研究を続けてきたという感じです。

―今の学生さんはいかがですか?中小企業の現場では、特に技術系の人手不足が深刻な課題なのですが。

野口教授) ミスマッチが続いていますよね。学生はどうしても大企業志向になっています。中には「大企業に入って見えない歯車になりたくない」という学生もいますけれど。大学としても技術系で育ててきて、本人も研究がしたいと思っていても大企業で研究職につくのはなかなか難しいということがあります。昔は、教授の「君、ここに就職しなさい」といった鶴の一声で就職が決まったと聞きますが、今はエントリーシートを書くところから始まり、長期間就活をしています。これは私たち教員も含めてですが、もっと中小企業さんともコネクションを作って繋いでいくようなことも必要だと思います。

―さて、最後に先生の研究に関して、今後の展望はいかがでしょうか。

野口教授) 研究者としては、未来を拓くような夢のあるターゲットが見つかればいいなと思いますね。ただ、私たちの研究は先ほど言いましたように、とても時間やお金がかかるもので、どこの大学も研究費の確保が厳しい世の中になってきてはいますが、頑張ります!(笑)

 

とても朗らかに分かりやすくご説明いただき、今回もまた感銘を受けっぱなしのインタビューでございました。どうもありがとうございました!

 

 

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