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島根県では、中山間地域に安心して住み続けることができるように、「小さな拠点」づくりに向けて、住民主体での地域運営の仕組みづくりに取り組んでいます。
同県では、平成11年に議員提案により島根県中山間地域活性化基本条例が制定され、同条例に基づき島根県中山間地域活性化計画を策定し、3期14年にわたり様々な施策を展開してきました。しかしながら、若年層を中心とした人口の流出、高齢化の進行により、地域運営の担い手不足が深刻化しており、地域コミュニティの維持や買い物など日常生活に必要なサービスの確保が困難となる地域も増えてきました。そのため、現行計画(平成24~27年度)においては、地域運営の基本単位を個々の集落から複数の集落を束ねた公民館(旧小学校区で15集落くらい)のエリア(227地区)に広げ、医療などの生活機能の一部は、必要に応じて複数のエリアが連携するなど、より広域的な取組により中山間地域の生活を支える仕組みづくりを進めてきているとのことです。
それぞれの地域の実情に応じて、創意工夫を凝らした取組となるよう市町村と県が一緒になって、住民主体の議論を喚起し、特に買い物、見守り、交通、輸送などの生活機能の維持と、6次産業化や都市農村交流など地域産業の振興について、地域が主体となった取組を持続させていくため、人材の確保・育成や組織の整備など具体策の企画立案、実施に対して県が必要な支援を行っています。
県の支援は、全地区を3段階に分けて行われています。公民館エリア227地区については、「しまねの郷づくりカルテ」を作成し情報提供による支援をしています。同カルテは、人口や暮らし産業のデータ等が掲載され、人口シミュレーションも可能なデータベースで、地区での議論の契機になるよう支援を行っているとのことです。227地区のうち70地区については、重点支援地区として、過疎債ソフト交付金(過疎(中山間)地域自立促進特別事業)により、情報支援に加えて財政的な支援を行っています。その仕組みは、市町村が過疎債を活用して地区支援を実施する事業に対して、70%の交付税措置がされるところ、県がさらに20%交付金補助するものです。さらに20地区については、現場支援地区として、中山間プロジェクトチームによる人的支援を実施しています。カルテによる情報提供と財政支援をしつつ、さらに県職員が部局横断でチームを編成し直接地域に入り、その地域の取組を速やかに仕上げていくことにしているとのことです。
これまでの県による財政支援、人的支援が行われた地域では、着実に成果が出ているのに対し、情報提供止まりになっている地域では、取組が進んでいないことが大きな課題であり、県では、現在の取組に加え、中山間地域における交通弱者対策と住民主体の議論の活性化の2つに重点的に取り組む必要があると考えているとのことです。
島根県としては、今後、小さな拠点の形成をにらみながら、市町村とともにエリアの交通ネットワークを仕上げるとともに、公民館活動と連携した人材発掘・育成の強化のため、公民館機能を再度見直し、芽生えた地域の取組を行政として支援していきたいとのことでした。
概要説明を聴取
島根県では、現在、就農者の平均年齢は70.1歳と非常に高齢化が進んでおり、農業の担い手確保、とりわけ、新規就農者の確保は、県及び地域の喫緊かつ重要な課題となっています。そのため、同県では、相談、研修、就農の各段階における新規就農者支援を強化することとし、専業で農業をする人や農業法人などに就職する人だけでなく、県外からUIターンして農業と他の仕事(X)を組み合わせた働き方「半農半X(エックス)」を実践する人を応援しています。同県では、「半農半X」を島根らしいライフスタイルとして、平成22年度から推進するとともに、同24年度から、年間170人の新規就農者(内訳は、自営就農50人、雇用就農110人、半農半X10人)の確保を目標に掲げて取り組んできています。その結果、平成26年度の新規就農者は、171人と初めて目標を突破し、平成12年度以降では過去最高を記録しました。また、平成26年度の自営就農者は59人、うちUIターン者数は57人と、同22年度に統計を取り始めて以来、ともに過去最高となりました。
新規就農者向けの主な支援策としては、平成27年度は、最長1年間の産業体験を公益財団法人ふるさと島根定住財団が主になって受け入れています。就農前・就農後の支援には、国の青年就農給付金の他、県が単独事業を充実させており、その特徴は、国の給付金が45歳未満対象であるのに対し、県は対象者を65歳未満まで拡充していることです。
その中で、半農半Xについては、就農前支援として就農前研修経費助成があり、就農前に県が12万円/月を1年間助成します。就農後も定住定着助成(県・市町村各2分の1助成)で1年間12万円/月の助成があり、夫婦で取り組まれる方は、1.5倍の18万円/月を助成しているとのことです。また、ハード事業で開始前支援として施設整備等に対して3分の1を補助しています。就農前・就農後のフォローを県単費で実施する他にも、就農先の確保や支援のため、企業の農業参入支援事業や、担い手の確保から新規就農者の経営安定のフォロー、若手農業者の経営力養成まで幅広く行う「しまねアグリビジネス実践スクール」を実施したりしているとのことです。
半農半Xについては、まず市町村が「半農半X」定住モデルを作成する必要があり、県内19市町村のうち12市町村が作成しています。このモデルに基づき、半農半Xの助成制度を受けるために営農計画を作成し、市町村から認定を受けた方を「半農半X実践者」と呼んでいます。主な認定要件は、県外からUIターン(住民票を異動)して概ね1年以内で、原則65歳未満、一定規模(販売金額が将来的に50万円)以上の営農予定であることなどです。
平成22年度の事業創設当初は、「農業+α」という名称でありましたが、「半農半X」コンセプトの提唱者である塩見直紀氏(京都府綾部市出身)の了解を得た後、同24年度から「半農半X」という名称にリニューアルしたとのことです。
これまで39名の方が認定されていますが、38名が中山間地域でこの取組をされており、過疎地域が多いエリアでの取組が非常に多いとのことです。主な市町村としては、30年前から有機農業を行っている吉賀町や市独自の研修事業を実施している浜田市、A級グルメや子育て日本一のまちとしてマスコミに取り上げられる邑南町など特徴のある市町村が挙げられるとのことです。
農業と組み合わせる他のしごと「X」は、実践者によってさまざまで、また、農とXの組み合わせ方についても、1年を通じて農業とXを並行してなさる方、農閑期となる冬季など、ある時期にXの比重を高めて従事される方などがいるとのことです。半Xの例としては、自営で実践者自身の農業を行いながら、近隣の農業法人などでも農作業に従事する「半農半農雇用」が最多で、酒造会社で酒造りに携わる「半農半蔵人」、冬季における高速道路などの除雪作業に従事する「半農半除雪」など、特徴的な取組もみられるとのことでした。
島根県としては、引き続き市町村と一緒にマッチングしながら、「半農半X」の更なる推進を図っていきたいとのことでした。
概要説明を聴取
邑南町(おおなんちょう)は、島根県中央部の山間にある自然豊かな町で、平成16年10月、旧羽須美村、旧瑞穂町、旧石見町が合併して誕生しました。人口11,394人(平成27年4月1日現在)で、日本創成会議レポートにおいて、同町は「消滅可能性都市」とされたところです。
そのような中で、邑南町では、中山間地域における少子高齢化、地域産業の低下に伴う雇用機会の減少などに対応するため、産業振興の推進とそれを支える町民の生活基盤の整備という2つの目標を達成すべく、平成23年度から、攻めと守りの定住プロジェクトとして、手厚い子育て支援による「日本一の子育て村構想」とこだわりの食と農による「A級グルメ構想」を軸に定住人口の増加を目指しています。
「日本一の子育て村構想」については、町民の方々が子どもを生み、育てやすい環境になれば、子育て世代のUIターンにもつながるとの考えから、日本一の子育て支援として、負担軽減政策を目玉に、医療、保健、福祉など総合的な事業を展開することとしました。具体的には、公立病院における24時間365日の救急受付やドクターヘリによる緊急搬送、第2子目以降の保育料や中学校卒業までの医療費の無料化、また、定住支援を行う定住支援コーディネーターの配置などの徹底した移住者ケアを実施しており、これにより、子育てしやすい町としても注目が集まり、雇用の創出やUIターン者の受入など効果が現れています。
「A級グルメ構想」については、農林商工労働の視点から、定住を促進し人口減少に歯止めをかけるため、邑南町では、平成23年3月、全国初の農林商工等連携ビジョンを策定しました。「食」を切り口として農林商工が連携し、「生産」「加工」「料理」「交流」の各産業分野の革新、各産業群をつなぐストーリーをつくることから地域ブランドの構築を目指しています。A級グルメとは、邑南町で生産される良質な農林産物を素材とする「ここでしか味わえない食や体験」のことです。高原野菜、石見和牛など特選の食材を活かした料理や食品の開発、またそれを担うシェフなどをトータルに育成して地域産業の振興を図り、A級グルメのまちとして発展を目指しています。そのA級グルメの発信基地となっているのが、平成23年に町営レストランとしてオープンした「素材香房ajikura」です。また、同26年から「食の学校」をオープンし、町の農業と食文化を100年先の子どもたちに伝承するための食農教育や6次産業化に向けた商品開発やマーケティングを実施しています。
ビジョンでは、1.食と農に関する5名の起業家輩出、2.定住人口200名の確保、3.観光入り込み客数年間100万人の実現を目標に掲げましたが、平成27年3月には、28人の起業家を輩出し、定住人口191人、年間91万人の観光入り込み客数の実績となっています。
A級グルメ構想の実現に向けては、総務省の地域おこし協力隊事業を活用し、隊員は、野菜等の栽培から地元の食材を使った料理の提供までのプロデュースを目指す「耕すシェフ」として活動し、起業・就業を目指すとともに、町の魅力を伝える情報発信活動にも従事しています。
また、その他の取組として、平成26年に島根大学教育学部人文地理学研究室が同町役場にサテライト拠点「邑南ラボ」を設置し、学生が高齢化の進む集落を守る研究をするほか、浜田市と「食を通じた観光・文化交流協定」を締結し、共同でパンフレットを作成するなど、それぞれの食の特色を活かした事業を推進しています。
また、産業創出をはじめ若者や女性の起業を支援する拠点として、町起業支援センターも設置されています。
邑南町としては、今後とも、日本一の子育て村を目指し、A級グルメによるまちづくりを進めて、定住促進とまちの活性化を図っていきたいとのことでした。
概要説明を聴取した後、現地(素材香房)を視察
三次市は、平成16年4月1日、1市4町3村が合併して誕生しました。同市は、広島県の北東部、中国地方のほぼ中央に位置し、古くから交通の要衝として産業が栄えてきました。
同市では、平成26年3月、まちづくりの指針である第2次三次市総合計画を策定し、目指すまちの姿を「しあわせを実感しながら、住み続けたいまち~中山間地の未来を拓く拠点都市・三次~」として、特に、人口減少・少子高齢社会への挑戦ということを強く打ち出しています。地方版総合戦略の策定に当たっても、この総合計画を基本とし、この中から、まち・ひと・しごとの創生に係る施策を重点化するという考え方で策定しています。
人口は、54,905人(平成27年4月1日現在)で、平成16年の合併以来11年間で5,000人以上、約11%が減少し、高齢化率も28.8%から33.5%と上昇しています。何もしなければ、市全体では今後も大幅な人口減少になるという状況の中で、個別の小さな地域を見ていくと、地域の人たちの力や知恵で人口減少に具体的に歯止めをかけている地域もあるとのことです。
合併前の市町における地域づくりについては、基本的に活動は各地域における公民館を中心に行われてきました。平成16年の合併に向けて、合併協議会小委員会の協議の中で、「新市住民自治のまちづくり活動プラン基本構想」が取りまとめられ、地域のまちづくりの担い手は地域の自治活動組織であることが明記され、従前の公民館活動から住民自治組織を中心とした活動に変えていくことになりました。合併当時、市内には29の拠点となる公民館が存在しましたが、合併後、公民館をコミュニティセンターに移行し、現在、19の住民自治組織があります。
地域住民が安心して暮らしていくためには、ヒト、モノ、カネの支援が必要です。市では、各自治組織に運営活動費として、自治活動支援交付金1億6,300万円を交付しています。また、地域課題解決と特色ある地域づくりを支援するため、地域力向上支援事業として、27年度は2,750万円を予算計上しています。平成18年度から指定管理者制度を導入し、コミュニティセンターの施設管理運営を各住民自治組織に委託されており、各自治組織は、指定管理料を運営等に充て、それぞれの自主性をもった活動をしています。
地域の皆さんが協力して、主体的に地域活動に取り組む際の基本となるものが、「地域まちづくりビジョン」です。地域が抱える課題について、実現可能なプランを地域住民が自ら考え、地域内合意を行い策定したもので、地域版総合計画です。このビジョンには、地域の皆さんの夢がたくさん詰まっており、各自治組織は、これに基づき運営されています。
また、同市では、市民の力を引き出し地域づくりにともに取り組むため、市職員による地域応援隊を設置し、地域を全力でバックアップしています。昨年10月、19の地域に各5人の合計95名で結成され、応援隊の各班長には全て管理職を充て、それ以外は自主的に参加した職員で構成されています。職員は、地域の方と話をし、夜間の活動にも参加するなど、地域の中に入り込んで活動しているとのことです。
地域の1つの取組事例として、訪問した三次市青河地区は、人口約480人という、市の中でも最も小さい集落で、この地区でも少子高齢化が喫緊の課題でありました。平成16年、三次市青河地区に住民自治組織「青河自治振興会」を設立し、住民自らで同18年に「青河町町づくりビジョン」を策定しました。地区内の小学校の児童数が減少していることに危機感を持った農家の有志が出資して、有限会社「ブルーリバー」を設立し、定住促進対策事業に取り組んでいます。行政に頼らず独自に移住者用の住宅整備を続け、現在では、地域外から14家族63人が移住を実現し、移住した児童が小学校の過半数を超えるということでした。その他、住みやすい地域を目的として、暮らしサポート事業等にも力を入れ、多様な組織による農業生産や農産加工を営み、農村と都市の交流等にも取り組んでいるとのことでした。
概要説明を聴取した後、現地(青河コミュニティセンター)を視察
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